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模倣者は復讐に燃える

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『最高の温泉旅館オープン!『夢花亭』あなたの心と身体を癒します』
 
 そんなうたい文句と共に『夢花亭』という旅館が王都に建ったと聞いた。

 最初は似た名前ねーと思っていただけだったのだが……。

「女将!知っていますか?『夢花亭』完全に、こちらの真似をしてきてますよ!」

「内装は貴族や王族のお屋敷のように豪華なんです」

「赤い絨毯が敷かれていて、シャンデリアがいくもきらめいていました」

「そうだ!風呂場も金ピカなんです」

 スタッフ達が次から次へと報告してくれる。

 相手はすごい趣味のようだ……。

「うーん……旅館の来客数は減ってるのよねぇ。あっちに行ってるのかなぁ」

 執務室で経理の仕事をしていた私はそう呟いた。

 一時的なものであろうとは思う。

 ソファに、寝そべっていたリヴィオが顔をあげた。

「偵察に行ってみたらどうだ?」

 そんな彼の提案に私もそれいいわね!とのった!
 
 まずは相手を知ってみることだろうと思い、作戦を練ることにしたのたが……。

「名誉挽回よ!」
 
 ダフネがやってきた……なぜ!?

「オレはジーニーに声をかけたんだが?」

 リヴィオが苦笑した。ダフネは人差し指を立てて話し始める。

「学園長であるジーニーはリヴィオは目立つから行くな。諜報部から人を貸してやろうとのことだったわ」

 私は確かにと納得した。さすがジーニー。
  
「なんでダメなんだよ!?目立たねーよ!」

 私とダフネは顔を見合わせ、声を揃えて言った。

『目立つのよ』

 なんでだよおおおお!と叫ぶ彼は置いていかれた。

「リヴィオ、自覚が無いの?」

 ダフネが私に尋ねる。

「さぁ………?」

 私はおさげに眼鏡で地味な娘になっている。ダフネも髪をひとまとめにし、真面目な学生といった風体になっている。

「変装してもリヴィオの場合は……端正な顔立ち、貴族のオーラ、男の色気などなどが溢れちゃうわ!……その点、セイラ!あんたは大丈夫よ!」

「褒めてるようで、褒めてない気がするわよ」

「諜報部にしたら誉め言葉よ!」

 なんかひっかかるけど……?

「いい?演じなさいよ?貴族の娘の学生同士の利用よ!」
 
 わかったわとダフネの指示に従う。

 王都の人々が利用しやすい所に建物は建っていた。立地は良し。

 外観もすごい……成金趣味的な。ライオンの像に神殿の様な太い柱、大きな窓。白い噴水。

「なんだか王族気分ね~」

 ダフネがそう評した。確かにゴージャス!

 室内も凄かった。キラキラとした重たそうなシャンデリアが玄関ホールに垂れ下がり、金ピカの壷、階段まで金色!
 
 赤い絨毯との組み合わせで目がチカチカして眩しい。

「いらっしゃいませ」

 執事風のスタッフが挨拶する。さっさと受け付けへ行きなさいと目線であっちだと知らせる。私とダフネは受け付けを済ませる。

「201号室です」

 あ、どうも。と鍵をもらって、自分で歩いていく。旅館というよりホテル的な感じね。

「『花葉亭』で宿泊したことのある者としては……ちょっと寂しさを感じるわね」

「でも、これはこれで、こんな簡易な旅館も好きな人は好きかも」

 王都に商売で来た時には便利かもしれない。

 部屋にはお茶が置かれている。………冷めてる。ダフネがちょっと文句言ってくる!と言ったが、まあまあと止める。

「さっさと飲んで、お風呂に行きましょ!どんなお風呂なのかちょっと楽しみなの!」

「前向きねぇ~」

 他の人の考えたお風呂ってどんなものか見てみたい!様子見にと言いつつも本音はそこだった。

 ダフネがお茶菓子もないわ。ケチね~と言っているが、お風呂へと私はさっさと向かう。

 なんだか楽しみー!

「………楽しみ……だった」

 意気消沈。私は湯船に入りながら、そう力なく呟いた。

「どうしたのよ?」
 
「……温泉じゃない」

 普通のお風呂だった。温泉の効能ナシ。

 広さはある。白いタイルに大きなお風呂一つ。

 ライオンの口からドバドバと大量のお湯が流れている。ここは……噴水広場とちがーう!

「あら、ほんとね。肌も……普通だし、香りもないし……普通のお風呂なのね」

 ダフネも気づく。でもお湯は温かいのでゆっくりと………!?

 ええええっ!?

 ザバーーーッと波が起こる!波のプール!?

「キャー!楽しー!」
 
「揺られるー!」

 温水プール!?私はええええっ!?と声をあげて動揺する。しかし他のお客さんは楽しそうだ。

 ダフネが微妙な顔をした。私はさらに微妙な顔をしていると思う。

「とっても若い子向けね……」

 ダフネはあがりましょと言う。私もヨロヨロと続いてあがる。

 なんだか疲労感。部屋食にして良かったー。

 一度に運ばれていた食事は……冷たかった。ダフネが温かい物を食べたいとスタッフにビシッと言ってくれたおかげで温め直してもらえた。

 ダフネはワインを開ける。

「今日は前に付き合って貰えなかったぶん、付き合ってもらうわよー!」

「ま、まぁ、今日は仕事じゃないから、いいわ」

 別にお酒は嫌いじゃないのだ。

 お料理とお酒を次々とたいらげる。気づけばお酒の瓶が並んでいた。

「はあ………逢いたい」

「誰に!?」

 私の一言に、ダフネが目を丸くした。

「リヴィオに逢いたいのよ。なんていうかね、彼はぶっきらぼうなとこあるけど、実は優しくてね………(以下省略)」

「あ、あんた!?ほんとにセイラなの!?」

 なぜかダフネが異様なものを見るように私を見て、そう言った。

 翌朝、少しやつれて、疲れているダフネはげんなりとした雰囲気で言った。

「あんた……酒はほとほどにしたほうがいいわよ」

「えっ!?私……なにかしでかした?」

「酒癖悪いわ。暴れるとかじゃないんたけど、ノロケを一晩聞かされるのはちょっとね」

「ノ、ノロケーーっ!?」

 私の顔が赤くなった。何を喋ったんだっけ!?えっ?普通に会話してたよね!?思い当たる節がないんだけど!?

 そうして私とダフネがチェックアウトをするため玄関へ行くと、思いがけない人物に会ったのだった。

「オホホホ!」

 なんだか、聞き覚えのある高笑いの声。

「あーんな、地味な旅館よりこちらの方がよろしいでしょう!」

 私とバチッと目が合う。

「サンドラっ!!」

 私は驚いて、思わず叫んでしまった。ダフネが私の口を抑えようとしたが遅かった。

「あら……その声は……セイラ?」

 ジリッと近寄ってくる。ダフネがバッと構える。……いや、今はもう守ってもらう必要ないくらいの力があるんだけど、それを口にするわけにはいかないので、黙っておく。

 なにかあればアオが出てくるだろう。

「なぁに?偵察にでもきたの?あなたのせいで可愛いソフィアは今も苦しんでいるのよ!」

「殺されかけたのはこっちだけど……」

 私の反論を無視して、豪華なドレスを着たサンドラはフンッと横を向く。ジャラジャラと宝石のついたネックレスが音をたてる。相変わらずの贅沢ぶり。

「あなたの地味でくらーーい旅館なんて潰して差し上げてよ!オホホホ!!」

「風情ある旅館なんです!しかも温泉も本物だし!」

 旅館をけなされて思わず私は反論した。

「お黙りなさいっ!どちらの旅館がすばらしいか思い知らせてあげてよっ!」

 相手はまったくのノーダメージ。

 もう……。私は額に手をやる。この母娘、不死鳥のようだ。

 サンドラの宣戦布告してきた声は高らかにいつまでも私の耳に残ったのだった。






 


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