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メイドは嫌がらせを受ける

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 王家付きのメイドならば、その身分も素性もはっきりとしていて、ちょっとした貴族出身の女性もいる。だけどわたしは……。

「なんでリアン様はあんな人を王妃付きのメイドにしてるわけ?」

「そうそう。男爵家からついて来たんですって。しかも専属で、他にメイドを置くのを嫌がるとか」

「どこが良いのよ。顔も地味だし、センスもそこそこでしょ」

 そう陰口をたたかれている場に偶然出くわしてしまうことはよくあった。相手もわざと聞かせているのだろうと思う。横を通りすぎようとすると、クスクスと笑われる。

「ほらね。言い返せないのよ」

 勝ち誇ったように一人のメイドが言った。ここで口を開いて言い返そうかとしたけれど、敵を増やすばかりと思い、止めておいた。ぐっと耐えて、メイド服を着替えようと棚を開ける。

 服がない!?普段の服に着替えようとしたが、服がなくなっている。まさか!?と振り返ると笑っていた一人のメイドがにやりと気持ち悪い笑みを浮かべる。横にいた二人のメイドも何かを知っているらしく、にやにやしている。

「服を返してくれない?」

「何言っているのかわからないわね。汚い服なら雑巾と間違えて捨てたかもしれないわ」

 まさか!?慌てて、洗濯場のいらなくなった物を捨てる倉庫へ走る。後ろから『さっさと出て行ってほしいわ』と聞こえるように言う声がした。

 なんてことをするのかしら。王家付きのメイドは育ちも出身も良いと聞いていたので、こんなことをするとは思わなかった。涙が少し出る。

 今日はなんだか嫌なことが重なる日だった。洗濯場で汚れた服の中に自分の服がないか、かき分けて探す。セオドア様にはリアン様のことを変人と言われるし、こんな嫌がらせを受けるし……。

 けっきょく服は見当たらない。もうずいぶん夜も更けてしまった。とぼとぼと洗濯場から出て、廊下を歩いて帰る。汚れた服で、歩く気分はみじめだった。

「こんな時間に何をしてるんだ?」

 え?と顔を上げると前にいたのはセオドア様だった。

「なぜこんなところに?」

「陛下がこんな夜更けにリアン様のところへ行きたいとか言うから後宮まで護衛してきた。なぜ休まずにいるんだ?」

「それは……」

 わたしが答えにくそうに、していると、まぁ、いいと言って、セオドア様は手を掴んだ。

「なんとなく事情は読める。言わなくていい」
 
 そう言って、城の一角へ連れていってくれ、私に女性物の服を手渡してくれた。

「あの?これはどこから出てきたんでしょう?」

「城にいて手に入らないものはない。それは俺の物ではない。同僚の騎士の物だ。新しいものだから大丈夫だ」

「えーと、その方はなぜ女性の服を?」

「それはリアン様に聞いた方が良いだろうな。ついでに本人はとても嫌がっていたとお伝えしておいてくれると良いな」

 ま、またお嬢様が何かしたんですね!?騎士の方にまで!?わたしの知らないところでなにかしでかしてますね!?

「昼間、リアン様のことを変人と言ったのは良い意味でだ。俺は陛下のお傍に幼少のころより使えていたが、陛下の心に干渉できたのはリアン様だけだった。だから普通の方ではないと言いたかった。それとリアン様がこの先、狙われることもあると思う。アナベルは王妃様付きのメイドゆえ、周辺の危険に巻き込まれように気をつけてほしいと思ったんだ」

「そんな意味でしたか。わたしのことまで心配して頂きありがとうございます。あの……わたしが仕えるリアン様が他の貴族のお嬢様とは少しだけ違っていて変わってることはわかってます。ついムキになってしまい、申し訳ありません。セオドア様は陛下のことを大切に思われているのですね」

「それはアナベルも同じだろう?リアン様のことを大切に思っている」

 お互い、癖のある主人だけどなとセオドア様が言った。確かにそうだわとフフッと笑ってしまった。

「元気が出たようでよかった」

 セオドア様の顔が一瞬だけ微笑んだ気がした。廊下には月明りが入ってきていて明るく、はっきりと顔が見えた。彼のその表情に目が奪われ、しばらく、動けなくなったのだった。
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