愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

12 太陽神祭 3 

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 太陽神祭という一番大切な日に、突然乱入してきた狼藉者共によって、次々と暴かれていく、今までの所業。

 しかし、これらはすべて太陽神の為にと行ったこと。責められるいわれはない。
 何よりも太陽神に対する敬意が、誰もかれも足りてなさすぎる。

「こんなことをして!太陽神の天罰が下るぞ!」

 私が大声で叫ぶと、周りにいる、貴族たちも、

「そうだ。太陽神様のお怒りに触れるぞ。」

 ざわざわと怯えて言う。すると

「だから、その太陽神って一体なんなの?この国でしか聞いたことないわ。」

「太陽神様の名前、聞いてもいい?」

 黒い女と派手な青年に軽く言われ、カァッと腹立たしさが一気に吹き上げた。

「貴様らふざけるなよ。太陽神様を愚弄するとは許せん。貴様らにやすやすと聞かせる名では無い。我ら貴人のみ知る名だ。」

 動かない身体をよじりながら、叫ぶ。

 しかし黒い女は気にする様子もなく、

「だから、私達は大神ウラノスの使いです。そのウラノスが太陽神の名前を聞いてきて。と言われたので、聞きに来たのです。」

「それともそんなに言えない、変な名前なの?」

 横からすかさず白い青年が言う。

「ふざけるな!太陽神イノセント様の名を、これ以上愚弄するな!」

 大声で叫ぶと、ザワッと人々がたじろいだ。

 メラーニ商会の奴らの周りにいる、他国の者達はザワザワと顔色を悪くしている。

 何だ?何がおかしい?


 黒い女がパンッと手を合わせた。

 その瞬間、パアッと視界が開けたように明るくなる。頭もなんだかクリアになったような気がする。

 女がよく通る声で言う。

「謎が解けて良かったわ。この国にかかった魔法は、今解ける。
太陽神なんていない。」

 段上から陛下が悲鳴のように叫ぶ。

「太陽神様はいらっしゃる。勝手なことを言うな。」

 もう一度パンッと手を鳴らして、はっきり言った。

「イノセントとは、この世界では邪神。邪神イノセントの洗脳にかかったマクリク国の面々よ、目を覚ましなさい。」

 もう一度、隣の青年も一緒にパンッと諸手を打つ。

 その瞬間にサアっと空気が変わった。

 太陽神とはなんだ?今まで何に祈りを捧げ、仕えてきたのだ?
 周りにいた貴族達もざわめきながら、頭を抑えたり、うずくまったりしている。  

 急に頭がすっきりしたようで、戸惑いしかない。
 

「…そんな。我々は操られていたのか?」

 呆然と呟くと、

「違うよ。国中に魔法はかけられていたけど、あんたたち王族のしてきたことは、あんたたちの意思だ。」

 赤ずきんの子供が気づけば、目の前にいた。

 顔は分からないのに、明るい茶色の瞳にカチリと見つめられる。

「うん。今までの行動はあなた達の物欲。支配欲。邪神はちょっとそそのかしただけ。だから罰を頼んだの。」

「はい。ここからは僕の仕事。」

 突然、派手な青年が真横に居た。
 指が額に触れる。

 カアッと熱が通り抜けた。

「ウラノスの罰だよ。あなたの一族の血は、これ以降回復薬を受け付けない。」

 え?なんと言った?

「これでエリクサーとか集めても意味ないよ。あなた達には使えないから。」

「は、はあ?な、何を言って…。一族?」

 我が一族の血には回復薬が効かない?陛下や兄上も?

「でも、王族がそんなに怪我することないでしょうけど。まあ、気をつけて、生活してね。」

 二人は気にした様子も無く、空に浮かんでいった。



「ふふっ。はははははははっ。あーっはははははっ。」

 突然聞こえてきた大きな笑い声。

 今度は何だ?振り返れば、陛下の真上に今度は真っ青のローブで顔の見えない男が宙に浮いている。

 冒険者に騎士たちが、殺気立って、武器に手をかけようとする。

 その瞬間、青い男が腕を上げる。
 先程よりも押しつぶされるような力が、上からのしかかってきた。立っていられずに、膝をつき、そのままうつ伏せに倒れる。息が出来ないくらいの苦しさに、自分を始め、周りの者も苦しそうに呻いている。

 先ほどの金縛りなど、優しいものだったのか。

 と、赤ずきんが人々と青い男の間に立つ。
 ふっと息苦しさがマシになる。
 顔を上げると、魔法使いや、スキル持ちの冒険者や騎士達が防御魔法を展開している。

「ほらほら、ちゃんと守らないと。誰かが死んじゃうかもよ。」

 青い青年は手を広げると、大広間の端で逃げ出そうとしている人々に魔法を飛ばした。

 黒い女と白い青年が、腕を振って防御している。
 先ほどのような余裕のある顔では無い。
 脂汗をにじませながら、相手の魔法に抗っている。

 冒険者の中から、黒髪の男が高く飛び上がると、そのまま落ちる勢いで青い男と三人の間の魔法を斬った。すぐに赤ずきんの前に立って、ぐいっと自分の後ろに庇った。

 青いフードの男がきっと、邪神イノセントなのだろう。
 先程までと、空気が全く違う。

 邪神はさも不満そうに言う。

「えええ。楽しかったのにぃ。もう遊べないじゃん。君たち邪魔するの?」

 見えない威圧に、派手な格好の青年は、苦しそうに喘ぎながら、

「それでもウラノスに免じて、引いていただけませんか。」

 その途端、邪神の威圧が少し治まった。

「ウラノスと二人でお茶できるように頼める?それが出来るなら、引いてあげてもいいよー。」

「善処します。どうか、お願いします。」

 少し考える仕草をしてから、

「わかったよ。もう飽きてきてたし。ウラノスに免じてだねー。
善処じゃ無くて、絶対ねー。」

と、青年の前に立つと、指でトンと軽く胸を突いた。

「ぐっ。わかりました。」

「分かればいいよ。じゃあまたね。あはははははっ。」

 苦しそうな声でそう言うと、青い男は、出てきた時と同じ笑い声を残して空に消えていった。

「ひの、っあ、大丈夫?」

 赤ずきんが、青年の腕を掴んで言った。名前呼ぼうとしたか?
 青年は明るい調子で

「大丈夫。目的も達成したし僕達もお暇しようか。」

 すると黒の女が

「あとは皆さんに任せます。国を残すも、どこかが侵略するも、お好きなように。
とりあえず、国境のオオトカゲはこちらで処分します。あと、この魔道具も。」

 首輪型の召喚具が全て、女の持っている袋に吸い込まれた。

 洗脳の魔法が解けたからか、なぜ、あそこまであの魔道具にこだわっていたのか、吸い込まれる様子をぼんやりと眺めていた。

 第二から第四までの三人の王子が牢から助けだされ、連れて来られた。
 王族は一箇所に集められている。
 王妃に、王女も混乱したまま集められた。

 王子達を見ながら、私は陛下と王太子と三人で呆然とするしかなかった。

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