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困惑するスノーホワイト

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「なんで白雪さん、忘年会来なかったの?俺、寂しかったなぁ」

 営業部からわざわざやってきた伏見さんが声をかけてきた、私は会議の資料を無事に提出できて、ホッとしていたところだった。

「仕事があったので……」

「えええ!?そんなの今日でもいいでしょ?今日なんて有休取ってるやつ多いよ。だから仕事にもなんないしねー!え?会議?上はマジメだなぁ」

 私の机に寄りかかって話しだす。はやくどこか行ってくれないかな……。山本先輩の目が痛い。ちらりと見たら、こっちを見ていて、怖い顔をしていた。

 今日は確かに人が少なかった。隣の席の同僚に伏見さんを遠ざけるための助け船を頼もうと思ったら、彼女も有休組だった。

「今度、俺と食事いかない?年末暇でしょ?彼氏いないよね」

 顔を近づけてきて、ヒソヒソ声で言う。距離が近い。思わず身を引く。

「あのっ。伏見さんは山本先輩と付き合ってますよね?なので、私なんか誘わない方がいいと思います」

「実は別れちゃったんだ。昨日の夜ね」

「き、昨日!?」

 別れた!?

「そう。忘年会の帰りに一緒に帰ろうとしたら、君の話になってさ」

「私の!?」

「白雪さんにかまいすぎるとかいうから、うるさいなぁって喧嘩しちゃってさ」

 ……これは喧嘩の仕返しに違いないと私は気付く。伏見さんが山本先輩に注意を受け、おもしろくなかったから私にわざと話しかけにきたんだ!山本先輩に見せつけるように距離も近い。

「もう俺、フリーだし、可愛い白雪さんと話すくらいいいでしょ」

「私、そんな……私は……」

 山本先輩が見ていられなくなったらしい。席から消えた。

「困ります!私、仕事したいので!」

 思い切って私ははっきりと言った。すると伏見先輩はフーンと言って面白くない顔をした。これはマズイわと思った。けれど、この時は伏見先輩は自分の部署へ大人しく戻り、山本先輩もしばらくして戻ってきて仕事をしていたのだった。

「白雪さん、給湯室片付けておいて」

 まただ……。帰ろうとしたときにまた用事を言いつけられる。ぐっと拳を握る。今日こそ言い返す!負けない!

「今日は早く帰りたいので、他の方にお願いできませんか?」

 なるべく丁寧に、怒らせないように言った。……つもりだった。

「他の人なら遅くなってもいいってこと?」

 みんなに聞こえるような声で山本先輩が言った。

「いえ……そんなつもりではなくて……」

 高圧的な雰囲気に負ける。私は分かりましたと言って、カバンを置いて、給湯室へ行った。

 洗っていないカップ、湯呑みを洗う。来客に出す時しか使わないから、その時にすぐ洗っておけばいいから溜まることはほとんどない。私たちは普段コーヒーメーカーだし。絶対わざとだと思えた。

 いつまで山本先輩からの嫌がらせは続くんだろう。さすがに日々の残業や仲間はずれ、嫌味などに疲れてきた。

「手伝おうか?」

 この低めのアルトの声!私はパッと振り返る。大柄の美人なカッコいい女性がドアのところに立っていた。森川さんだった。無表情で、腕まくりする。

「森川さん、どうしてここに来たんですか?」

「帰ろうと思ったら、給湯室行く白雪さんが見えた」

 カチャカチャと洗い出す。手際良い……なんでもこの人できちゃうんだなぁと感心してしまう。

「洗うから拭いて」

「はいっ!」

 私は白いふきんで拭いていく。洗いながら森川さんが言う。

「山本さんにいえば良いのに」

「えっ!?」

「あきらかに嫌がらせだってわかる。白雪さんだってわかってるでしょう?」

「あの……は、はい」

 そう私が返事をしたときだった。

 がたっと音がして人が入ってきた。ドアのところにいたのは山本先輩だった。お客さんのお茶を下げてきたところでお盆を持っていた。

「これも洗っておいて」

「はい……」

 私は気まずくて、素直にお盆を受け取ろうとした。その時だった。
 
 山本先輩がお盆の上のお茶をとってバッと私にかけた。

「危ない!」

 かかったのは……私ではなく森川さんだった。私を庇って代わりにかかっていた。濡れているブラウスと髪の毛。

「あああ!森川さんっ!大丈夫ですか!?」

 私が慌てる。山本先輩が、ひきつった顔をして、なにしてるのよ!と言って逃げるように出ていった。

「熱くなかったですか!?」

「…………っの………」

「はい?とりあえず着替えますか!?冷やした方がいいでしょうか!?」

「あ………んの………」

「顔、赤くないですか?火傷は……えっ?」

「あんのやろろおおおおお!」

 バキッと置いてあったお盆が割れた。いや、ただしくは真っ二つにした。

 えっ?

 えええっ?

 バッと濡れた服を脱ぐ。ばしいっとその服を床に叩きつける。

「もももももももりかわさんっ!?」

 裸だ。

 でも私が知ってる女の人の裸じゃない。

 どうみても華奢ではあるけど……どうみても……これは……。

「お……とこ?」

「バレたか。あの女のせいでバレたじゃないか!」

「男のひと……」

「ちょっと濡れてない服貸してくれないか?着替え持っているか?熱くなかったが、この寒い日に濡れたまま帰りたくない」

「あっ!ロッカーにあります!待っててください」

 私は慌てて取りに行く。最近残業多かったから泊まれるようにトレーナーがあったはずだ。私は駆け足で取りに行き、戻る。男の人だったという衝撃を忘れ……。

 いや、忘れることなんてできない。

「森川さん、男なんですよね?なんで女性の格好をしてるんですか?」

 私が渡したハンカチで髪の毛を拭き、トレーナーを着ている。よーく見ると確かに男の人という感じがする。

 でもよく見ないとわからないくらい化粧もばっちりだし……もともとが綺麗な顔立ちなのだろう。男としても女としても綺麗な人だった。中性的という表現をすればいいのかな。

「理由がある」

 ここじゃ話しにくいし、今日は仕事納めだし、帰りに食事に行こうと誘われた。

 私は興味しんしんでハイッ!と元気よく返事をした。森川さんはそんな私をみて苦笑したのだった。
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