愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

11 太陽神祭 2 挿絵あり

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 ピリピリと殺気立った冒険者と我が国の騎士たちがそれぞれの武器に手をかけて、睨み合っている。
 正に動き出そうとした、その時。

「はいはいはーい。お邪魔しまーす。」

 そこに突然響いた声に、皆ビクリと固まる。

 驚いてキョロキョロと見回せば、天井から吊り下げられた大小様々にカットされたクリスタルガラスが煌めくシャンデリアの前に、三人の人間が浮いていた。

 シャンデリアの前に膝下丈の黒いドレスの女が長い黒髪をなびかせながら立っている。
 その隣には下手をすれば私よりも派手な格好をした青年も立っている。
二人共派手なフリルがついた服だが、色味のせいかそこまでの派手さは無い。

 女性の方は全身黒だが、よく見れば手の込んだ装飾が施されたドレスだと分かる。
 男性の方は金混じりの白いスーツに黒の装飾が施され、それが私より目立つのは、いささか許せない。

 二人共小さな帽子からレースが顔にかかり、顔を伺い知ることは出来ない。



 何より空中に浮いた三人の顔をしっかりと認識できないのだ。
 かなり強い認識阻害がかけられている。

 特に三人目は真っ赤なフード付きのローブを着た、誰か。という認識でしかない。

「何者だ。」

 陛下が大きな声で聞いた。

 二人はこちらを見下ろしながら

「私達は大神ウラノス様の使いです。まずはそれぞれ、武器を収めさない。」

 女が何かをしたのか、突然、金縛りにあったように動けなくなった。

「とりあえず、マクリク国に不当に取り上げられた物は、返してもらうね。」

 青年がキラキラした衣装の腕を振り上げると、奥の部屋から一気に薬や、アクセサリーなどが噴き出るように飛んできて、広間の真ん中に積み上がった。

「それは我が国の国庫に納められた、民からの貢物である。そこにその方らの国のものがあってもおかしくはないだろう。
その民が他国で仕入れた物もあるのだから。」

 王太子がそう言うと、メラーニ商会の赤髪の後ろから、いかつい顔の男が出てきた。

「いや、ギルドに卸した商品に間違いない。被害届も出ている品だ。これも、これも。」

 隣でメラーニ商会の店長を名乗った赤髪の男も

「そうですね。こちらのアクセサリー類は全て持ち主の方から被害届が出ています。」

「そんな馬鹿な話があるか?この莫大な量の品一つ一つに持ち主が分かる訳がなかろう。」

 私が言うと、いかつい顔の男はエリクサーを一つ手に取った。

「挨拶が遅れまして、俺ぁ、ペスカ商会のガローファノだ。この薬は俺の商会の商品で間違いない。」

 そう言いながら、鑑定魔法をかける、すると

「分かるか?全ての品に番号が振ってある。これは完成した時に付ける。店に卸す時も全て番号をふって、完全に管理してんだ。
この国に卸したのは、ここからこの商品までだな。」

 まさか全て管理されてるとは思わず、思わず固まる。

「あっ、これは俺の商品じゃねえな。だが、エリクサーだ。」

 ガローファノと名乗った男の手には、エリクサーの瓶が見える。

 あれは確か、あそこにいる三人組の冒険者が持っていた…。


 するとフワリと赤ずきんの子供が、たぶん身長的にも子供だと思うのだが、ガローファノの隣に降り立つ。

「それはあの彼が個人的にもらったものだね。」

 ロビンを指差しながら赤ずきんが言う。私は慌てて問う。

「なぜそんなことが分かるんだ?」

 ちらりとこちらを向いた赤ずきんは

「ほら瓶の模様に小さくMのマークが入ってる。これはこれをプレゼントした人が、こっそり色んなところに入れてるんだよ。その人は内緒にしときたかったんだけどね。」

 顔は分からないし、声は男の低さではなく、女のように高くもない。落ち着いた口調だった。

 そして何故か赤ずきんの後ろにいる、メラーニ商会の人間や、冒険者達が自分たちの上着や、カフスボタン、荷物などを確認している。
 
「本当だ。ここに小さく模様みたいに入ってる。」

 コソコソと確認しあっている。
 バンダナを巻いた黒髪の冒険者は、口元を手で隠しながらも、ニヤついた様子で、赤ずきんを見つめている。

 大体こちらは全く身体が動かないのに、あいつらは普通に動けるんだ。腹立たしい。

「というわけで、これは全て返してもらうわね。」

 黒い女が言う。

「あとは国境に魔物を呼んだ魔道具不正使用と、その元の魔力を奪った傷害の罪かな。」

 白い青年が言う。

「そんなもの我が国が行った証拠でもあるのか?我が国も被害を被っておるのだぞ。」

 王太子である兄上が声を上げてくださる。

「証拠ならあるよ。」

 すると赤ずきんが大きな布を広げて、片手をふいっとあげた。

 下ろした布の影から、我が国の兵士の男が出てきた。男は、手に召喚の魔道具を持っている。それを掲げるように大きな声で話しだした。

「国の命令で、これをタメリア国に投げ込んでオオトカゲを喚んでいました。我々兵士は、これを投げ込む役目でした。何人もの兵士が出てきたオオトカゲに襲われて亡くなりました。
私も自分の喚んだ怪物に、踏み潰されて死にかけているところを、この人に助けてもらいました。」

 話しながら赤ずきんを見ている、この兵士には、確かに見覚えがあった。
 私が召喚具を渡したのだから。

「しっかりと役目を果たしてまいれ。と、そこの第五王子であられるオズモンド殿下に言われ、魔道具を渡されました。
これは真実です。」

 兵士は冒険者に庇われるように下がって行く。

「この人は大事な証人。証言してくれるなら、ちゃんと守る約束をしたから、守ってあげてね。お願い。」

 赤ずきんが冒険者の集団を見ると、大剣を背負った男が前に出てきて頷くと、兵士を連れて行った。

 
 





 
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