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過ぎゆく夏休み

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「病院で夏休み終わっちゃったあああ!!」

 目の前にいるのはサクラカホ。うるさい。

 これが、つい先日までベットの上で昏睡状態のやつだったと誰が信じるんだろう?

「夏休み、もったいないことしちゃったな。宿題終わらないっ!」

「図書室では静かにしろよな」

 オレは本を読みながら、カホの夏休みの宿題を手伝っている。……なんでだよ。と思ったが、カホの頭にサーフボードをぶつけたミズサワが責任とって宿題を手伝う!とか言うから、待てよ!となったんだ。

 微妙にクラスメイト達がニヤニヤ笑っていたが……気にしたら負けだ。

 おまえら付き合ってたの?という同級生の問いかけに、つい……付き合うどころか結こ……といいかけて教科書でパコンっとカホに殴られる。時と場合を考えなさいよ!と怒られた。

 オレの場合、記憶が鮮明すぎるんだよな。なにせ人生を一周して戻ってきたくらいの身なんだ。

 ……っていうか、カホはオレのこと、どう思ってんだ?一番重要なところだった。

 当の本人に聞くどころではなく、机に向かって苦しんでいる。

「ううっ……セイラの能力を私にもあれば良かったのに、私、めっちゃ平凡だわ」 
 
 シャープペンを走らせつつ、そんなことを言う。

「でも。おまえのそのフツーさにセイラは救われていたんだ。フツーで良いんだよ」

 オレの言葉にカホがしばらく考え、真顔になる。しばらくしてから、確かにそうかもしれないと言って笑う彼女は本当に可愛い。

 くそ恥ずかしいから、言葉にしないが。

「シンヤ君はだいぶこっちに慣れたの?」

「あー……まあまあだな」
 
「異世界生活、長かったものね」

 長かった。ほんとに長かった。数学の方式を忘れてしまいそうなくらい長かった。

「でもスペックに差がありすぎるような気がするんだけど?なんでシンヤ君はこっちでも頭良いし、運動神経良いし、お坊ちゃんだし……おかしくない!?」

 不平等ですとカホは半眼になっている。

「良いから、宿題しろよ。終わらねーぞ?」

 異世界で首席だったセイラとは違って、苦労しつつ、問題と向き合うカホに思わず可笑しくなる。

 本の隙間から眺めて、こっそり笑った。

 帰りにハンバーガーのチェーン店へ寄っていく。

「旅館の手伝いはしてないのか?」

「とりあえず、体が本調子になるまでは休んでて良いって言われてるの」 

「え!?どこか、まだ悪いのか!?」

 オレの慌てようにクスッとカホは笑った。

「全然、元気よ!心配されているだけよ。お茶とお花の習い事は行きなさいよって言われて行ってるわ。そこはサボらせてくれないのよね」

 呑気にポテトをパクッと食べる。なんだそれ……心配させるな。

「でも家族に心配されるって良いものよね。めっちゃ母さんのこと口うるさくて厳しいとか思っていたけど、家族のありがたさを感じるわ。セイラの家族に関する記憶はほんとに辛いわ。……そういえば、あの後、どうなったんだろ。記憶はシンヤ君が帰るところまでしかないのよね」

 オレも無いなと言って、ハンバーガーを食べ、コーラを飲む。懐かしい味。

「でもどうにかなるだろ。あの二人なら、なんとかするだろ」
  
「それはシンとして?リヴィオとして?どっち?」

 セイラとは違う、色素の薄い茶色の目で覗き込むカホ。一瞬、ドキッとした。

「オレだよ」

 そーなの?とバニラシェイクを飲んでいる。

「宿題のお礼に奢っておくわ」

「別にいーよ」

 良くないとカホは律儀にレシートを持っていく。立ち上がって、まだ明るい外を一緒に歩く。

「ハンバーガー屋さんを異世界に作ったエピソードとか、いったいどこで何をしていたのかとか聞きたいこと、山程あるのに、なかなか聞けないわ。現実って忙しすぎるわよね」

「オレもセイラが何を考えていたのか聞きたいことがあるが……とりあえず、今のことから聞いていいか?」 

「何??」

「ハスエシンヤを好きになってくれるか?」

 カホの顔がみるみる赤くなる。

「えええええ!?わ、わからないわよっ!」

 バシバシッと腕を叩かれる。地味に痛い。

 え!?わかんねーのかよ!?そんな答えなのか!?

 やはりオレは今回も追いかける側らしい。リヴィオの時と同じかよ!運命の神様ってやつはどうなってんだよ!?むしろ追いかけるのがオレの宿命なのか?

 カホの家に着いた。まだ誰も帰って来ていないようだ。カホは少し目を伏せて、オレはしっかりカホを見て言った。

 『また明日』 『また明日ね』
 
 そう言える。言い合える幸せをオレは夕暮れの中で泣きたくなるくらい嬉しいことだと気づく……カホを送った後、もう一度だけ振り返る。

 バイバイとオレを見送ってくれるカホがいた。

 異世界はスリルがあって、ワクワクするような……そんな体験だった。それは今も懐かしくて色褪せない。

 だけど……と、夏のオレンジ色に染まる夕暮れの中で思う。

 きっとオレはこの瞬間のために無我夢中で頑張ってきたんだ。






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