僕は金色に恋をする

いちこ

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ダニエルの確認

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 ダニエルが部屋に帰ると、ギーグは出かけてるのか、誰もいない。出かけてるのか?と、しばらく部屋でだらだらしてたら、気づいたらギーグが帰ってきてた。

 この突然気づいたら居るっていうの、マジで心臓に悪いなって思う。

 ギーグは身長は低いけど、筋肉質でガッシリしている。太ってるわけではないけど、肉付きは良い。
 なのに顔はクリクリぱっちりの瞳でまつ毛も長い。身体とミスマッチの可愛い顔だと思う。
 そして基本的にきょとんとした顔をいつもしている。

 焦げ茶色の目と髪で、適当に伸ばされた髪が肩にかかる。
 肌も服も煤けた感じで、ちょっと汚れている。
 それがまた、幽霊感を出すのだ。

 突然部屋に現れた様に見えたギーグにびっくりしてたら、何故かギーグも驚いてる。
 まあでも、ちょうど良いタイミングだと思い、スキルなのか魔法なのか聞いたら、両方だった。

 なるほどと思いながら、兄のトーマスから預かったテストをしてもらう。

 書かれた名前は拙い文字で、文字を覚えたばかりの頃の弟のリオンの字を思い出した。

 しかも国語は殆ど解けなかった。何故か聞いたら、「知らない。」と言われた。

 その後の数学は、ほぼ全問解けていて、訳が分からない。

 ダロンで特待生試験を受けたのは間違いないみたいだけど、こんなので受かるほど簡単なのか?

 しかも叩いたり、怒られたりしてたらしい。なにそれ。虐待?

 言葉の意味も解ってないし、本当に弟のリオンがうちに拾われて来た時みたいだ。
 いや、実際すごい年下かもって思う。俺と同い年とは思えない。

 俺は一緒に帰ってきた兄、トーマスの部屋へ向かった。

 コンコンとノックをすると、中から返事があって、扉が開いた。

 同室のオーレンが開けてくれたのだ。

「はい。預かってたテスト。やってもらった。」

 二枚の紙を渡す。トーマスもそれを見る。

「数学はまあまあ出来てるけど、国語は全くダメなのか。」

「うん。そうみたい。ギーグに聞いたらさ、知らないって言われた。」

「ふうん。知らない…か。」

 トーマスは何を知っていて、何を知らないのだろうと思う。

「しかもさ、字がリオンに最初に読み書き教えた時みたいじゃない?ギリギリ読めるか、読めないか。」

 答案用紙を眺めていたトーマスは

「うん。確かに。あ、こちらでもちょっと調べたんだけど、ギーグの紹介状書いた人、よく分からないんだよ。」

「へ?普通、親じゃないの?保護者いないの?ギーグって。」

 そう早速トーマスはメラーニの諜報部に情報を集めてもらうように、父であるジェレミアにお願いして帰ってきた。

 そこで入学時の書類の写しを調達できたのだ。
 ダニエルは仕事早いなあ。と感心しきりだ。

 その中に保護者の名前は無く、住所も嘘だった。

 何よりダロンにギーグの出生届が出ていないのだ。

「うーん。連れてきた人がいると思うんだけど、一人で書類だけ持って無一文で学院に来たらしい。」

 ここ首都シントからダロンまでは、歩きなら二週間以上かかる。
 トーマスはうーんと悩んでいる。

「私は誰かが彼をダロンから連れ出したんだと思うんだよね。最低限の知識も無い生活をしてた彼が、どうやって試験を突破したのかも調べないと。」

「文字は書けるんだろ?」

 オーレンがダニエルに聞く。ダニエルが見せる答案用紙の文字はかなり見づらい。

「読める?これ。」

「うーん。かなりクセのある文字だな。」

「言葉の意味もわかってないみたいだし。本当にナタリーのくれた絵本の出番かも。
あと、闇魔法と隠蔽のスキルがあるって。だから部屋にいきなり現れたみたいになるんだよ。さっきもビビったし。」

「なるほど、闇に隠蔽スキルね。ダニエルにはギーグの世話をお願いするよ。食事は食堂を使わずに部屋で食べてほしい。」

「え?なんで?」

トーマスの指示にダニエルが驚くと

「テーブルマナーが身についていないかもしれない。ありえないけどね。部屋で様子を見てほしい。」

 えええ。めんどくさい。とダニエルは思ったけど、実際鉛筆の持ち方もおかしかった。
 食堂で綺麗に食べるギーグの姿は、てんで想像出来そうに無かった。

「はあ。わかったよ。出来ないことは出来るようにギーグに教える。また報告に来るから。」

そう言って、部屋を出た。寮の中でも上級生のエリアなので、急いで移動する。休日で人が少ないとは言え、先輩風を吹かせる、面倒臭いのに会いたくない。

 急いで三年生のエリアを抜けて、食堂に向かう。

 弟のリオンは昔、奴隷商人のところでボロボロになってたところを、義両親が保護した獣人だ。新たな養子になって、俺達の弟になった。
 そのリオンも初めは、読み書きも出来なかったし、テーブルマナーもてんでなってなかった。
 座って綺麗に食事をするのは、結構ストレスだったみたいで、リオンは途中で円形脱毛症になってしまったんだよな。
 俺と兄貴とナタリー、三人で甲斐甲斐しく教えたら、ニコニコしてめっちゃ可愛かったなあ。不安になるとフサフサの尻尾をぎゅってするのもたまらなかった。

 学院は全寮制だから、年子の俺達は順番に家を出たんだけど、三番目の俺が行く時に泣いてたのも可愛かったなあ。

 まあ毎週末、時間ができたらマサの家にいるリオンにも会いに行くんだけど。最近は耳も尻尾も隠せるようになって、しっかりしてきた。

 なんて、可愛い赤毛の弟を思い出してたら、食堂に着いた。別にお金を払い、夕食を二人分もらう。

 両手にトレイを持っているから、部屋の扉が開けられない事に、扉の前で気付いた。

 俺は行儀悪く足でノックをしてギーグを呼んだ。

「ギーグ。開けてくれるー?」

 目を丸くしたギーグが扉を開いた隙間に身体をねじ込む。

 どこに食事を置こうか。

 学習机はそれぞれの窓際に離れて置いてあるので、一緒に食べづらい。次からテーブルを用意しようと思いながら、取り敢えず今はマットレスも置かずに板のままのギーグのベッドを机代わりにすることにする。

 シチューを溢さないようにと気を使っていたので、やっと両手が使えるようになった。

 振り向くと、すうっとギーグの気配が消えようとしている。俺は慌てて腕を掴んだ。見失ったら、見つける自信無いし。

「え?おい。ギーグ?隠れんなよ。一緒に飯食うぞ。」

 そう声を掛けたら、また目をまん丸にして、眉をへにょんと下げた。

「お金無い。」

なんて言うから、

「俺の奢りだから、大丈夫。気にせず食べな。
俺も腹減った。いただきまーす。」

 なるべく明るくそう言った。

 目を白黒させて、あわあわしていたギーグは、俺の食べる姿を凝視しながら、シチューに手を突っ込んだ。

 リオンも最初そうだったから、そんな予感はしたけど、期待を裏切らない無知っぷりだ。

 慌てて止めると、俺は丁寧にスプーンの使い方を教える。

 ギーグは一口食べると目をキラキラさせて固まった。

 少しして、もぐもぐと食べだしたギーグの隣で、俺もゆっくり食事を楽しんだ。

 こうやって見てると、本当に動きがリオンの幼い頃によく似ている。

 実際は勉強出来ないってこと?

 スキルか何かで上手く試験を突破出来ても、特待生は成績上位をキープしないとヤバイんじゃなかったっけ?

 俺に兄貴、ナタリーは孤児で、メラーニ商会の拾われっ子として有名だ。だからこそメラーニ家の顔に泥を塗りたくないから、三人共、絶対上位をキープしてるけど。
 俺は二人の護衛になりたくて、普通科じゃ無くて、騎士科に入った。
 国の試験に受かれば、護衛騎士になれる。

 ギーグも騎士科の同じクラスだけど、見たこと無かった。
 今日の話でどうもスキルで誰にも気付かれて無かっただけだとわかったけど。

 これからも学院に残るためには、俺が一肌脱ぐしかないか。

 こうして俺はギーグに常識を教え、勉強も教えることになった。

 思った以上に何も知らないギーグに辟易しながらも、一つづつ教えていくことにした。
 
 まさかナタリーの言ってた絵本が本当に活躍するとはこの時は思ってもなかったんだけど。
 じゃあどうやって試験を突破したんだろう。
 




 

 
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