愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
97 / 106
隣の国はどんな国?

13 ジュード視点

しおりを挟む


「はいはいはーい。お邪魔しまーす。」

 なんて、場違いな明るい声に、その場にいた全員の動きが止まった。

 フロアの高い天井に幾つも吊るされたシャンデリアの前に浮かぶ、三人の姿。

 認識阻害の魔法がしっかりとかけられていて、顔は分からないが、俺には分かる。

 何故?ここにヒノトとミコトがいる?しかも後ろにいるのは慎翔か?

 ミコトは真っ黒いドレスを着ているが、よく見れば、黒一色ながら、フリルやリボンなど、生地に様々な装飾が施され、かなり手の込んだデザインのようだ。
 このフロアで着飾った令嬢たちのロングドレスとは違って、膝丈で趣向を凝らした黒いハーフブーツがよく見える。

 ヒノトもいつもの服とは違って、派手な白いフリフリの燕尾服の様なのを着ている。

「何あれ?ヤバイ。あの二人の服。素晴らしいわ。
ギーグ!絵に残して。あの二人の服のデザインをしっかり、細かく描いて。
護衛?そんなの良いから、絵を描きなさい!」

 ナタリーが護衛に付いていた一人に、小さな声で指示を出している。彼のスキルは瞬間記憶で、見たものを忘れないし、それを絵におこせるらしい。

 空気を読んでコソコソと小声で言っているが、彼女の中では、どうもビジネスチャンスのようだ。

 そして後ろにもう一人、真っ赤なローブを目深にかぶり、口元も隠した人物。
 これまた認識阻害の魔法をしこたまかけられている。

 たぶん、今この場にいる者達には、赤いローブにスカートをはいた女の子、赤ずきんちゃんが見えているはずだ。

 まあ俺には、赤いローブを着た慎翔が見えるが。

 ただ、慎翔はこんな背が低かっただろうか?
 俺にも顔を隠し、目しか見えないから、表情はうかがい知れない。

 三人は大神ウラノスの遣いを名乗り、俺達がやろうとしていたことを、スムーズにやってのけた。

 敵対視している者の拘束。
 盗品の回収。確認。
 被害者からの訴え。

 ミコトが腕を振れば、あいつらは金縛りにあったように動けなくなったみたいだ。こちらに変化は無い。
 ここぞとばかりに商会の奴らが、証拠を突きつけていく。

 否定するマクリク国側に、決定的な証拠を突きつけたのは慎翔だった。

 トーマスとガロが、マクリク国の物だと主張する品々が、それぞれの商会の品であると言ったが、国民からの献品であると言い張った。

 すると慎翔が降りてきて、ロビンに渡したエリクサーにちょっとした仕掛けがあることを言った。

「ほら瓶の模様に小さくMのマークが入ってる。これはこれをプレゼントした人が、こっそり色んなところに入れてるんだよ。その人は内緒にしときたかったんだけどね。」

 ちらりと俺を見た、赤ずきんの瞳は、やはり慎翔だ。あまり言いたくなかったらしい。ふいっと、顔を逸らした。

 俺は知ってたけどな。

 ところが慎翔がその話をした途端に、メラーニ兄弟は服のボタンやアクセサリー、ロビンたちはネックレス、ウルスにディネも腕輪にイヤリングと、それぞれ身につけた物や、アイテムを確認している。
 
 みんな色んな物を慎翔にもらってたんだな。

 なんだ、いつの間に。

 ダンも俺のすぐそばに寄ってくる。

「あれ。もしかしてナカセなの?」

 さすがにマサの街の人間には、赤ずきんが慎翔かもしれないと、気づいたらしい。

「さあ。どうだろうな。」

 一応否定も肯定もせずに流しておく。

「ナカセの変身魔法スゲー。」

 そう小さい声で呟くダンは、慎翔の規格外の魔力等をこの間目の当たりにしたようなので、驚くよりも感心しているようだ。

 敵意のない感想に安心する。

 続けて、国境での魔物召喚についても、慎翔が決定的な証拠を出した。
 ロビンたちを助けた時に、マクリク国の兵士も助けていたらしい。

「あの時ロビンたちを連れて行ってもらった後に、ナカセがあの兵士を助けたんだよ。証言してもらう代わりに、治療して、森の中にテント立てて、結界張って、待機してもらってた。
やっぱりあの赤ずきんちゃんはナカセなんだね。」

 ダンが俺にコソッと教えてくれた。

 なるほど。この状況も織り込み済みなんだな。
 まあ、これで言い逃れも出来ないだろうと、みんな思っていたのだが、マクリク国の連中は全く反省する様子もない。

 太陽神の事を崇めるばかりだ。

 その疑問もミコト達が綺麗に祓ってしまった。

 そもそも太陽神とは?と、マクリク国以外の人間が、思っていたことをミコトが聞いた。
 マクリク国の王族が叫んだ太陽神の名は

 【イノセント】

 その名を聞いて、皆、呼吸を忘れたように、息を詰めた。

 子供の時から聞かされた【邪神イノセント】の悪行の数々。

 滅ぼされた国は数知れず、しかし、ここ数十年は、表立った話は伝わってこない。
 それでも話がきてないだけで、色々な事をしているようだ。

 そもそも俺もその邪神に作りかえられたらしいしな。

 今のところ魔王にならずに済んでいるのは、間違いなく今、目の前にいる三人のおかげなのだろう。

 ヒノトとミコトがパンッと手を打つと、今まで重苦しかった空気が、一気に吹き飛んだ。

「この国にかかった魔法は、今解ける。太陽神なんていない。
イノセントとは、この世界では邪神。邪神イノセントの洗脳にかかったマクリク国の面々よ、目を覚ましなさい。」

 二人を中心にサアッと光が円形に広がって、国中を覆う。
 今までイノセントを太陽神として疑わなかった人々は、突然の心境の変化に、鳩が豆鉄砲くらったように、目を見開いて固まっている。

 きっと目が覚めたのだろう。

 俺達も暗く重苦しい空気が晴れて、息がしやすくなった。

 周りの着飾った貴族たちが顔色悪く、オロオロしている。

 呆然とした国王と王太子、そして第五王子のオズモンドだが、慎翔は許していなかった。
 慎翔の気持ちを代弁するように、ヒノトが罰を与えた。

 確かに召喚具を使って魔物を呼び出し、冒険者の命を奪い、貴重なアイテムも奪った。
 ロビンたちの話しから、しっかりと準備したうえで、略奪しているのだから、言い訳も出来まい。
 これはマクリク国の王族が欲望のままに欲しがったからだろう。

 ヒノトと二人であいつらの本質を見極めて、そして納得して罰を与えていた。

 慎翔は優しいだけかと思っていたが、やはりしっかりとしている。

 罰の内容は全然優しかったが。

 慎翔の頑張りにニヤニヤとしてしまいそうになる。しかし、真顔をはりつける。

 再び、空に浮かぶ三人を見上げようとした時だった。

 クスクスッと小さな笑い声がすぐ耳元で聞こえたと思った瞬間、全てが真っ暗になった。

 
 











 

 



 

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...