ABChanneler-戦うWanTuber-

綾久庵

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蘇るヒーロー

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戦いが終わり、廃劇場の中からチャンネラーに変身したままの丈一が出てくる。
「ジョー……やったのね。」
『…ああ、だけどまだ終わりじゃない。』
「…ええ。」
アノンはそれ以上、何があったか深く聞かなかった。
「メモには山木が子供達の実験に失敗した時の計画も書かれてた。狙う場所は“東京スカイロード”。自らバスになって子供達ごとそこへ突っ込むつもりみたい。」
東京スカイロード__それはゾンビへ対抗するために作られた日本最大のジャミング装置である。
『…たく、バスを使う悪者ってやつはなんでどいつもこいつもやり方が回りくどいんだよ。』

その時、チャンネラーのベルトに通信が入った。
『聞こえるか“壱郷”…今からその情報を送る。』
『猪上…!』
通信の相手は猪上いのがみ鬼善きよし、丈一を改造した男でありスカルファイヤーの脚本家だった男である。そして今はグロッカーという組織を立ち上げ、ゾンビと社会の裏側から戦っている。
『悪かったな、壱郷。お前だけにこんな役目を負わせて。』
『御託はいい、だいたいお前はずっと瑠李ちゃんに嫌われっぱなしだったろ。さっさと情報を寄越せ。』
猪上は丈一とはスカルファイヤー以前からの旧い付き合いだった。そして今でも、丈一を役名で読んでいる。
『山木日光…いや、キャットゾンビの座標は送った。それと、とっておきの“脚”をお前に用意しておいた。じきにたどり着く。』
『あ?脚…?』
『お前には何かと因縁のあるものだ。切るぞ。』
『あ、おい!』
通信は一方的に遮断された。
『あんにゃろう…勿体ぶりやがって。』

「そう…それと、これはあなたが持っていなさい。」
アノンがチャンネラーに瑠李の手帳を渡そうとする。
『…いいや、俺には重たすぎる。』
「あなたへのファンレターでしょう。」
『…わぁったよ。』
チャンネラーは渋々手帳を受け取った。
手帳に手が触れた瞬間、チャンネラーの頭部のアンテナが光を帯びベルトから奇妙な音が流れ始める。
《登録登録登録~♪登録登録登録登録~♪》
『うおっ、なんだ?』
手帳に触れた右手から、左手に緑の光が走った。
その光が徐々に実体を伴ってそこに緑色のアンテナが現れた。
「新しいアンテナ…?そう…あの子が残した意思をベルトが受信したのね。」
『…チッ、こんなもん渡されたら後に引けなくなっちまっただろうがよ。』
チャンネラーは緑のアンテナに語りかけるように言った。

『しょうがねえ、今日だけは“ヒーロー”演ってやるよ。それで満足だろ?』


首都高速道路で一台のバスが暴走を始めた。
正面が獣の顔ように歪み、ヘッドライトは禍々しい光を放ち続けていた。
バスの中からは子供たちの啜り泣き叫ぶ声が響き渡る。
『泣けぇ!叫べぇ!おめえらが“終わり”を見続ければ”俺たち“はデカくなれる!おめえらの脳漿が飛び散る様を世界中に人間共に見せつけてやる!』
スパイダーゾンビの死を感じ取ったキャットゾンビはバスに変化し、子供達を乗せて東京スカイロードに特攻を仕掛けるべく首都高を突き進んでいた。

『そこまでだ!キャットゾンビ!!』

『ああん!?』

__ヴィイイイイ!!

『とう!!』

上段の道路からバイクに乗った赤い影がキャットゾンビのすぐ隣に飛び降りた。

『おめえはァッ!!』

『自由と平和と笑顔の戦士!ABチャンネラー!!子供達を返してもらう!!』

赤い影の正体はチャンネラーだった。猪上から自動運転で送られてきたバイクを駆り、キャットゾンビに併走する。

「AB…チャンネラー…?」
「ABチャンネラーだ!!」
「助けて!チャンネラー!!」

バスの中の子供達が歓声が湧き上がった。

『待たせたな!今から助ける!しっかり掴まってろ!!』

チャンネラーは緑のアンテナを手に取った。

《boom spa!!》

『…こんなことに付き合ってやってんだ。力、貸してくれよ?チャンネルチェンジ!!』

《POLICE Channel♪Ready Go♪》

稲妻と共にチャンネラーの色が緑に変わり左手首には手錠、右手には拳銃のようなものが現れた。

『ふざけやがってェ!!オエッ…!ボエェェッ!!!』

キャットゾンビの口が開き、スクラップの塊のような物体が複数吐き出される。
塊は地面に落ちると同時に四つん這いの人の形を取り、四肢から生えた車輪で走行しながらチャンネラーを取り囲んだ。キャットゾンビの生成した複製体である。

「フシャアアアア!!」

複製体の一匹がチャンネラーに飛びかかった。チャンネラーは素早く複製体に向けて発砲する。

「シャァッ!」
『うおっ!?』

複製体は空中で銃弾を避けながらその爪をチャンネラーに向けて振り下ろした。
間一髪、チャンネラーは車体を傾けながらその一撃を避ける。

__弾道を見切られてるのか…だったら!

チャンネラーは併走する複製体に向けて銃弾を放った。弾はまたしても避けられ、反対側から別の複製体がチャンネラーを襲う。
その時、チャンネラーが首を傾けると同時に通過した弾が複製体に直撃した。

「フギャアア!?」

首都高の壁から跳ね返った弾丸を受けた複製体は後方で爆発を起こす。

『次はお前だ!』
「フギャッ…!?」

チャンネラーの左手の手錠が前方の複製体の片足を捕らえた。足を取られた複製体はバランスを崩し、回転しながら宙に浮く。それに向けてチャンネラーは銃を乱射した。
「フギャーッ!!」
跳弾により他の複製体が次々と爆散していく。
最後の一体が逆走してチャンネラーに突撃してきた。

『はぁっ!!!』
「フギャニャッ…!!」

チャンネラーはバイクを跳ねさせ、最後の複製体を踏み台に飛翔した。そのままバイクを乗り捨て、バスに飛び乗る。

『降りろォ!!』
『ぐっ…!!』

キャットゾンビはしがみついたチャンネラーを振り落とそうと車体を左右に揺らし始めた。

「「わああああっ!!!」」
『やめろ!!』

《POLICE Channel♪24トゥエンティフォー♪》

ベルトの緑のアンテナが倒される。

《prululululululu…syupa!!”Captures Bind“……yhaaaaaaa!!!》

その音声と共にチャンネラーの左手に光が集まった。

『うおおお…!!』

チャンネラーは力を込めた左拳を振り下ろした。拳の接触と同時にチャンネラーの左手首から手錠が消え、車内の子供達の手に手錠が現れる
その反動と共にチャンネラーはバスから飛び降りた。

『……!?何をしたァッ!!?』

キャットゾンビは身体に違和感を感じて急ブレーキをかける。振り向くとその後方にはチャンネラーと中にいたはずの子供達の姿があった。
あの瞬間、ポリスチャンネルの力により子供達はキャットゾンビの車内から“取り除かれ”ていた。

『…もう歩けるな?君たちはすぐここから離れるんだ。』

チャンネラーは振り返り子供達を遠くへ逃す。

『ここまでだ、キャットゾンビ。チャンネルチェンジ!』

《HERO Channel♪Ready Go♪》

チャンネラーの身体が赤色に戻った。

『おめえらぁ…もう許さねえ!!フシャッ!
ゴァッアッ!!フギャアアアア!!!!』

キャットゾンビの咆哮と共にその身体からは毛が生えていき、さらに12本の脚が現れ野獣のような姿へと変貌した。

『フニャァァ…!!こうなったのも全部あの女をゾンビにしたせいだぁ!あの女だけはゾンビになってもコントロール出来なかった…!ギギッ…なんであの女だけはゾンビになる最後の瞬間まで絶望しなかったんだ!!?』

『…あの子は昔誰かに与えられた“幻想”の犠牲になっただけさ。正義のヒーローとかいう理想の犠牲に。…だから、俺はここに蘇った。そんな幻想に責任を取るために。』

《HERO Channel♪Every Day♪》

『例えあの幻想が全て嘘だとしても、せめてあの子が信じたものだけは本物だったってことを証明するために…。』

チャンネラーは右手を腰に当て、左腕を斜め上に伸ばした。スカルファイヤーのポーズである。

『…カッコつけさせてもらうぜ。』

キャットゾンビは道路が抉れていくほどの力でチャンネラーに突進する。
『知るかァ!!死ねぇーッ!!!』
『うおおおお!!!』
チャンネラーも前方に向かって疾走を始めた。

『雷光…!!』

《prululululululu…syupa!!”Rising Effection Kick“……yhaaaaaaa!!!》

チャンネラーの足跡に強烈な光が走る。

『SF…!!』

『キシャアアアア!!!』

キャットゾンビが大口を開けてチャンネラーに飛びかかった。
それと同時にチャンネラーも飛翔し、空中で一回転する。

「「チャンネラー!!!」」

子供達の声援の中から、チャンネラーはいるはずのない瑠李の声を聴く。

__丈一!

『キィィィック!!!』

チャンネラーは両脚を突き出し、稲妻を帯びた肉体が光の矢と化す。
雷光SFキック__スカルファイヤーの劇中にてSFキックの効かないトカゲグロッカーに対して壱郷が特訓の末、習得した強化型のSFキックである。
その一撃はキャットゾンビの身体を正面から貫いた。

『ニャアアアアア!!!』

《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!120ワンハンドレッドトゥエンティ‼︎yhaaaaaaa!!!》

チャンネラーが地面に着地すると同時に、その巨体は爆発し、消滅した。

「チャンネラー!」

一部始終を見ていた子供達がチャンネラーに駆け寄る。
『遅れてすまなかった。君達、怪我は無いか?』
「…怖かった!」
「チャンネラー!助けてくれてありがとう!」

『…いいや、君達を助けたのは俺じゃない。石田崎瑠李というお巡りさんだ。いいかい、例え周りの大人がどれだけ違うと言ってもこの名前だけは絶対に覚えていてくれ。本当の正義のヒーローの名前だ。』


戦いの後、警察は一連の出来事を山木による身代金目的の誘拐事件として処理した。容疑者は交通事故により死亡したことにされ、この事件によって殉職した一人の警察官の名前も公には伏せられている。

「あ…君は。」
「ん?ああ、どうも。ご無沙汰です。」

ジョギング中に交番前を通りかかった丈一に、声をかけたのはあの部長だった。

「どうしたんだ、その格好。最近見ないと思ったら、どういう風の吹き回しだい?」
「体力づくりっすよ。やっぱ役者戻った時に要るでしょって思って。」
「そう……もしかして、お酒も?」
「はい!ここの若いお巡りさんにガツンと言われてから禁酒中であります!」
「そうかい…それは、よかった。」

部長はもの悲しそうな、嬉しそうな複雑な表情をする。

「ともかくジョギング中に呼び止めて失礼しました。部下ともども応援しています。」
「ええ、ありがとうございます!」

「あの…!」
部長の元に一人の少女が訪ねてきた。
「これ…!“イシダザキルリ”って人に…!」
「どうしたんだい…?」
少女が部長に小遣いで買った小さな花束を渡す。その少女はあのバスにいた子供の一人だった。
「助けてくれたって…チャンネラーが言ってたから…。」
「…そうか……そうか!ありがとう、これは渡しておくよ。」

丈一はその様子を遠目で眺め、そっと派出所を後にした。


「お…なにやってんだ?こんなとこで。またゾンビか?」
「いえ…見張りにきただけ、トレーニングサボってお酒飲んでないとも限らないし。」
「さいですか…。」
丈一はジョギングのコースで待ち伏せしていたアノンに遭遇する。
「そういや、お前。あの日瑠李ちゃんと何話してたんだ?」
「そりゃ……あなたの悪口よ。」
「…俺の悪口で五時間も飲めんのかよ。」
「もう少し、あの子と早く会えてればいい飲み相手になれたかもね。」
「そうか?…そうかもな。」
アノンと出会った頃から丈一はどことなく彼女に瑠李と似た雰囲気を感じていた。
「あいつが、正義のヒーローなんてもんに憧れてなきゃ今も元気にしてたんだろうな。こんなことなら、あん時もっと手ぇ抜いとくんだった。」
「…なにも“なりたい”って気持ちだけが憧れじゃないでしょ。あなたが振り撒いた憧れの中には“きっと助けてくれる”って願望も含まれているんじゃないの?」
「なんだ?それ。」
「さぁ…例えばの話だけど、あなたを見ていた人間の中には毎日苦しい思いをしていた子供もいたかもしれない。そんな子供も明日、ヒーローに助けてもらえるなら…いつかヒーローが助けてくれるならって希望を持って生き続けることができれば、何かの拍子に救われることもあるかもしれない。そう考えれば、あなたが馬鹿みたいに真面目にやってきたことで間接的に救われた命もどこかにあるんじゃない?」
「そうかぁ?…いいや、騙されねえ。二度とヒーローなんてやってやるか。だいたい、そんな奴がいるなら顔を拝んでやりてえよ。」
「ぷしゅっ…!」
その言葉にアノンが吹き出して唐突に顔を抑える。
「なんだ…?」
「…なんでもない。さ、帰りましょ。まだ眠らせてる動画の編集もあるわけだし。」
「…へいへい。」

丈一の前では滅多に笑わないアノンの横顔が夕陽に照らされてわずかに笑みを帯びているように見えた。

__ABチャンネラーの戦いは続く。基本的には金と名誉のために。

__けれどもそこに消えない願いが残っていたならば、ヒーローはいつでも蘇る。
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