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相続問題そこに愛はあるのか?
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私は頭を抱えた。
「なんだ?なんか問題か?」
リヴィオが尋ねる。彼になら話してもいいだろう。冬に来た手紙……母の実家のベッカー家から連絡をとってきたことだった。
「……で、後継者がいないから、なんと私にベッカー家を継いでほしいという内容だったのよ。もちろん、断りの手紙を返したけど……」
「しつこく、また連絡が来たってわけか?」
「あんなにバシュレ家を恨んでいたのに変な話だし、裏がありそうなのよね」
「別にセイラはお金も土地もいらねーしな」
正直いらない。商売繁盛しているおかげでお金はあるし、領地経営もこれ以上増やしたくない。
「それなのに!旅館に泊まりがてら私の顔を見たいっていうのよ」
ジーニーにベッカー家の現在を調べて貰えばよかったわ。こんなにしつこいと思わなかったのだ。手紙を返して終わりだと思った。
エスマブル学園の諜報部があることを知っているのは一部の生徒だけだろう。もちろん優秀だ。……そう思うと。学園と言いつつも『コロンブス』のように一組織だよね。
「旅館に泊まってもらって、すみやかに帰ってもらえばいいんじゃね?嫌なら俺が対応する」
「そうね……お客様の一人として……うん……」
こうして、ベッカー家を迎えることとなったのだった。
「いらっしゃいませー!」
馬車から降りてきたのはバシュレ家の父より少し上の年齢と思われるコルネリス=ベッカー子爵だ。背が高い格好いいオジサマだ。
写真の母とよく似た優しい茶色の目を私に向けた。
「そんな他人行儀な挨拶やめてくれ。セイラ!会いたかったよ!」
ギュッと抱きしめられる。
えええええ!?会ったことのなかった伯父様にいきなりの愛情表現に固まる私。
リヴィオがとまどう私を察して、すっと間に入る。
「ようこそ。はじめまして。婚約者のリヴィオ=カムパネルラです」
自然な貴族の礼をサラリとして、リヴィオはお坊ちゃん風を装う。
「ああ!君が!!……いや、失礼した。公爵家の方にご挨拶が遅れて申し訳ない。わたしはコルネリス=ベッカー。社交界で君を見たことがあるよ。小さい頃から知っている。相当強いという噂も聞いている。セイラの婚約者として心強いよ!」
握手を求められ、リヴィオはニコニコと笑顔で応じる。
「そうでしたか。ボクは小さい頃より寄宿学校で過ごしていたので、あまり社交の場に出れず、存ぜず申し訳ありません。今日はごゆっくりお過ごしください。お部屋まで案内しますよ」
ボクうううう!?普段は俺がと言っているリヴィオが大人の挨拶をしている。どういうことなの!?
他のスタッフもリヴィオの変わりように目を丸くしている。顔を赤くして格好いいと言ってるスタッフさえいる。
私がお茶を出そうとするとリヴィオが『近づくな』とポソッと言いながらお茶とお菓子を出す。私は程よい距離感を保って座る。
「公爵家のお坊ちゃんにお茶を淹れていただくなんて恐れ多いな」
「セイラの考えるおもてなしの心に賛同しているまでですよ」
キラキラオーラを消さずに言うリヴィオ。ベッカー子爵はそうか……と言いながら私の方に視線を向けた。
「セイラ、なぜベッカー家に来てくれなかったんだい?何通も手紙を出しただろう?」
「それは……私は仕事がありますし、母が亡くなって大分経ちますのに、私などに気をかけてくださらなくとも良いかと思いまして。ましてや大事な家を継ぐなどどいう大役はつとまりません!」
私の言葉にバッ!と立ち上がると私の両手をとり、握りしめた。
「いやいや!何を言ってるんだい?君しかベッカー家を継げるものはいないんだ!……わたしと妻には子供ができなくてね。私は妹以外の他に身内もいないんでね」
「ご、ごめんなさい。そう言ってくれるのは嬉しいのですが……」
手が伸び、私の黒髪を撫で始める。ゾワッと鳥肌が立つ。
リヴィオが私の体を引いて離した。
「子爵、とりあえずゆっくりとこの旅館、自慢の温泉と料理をいかがですか?話は後にして……」
「良いだろう。とりあえずゆっくりと過ごすよ」
部屋から出た瞬間に私は気持ち悪くなり、うずくまる。なんだ?さっきからこの違和感の正体は?
「おい、大丈夫か?あいつヤバいな。オレが対応する。おまえは近づくなよ。もし会うなら俺が同席する」
「ありがとう……苦手だわ。ああいうタイプは……」
溺愛されたことのない私はあんなオープンな表現はすごく苦手だった。
「子爵家に跡継ぎがいないとしても、その親族の中にはいるだろう?なぜセイラなんだろうか?」
「そこなのよね。小さい頃のうっすーーらとした記憶ではバシュレ家の父のことをすごく怒ってたし、こっちに矛先が向かうなんてありえないわ」
何か思惑があるとしか!
「そんな風に思われるなんて悲しいねぇ」
ギクリッとして、私とリヴィオは振り返る。ベッカー子爵は手にタオルを持ち、大浴場のお風呂へ行こうとしていたらしい。
「君はバシュレ家の祖父に似ていると言われていたが、笑った顔や声は妹にそっくりだよ」
「そ、そうですか……?」
初めて言われた言葉だ。優しくて儚げな母に似てるなど一度も言われたことはない。
「さて、お風呂に行ってくるよ。またあとでね!」
フンフーンと鼻歌を歌って、ご機嫌で子爵は去っていく。その背中を私とリヴィオは見守った。
「あいつ……なかなかだぞ。何者だ!?油断していたが、オレらの背中をとったぞ。セイラ、気配を読めたか?」
私は首を横に振る。学園で戦闘術を学んでいて、その中でもトップクラスと言われた私とリヴィオの背後をとれる人はなかなかいない。顔を見合わせた。
食事になり、私は子爵のお部屋へ運ぶ。リヴィオは久しぶりの護衛としての役目を持ち、部屋の外で待機している。
「本日のメインはナシュレでとれたお肉と野菜の蒸し料理です。この小さい火が消えたら食べごろです。手前にあるタレをつけてお召し上がりください」
蓋を開けると嬉しそうに料理を口にする子爵。
「へえ!素材の味がして美味しいよ!このタレも絶妙だ……良いね。温泉旅館がこんなにくつろげるなんて思わなかったよ。お風呂も気持ちよかったしね」
お肉を食べて、お酒を口にする。うっとりとした表情で料理を味わっている。
「セイラ、単刀直入に言う……ベッカー家の養女にならないか?」
「よ、養女!?」
いきなりの言葉に私は危うく、持ってきた天ぷらを落としかける。テーブルにそーーっと置く。び、びっくりした。
「私と妻の娘にならないかい?」
この上ない優しい声と茶色の目を向けて言う子爵。
「いえ……でも……」
とまどい、言葉がうまく出せない。
「失礼かと思ったんだが、バシュレ家での君の扱いも調べさせてもらったよ」
子爵は急に顔が険しくなった。
「それならわたし達の養女にもっと早くするべきだったと後悔したよ!可哀そうだったね」
可哀そう……?私はその一言で顔をあげ、ニッコリほほえむ。
「私は祖父には幸い可愛がられておりましたから……子爵、天ぷらが冷めますから召し上がってくださいな」
「……気を悪くしたかな?」
「いいえ。お言葉は嬉しいです。私はあまりそういったことを言ってもらったことはないので……でも今となれば、こうして私がナシュレの人々達と共にいれるのは、そんな過去があったからだとも言えますし、バシュレ家に特に未練はありませんが、祖父が残してくれた私の居場所を大切にしたいのです……なので……」
「その先、結論は早いよ。まだゆっくりと考えてみておくれ。今回は君に会いにきただけなのだから……でも気は長い方ではないからね。早く良い答えをほしいな」
子爵の方が大人で何かと一枚上手だ。私の言動、考えが読まれている。リヴィオが感じた通り、何者なのかと思う。
そうして、温泉旅館を味わい、また来るねー!とニコニコ嬉しそうに手を振り、子爵は帰って行った。
ジーニーとカムパネルラ家へすぐに連絡をとる。ベッカー子爵について調べたほうが良いという判断した。
思いがけない返事をジーニーは持ってきた。執務室で3人で難しい顔をした。
「調べるもなにも……ベッカー子爵はエスマブル学園の卒業生であり、諜報部の元所長だ。今は辞めて領地でゆっくり暮らしてる。あまり大きい声では言えないことだ」
「ええええ!?じゃあ……私が学園にいたことも知ってるんじゃないの?」
「諜報部の行動まではわからないが、学園にいることは少ない。各地を飛び回っている。知らなかったことはないだろうが興味がなかったんだろう」
そうなるわねと頷く。今になって自分の子供がいなくて、私に白羽の矢が立ったのだろう。
まさかベッカー子爵家と繋がりがあるとはねぇとジーニーが苦笑している。
「優秀な諜報部員なのか?身のこなしが良かった。俺とセイラの背後を簡単にとってきたぞ」
「ベッカー家の一族は昔から諜報に長けている。王家の諜報部にも入っていたはずだ。……こう言ってはなんたが、バシュレ家へセイラの母が嫁いだのも偶然ではないんじゃないか?と思う」
「シン=バシュレのお目付け役ってことか?」
リヴィオが察する。ジーニーは頷いた。
「だろうな。王家からの諜報部員かもしれない。シン=バシュレの作り出した組織『コロンブス』は他国に行ったり、彼自身の力も強かったり……味方でいれば心強いが、ずっと忠誠を誓うという確証はどこにもないだろうから王家からの見張りはついていただろうな」
そうか……と頷く私とリヴィオ。
「……にしても、エスマブル学園長、大変だな。よくよく考えたらデカい組織だよなー」
リヴィオがしみじみと若き学園長を見て、労う。
「だから、こうやって息抜きするのは大事だ……わかるだろ!?変人ばっかだよ!!」
ジーニーは珍しく、やや声を荒げる。なにがあった??と私は聞きたくなったが、やめておいた。
カムパネルラ家の返答はアーサーが在宅していたらしく、社交界でのベッカー子爵は『腹黒狸親父』と評していたそうだ。
アーサーに言われたくないよなーと3人で爆笑したのだった。
「なんだ?なんか問題か?」
リヴィオが尋ねる。彼になら話してもいいだろう。冬に来た手紙……母の実家のベッカー家から連絡をとってきたことだった。
「……で、後継者がいないから、なんと私にベッカー家を継いでほしいという内容だったのよ。もちろん、断りの手紙を返したけど……」
「しつこく、また連絡が来たってわけか?」
「あんなにバシュレ家を恨んでいたのに変な話だし、裏がありそうなのよね」
「別にセイラはお金も土地もいらねーしな」
正直いらない。商売繁盛しているおかげでお金はあるし、領地経営もこれ以上増やしたくない。
「それなのに!旅館に泊まりがてら私の顔を見たいっていうのよ」
ジーニーにベッカー家の現在を調べて貰えばよかったわ。こんなにしつこいと思わなかったのだ。手紙を返して終わりだと思った。
エスマブル学園の諜報部があることを知っているのは一部の生徒だけだろう。もちろん優秀だ。……そう思うと。学園と言いつつも『コロンブス』のように一組織だよね。
「旅館に泊まってもらって、すみやかに帰ってもらえばいいんじゃね?嫌なら俺が対応する」
「そうね……お客様の一人として……うん……」
こうして、ベッカー家を迎えることとなったのだった。
「いらっしゃいませー!」
馬車から降りてきたのはバシュレ家の父より少し上の年齢と思われるコルネリス=ベッカー子爵だ。背が高い格好いいオジサマだ。
写真の母とよく似た優しい茶色の目を私に向けた。
「そんな他人行儀な挨拶やめてくれ。セイラ!会いたかったよ!」
ギュッと抱きしめられる。
えええええ!?会ったことのなかった伯父様にいきなりの愛情表現に固まる私。
リヴィオがとまどう私を察して、すっと間に入る。
「ようこそ。はじめまして。婚約者のリヴィオ=カムパネルラです」
自然な貴族の礼をサラリとして、リヴィオはお坊ちゃん風を装う。
「ああ!君が!!……いや、失礼した。公爵家の方にご挨拶が遅れて申し訳ない。わたしはコルネリス=ベッカー。社交界で君を見たことがあるよ。小さい頃から知っている。相当強いという噂も聞いている。セイラの婚約者として心強いよ!」
握手を求められ、リヴィオはニコニコと笑顔で応じる。
「そうでしたか。ボクは小さい頃より寄宿学校で過ごしていたので、あまり社交の場に出れず、存ぜず申し訳ありません。今日はごゆっくりお過ごしください。お部屋まで案内しますよ」
ボクうううう!?普段は俺がと言っているリヴィオが大人の挨拶をしている。どういうことなの!?
他のスタッフもリヴィオの変わりように目を丸くしている。顔を赤くして格好いいと言ってるスタッフさえいる。
私がお茶を出そうとするとリヴィオが『近づくな』とポソッと言いながらお茶とお菓子を出す。私は程よい距離感を保って座る。
「公爵家のお坊ちゃんにお茶を淹れていただくなんて恐れ多いな」
「セイラの考えるおもてなしの心に賛同しているまでですよ」
キラキラオーラを消さずに言うリヴィオ。ベッカー子爵はそうか……と言いながら私の方に視線を向けた。
「セイラ、なぜベッカー家に来てくれなかったんだい?何通も手紙を出しただろう?」
「それは……私は仕事がありますし、母が亡くなって大分経ちますのに、私などに気をかけてくださらなくとも良いかと思いまして。ましてや大事な家を継ぐなどどいう大役はつとまりません!」
私の言葉にバッ!と立ち上がると私の両手をとり、握りしめた。
「いやいや!何を言ってるんだい?君しかベッカー家を継げるものはいないんだ!……わたしと妻には子供ができなくてね。私は妹以外の他に身内もいないんでね」
「ご、ごめんなさい。そう言ってくれるのは嬉しいのですが……」
手が伸び、私の黒髪を撫で始める。ゾワッと鳥肌が立つ。
リヴィオが私の体を引いて離した。
「子爵、とりあえずゆっくりとこの旅館、自慢の温泉と料理をいかがですか?話は後にして……」
「良いだろう。とりあえずゆっくりと過ごすよ」
部屋から出た瞬間に私は気持ち悪くなり、うずくまる。なんだ?さっきからこの違和感の正体は?
「おい、大丈夫か?あいつヤバいな。オレが対応する。おまえは近づくなよ。もし会うなら俺が同席する」
「ありがとう……苦手だわ。ああいうタイプは……」
溺愛されたことのない私はあんなオープンな表現はすごく苦手だった。
「子爵家に跡継ぎがいないとしても、その親族の中にはいるだろう?なぜセイラなんだろうか?」
「そこなのよね。小さい頃のうっすーーらとした記憶ではバシュレ家の父のことをすごく怒ってたし、こっちに矛先が向かうなんてありえないわ」
何か思惑があるとしか!
「そんな風に思われるなんて悲しいねぇ」
ギクリッとして、私とリヴィオは振り返る。ベッカー子爵は手にタオルを持ち、大浴場のお風呂へ行こうとしていたらしい。
「君はバシュレ家の祖父に似ていると言われていたが、笑った顔や声は妹にそっくりだよ」
「そ、そうですか……?」
初めて言われた言葉だ。優しくて儚げな母に似てるなど一度も言われたことはない。
「さて、お風呂に行ってくるよ。またあとでね!」
フンフーンと鼻歌を歌って、ご機嫌で子爵は去っていく。その背中を私とリヴィオは見守った。
「あいつ……なかなかだぞ。何者だ!?油断していたが、オレらの背中をとったぞ。セイラ、気配を読めたか?」
私は首を横に振る。学園で戦闘術を学んでいて、その中でもトップクラスと言われた私とリヴィオの背後をとれる人はなかなかいない。顔を見合わせた。
食事になり、私は子爵のお部屋へ運ぶ。リヴィオは久しぶりの護衛としての役目を持ち、部屋の外で待機している。
「本日のメインはナシュレでとれたお肉と野菜の蒸し料理です。この小さい火が消えたら食べごろです。手前にあるタレをつけてお召し上がりください」
蓋を開けると嬉しそうに料理を口にする子爵。
「へえ!素材の味がして美味しいよ!このタレも絶妙だ……良いね。温泉旅館がこんなにくつろげるなんて思わなかったよ。お風呂も気持ちよかったしね」
お肉を食べて、お酒を口にする。うっとりとした表情で料理を味わっている。
「セイラ、単刀直入に言う……ベッカー家の養女にならないか?」
「よ、養女!?」
いきなりの言葉に私は危うく、持ってきた天ぷらを落としかける。テーブルにそーーっと置く。び、びっくりした。
「私と妻の娘にならないかい?」
この上ない優しい声と茶色の目を向けて言う子爵。
「いえ……でも……」
とまどい、言葉がうまく出せない。
「失礼かと思ったんだが、バシュレ家での君の扱いも調べさせてもらったよ」
子爵は急に顔が険しくなった。
「それならわたし達の養女にもっと早くするべきだったと後悔したよ!可哀そうだったね」
可哀そう……?私はその一言で顔をあげ、ニッコリほほえむ。
「私は祖父には幸い可愛がられておりましたから……子爵、天ぷらが冷めますから召し上がってくださいな」
「……気を悪くしたかな?」
「いいえ。お言葉は嬉しいです。私はあまりそういったことを言ってもらったことはないので……でも今となれば、こうして私がナシュレの人々達と共にいれるのは、そんな過去があったからだとも言えますし、バシュレ家に特に未練はありませんが、祖父が残してくれた私の居場所を大切にしたいのです……なので……」
「その先、結論は早いよ。まだゆっくりと考えてみておくれ。今回は君に会いにきただけなのだから……でも気は長い方ではないからね。早く良い答えをほしいな」
子爵の方が大人で何かと一枚上手だ。私の言動、考えが読まれている。リヴィオが感じた通り、何者なのかと思う。
そうして、温泉旅館を味わい、また来るねー!とニコニコ嬉しそうに手を振り、子爵は帰って行った。
ジーニーとカムパネルラ家へすぐに連絡をとる。ベッカー子爵について調べたほうが良いという判断した。
思いがけない返事をジーニーは持ってきた。執務室で3人で難しい顔をした。
「調べるもなにも……ベッカー子爵はエスマブル学園の卒業生であり、諜報部の元所長だ。今は辞めて領地でゆっくり暮らしてる。あまり大きい声では言えないことだ」
「ええええ!?じゃあ……私が学園にいたことも知ってるんじゃないの?」
「諜報部の行動まではわからないが、学園にいることは少ない。各地を飛び回っている。知らなかったことはないだろうが興味がなかったんだろう」
そうなるわねと頷く。今になって自分の子供がいなくて、私に白羽の矢が立ったのだろう。
まさかベッカー子爵家と繋がりがあるとはねぇとジーニーが苦笑している。
「優秀な諜報部員なのか?身のこなしが良かった。俺とセイラの背後を簡単にとってきたぞ」
「ベッカー家の一族は昔から諜報に長けている。王家の諜報部にも入っていたはずだ。……こう言ってはなんたが、バシュレ家へセイラの母が嫁いだのも偶然ではないんじゃないか?と思う」
「シン=バシュレのお目付け役ってことか?」
リヴィオが察する。ジーニーは頷いた。
「だろうな。王家からの諜報部員かもしれない。シン=バシュレの作り出した組織『コロンブス』は他国に行ったり、彼自身の力も強かったり……味方でいれば心強いが、ずっと忠誠を誓うという確証はどこにもないだろうから王家からの見張りはついていただろうな」
そうか……と頷く私とリヴィオ。
「……にしても、エスマブル学園長、大変だな。よくよく考えたらデカい組織だよなー」
リヴィオがしみじみと若き学園長を見て、労う。
「だから、こうやって息抜きするのは大事だ……わかるだろ!?変人ばっかだよ!!」
ジーニーは珍しく、やや声を荒げる。なにがあった??と私は聞きたくなったが、やめておいた。
カムパネルラ家の返答はアーサーが在宅していたらしく、社交界でのベッカー子爵は『腹黒狸親父』と評していたそうだ。
アーサーに言われたくないよなーと3人で爆笑したのだった。
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