愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
99 / 106
隣の国はどんな国?

15 呪い ジュード、心琴視点

しおりを挟む

 あの日、心琴が白い部屋に行くと、小さく丸まって横になってる兄の姿が見えた。

 燈翔と近づいて、二人で挟むように座る。

「怒ってるの?おにーちゃん。」

「ううん。怒ってない。」

「寂しいの?兄ちゃん。」

「寂しいんじゃないよ。」

 二人の問いかけに答えて、うつむいたままムクリと起き上がる。

「おれがあの世界に色んな物を持ち込んだから、こんなことが起きちゃったのかなって思っただけ。」

 お兄ちゃんは泣いてないけど、泣いてるみたいだった。

「お兄ちゃんのせいじゃないよ。」

そう言っても、ふるふると首をふる。

「独り占めする人がいるのもわかってた。ただ、人の命を奪ってしまうなんて思いもしなかった。」

 後悔が自責の念になって、お兄ちゃんの身体が物理的に小さくなってる。
 本人は気づいて無いみたいだけど。

 せっかく大人になってたのに、また少年に逆戻りだわ。

 燈翔と私が、よしよしと慰める。

 恥ずかしかったのか、少し頬を赤く染めながら慎翔が顔を上げて、ぽかんと固まる。

「…どしたの?そのすごい格好。」


 心琴も燈翔もかなり派手な出で立ちだ。

 心琴は黒いドレススカートの裾を翻しながら,くるくると回って見せてくれる。

「今度の週末に大きなイベントがあって、その日の衣装合わせ。」

「え?コスプレってやつ?」

 と慎翔が聞けば

「ううん。ただの戦闘服。ゴスロリってやつ。売り子しながら、お気にのサークルを一気に回らないといけないでしょ。でも、印象に残らないのも悔しいから。インパクト。」

 ニヤリッと、心琴が話す。
 慎翔にはあんまり理解できなかったけど。心琴によく似合う黒のドレスだ。きっと、みんなに黒の少女と伝説に残るだろう。

「へえ。イベントって楽しそうだねえ。おれも今度行きたいなあ。」

 ちょっと興味がわいて、そういうと

「いやいや、心琴の行くイベントはヤバイから。そっちじゃなくて、僕のイベントにおいでよ。兄ちゃん。」

 そう声をかける燈翔は燈翔で、かなり派手な白と金の衣装を着ていて、慎翔は首を傾げた。

「別のイベントなの?」

 そういうと、燈翔は顔の上半分を隠す、仮面舞踏会の時のような仮面を顔につけて

「某動画サイトのイベント。生放送の、ゲーム配信ステージ。そこのサプライズゲストに呼ばれたんだよね。なんかスポンサー企業がえらい乗り気で、僕とあと何人かでアイドルみたいにして売りだそうとか思ってるみたい。これはその衣装、第一弾。どう?」

 仮面で顔を隠して、身バレを防ぐんだそうだ。
 大画面で対戦ゲームをして、それを生放送配信する。人気のコンテンツらしい。
 燈翔はその界隈では、かなり有名人だと言っていた。

「おおー。すごい良く似合ってるよ。それ配信で見れるの?じゃあこの部屋なら見れるね。それも楽しみ。
だからそんな服なんだねえ。」

 そう慎翔が液タブを手に感心していると、心琴は液タブを受け取って赤いローブを着せていく。慎翔もされるがままにしている。

「あのね、お兄ちゃんがモヤモヤしてるの、私達が嫌なの。お兄ちゃんには笑顔でいてほしいの。」

「だから、王宮に僕達も乗り込んじゃおっか。兄ちゃんの憂いを晴らそう。」

 そう楽しそうに二人は提案する。慎翔は照れながら


「えへへ。二人がそう言ってくれるの嬉しいけど…。
って、いや、おれ、顔バレするよね?」

「ん?しないわよ。認識阻害の重ねがけ。あっ、赤のローブ可愛いから、赤ずきんちゃんってことで、これをこうやって。っと」

 心琴が慎翔のローブをこねくり回すと、どんどんと魔法が重ねられた。これで、見た目は可愛い少女の赤ずきんちゃんだ。

「私達もちょうどいい衣装だから、このまま行きましょ。」

「はい。燈翔もこれかぶって。」

 ベール付きのミニハットを取り出す。クラウンをかたどったデザインで、とても可愛い。
 心琴はリボンで留め、燈翔はのせるだけで固定される。

「おっ、いいねえ。どう?兄ちゃん。似合う?」

「うん。二人共すごい似合ってる。可愛いし、カッコイイよ。」

「そういうお兄ちゃんは、素敵な赤ずきんちゃんよ。」

 ローブの裾をイジイジしながら慎翔が言う。

「女の子に間違われるのは、さすがにちょっと嫌なんだけど。」

「まあまあ、身バレは嫌なんでしょ?ジュードさんは分かるはずだから、赤いローブ見てもらお。」

と、後ろから燈翔が慎翔の背中を押す。

「えええ。ジュードにこの格好見られるの恥ずかしいんだけど…。」

 と、あれよあれよと、慎翔の手をとって、王宮に飛んだのだった。


ーーーーーーーーーーーーー

 色々あって
 三人で白い部屋に戻ってきた。

「はあああ。疲れた。」

 三人は部屋に置いてある、大きなクッションにそれぞれ倒れこむ。

「っ。」

 少し苦しそうな声が聞こえて、慎翔がガバッと起き上がる。

「そうだ!燈翔!大丈夫?」

「ん?そんな心配しなくても大丈夫だよ。」

「だめだよ。ちゃんと見せて。」

 いつにない真剣な顔を慎翔に、燈翔が逆らえるはずもなく、クッションから上半身を起こして、ジャケットを脱いで、シャツの首元を緩める。

 シャツのボタンを外して、胸元が見えてきたところで、黒いモヤがブワッと出てきた。

「やっぱり…。これはなんなの?もしかして呪い?」

 伸ばされてくる慎翔の手を避けながら、

「いやいやいやいや、大丈夫だから。僕がウラノス様のところに行って、お茶会の約束をとりつければ、消える呪いだから。」

 そう言いながら手を振る燈翔の手を、がしりとつかむ。

「そんな訳あるか。やっぱり呪いじゃないか。消えるなんて信用出来ない。そんなもの持ったまま帰らせない。」

 そう言うと、バクっと黒いモヤに慎翔が噛み付いた。首を後ろに逸らすと燈翔の胸から黒い塊がズルっと抜けた。残ったのは数センチの小さな黒い痣。

「っう、痛っ。あっ、兄ちゃん!ダメだって。」

 燈翔は突然の痛みに一瞬動きが止まる。ハッと慌てて手を伸ばすけど、それを避けて、慎翔は後ろに飛んで離れる。口に咥えた黒いものをもぐもぐごっくんと飲み込んでしまった。

「ええええ。嘘。なんで?どうしよう。」

 流石に燈翔もうろたえる。

 飲み込んだ慎翔は

「うええぇ。不味いー。」

 とうずくまると、その身体は見る間にするすると小さくなっていった。

「僕こんな機能つけてないよ。なんで?」

 燈翔が青い顔をして叫ぶと、今まで静観していた心琴が

「お兄ちゃんの魂っていうか、心でしょ。ほら、あれだけの邪気を浄化しちゃった。
あんなに怒ったのも初めてだし。燈翔の事本当に心配したんでしょ。
…ただ、どうしようかしら。これは流石に予想外だったわ。」

 赤いローブの中ですよすよと眠る、裸の赤ん坊を二人で呆然と眺めた。


ーーーーーーーーー

「っと言う訳。」

 これまでの顛末を事も無げに話す二人に、ジュードは眉間のシワを揉む。

 急いで二人で西○屋に行って、バスケットやオムツや服など、必要なものを揃えたそうだ。
 ○松屋とはなんだ?向こうの世界の商店?そうか。

 今は籐のカゴに小さい動物の絵が可愛くプリントされた布をあしらって持ち運べるベビーベッドに、ふんだんにフリルをあしらった新生児用ベビードレスを着た赤ん坊が入れられている。
 ドレスとお揃いの帽子も着せられて、控えめに言っても、物凄く可愛いかった。

「ちゃんと布おむつにしといたから。なんか心琴と勝手に夫婦に勘違いされて、困っちゃったよ。」

 ヒノトが苦笑いで言う。

 二人は神の下働きで、双子として顕現しているが、元々他人なので、顔は似ていない。色味は二人共黒でよく似ている。
 確かに夫婦でも通らなくはないか。

 他にも色んな育児グッズが並べられている。それらを袋に入れながら、

「とりあえずこれ使って。」

と、渡された。

「これは向こうの世界の物ばかりじゃないか?こんな物持って行って大丈夫なのか?」

ふと気になって聞くと

「メラーニ家に限っては、海外の物って説明で、みんな納得してくれるから大丈夫。そういう風になってるから。
ただメラーニ家だけだからね。」

 それは洗脳なんじゃないのか?と、思わなくも…。

 なんて話をしていたら、バスケットの中の赤ん坊がぐずりだした。

「んあ。あっ。あーーーん。」

 二人は見る間に慌てている。

「私たちはあんまり赤ちゃんは得意では無いわ。意思の疎通ができないもの。」

「そ、そうなんだよね。ジュードさんは孤児院育ちでしょ?まだ慣れてる。」

 そう言うが、俺は隔離されて育てられたから、接触は殆ど無かったんだが。
 最近は寄付のついでに遊んでやったりはするが、乳児の面倒までは見たこと無いぞ。

 仕方なく俺はバスケットの中の赤ん坊を抱き上げる。

 髪の色も眼の色も慎翔だ。

 一瞬泣き止んだかと思ったが、抱き方が悪かったのか、すぐにおぎゃあ。と、手足をジタバタさせて泣き出した。
 首も座ってない、本当の乳児だ。

「これ、慎翔の意識は?」

「うーん。多分今は無いんじゃないかしら。」

「うん。ガチ目に赤ちゃん。成長して物心ついたら記憶も戻ると思うよ。」

「成長って…、いつまで?」

「…さあ?それはちょっと分からないかな。」

「とりあえず、メラーニ家に連れて行ったら、絶対に大丈夫だから。」

 ヒノトに念押しで言われる。

 わんわん泣く慎翔の首の下に腕を入れて、左手一本で横抱きにして揺すってやる。

 いきなりの展開に面食らったのは確かだか、泣いていてもめちゃくちゃ可愛い。

「慎翔。赤ん坊になっても可愛いな。お前は。」

 顔を近づけ空いた右手で、美味しそうな真っ赤なほっぺをぷにぷにしながらそう言うと、さっきまでの大泣きが嘘のようにピタリと泣き止んだ。

 綺麗な琥珀色の瞳が、じっと俺を見ている。

 あまりの綺麗さに吸い込まれそうだ。

 右手の指を小さな小さな慎翔の手がぎゅっと握る。

 すると、慎翔はにっこーっと満面の笑みを浮かべ、「きゃっ。きゃっ。」と喜びだした。

 俺はあまりの可愛さに気が遠くなった気がした。固まって動けない。
 そんな様子を見ていた二人は

「大丈夫そうね。ジュードさん。そういうわけだから、お兄ちゃんのことよろしくね。」

「育て直しってことで。もう一回可愛い成長過程見れて良かったね。ジュードさん。」

 固まる俺を横目にそう言いながら「「またねー。」」と、白い部屋から出て行ってしまった。


 しばらく様子を見ていたら、泣き疲れたのか、うとうとしだし、そのまま眠ってしまった。

 寝顔を見つめる。

 自分を責めていたと二人に聞いた。ギルドでの話し合いの時もギルマスにくらいついていた。
 俺達の常識は慎翔には常識ではない。助けられるなら助けたい。
当たり前の感情なのに、俺にはそんな感情はあまり湧いてこなかった。

 今なら邪神の心に引っ張られていたと分かる。俺だけでなく、この世界全体が薄々影響を受けていたのだろう。

 慎翔はその呪縛を解いたのだ。
 苦しそうな、悔しそうな顔をしながらみんなを助けた慎翔。

 おかしいと思いながらもその葛藤に俺は気がつくことが出来なかった。
 もっと話を聞いてやれば良かったと後悔が募る。

 誰もいない白い部屋のなか、最愛の人とふたりきり、

「…ごめんな、慎翔。俺が悪かった。…本当に…。」

 ジュードは小さな声で謝る。しかし、その謝罪に答える声は無い。
 泣き疲れて眠ってしまった身体をぎゅっと抱きしめた。
 それはいつもよりも、ことさら優しく慈しむように。
 眠る慎翔の額に優しくキスを落とした。

「さて、何を言われても仕方ないな。叱られるだろうが、相談するか。」

 ジュードはふぅと息を吐いて、慎翔を抱き上げて、もう一度額にキスを落とすと、慎翔を抱きしめて、慎翔を寝かすためのバスケットに、荷物の入ったカバンを持って、白い部屋から出て行った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...