愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

12 ジュード視点

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 国境にもどり、オオトカゲ共を倒しながら、国境に結界を張った。
 森の中だけなら簡単な話だ。

 これ以上魔物を呼ばせない。国境を魔法で塞げば、兵士も入り込めないし、魔道具を投げてもこちらに入れなければ意味がないだろう。

 新しい魔物の出現は無いと、先に居たオオトカゲ共を確実に倒していく。
 こいつらときたら、硬すぎて、剣は通らないし、魔法も効きにくい。
 何人かでチームを組んで一匹づつ確実に倒していった。

 俺が時々、分からない程度に間引いているが、おおっぴらに全部倒すわけにもいかない。

 そんな中、リオンが音もなく現れた。

「明日の午後三時、ギルドに集まってください。」

 明日の夜開かれる、宮中晩餐会に乗り込むらしい。
 
 慎翔にも伝えようと、家に飛んだが、誰もいなかった。

 慎翔も家か、白い部屋と言っていたので、イヤーカフで声を飛ばしてみる。

『慎翔?どこか出かけてる?』

 そう聞くと、すぐに返事が聞こえた。

『あ、ジュード。今は白い部屋に燈翔と心琴といるよ。』

 二人と一緒なら、安心だろう。
 ただ声がいつもより元気が無いような気がする。

『大丈夫か?』

『えっ、うん。大丈夫。二人と遊んでもらってる。』

 先程より明るい声が返ってきた。気のせいだったか?

『明日、マクリク国に行ってくる。さっさと済ませて帰るから、そしたらどっか遊びに行くか?』

 少しでもいつもの明るい慎翔の声が聞きたくて、なるべく明るく聞いてみる。

『あっ、うん。じゃあ、燈翔達の世界に遊びに行ってもいいかもね。』

『ん?日本とかいうとこか?それは俺も行けるのか?』

『ウラノス様が良いよー。って、言ったら、良いんだって。』

 あまりにも事も無げに言うから、俺も簡単に行こうと返事をしたのだった。



ーーーーーーーーーー

 聞いていた時間に、ギルドに着くと、ギルマスと副ギルマスが待ち構えていた。いつもは着ていない、ギルドの制服を着ている。
 ウルスの制服姿はパツンパツンで、はっきり言って、違和感しかない。
 みんな口には出さないが、視線が物語っていた。
 本人はこれからのことを考えての真剣な顔なのか、視線に対する怒りなのか、かなり険しい顔をして立っている。

 他に冒険者、ペスカ商会の面々が集まっていた。
 冒険者の中には一番の当事者である、ロビンのパーティもいる。
 ダンが俺のそばに近づいて、声をかけてきた。

「ナカセはいないの?」

 慎翔を探しているらしい。

「慎翔は留守番するそうだ。」

するとロビン達もすぐそばに来ていて

「そっかあ。これのお礼言いたかったんだけどね。」

と、三人で顔を見合わせている。

 荷物を全て取られた三人の、服や装備はギルドから支給された。
 そして、慎翔はマジックバッグと防御に回復の石をつけたネックレスを三人に渡していた。

「こっちがお礼言わなきゃいけないのに、ごめんねっなんて言うから、なんか心配になっちゃったのよ。」

 シルルが言う。
 確かに慎翔が謝る事などないはずなのに、三人が心配するのもうなずける。
 慎翔の真意が分からない。何もかも分かってやれればいいのにと思う。

「まあ、これが終わったら、飯でも奢ってやってくれ。」

 そう言えば、三人はにこやかにうなずいてくれた。

 俺も落ち着いたらゆっくり話そう。

 その時、ウルスの大きな声が響く。

「じゃあ、揃ったな?向こうに着いてからだが、他の国の要人の警護も仕事に含まれるからな。
ジュードはメラーニ商会、ダンとロビンはペスカ商会の警護だ。
いいか?王宮の大広間は魔法の制限がかかるらしい。武器は手に持って行け。
そんじゃあ、気ぃ引き締めて、行くぞ。」

「おう。」

と、みんなで気合を入れる。
 転移陣の試運転も兼ねて、首都シントのギルドに集合して、順番にマクリク国の王宮内に、リオンが準備した転移陣に飛んでいった。

 飛んだ先には、リオンがいて、隣の部屋に案内される。

 王宮内は、なんだか空気が淀んでいるような、晴れているのに、雨の降る前のような暗さが広がっていた。
 部屋に明かりが点けられているのに、だ。
 空気もなんだか重苦しい感じがする。
 この国の住人は苦しくないのだろうか?


 夜会の休憩室として利用される部屋で、少し待機する。予定していた人員が揃ったところで、ゾロゾロと大広間に入る事に。
 もちろん警備の騎士がいるのだが、眠りの魔道具で、次々と無力化していった。
 大広間に入るまでは、騒がれたくない。

 大広間の扉が開いたら、全員で雪崩れ込む。
 軽やかに流れていた音楽が止んで、小さな悲鳴があがる。

 成金趣味か、絢爛豪華、きらびやかさを全面に押し出した装飾。
 大きく立派なシャンデリアが、天井から幾つも吊るされ、光を拡散している。
 空気は重いのに、キラキラと装飾がやかましい。胸焼けするような、ケバケバしさがあった。
 大広間の中央、正面には階段があり、それを登ると王族の集まるフロアのようだ。
 下にいる人間を見下ろしながら歓談する、悪趣味な空間だ。

 目の前の一階フロアには多くの人がいるが、その中にメラーニ家の三兄弟を見つけて、俺はそのすぐ後ろに付いた。隣にはペスカ商会のガローファノもいる。
 他の国の要人達も、リオンの素早い誘導で、俺達の後ろに集められた。
 これで護衛しやすくなった。

「そなた達は何者だ。見たところ平民か? 誰が招待もされておらぬ平民を引き入れたのだ。今すぐつまみ出せ。」

 一段上から、ケバい男が叫ぶと、騎士たちが俺達を取り囲んだ。

 気にせずにウルスが会場中に響く大きな声で言う。

「我々はマクリク国に奪われた物を戻してもらいに来た。」

 副ギルマスのディネも続けて言う。 

「こちらがマクリク国に奪われた物品の品目です。」

 一段上に立つ、王冠にビロードのマントを着た、一番目立つ、多分王様だろう男が、負けじと大きな声で言った。

「なんのことか分からぬ。太陽神祭のめでたき日に、このような狼藉は許されぬ。」

 マクリク国の者達が「そうだ、そうだ。」と、同調する。

 最初に声を発した王族の男は、あとに出てきた王様の子か?
 よく似た息子らしき派手な男が二人いる。
 王子の後ろに一歩下がっていた、もう一人の男が、騎士とコソコソと話している。
 なんだか化粧の濃い、気色の悪い派手な奴だ。

「あいつが第五王子とか言ってた奴だよ。」

 後ろから震える小さな声がした。
 ちらりと見れば、ヤナが震えている。それをロビンとシルルが手を握り落ち着かせている。慰める二人の顔色も悪い。

「あの騎士…。ロビンの遺髪を持ってきた奴だ。」

 ダンが呟くように言うと

「はあ?遺髪って…、勝手に殺すなよ。」

 ロビンからツッコミが入った。

「まあ死にかけだったけどな。」

 倒れている姿を発見したダンからすれば、十分、死んだと思っても仕方ない状況だったのだろう。
 冗談めかして言うロビンに、ダンは真顔で返していた。

 主犯はあいつらで間違いないらしい。

 すると第五王子が一歩前に出てきた。 

「お前達から奪ったものなどない。それどころか、お前たちに我々の秘宝が奪われたのだ。あいつらは罪人だ。捕らえろ。」

 ザザッと騎士達が動く。
 俺達もそれぞれの装備に手をかける。

 正に一触即発の中、気の抜けた声がフロア内に響き渡った。

「はいはいはーい。お邪魔しまーす。」

 宙に浮いた、三人の人影に

「は?」

 と、小さな声が出たのは仕方ないと思う。

 



 

 


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