僕は金色に恋をする

いちこ

文字の大きさ
上 下
9 / 17

せんぱいのはなし

しおりを挟む

 僕はすごく舞い上がっていた。


 あの金色の人の名前も分かって、お話まで出来た。挙句の果てに、僕の、僕の世話人だなんて。
 なんて幸せなんだろう。
 先輩にあれもこれも聞いてみよう。なんて声をかけようかな。楽しみだなあ。


 なんて最初は思ってました。


 実際は、僕はほとんど話せていない。
 僕が緊張のあまり、いつもガチガチに固まるからだ。

 しかもまだこの間の犯人が捕まっていないから、オーレン先輩はナタリー先輩の護衛に付いていることが多かった。

 ちなみにナタリー先輩には、この前挨拶することが出来た。その時に「先輩呼び良いわね。」と言われたので、僕の中ではナタリー先輩だ。見た目は、儚げ美人なのに、実際は、言いたいことははっきり言う、スッキリ美人だった。


 あと、オーレン先輩の事を教えてもらった。
 ダニエルくん曰く、オーレンは軽薄でチャラ男。めちゃくちゃモテるのを隠しもしない。男女問わず、多くのファンがいる。

 来るもの拒まず、去る者追わず。の精神で、広く浅く、人付き合いをする人らしい。
 
 何やってもカッコイイから人気がある。

 人生理不尽だ。と、言っていた。

 実際にオーレン先輩は色んな意味で軽かった。

 誰かがオーレン先輩に声を掛ければ、すぐに優しく答えてくれる。
 ちょっと可愛い女子生徒なら、肩まで抱いてあげる。そして、頬を紅く染めた、その頬を優しく撫でるのだ。
 そうすればもうその子はイチコロだ。

 なのに先輩は特定の相手はいないらしい。

 夜になると寮を抜け出して、大人のお店に行ったりしていると、ダニエルくんは教えてくれた。

 大人のお店って何なんだろう。

 今度付いて行ってみようかな。

 なんて考え事をしながら、今は森の中、校外学習と言う実習が行われている。

 あの事件から二週間。学院も一応いつもどおりにやってる。

 その中で一年生は初めての校外学習で、右も左も分からずに、ついていくのが精一杯な生徒が多い。

 これは親睦をはかるために、世話人の先輩とペアを組んで、森の中のチェックポイントを一つでも多く回り、スタートまで戻ってくるのだ。

 僕のペアはトーマス先輩だ。

 オーレン先輩は違う生徒と回っている。

 トーマス先輩とオーレン先輩は身長がどちらも高くて、二人並ぶとめちゃくちゃカッコイイ。トーマス先輩はオーレン先輩程では無いけど、かっこいい顔をしていると思う。誰かが「超優良物件」って言ってた。

 トーマス先輩は細身。オーレン先輩は細マッチョだ。
 
 今日は校外活動なので、長袖長ズボンの体操服ジャージだ。お手本みたいに綺麗に着こなしている。ズボンの裾を三回折った僕のジャージとは別物だ。
 すごい絵になる。パチパチと瞬きしてしまう。


 僕と一緒にいる人たちは、実は学院内でも知らない人はいないくらい有名だった。僕は、最近になってみんなの話が理解できるようになった。

 いつも噂していたのはメラーニ家の人たちのこと、トーマス先輩、ナタリー先輩、ダニエルくんは、メラーニ商会はすごい金持ち、頭も良い。そして、オーレン先輩のモテる噂。

 今まで聞いてきた噂も、ああなるほど、とやっと理解することが出来た。

 先輩たちは本当に人気のある人たちだった。しかも生徒会にも所属している。ぼんやりとトーマス先輩を見てたら、声をかけられた。

「地図は持った?森の中の目印と照らし合わせて確認しながら進むんだよ。」

 トーマス先輩に言われて、うん。と、頷く。
 この森は毎週来てたから、知ってる。

 チェックポイントは全部で十。五つ以上チェックが入れば合格だ。

 最初に地図を見て、チェックポイントは覚えた。

 地図をいつもの斜めがけのかばんにしまうと歩き出す。

「あ、案内しなくても大丈夫かい?」

 トーマス先輩に聞かれる。僕は、うん。と頷いて歩く。

 少し歩いて気がついたけど、トーマス先輩、遅い。

 一箇所、二箇所と回っているうちに、先輩の足が止まりだした。

 僕は足を止めて、トーマス先輩の追いつくのを待った。

「はあっ、ごめんねえ。私は体力は無くてね。はあ。オーレンだったらもっと早いんだろうけど。ギーグはすごい体力だね。」

 森の倒木を椅子にして、トーマス先輩が座って、そう言う。

 僕はコップに魔法で水を出す。そして先輩に差し出した。

「ああ、ありがとう。助かるよ。」

 受け取って飲んでくれた。前なら、自分の手のひらをお椀にして水を出してたけど、人にあげたいなら、コップを持ってよう。と、ダニエルくんに言われたのだ。
 初めて用意したコップが役に立って、僕はすごく嬉しかった。

「ところで、迷いなく進むけど、もしかして十箇所全部回る気じゃないよね?」

 トーマス先輩の問いに、僕は首をかしげる。

「ダニエルくん。競争、言った。」


『どっちが早く十箇所回って帰れるか、競争な。』

 ダニエルくんに言われた言葉の半分も言えて無いけど、トーマス先輩には伝わったらしい。

「…あいつ、あとで覚えてろよ。」

 いつもの優しい口調とは全然違う低い声と調子にビクリと震える。

「っああ。大丈夫。話は理解したから、じゃあ、ここからは全速力で行こう。道案内は任せて良いんだね。」

 そう言われて、僕は大きく頷く。するとトーマス先輩は自分に風魔法をかけて、身体を軽くした。

「悪いけど、僕は抱えて行ってくれるかい?その方がずっと早い。」

 そう言われて後ろから太ももを持って持ち上げると、僕の肩に座るような形になった。

「うん。ちょうどいい。障害物は僕の魔法である程度は弾けるけど、なるべく当たらない方が嬉しいかな。よろしくお願いするよ。」

 そう言われたから、うんとうなずいてから、木とかに当たらないように隠匿のスキルで透明になって、抱きしめたトーマスの太ももをさらにぎゅっとして、一気に走りだした。勢いでトーマス先輩が仰け反る。直ぐに僕の頭にしがみついた。

「っ、はははっ。こ、これはすごい。危うく飛ばされるかと思ったよ。もう大丈夫だから。」

 トーマス先輩が落ち着いたところで、ぐんっと更にスピードを上げて森の中を一気に進む。

 すれすれのところを木の枝や草がかすめていく。少しは当たってるけど、透明化ですり抜ける。楽しくて、だんだん笑顔になった。

 後に、トーマスは一生の中で一番怖かった時間をこの時だと言っていた。
 少し魔法で軽くしたとはいえ、ほぼ大人のトーマスを抱えて、森の中をかなりのスピードで、全く迷いなく進めるのは、他にも何かスキルがあるんだろうと、ぐらんぐらん揺れながら、トーマスは考えた。
 ゴールにつく前に下ろしてもらった。必死で耐えたがフラフラだった。
 
 こうして、結果はギーグが一位、ダニエルが二位、とワンツーフィニッシュを決めた。

 その弟の頭に何も言わず目一杯げんこつを入れたトーマスは悪くない。完全なる被害者だろう。

 

 そして、僕は目立てば嫌う者もいると、最近知った。

 先輩たちに贔屓してもらっている。サボりまくってた特待生。ダニエル様にも寄生する悪いやつ。なんて、聞こえてくるようになった。

 僕は悪いやつだったのかな?と、思ったけど、別に悪いことはしてないから、いつも通りに生活した。

 ただ、持ち物が無くなったり壊されたりするのが地味に堪える。

 僕の物なら仕方ないけど、ダニエルくんがせっかく準備してくれた本やノートを破かれるのが嫌でそれらも隠すようになった。おかげで、細かい操作が出来るようになった。持ってるかばんだけ隠したり出来る。

 それをダニエルくんに気づかれた。

「なんで荷物も隠してるの?」

「え?」

「かばん。最近ずっと隠してる。」

 かばんの中にはちょっと破れた教科書と落書きされたノートがある。見られたくなくて、隠してる。

「これ…。やられたの?」

 結局見せた。

「貰ったの破ってごめん。」

「何言ってんだよ。破ったのはギーグじゃないだろ?誰にやられた?」

「知らない。分からない。」

 僕は頭を横に振る。するとダニエルくんは黙って、少し考えこんだ。

「うん。わかった。明日は学院が休みだから、一緒に俺の家に行こう。外泊届出しに行くぞ。」

「?」

「いいから。これは決定事項。分かった?」

「う、うん。」

 僕は放課後、ダニエルくんに連れられて、マサにある、メラーニ商会の本店で、実家に行くことになった。

 

 

 

 

 



 
 

 


 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

君に逢えてよかった

BL
学校からの帰宅途中、何故か異世界に渡ってしまった。魔女に遭遇し、黒猫に変えられ囚われていた自分。そんな時、助けてくれたのが……

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

処理中です...