僕は金色に恋をする

いちこ

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トーマスとダニエル 3

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 トーマスの生徒会の仕事が終わると、二人で首都の店に用意された部屋に向かう。そこにナタリーたちがいると聞いていたからだ。

 勝手知ったる我が家の部屋だ。ノックもせずに中に入る。
 そこで異様な光景に二人で固まった。

「え?どういうこと?何事?」

 トーマスが驚いて聞く。

 机の上には血まみれの紙が散乱し、机の横で座ったオーレンが、自分の膝を枕に倒れたギーグの頭をのせている。
 ギーグの顔の下半分をタオルで、目を手の平で覆って隠している。

 その横でナタリーが青い顔で二人を見ていた。

「どういうことだい?」

 トーマスの声にビクッとナタリーの肩が跳ねる。

「あっ、あの、えっと、その…。」

 ナタリーはいつもの凛とした態度では無く、指をもじもじさせて、しどろもどろになる。

 彼女が本当に悪いと思っているときにやる仕草だ。

「言い訳があるなら聞こう。」

トーマスが静かに言うと、いつもよりも小さな声で話しだした。

「ギーグのスキルが見たかったの。最初は見たものを覚えるだけのスキルかと思ってて、今度は覚えたものを書いてもらったの。これ、この絵本なんだけど。
ほら見て、元のと寸分違わず描かれてるの。
なら、外の景色も出来るのかと思って、お願いして、描いてもらったのがこの絵。他にもいくつか書いてもらってたの。でも、使いすぎたみたいで…。」

 シュンとしたナタリーを見てから、オーレンに顔を向ける。

「いや、ほら、目が見えるとスキルが発動しちゃうみたいでさ。ちょっと負担かかったのか、鼻血がね。」

 オーレンも眉をへニョリと下げて、バツが悪そうにしている。

「ギーグのスキルについては追々調べようって言ってたよね。」

 ダニエルが急いでタオルを濡らして持ってくる。そして、少し責める口調で二人に言った。
 オーレンにもたれかかるように座らせて、鼻を拭く。目は閉じたままだ。意識を失っているらしい。

「ギーグ。大丈夫?」

本当にダニエルは心配そうにしている。当たり前だ。大事な友達なのだから。

 弟のその様子を見てから、トーマスは静かに二人を見る。
 ビクッと肩を震わす二人がすぐに謝る。

「ご、ごめんなさい。ギーグのスキルが凄すぎて、調子に乗りすぎたわ。」

「俺もすまなかった。全然平気そうにこなすから、見誤った。」

 トーマスは二人を真っ直ぐ見ると冷たく言い放つ。

「私に謝ってどうするんだ。相手が違うだろう。」

 と、その時、ギーグが身じろぎする。鼻血は止まっていたけど、タオルで目隠しするように顔を覆っていたので、ビクッとしている。

「ギーグ。大丈夫かい?スキルを止めるとこは出来る?」

 トーマスが頭を優しく撫でながら聞くと、うん。と小さく頷いた。

「じゃあ目隠しを外すよ。」

 ゆっくりとタオルを取ると大きな焦げ茶色の目がクリックリに見開かれていた。目がキラキラしているのはスキルのせいかもしれない。

「スキルの使いすぎだ。脳に負担がかかるんだろう。鼻血を大量に出したのを覚えてるかい?」

 大きな目をキョロっと左右に動かして、あっと驚いた顔になる。

「ギーグ。ごめんね。無理させてるの分からなくて。」

 横から泣きそうな顔のナタリーがギーグの手をぎゅっと掴んで謝る。

「俺も悪かった。面白がって見てた。」

 オーレンも反対の手を掴んで言うと、ギーグは真っ赤な顔をして、ブンブンと音がしそうなくらいの勢いで頭を横に振った。そのせいで、目眩でも起こしたのか、ぐらりと身体が傾いだ。

「わかった。ギーグ落ち着いて。」

 ダニエルがポンポンと背中を叩く。うんうん。と頷く。

「ナタリー。」

「ひっ、ひゃいっ。」

 トーマスに呼ばれたナタリーの声が裏返る。

「ギーグはしばらく私が預かる。ナタリーの担当してた化粧品の発表は延期。
オーレンとソマリトの街のギルドと商会のトラブルを一週間で解決してきて。
学校があるから、転移陣は使えるように頼んでおく。」 

「えっ。だってあれはシントの今季売り出しの最重要アイテムで…。」

「一週間で解決してくればいい。冒険者ギルドの納品物の品質が悪い。ギルドが悪いのか、冒険者の質か、はたまた両方か。
オーレンもいるから、どうとでもなるだろう。
それが終わるまではギーグは二人には一切近づけない。」

「う、はぁい。わかりました。」

 ナタリーは肩を落として返事をした。横でオーレンも小さく片手を上げて、了承の意を示した。

 トーマスはいつも優しい、怒鳴ってるとこなんて、見たことない。
 なので、これはめちゃくちゃ怒らせたな。とナタリーとオーレンは思った。

 特にダニエルを泣かしたら、たぶんタダでは済まない。

 昔、ダニエルの好きなお菓子を横取りして食べたら泣かれて、翌日からの食事がナタリーの嫌いな物ばかり一週間続いたのを忘れてはいない。

 あと、きちんと謝れないとずっと説教される。滔々と理詰めでくる。

 普段はほぼ対等に扱われるが、何かがあった時には、全員がトーマスに頼る。
 要するにオーレンもナタリーも、トーマスには頭が上がらないのだ。

「ギーグ。本当にごめんね。」
「すまなかったな。」

 二人からの謝罪に慌てているギーグを、椅子に座らせ、果実水を手渡し、甲斐甲斐しくお世話しているのはダニエルだ。ギーグもストローで大人しく飲んでいる。

 ギーグの座る椅子の横に跪くように座っていたナタリーは、パンと手を合わせると

「よし。じゃあ善は急げよ。今すぐ行きましょう。」

と立ち上がる。

「そうだな。ちょうど冒険者達の帰ってくる時間だ。買い取りの様子を見せてもらおう。」

オーレンも立ち上がる。そこにトーマスが

「オーレン。ついでに、ソマリトの冒険者ギルドとホテルジョンストンのフランチャイズ契約を取って来てほしいと言われているから。」

にこやかに言ったトーマスに、オーレンは絶望を顔に浮かべた。

「えええ。トーマスめっちゃ怒ってんじゃん。」

「怒ってないよ。二人の考えが足りないところを、反省して貰いたいだけだよ。」

「それ、怒ってるよね?」

「何か?」

「いいえ。なんでもない。」

 オーレンはジョンストン家の三男なので、本当は経営には関わらないのだが、メラーニ商会とジョンストンのホテル業と協業関係にあるので、トーマスに話が来ると、オーレンも必然的に巻き込まれるのだ。

「分かったよ。じゃあ行ってくる。」

「ああ、気をつけて、頑張ってきてね。」

 呆然としたギーグに見送られて、ナタリーとオーレンはソマリトに行ってしまった。






 










 


 

 
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