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第3章 塩漬系主人公

悪魔は主人公じゃない

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静かな夜に墓地でやることと言ったら肝試しぐらいだ。当然、死者への冒涜などではない。とりあえず残酷、というオーダーのもと作られたB級ホラー映画のセットのような光景に俺は言葉を失う。

「…!」

俺は死刑囚と彫られた自分の墓と思われる墓石を眺め、つっこむことを忘れてドン引きしていた。死者の復讐とはだいたい『そんなことをしてソーンが喜ぶと思うの!?』『ソーンはそんなことしてほしくて死んだんじゃない!』みたいなのがあると思う。俺はそれの同意を求めたい。

話は戻り、おそらく、心当たりとして最後の記憶。血祭にあげられた愚者はイケメン不死身の刑務官だと思われる。とても人間の所業とは思えないひどい光景だ。

目はくりぬかれ、切断したと思われる指とともに口に詰め込まれている。首から下はなく、関節の部分は丁寧に全てちぎってあり、刑務官の持っていた金属の棒で墓石に刺さっている。供物?

コルクボードに写真でも止めるように向きを少し傾けたり、間隔を均等にまんべんなく飾っているが、ここで発揮する技術センスではない。何この地獄絵図。これで鎮魂できるわけない。埋まってた俺完全に悪魔。

ここ最近墓の中で眠れなかったの完全にこれじゃん。死者がこれで安らかに眠れると思ったのだろうか。いや起こそうとしていたのか?死者蘇生?儀式成功したみたいになってない?

最初から最後までツッコミどころ満載のブライの置手紙。まだ言い足りない。

こいつ刑務官は幽霊化しないのか?いやしていたとしても、ブライのもとに向かうか。とても頑張ってくれ。

「このは…。」

混乱する頭でこの惨殺に対しせめてもの配慮に『供物』ではなく『人』と明確にしつつ、咄嗟に浮気相手に仕立て上げようと配慮とは若干の矛盾を抱えたが、名前が浮かばない。刑務官に名札がついて入ればとも思ったが、この場合浮気相手は女でないといけない。絶対にだ。ここで男の名前を出すのは俺の守備範囲にかかわるし、これ以上伏線を増やしたくない。

惨状から目を背け、適当な名前を絞りだす。ソーン、ウッキー、ご主人。ご主人の名前なんだった?そもそも知らない。他は、虫…。

「…セカンド。」

思い出した。どこかであったイケメンの正体。刑務官は、猿の集落に一緒に囚われていた男、セカンドの顔と似ていたかも。…いや、似ている。瓜二つ、同一人物かもしれない。もう少しセカンドの顔をしっかり見ておくべきだったか。

確か、憶えているかとか聞いてきていたし、レイを見るような素振りも引っかかった。同一人物にしては服装もキャラも少し違うように見えるが、怪しい点は多いな。

「浮気相手?」

「はい。」

この事実を今更理解したところで何かあるのかと考えたが、何もない。ただ、ずっと気になっていたモヤモヤが晴れてスッキリしたので、満足はしていた。やはり知り合いだった。

「…ブライは?」

「恋…友…知り合い。」

生き埋めだけでもサイコだったのに、復讐女の設定をよくもまあこれほど増やしたものだ。友人すら名乗るのに気が引ける。他人のフリをしたいが、それでは辻褄が合わないので精一杯の譲歩にて関係を説明する。

鉄を素手で引きちぎったり、壁に穴開けたり、もう中身でしか人間と判別できないと思っていたのに、か弱い少女はどこへやら。これで心身ともに晴れて化け物になったようだ。

俺の反応から何を思ったのか、両手をポケットに入れ背を向ける墓荒らし。突然のことで黙って歩いて行くその背を見送っていると、墓荒らしは振り向いて声が聞こえるように片手で口元の布を下げる。

「ついてこい。」

声に違和感はなく、再び布を上げる墓荒らしの口元は思ったより不機嫌には見えなかった。
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