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第2章 死系主人公

恐怖するのは主人公じゃない

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自由時間になり、広場の一角の長机の隅にひっそりと座る。不自然なほどの騒ぎ用に耳が痛い。初めて目にしたときも思ったが、こいつらは確かに世に放ってはいけない者たちだな。裏でひっそりと作戦を伝達していく様はどこかぞっとするものを感じる。

「なんなんだあの連帯感は…。」

注視すればするほど餌を運ぶアリのような、協力して作られた混沌が目に入る。注意を引くほどの大声で騒ぐ者は定期的に変わり、看守の見回りに合わせてどこかで喧嘩が起こる。

「確かに。人の欲は恐ろしいね。ここの看守たちより統率が取れてる。」

欲…ね。独り言のつもりではあったが、レイに向けて放った言葉でもあったので返事をしてくれてほっとする。レイの言い方からは呆れすら感じられたが、俺のような驚きや感心はないようだった。

俺の前を優雅に飛びながら、返事を待たずに続けるレイ。俺と違って返事がなくとも不安にならないようだ。

「ここにいる人全員『脱獄』っていう共通の願望がある。」

俺の『欲』という返事を予測した?心を見透かされたようで、思わず心の中で声をかける。『視線が男が絡み合っているところに釘付けじゃなきゃ、お前をまともな人間だと勘違いするところだったよ。』

「そういえばs…ソーンの願望って?」

俺の名前を呼ぶのを一瞬躊躇したように思えたがスルーする。ブライとの会話を聞いていなかったのだろうか。その返答に俺が困ったのを見ていたじゃないか。いや、目先の願望BLに思考を持っていかれてたのか?まあ記憶はどうかは知らないが、我を忘れていたのは確かだな。

「ないよ。レイの願望を分けてほしいぐらい。」

ある女性に会いたいという願望があるじゃないか、というその場しのぎをしてもよかったが、レイには言わなかった。嘘をつきたくなかったわけではないし、会いたい気持ちも嘘じゃないのだが…。これは願望とは少し違う気がする。

「…なぁ、願望って何だと思う?」

俺がそれこそ、宙に放り投げるように自分の指を眺めながら問いかける。すると、想像以上に確固たる自信のある返事が俺を襲う。奇襲だ。

「願望?そんなもの簡単よ!書いて字のごとく、そうでありたいと願い、そうあろうと望むこと!」

レイと俺の会話に入ってきたのは机に手をつき前のめりになっているブライだった。鼻と鼻が触れそうな明らかにおかしい距離感はともかく、単純なブライなりの答えを教えてくれた。満面の笑みのブライから距離をとろうと椅子をひくが、どう物理法則を無視したらそんな動きができるのかというほど軽やかに俺の隣へジャンプして退路を塞いできた。動きがヴァルクーレと重なる。

「…昨日のこと?気に障ったのなら謝るわ。願望は、今ないものを手に入れようとすることよ。死刑囚ちゃんは女性を見つけることで、何かを得ようとしているのではないかしら?」

隅を選んで座っていたので口を動かしながら迫りくるブライから距離を広げられない。というかいきなり積極的過ぎる、なにがあった。話の内容はまとものようだし、何か意図でもあるのか?

レイに目をやると、満足そうにうなずいている。何が『ここにいる人全員『脱獄』っていう共通の願望がある。』だ。愛されたい願望と腐った脳に支配されてる例外がここにいるじゃないか。

俺が荒い鼻息に吹き飛ばされそうになっていると、突然我に返ったようにブライの呼吸が静かになる。自然と何かを伝えようとしていると感じ耳を澄ませると、耳元でもぞもぞと囁きだした。

ブツが届いたと連絡が入ったわ。この自由時間の後に渡されると予想されている。今夜作戦を実行するわ。頑張りましょう?」

ブライに愛を囁かれなかったことに胸をなでおろす。直後、ひげが触れるほど顔を寄せると、俺の頬にジョリっとキスをして、顔を隠して恥ずかしそうに去っていった。心臓を握られている気分だ。俺は反射的に服で頬をぬぐう。

心臓の鼓動が早くなるのを感じるが、ブライに対してそこまで嫌悪感がないことに驚く。むしろ、俺は恋を…。

…いや、違う。これは…つり橋効果だ!恐怖のどきどきと恋のどきどきを錯覚させて恋に落とすテクの一つだ。まさか意図的にやっていないだろうな?混乱が止まらない。

このまま脱獄したらまずいのではないか?ブライが去るとともに自由時間の終了の合図が出され、囚人たちが牢屋に戻っていく。俺はというと戻るとブライがいる現実に恐怖し、その場から立ち上がれずにいた。

「おい、64番。」

そんな俺に助け舟を出してくれたのは、前回欲しいものを申請したときに同行してくれた刑務官だった。名前を言わなかったため、また虫に逆戻りしていたりする。

「お前にプレゼントが届いたそうだ。」
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