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育て直し
1 メラーニ家の事情
しおりを挟むメラーニ家にジュードがやってきた。しかも慎翔に与えた部屋に、転移で直接とんできた。
普段であれば必ず正面入口から名乗って入ってくるのに、今回は慎翔の部屋から、廊下を通るメイドに当主を呼ぶように頼んだのだ。
メイドは驚きながらも、当主付き護衛に報告に行った。
「ほう。赤ちゃんだ。いつの間に?」
籠を覗き込んでいた、メラーニ家の当主ジェレミアが言う。
ローテーブルの上に置かれた籐のベビーバスケットには、慎翔がすやすやと眠っている。
メイドに呼ばれたジェレミアは嫌がるでもなく、部屋にやってきた。
そして第一声がこれだった。
「いや、俺の子ではありません。」
そう言うと、もう一度赤ちゃんを見て
「ああ…。慎翔じゃないか。」
そう呟く。
なんでわかるんだ?とジュードは驚いたが、ジェレミアの方は然程驚いた様子は無い。
「リオン。ベリタを連れてきてくれるかい?」
誰もいないと思っていた場所に、赤髪の青年がすうっと現れた。一礼して部屋を出て行く。
「じゃあ、部屋を変わろうか。」
ジェレミアはメラーニ家の中でも、家族しか入れないリビングルームに二人を連れて行く。
「おや、今日は賑やかだね。」
部屋に入ると、子供達がほぼ揃っていた。いないのは、ベリタと、ベリタを呼びに行ったリオン。ベリタと共にいるナタリーだけだ。
トーマス、ダニエルはマクリク国での経緯をジェレミアに報告に来た。
そこでカミル以下子どもたちに捕まって、一緒に遊んであげていたのだ。
「あ、おとうさま。ジュードさまもこんにちは。」
真っ先に気がついたエリザベスが、トテトテと歩いてきて、可愛らしいカーテシーを披露する。
すると子供組が立ち上がって、丁寧なカーテシーを見せた。カミルとカレルも右手を胸に左手を後ろに回して、紳士のお辞儀をしている。トーマスとダニエルはさっきぶりなので、軽く手を上げるだけだ。
平民で冒険者の俺にはそんな挨拶は不要なのだが、お客様として認定してくれているらしい。と、ジュードは少し微笑んで
「丁寧な挨拶をありがとう。」
と、慣れないながらもお礼を言った。するとみんながニッコリと笑うのだ。本当にメラーニ家の子供はなんと言うか、邪気がなく可愛らしい。
「そちらの籠はなんですか?」
ロリが興味津々で聞いてくる。
ジュードはそっと籠をふかふかの絨毯の上に置いた。
「うわぁ。赤ちゃんだわ。」
年少組はみんなで取り囲んで、興奮している。
トーマスとダニエルが信じられないものを見るような目つきで、ジュードを見た。たぶん俺の子だと思われてるんだろうなと、一言だけ言う。
「慎翔だ。」
「え?」
みんな、目を見開いて、今度はトーマスにダニエルも入って、大人から子供までもう一度籠を覗きこんだ。
そこにはベリタの色と同じ、金にも見える薄茶色の髪に、同じ色の瞳がぱっちりと開いていた。
たくさんの人たちに囲まれて、驚いた顔をしている。
賑やかさに目が覚めたらしい。
大きな目が更に開かれて、キラキラしている。と、思ったらぎゅっと不快そうな顔になる。
「ふあ。」
周りはみんな「あ、泣く。」と思ったが、エリザベスがするっと慎翔の頬を撫でた。
「うあ?」
もう一度よしよしとすると、驚いた顔に段々と笑顔が浮かぶ。
「わあ、可愛いー。」
と、次々に代わる代わる頬をぷにぷにされる。泣くどころかキャッ、キャッと笑う慎翔にみんなメロメロになっていた。
「あら?まこちゃんとジュードさんが来たと言うから、サミュエルも連れてきたのに、まこちゃんはいないの?」
部屋には来客をリオンに知らされたベリタがナタリーと共に部屋にやってきていた。腕にはこちらも赤ちゃんを抱いている。最近生まれたサミュエルだ。
サミュエルはジェレミアとベリタの実子で、まだ二ヶ月の赤ん坊だが、クリックリの銀髪にキラキラの琥珀色の瞳をした男の子だ。
メラーニ家は養子を多くとっているため、ベリタには子供が出来ないのではと、口さがない人は噂していたが、実際は可愛い子を生んだ。
そうなるとよくある、養子と実子のいざこざだったり、嫉妬だったりが、ありそうなものだが、兄弟全員サミュエルの笑顔にノックダウンして、全員で溺愛中だ。
このリビングで、いつでもサミュエルと共に過ごせるようにと、子供部屋だけでなく、ここにも大きめのベビーベッドが置かれている。そこにサミュエルを寝かせると、ベリタもやってきた。
「……まあ。まこちゃん。どうしちゃったの?こんなに小さくなっちゃって。」
はっと口元に手を当てて、驚いた顔でそういうベリタ。なんでこの家の人間は誰もこの状態に疑問を持たないのか、ジュードは不思議でならない。だが、シンプルな説明で済みそうで助かる。
いつの間にかリオンもロリの隣で慎翔を見てる。
「邪神の呪いです。」
隠すまでもないので、そのまま言う。
「へぇ。呪い?」
ジェレミアの目が細く眇められる。
「連れの呪いを吸い取ったら、このような姿になったと。メラーニ家の人々の所なら安全だろうと連れてきました。」
子どもたちはみんな驚いた顔でジュードを見ている。
「やはりあの王宮に現れたのは邪神だったのか。」
「あの三人が居なければ、我々も無事ではすまなかった。あの時の呪いか?」
あの場に居た、トーマスとダニエルが聞いてくる。ジュードは静かに頷いた。
ベリタが静かに慎翔を抱き上げる。横抱きにされた慎翔はジッとベリタを見つめる。ベリタは目を潤ませながら、愛おしそうに頬ずりした。
慎翔はきゃっきゃっと喜んでいる。
「ずっとこうしてみたかったのよ。」
小さな声で言った声は、たぶんジュードにしか聞こえてないだろう。
前世は生まれた時から病院で、抱き上げられたのも数える程しか無かった。前世の母、真実の夢をベリタになって無意識のうちに叶えているのだ。
「もー。可愛いわあ。まこちゃんも、うちで育てましょう。」
ジュードも乳児は面倒見きれないので、その申し出はありがたかった。
「申し訳ないが、しばらく滞在させてもらってもいいだろうか?」
ジュードが申し訳無さそうに聞くと、
「もちろん大丈夫よ。まこちゃんのそばにいてあげて。」
ベリタはニッコリと言う。ジェレミアもにこやかに頷いた。
ベリタはサミュエルの隣に慎翔を寝かせる。
慎翔の月齢はわからないが、見た感じほぼ同じ大きさで、双子のようだ。
サミュエルも慎翔の方に手をパタパタさせる。慎翔もジタバタして応えた。
「すごい似てるね。」
「双子みたい。」
「マコトお兄ちゃんだと思ってたら、弟になったね。クスクス。」
カミルから下の子達は、そう言って笑いながら、新しく加わった弟に惜しみない愛を注いでくれる。
純粋な好意に慎翔も気持ちよさそうに、機嫌よくしていた。
楽しそうにベビーベッドを囲む子どもたちとベリタ、ナタリー、リオンをジェレミア、トーマス、ダニエル、そしてジュードの大人組が微笑ましく見ていた。
大人組から見た子どもたちは、どの子も天使に見えた。
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