愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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育て直し

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 エリザベスはお姉さんぶって、優しい声でその子を呼ぶ。

「おいで。ほら、ここまで、歩いていらっしゃい。」

 少し腰を屈めて、両手を広げて、もう一度声をかける。
 机に手をついてつかまり立ちをしていた子が、エリザベスに顔を向けて、にこーと笑顔で手を伸ばしながら、拙い足取りでエリザベスに向かって歩いてきた。

 よたよた、パタッパタッと音が聞こえそうな大きな動きで一歩一歩と歩いてくる姿は、おむつで膨らんだ下半身がアヒルかガチョウのようで、見る者をめろめろにしていた。
 乳母のメリッサとベリタ、侍女のメアリーもにこやかにその様子を眺めている。

 室内の僅かな距離ながら、その子には大冒険だ。一生懸命両手を開いて、エリザベスの元まで歩く。ついにたどり着き、ギュッとエリザベスに抱きしめられた。楽しそうにキャッキャッと笑う。

「まこちゃま。よく出来ました。すごいねー。」

 エリザベスにとって見れば、可愛い弟が二人も出来たのだ。ちょっとお姉さんぶりたいのもあるのだろう。毎日率先してサミュエルと慎翔のお世話の手伝いをしている。
 まあほぼ乳母がするのだが、エリザベスもまた一生懸命な様子に、メリッサも笑顔でお願いできることはお願いしている。

「エリザベス様。今度はサミュエル様のお相手をお願いしてもよろしいですか?」

「もちろんよ。けれど、サミュエルはまだじっとしているだけだから、本当に見てるだけなのよね。」

 と言いながら、ぬいぐるみのウサギをサミュエルのそばで揺すって見せている。

 それはそうだ。サミュエルはやっと首が座ったところだ。これは正しい成長スピードなのだが、慎翔の急成長のせいでみんなの認識が少しズレてしまったのは否めない。

 コンコン。

 軽いノックの音に、メアリーが扉まで行くと、青い光を確認して扉を開き、横に避けて頭を下げた。

「おや?慎翔はいつの間にこんなに大きくなったんだい?」

 それに軽く手を上げて、やってきたのはジェレミアだ。エリザベスと慎翔の二人を軽々と抱き上げる。

「もう。お父様。ごあいさつはさせていただかないとこまります。それにベスはもう小さな子どもではないですの。」

 右腕に縦抱きにされ、軽く頬を膨らませながら、不満を伝えるエリザベスと、それを横目に慎翔は、キャッキャッと笑いながらごきげんに左腕に縦抱っこされている。

 エリザベスももう六歳を迎え、以前のような天真爛漫さから、少しずつ落ち着いた行動がとれるようになってきた。
 それは上の姉たちや母の姿をお手本にしたものだ。

「かわいいレディに怒られてしまったよ。素晴らしい挨拶をありがとう、エリザベス。それにしても君は慎翔かい?」

 エリザベスをおろして、綺麗なカーテシーを見せてもらい、腕に残る子供をまじまじと見る。

 昨日は寝返りしたと聞いたけど、一日で歩いているとは思わなかった。

 ジェレミアもベリタもどんどんと大きくなる慎翔の成長を少しでも心に残したいと、なるべく時間を作ることにしている。

 慎翔は未だにに赤ん坊の意識のまま、しかし、ぐずることは殆ど無く、いつもにこやかにメラーニ家で過ごしていた。
 その間、ジュードが昼間に来たのは数回で、夜中に眠っている姿を見に来たことも数回。ジュードがぽそりと本音を漏らしてからは、昨日は夜も来ていない。

 ベリタや他の大人たちは気づいていた。

 機嫌よく過ごしているようでも、誰かを待つように、時々扉を見つめているのを。それはただ一人だけなのだということを。

 
 ナタリーが試作品の服を持ってきた。
 エステルとレオノーラは、ロンパースやショートオール、カバーオールを型紙から起こして、直ぐにものにした。

 サキはすぐに綿でも肌触り良くなる布地を開発したし、そのおかげで肌着の着心地も良くなったはずだ。

 マジックテープはまだだが、ボタンで前身頃や足元を留めて、ドレスタイプから、足の動かしやすいパンツタイプまで、様々なのを持ってきた。

 メリッサが一枚一枚広げて、着せ方などを確認している。

 サミュエルはまだまだ寝返りもまだなので、カバーオールの足元はドレスタイプにしていれば、おむつ交換が楽だ。

 慎翔はもうつかまり立ちやおすわりもするので、ロンパースを着せたら良いのではないかという話になった。

 エステルは元々の見本にあった恐竜の着ぐるみパジャマを見て、茶色の垂れ耳ウサギの着ぐるみロンパースを作ってきた。

「まあ、可愛い。明日、まこちゃんに着せてみましょう。」

 ベリタもすっかりノリ気で「これもいいわ。」「これは違う色でも作れそうね。」と、仕事モードでチェックしたりダメ出ししたりしていた。

 着せ替え人形になりながらも、慎翔はニコニコと遊んでいた。

「おもちゃ欲しい人ー。」

と聞くと、

「あーい。」

と、手を上げて答えるようになった。

 もうそろそろ意味のある言葉を喋るのではないかと、みんな興味津々で、なるべくならその最初は自分の名前が良いと、メラーニ家の人々は、そう思っていた。

 茶色の髪をキラキラさせながら、楽しそうに過ごす慎翔の様子に、みんな目を細めていた。

 ちなみに子供服部門から新しく売りだされる様々な服が、大ブームになるのはもうすぐの話。
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