上 下
29 / 40

四つの異変、その二 地形の変化?

しおりを挟む
「し、司祭様が帰って来ていないというのはどういうことですか?」

 さすがに動揺を隠しきれていない。二ヶ月後に司祭と会わせてもらえるというから頑張ってきたのに。

「まだ、お伝えしていませんでしたっけ?」

 ヴェルディス隊長は恐る恐る優弥に訊ねる。
 どうやらうっかりしていたようだ。

「はい」

「それは失礼いたしました!」

 ヴェルディス隊長は土下座でもするのではないかというくらいの勢いで頭を下げた。こちらの世界には土下座という概念がないのでしないだろうが。

「実は先日、司祭殿がお戻りになれないという知らせが参りました。帰路の途中で問題が起きたということです」

「それが、地形の変化ですか?」

「はい、そうです」

 地形の変化で帰れなくなった。理由としてはわからなくないが、イメージは湧かない。

「どういうことなんですか?」

「端的に言うと、山ができたんです」

「や、山?」

「はい、山」

 優弥は声が裏返ってしまった。山というのはそれこそとんでもなく長い時間をかけて作られるものだ。地形の変化というくらいだから小規模のものを予想していたが、山ができたとなると地形の変化と言うよりも地殻変動とまで言えるのではないだろうか。
 そんなことがヴァルデールではよく起こるのかとも思ったが、そんなわけがないから異変として情報が回ってきたのだ。

 ヴェルディス隊長は申し訳なさそうに話を続ける。

「今回、司祭殿が向かわれたのはヴァルディノウス島というところです。そこにウルマティス教の聖都、アマルルがあります」

 ウルマティス教というのは、この世界唯一の宗教だ。唯一神ウルマティスを崇め、研究している。優弥が話を聞いた限り、宗教というよりも学問に近い感じだった。ウルマティス神が何をし、どうやってこの世界を作ったのか。それを紐解き、調べていく。それがウルマティス教の主な活動だ。それを積極的に広めようとはせず、どちらかというと来る者拒まずの姿勢で、色々と教えを広めている。
 それで成り立つのかと疑問に思ったが、彼らの研究はとても役に立っているらしい。新しい魔法や法則など、日常生活を豊かにする術を発見し続けているらしい。
 そして、彼らの研究はウルマティス神だけに止まらない。世界の危機と異界人アイナーについても研究している。

 度々世界に危機が訪れるのは何故なのか。
 それを救うのがウルマティス神ではなく異界人アイナーなのは何故なのか。
 異界人アイナーが選ばれる理由は何なのか。
 異界人アイナーとは何なのか。

 そんなことを研究している。
 最後に異界人アイナーが現れたのがわずか二十年前ということもあり、その研究が今、最も熱を持っているらしい。世界中の司祭(研究者)がこぞって日々研究を重ねている。

 そんな者達の総本山が聖都アマルル。今回は緊急の会合、言わば学会のようなものが行われ、マクルストにいる司祭もアマルルに向かったわけだ。

「ヴァルディノウス島は大きな島ではありません。アマルルがあるだけですが、港とは離れています。アマルルは山の上にありますので」

 ガモルティも王都が山の上にある。どこの世界でも権力者達には高いところというのが魅力的らしい。
 優弥はうっすらとそんなことを考えていた。

 そんな中でふと思い付いたことがあった。
 今までの話、これまでこの世界について学んだことを考えると、ある一つの推論が立った。

(もしかしてその山って……いや、まさかそんなことないか)

「その港とアマルルの間に、山ができたのです」

 変なことを考えていたらいきなり話が戻ってきた。

「つまり、アマルルから山を下りて港に行くには、その山を登らないといけなくなってしまったわけですか」

「はい、しかもその山が霊力を多く含んだ霊山らしく……」

 なにやらヴェルディス隊長がさらに申し訳なさそうに話を続ける。こういう時は必ず良いことなどではないのは経験でわかっていた。

「彼らの研究者魂に火が付いてしまったようで、その山を研究しに登ると……」

「え?」

 話がおかしくなってきた。つまりマクルストの司祭は急に山が現れて足止めを食らってしまったわけではなく……

「自らの意思で山に登り、帰って来ないと?」

「……はい」

「えええええっ!」

 思わず大声を出してしまった優弥。だがこれは仕方がないと言えるだろう。

(じゃあ、俺はどうしたら……)

 優弥の目標は元の世界に帰ること。その鍵となる司祭に話を聞けないとなると、途方に暮れてしまう。
 だが、しばらくして落ち着いたのか思考が戻ってくると妙案が浮かんだ。

「じゃあ、俺がアマルルに行けばいいのでは……」

 これは悪くない案だった。目的の人物が帰ってこないなら会いに行けば良い。自分はついさっき、それができる地位を手に入れたのだから。

「ヴァルディノウス港は山の危険度がわからないため、基本的に閉鎖となりました……」

「なっ……」

 それは考えなかった。いや、そんなことになるだなんてわからなかったと言った方がいいか。

「じゃあ、俺は一体どうしたら……」

 本気で落ち込む優弥。司祭に会って話を聞くという目的がなくなってしまった今、何をすればいいのかがわからなかった。

「ユウヤ殿、会いに行ったらどうですか?」

「え? でも港は閉鎖されてるんじゃ……」

「そうではなく、他の異界人アイナーにです」

「え?」

 それこそ訳がわからなかった。他の異界人アイナーに会いに行こうにも居場所がわからない。
 いや、もしかして残りの情報というのは……。

「あとの二つ情報は、おそらく異界人アイナーだと思われる人物についての情報なのです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

処理中です...