152 / 319
ウィリアムとルイーズ
しおりを挟む
なんとリヴィオの祖父母が『花葉亭』にやってきたのだ。
リヴィオの祖父であり前国王の弟ウィリアムはリヴィオが歳をとったらこうなるだろうと言うくらい容貌が似ていた。魔力が高いのか歳よりも若く見える。
ただ、リヴィオとはまったく性格が違う。正反対と言っていい。
やる気なさげに欠伸をしたり、興味なさげにボーッとしていたりする。
祖母、ルイーズは相変わらず、元気そうだ。
「客足が遠のいていると聞いて、泊まりにきてあげましたわよ!」
フワフワッと優雅に扇子で仰いでいる。ウィリアムが眠そうな顔で言葉を付け加える。
「わたしが行ってくると言ったら、君も一緒に行きたいと言ったんじゃなかったかい?」
「マリアが心配なんですわっ!マリアがあなたの影響を受けて働いているというから、様子を見に来たのですわ!少しお説教を……」
「えーと、マリアなら今日は『海鳴亭』の方へ行ってます」
逃げたわね……と苦い顔になるルイーズ。
「まったく、年頃なのに結婚もせずにフラフラと!ハリーとオリビアの教育はどうなってるのかしら!?」
「ルイーズ、わたしはもう温泉とやらで、のんびりしたいのだが?」
「あ、あら?ごめんなさい。じゃあ、そういたしますか」
助け舟なのか、それともただ行きたいだけなのか……?
リヴィオも仕事の用事が終わったらしく、旅館の方へやってきた。
「また来たのかよ。でもお祖父様も一緒なんてな……自分から行動することが珍しすぎる。オレが見たお祖父様は窓辺でボーッとしているか、本屋を読んでいるか、うたた寝をしているかの3択しかなかった!」
「それはすごいわね」
「3歳のオレが話しかけても、本を読んでいたな。無視とかじゃないんだ。聞こえてない」
ルイーズは私がしっかりとしなければ!となる理由もわかる気がした。
お風呂の後で読書スペースに立ち寄り、お茶を飲みながら、雑誌を広げているウィリアムに出会う。
「お風呂、いかがでした?ゆっくりできましたか?」
聞こえていないかと思っていたが、ウィリアムは顔をあげた。
「うん。……サウナがよかったね。気に入ったよ」
サウナ好きのリヴィオの顔が浮かぶ。血筋ねと思わず私の顔もウフフッとほころぶ。
「リヴィオは君のこと大事にしているか?ちゃんと伯爵としてやってるか?」
「はい。過保護じゃないかしら?とたまに思うくらい大事にしてくれてますし、伯爵としても立派にしてます」
「そうか。それならば、良かった」
そうウィリアムは答えるとまた雑誌に目を落とした。
……本気で心配して来てくれたのかな?あまり感情を表に出さないウィリアムの気持ちを読むのは難しいが、そう私は感じた。
「夕食をお持ちいたしました」
ナシュレの新鮮野菜を使った前菜。石のプレートの上でジュワジュワ焼かれるお肉、温かい茶碗蒸しに季節の野菜と魚の天ぷらなどを順番に出していく。
「美味しいね」
「えっ!?あなたがそんなことを仰るのは珍しいですわね」
ルイーズが驚く。
「うん……味付けが好みだった」
良かったですと私は微笑み、部屋の外に出るとリヴィオがいた。
「あら?どうしたの?お祖父様とお祖母様に声をかけてきたら?」
「うーん……祖父とは疎遠だったから何を話していいかわからねーしな」
そう言いつつ、気になっているから、ここまで来たんじゃないの?と私は微笑ましく思う。
ハイとリヴィオに手に持っていたお盆を渡した。
「デザートはリヴィオが持っていってくれる?私は別室のお客様に呼ばれてるのよ」
「えっ!?あ、ああ……?」
リヴィオは意表を突かれたようだったが、お盆を受け取ると部屋へ入っていった。
ウィリアムとルイーズはその後、なんと三日間も滞在して行ったのだった。
ルイーズもくつろげたようで、いつもキリキリとしている雰囲気が和らいでいる。
「のんびりとできたよ。サウナは我が家にも欲しいところだ……後、リヴィオのこと、いつもありがとう」
ポソっとウィリアムは私に向かって言った。リヴィオとルイーズは驚いたように視線を合わせた。
「まあ!ウィリアムが孫のことをそんなふうに言うなんて!初めて聞きましたわ」
「一応、考えているよ。さあ、帰ろう。また来ていいかな?」
「もちろんです!またお待ちしております」
私は深くお辞儀をした。
「本当に温泉旅館が気に入りましたのね。あなたにお茶と本以外に興味を示すものがあってよかったですわ」
ルイーズはウィリアムに皮肉げにそう言いながらも、とても嬉しい顔をし、上機嫌で帰って行った。
リヴィオは二人が帰ったあとに言った。
「お祖父様は王位継承から逃れるために心を閉ざし、何事にも興味を持たない人になったと言われている。だけど最近、変わってきた気がするんだ。あの時、お祖母様を迎えに来たときから……影響与えるよなぁ」
そう言って、私の顔をジッと見た。
「えっ?な、なに?」
「いいや。なんでもない」
なぜ、彼は人の顔を見て苦笑しているのだろうか?
気が強いルイーズだが、ウィリアムの周囲への無関心さに寂しさや不安を感じずにはいられなかったのではないだろうか?そのやるせない思いが外へ外へと向かっていったのだろう。
ルイーズは来た時とはまったく違う顔をして帰った。
「あの二人の時間は今、動き出したのかもしれないな」
馬車が見えなくなるまで見送ったリヴィオはそう言った。
リヴィオの祖父であり前国王の弟ウィリアムはリヴィオが歳をとったらこうなるだろうと言うくらい容貌が似ていた。魔力が高いのか歳よりも若く見える。
ただ、リヴィオとはまったく性格が違う。正反対と言っていい。
やる気なさげに欠伸をしたり、興味なさげにボーッとしていたりする。
祖母、ルイーズは相変わらず、元気そうだ。
「客足が遠のいていると聞いて、泊まりにきてあげましたわよ!」
フワフワッと優雅に扇子で仰いでいる。ウィリアムが眠そうな顔で言葉を付け加える。
「わたしが行ってくると言ったら、君も一緒に行きたいと言ったんじゃなかったかい?」
「マリアが心配なんですわっ!マリアがあなたの影響を受けて働いているというから、様子を見に来たのですわ!少しお説教を……」
「えーと、マリアなら今日は『海鳴亭』の方へ行ってます」
逃げたわね……と苦い顔になるルイーズ。
「まったく、年頃なのに結婚もせずにフラフラと!ハリーとオリビアの教育はどうなってるのかしら!?」
「ルイーズ、わたしはもう温泉とやらで、のんびりしたいのだが?」
「あ、あら?ごめんなさい。じゃあ、そういたしますか」
助け舟なのか、それともただ行きたいだけなのか……?
リヴィオも仕事の用事が終わったらしく、旅館の方へやってきた。
「また来たのかよ。でもお祖父様も一緒なんてな……自分から行動することが珍しすぎる。オレが見たお祖父様は窓辺でボーッとしているか、本屋を読んでいるか、うたた寝をしているかの3択しかなかった!」
「それはすごいわね」
「3歳のオレが話しかけても、本を読んでいたな。無視とかじゃないんだ。聞こえてない」
ルイーズは私がしっかりとしなければ!となる理由もわかる気がした。
お風呂の後で読書スペースに立ち寄り、お茶を飲みながら、雑誌を広げているウィリアムに出会う。
「お風呂、いかがでした?ゆっくりできましたか?」
聞こえていないかと思っていたが、ウィリアムは顔をあげた。
「うん。……サウナがよかったね。気に入ったよ」
サウナ好きのリヴィオの顔が浮かぶ。血筋ねと思わず私の顔もウフフッとほころぶ。
「リヴィオは君のこと大事にしているか?ちゃんと伯爵としてやってるか?」
「はい。過保護じゃないかしら?とたまに思うくらい大事にしてくれてますし、伯爵としても立派にしてます」
「そうか。それならば、良かった」
そうウィリアムは答えるとまた雑誌に目を落とした。
……本気で心配して来てくれたのかな?あまり感情を表に出さないウィリアムの気持ちを読むのは難しいが、そう私は感じた。
「夕食をお持ちいたしました」
ナシュレの新鮮野菜を使った前菜。石のプレートの上でジュワジュワ焼かれるお肉、温かい茶碗蒸しに季節の野菜と魚の天ぷらなどを順番に出していく。
「美味しいね」
「えっ!?あなたがそんなことを仰るのは珍しいですわね」
ルイーズが驚く。
「うん……味付けが好みだった」
良かったですと私は微笑み、部屋の外に出るとリヴィオがいた。
「あら?どうしたの?お祖父様とお祖母様に声をかけてきたら?」
「うーん……祖父とは疎遠だったから何を話していいかわからねーしな」
そう言いつつ、気になっているから、ここまで来たんじゃないの?と私は微笑ましく思う。
ハイとリヴィオに手に持っていたお盆を渡した。
「デザートはリヴィオが持っていってくれる?私は別室のお客様に呼ばれてるのよ」
「えっ!?あ、ああ……?」
リヴィオは意表を突かれたようだったが、お盆を受け取ると部屋へ入っていった。
ウィリアムとルイーズはその後、なんと三日間も滞在して行ったのだった。
ルイーズもくつろげたようで、いつもキリキリとしている雰囲気が和らいでいる。
「のんびりとできたよ。サウナは我が家にも欲しいところだ……後、リヴィオのこと、いつもありがとう」
ポソっとウィリアムは私に向かって言った。リヴィオとルイーズは驚いたように視線を合わせた。
「まあ!ウィリアムが孫のことをそんなふうに言うなんて!初めて聞きましたわ」
「一応、考えているよ。さあ、帰ろう。また来ていいかな?」
「もちろんです!またお待ちしております」
私は深くお辞儀をした。
「本当に温泉旅館が気に入りましたのね。あなたにお茶と本以外に興味を示すものがあってよかったですわ」
ルイーズはウィリアムに皮肉げにそう言いながらも、とても嬉しい顔をし、上機嫌で帰って行った。
リヴィオは二人が帰ったあとに言った。
「お祖父様は王位継承から逃れるために心を閉ざし、何事にも興味を持たない人になったと言われている。だけど最近、変わってきた気がするんだ。あの時、お祖母様を迎えに来たときから……影響与えるよなぁ」
そう言って、私の顔をジッと見た。
「えっ?な、なに?」
「いいや。なんでもない」
なぜ、彼は人の顔を見て苦笑しているのだろうか?
気が強いルイーズだが、ウィリアムの周囲への無関心さに寂しさや不安を感じずにはいられなかったのではないだろうか?そのやるせない思いが外へ外へと向かっていったのだろう。
ルイーズは来た時とはまったく違う顔をして帰った。
「あの二人の時間は今、動き出したのかもしれないな」
馬車が見えなくなるまで見送ったリヴィオはそう言った。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる