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せんぱいのはなし
しおりを挟む僕はすごく舞い上がっていた。
あの金色の人の名前も分かって、お話まで出来た。挙句の果てに、僕の、僕の世話人だなんて。
なんて幸せなんだろう。
先輩にあれもこれも聞いてみよう。なんて声をかけようかな。楽しみだなあ。
なんて最初は思ってました。
実際は、僕はほとんど話せていない。
僕が緊張のあまり、いつもガチガチに固まるからだ。
しかもまだこの間の犯人が捕まっていないから、オーレン先輩はナタリー先輩の護衛に付いていることが多かった。
ちなみにナタリー先輩には、この前挨拶することが出来た。その時に「先輩呼び良いわね。」と言われたので、僕の中ではナタリー先輩だ。見た目は、儚げ美人なのに、実際は、言いたいことははっきり言う、スッキリ美人だった。
あと、オーレン先輩の事を教えてもらった。
ダニエルくん曰く、オーレンは軽薄でチャラ男。めちゃくちゃモテるのを隠しもしない。男女問わず、多くのファンがいる。
来るもの拒まず、去る者追わず。の精神で、広く浅く、人付き合いをする人らしい。
何やってもカッコイイから人気がある。
人生理不尽だ。と、言っていた。
実際にオーレン先輩は色んな意味で軽かった。
誰かがオーレン先輩に声を掛ければ、すぐに優しく答えてくれる。
ちょっと可愛い女子生徒なら、肩まで抱いてあげる。そして、頬を紅く染めた、その頬を優しく撫でるのだ。
そうすればもうその子はイチコロだ。
なのに先輩は特定の相手はいないらしい。
夜になると寮を抜け出して、大人のお店に行ったりしていると、ダニエルくんは教えてくれた。
大人のお店って何なんだろう。
今度付いて行ってみようかな。
なんて考え事をしながら、今は森の中、校外学習と言う実習が行われている。
あの事件から二週間。学院も一応いつもどおりにやってる。
その中で一年生は初めての校外学習で、右も左も分からずに、ついていくのが精一杯な生徒が多い。
これは親睦をはかるために、世話人の先輩とペアを組んで、森の中のチェックポイントを一つでも多く回り、スタートまで戻ってくるのだ。
僕のペアはトーマス先輩だ。
オーレン先輩は違う生徒と回っている。
トーマス先輩とオーレン先輩は身長がどちらも高くて、二人並ぶとめちゃくちゃカッコイイ。トーマス先輩はオーレン先輩程では無いけど、かっこいい顔をしていると思う。誰かが「超優良物件」って言ってた。
トーマス先輩は細身。オーレン先輩は細マッチョだ。
今日は校外活動なので、長袖長ズボンの体操服ジャージだ。お手本みたいに綺麗に着こなしている。ズボンの裾を三回折った僕のジャージとは別物だ。
すごい絵になる。パチパチと瞬きしてしまう。
僕と一緒にいる人たちは、実は学院内でも知らない人はいないくらい有名だった。僕は、最近になってみんなの話が理解できるようになった。
いつも噂していたのはメラーニ家の人たちのこと、トーマス先輩、ナタリー先輩、ダニエルくんは、メラーニ商会はすごい金持ち、頭も良い。そして、オーレン先輩のモテる噂。
今まで聞いてきた噂も、ああなるほど、とやっと理解することが出来た。
先輩たちは本当に人気のある人たちだった。しかも生徒会にも所属している。ぼんやりとトーマス先輩を見てたら、声をかけられた。
「地図は持った?森の中の目印と照らし合わせて確認しながら進むんだよ。」
トーマス先輩に言われて、うん。と、頷く。
この森は毎週来てたから、知ってる。
チェックポイントは全部で十。五つ以上チェックが入れば合格だ。
最初に地図を見て、チェックポイントは覚えた。
地図をいつもの斜めがけのかばんにしまうと歩き出す。
「あ、案内しなくても大丈夫かい?」
トーマス先輩に聞かれる。僕は、うん。と頷いて歩く。
少し歩いて気がついたけど、トーマス先輩、遅い。
一箇所、二箇所と回っているうちに、先輩の足が止まりだした。
僕は足を止めて、トーマス先輩の追いつくのを待った。
「はあっ、ごめんねえ。私は体力は無くてね。はあ。オーレンだったらもっと早いんだろうけど。ギーグはすごい体力だね。」
森の倒木を椅子にして、トーマス先輩が座って、そう言う。
僕はコップに魔法で水を出す。そして先輩に差し出した。
「ああ、ありがとう。助かるよ。」
受け取って飲んでくれた。前なら、自分の手のひらをお椀にして水を出してたけど、人にあげたいなら、コップを持ってよう。と、ダニエルくんに言われたのだ。
初めて用意したコップが役に立って、僕はすごく嬉しかった。
「ところで、迷いなく進むけど、もしかして十箇所全部回る気じゃないよね?」
トーマス先輩の問いに、僕は首をかしげる。
「ダニエルくん。競争、言った。」
『どっちが早く十箇所回って帰れるか、競争な。』
ダニエルくんに言われた言葉の半分も言えて無いけど、トーマス先輩には伝わったらしい。
「…あいつ、あとで覚えてろよ。」
いつもの優しい口調とは全然違う低い声と調子にビクリと震える。
「っああ。大丈夫。話は理解したから、じゃあ、ここからは全速力で行こう。道案内は任せて良いんだね。」
そう言われて、僕は大きく頷く。するとトーマス先輩は自分に風魔法をかけて、身体を軽くした。
「悪いけど、僕は抱えて行ってくれるかい?その方がずっと早い。」
そう言われて後ろから太ももを持って持ち上げると、僕の肩に座るような形になった。
「うん。ちょうどいい。障害物は僕の魔法である程度は弾けるけど、なるべく当たらない方が嬉しいかな。よろしくお願いするよ。」
そう言われたから、うんとうなずいてから、木とかに当たらないように隠匿のスキルで透明になって、抱きしめたトーマスの太ももをさらにぎゅっとして、一気に走りだした。勢いでトーマス先輩が仰け反る。直ぐに僕の頭にしがみついた。
「っ、はははっ。こ、これはすごい。危うく飛ばされるかと思ったよ。もう大丈夫だから。」
トーマス先輩が落ち着いたところで、ぐんっと更にスピードを上げて森の中を一気に進む。
すれすれのところを木の枝や草がかすめていく。少しは当たってるけど、透明化ですり抜ける。楽しくて、だんだん笑顔になった。
後に、トーマスは一生の中で一番怖かった時間をこの時だと言っていた。
少し魔法で軽くしたとはいえ、ほぼ大人のトーマスを抱えて、森の中をかなりのスピードで、全く迷いなく進めるのは、他にも何かスキルがあるんだろうと、ぐらんぐらん揺れながら、トーマスは考えた。
ゴールにつく前に下ろしてもらった。必死で耐えたがフラフラだった。
こうして、結果はギーグが一位、ダニエルが二位、とワンツーフィニッシュを決めた。
その弟の頭に何も言わず目一杯げんこつを入れたトーマスは悪くない。完全なる被害者だろう。
そして、僕は目立てば嫌う者もいると、最近知った。
先輩たちに贔屓してもらっている。サボりまくってた特待生。ダニエル様にも寄生する悪いやつ。なんて、聞こえてくるようになった。
僕は悪いやつだったのかな?と、思ったけど、別に悪いことはしてないから、いつも通りに生活した。
ただ、持ち物が無くなったり壊されたりするのが地味に堪える。
僕の物なら仕方ないけど、ダニエルくんがせっかく準備してくれた本やノートを破かれるのが嫌でそれらも隠すようになった。おかげで、細かい操作が出来るようになった。持ってるかばんだけ隠したり出来る。
それをダニエルくんに気づかれた。
「なんで荷物も隠してるの?」
「え?」
「かばん。最近ずっと隠してる。」
かばんの中にはちょっと破れた教科書と落書きされたノートがある。見られたくなくて、隠してる。
「これ…。やられたの?」
結局見せた。
「貰ったの破ってごめん。」
「何言ってんだよ。破ったのはギーグじゃないだろ?誰にやられた?」
「知らない。分からない。」
僕は頭を横に振る。するとダニエルくんは黙って、少し考えこんだ。
「うん。わかった。明日は学院が休みだから、一緒に俺の家に行こう。外泊届出しに行くぞ。」
「?」
「いいから。これは決定事項。分かった?」
「う、うん。」
僕は放課後、ダニエルくんに連れられて、マサにある、メラーニ商会の本店で、実家に行くことになった。
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