愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

10 太陽神祭 1

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 オズモンド視点


 今日は太陽神祭を催す日。

 城下町は祭りで多くの人が溢れ、人々が踊り、酒を飲み交わす。賑やかにしている。

 国民は太陽神の御遣いである、王家に忠誠を表すために、金品を捧げる。

 我々が存在することによって、この国は栄え、豊かに生活できる。国民共が我々に膝を折り、跪くのは、至極当然のことだ。

 王宮では式典が執り行われた後に、晩餐会、夜会と、国の内外から多くの要人を集め、贅の限りを尽くした祝宴が行われる。

 王宮内で行われる式典の後に、王族がバルコニーに姿を現すと、集まった多くの国民が歓声をあげる。下民共に手を振ってこたえてやる。

 あとは、王宮内で始まった晩餐会から夜会へと、多くの人々が思い思いに着飾り集まった。

 数階分吹き抜けた、高い天井に、きらびやかなシャンデリアが幾つも下げられている。その大広間には一段上にもフロアが設けられ、そこに国王陛下はじめ、王族が勢揃いしている。

 階段を登り、次々と貴族や来賓としてやってきた者たちが、へりくだって挨拶をしにくる。

 第五王子である私、オズモンドの元にも、美しく着飾った令嬢や令息が、頬を染めながら挨拶にやってくる。
 まだ婚約もしていない私になんとか擦り寄ろうと、どいつも必死で笑えてしまう。
 まあ私の美貌を持ってすれば、人々を魅了するのも仕方ないか。

 よく見れば他国からの招待客も来ている。商人もいる。平民を呼ぶなど、ありえないのだが、今日は太陽神祭であり、下民どもが我々に傅く日だ。

 次々と挨拶に来る中に、赤茶の髪の男が来た。隣には美しいアッシュグレイのストレートヘアの女性がいる。我が国の令嬢が着るような下半身の大きく膨らんだドレスでは無く、スレンダーなボディに添うようなドレスを纏い、凛と立つ姿が美しい。
 これだけ美しい女ならば平民でも側妃にしてやってもいいかも知れない。
 じっとりと見つめる。女は薄っすらと微笑んだ。まんざらでもないらしい。

 三人はメラーニ商会を名乗った。現在は代替わりして、この三人で商会を回していると言った。うやうやしく挨拶を述べたが、こいつらが我が国にわざと品を流さなかったのを、私は知っている。

 とても価値のあるマジックバッグを下民どもに安い値段で売ろうとしたのだ。もちろんそんなものはすべて接収してやった。
 魔石も同等だ。
 欲しければ国を通せば良い。
 我らは太陽神に愛されし神子。それだけの権利がある。

 メラーニ商会もけしからんが、更にけしからんのはペスカ商会とかいう新興の商会だ。薬に特化した商会らしいが、あのエリクサーを量産出来る様になったらしい。
 ならばまずは国家に納めるべき物を、冒険者に配るなどと、訳の分からぬ事を言う。

 もちろんギルドから接収したがな。
 
 だが、我が国に入る品数は他国に卸される数よりも、極端に少なかった。
 どうも制限を誰かがかけているらしい。
 我が国に対する敬意が全く持って足りていない。本当に腹立たしい。
 これも下民どもが国外に出て買ってきたものを接収したがな。

 そんな時に王太子である第一王子に太陽神様から託宣が下ったのだ。

 「タメリア国が全ての益を享受している。これは我がマクリク国のものである。
 近々、魔導書から素晴らしい魔道具が作られる。それをもって、我が国の威光を知らしめよ。」
 
 そんな折に魔法研究機関が召喚具の完成形を持ってきた。
 人の魔力を吸い取り、それを糧に魔物を召喚できる優れ物だ。

 王太子は、正妃の子で実の弟に当たる私と、第二妃の子ながら魔術に優れた第四王子に、側室の子である第二、第三王子に協力を仰ぎ、召喚具を完成させよと命じられた。

 なので二人を丁重に貴賓牢に案内し、繋がれた二人から定期的に魔力を吸い上げ続けた。

 魔力を充填した魔道具がいくつか完成したところで、第四王子も同じく牢に繋がれた。

 直系の血さえ残れば良いだろう。兄と私でこの国を守るから、三人は違う方法で、この国の為に最後まで頑張ってほしい。

 その魔道具を持って国境に魔物を発生させた。

 神託通りに、タメリア国の各ギルドから冒険者が派遣されてきた。

 我々は同じように戦っている風を装い、隠蔽と幻惑の魔法を国境一帯に掛けて回った。
 魔封じの魔法陣もいくつか設置した。これは巧妙に隠しておく。

 冒険者共がタメリア国に戻っているつもりで、我が国に入り込んで来たところで、魔力と荷物を頂くわけだ。

 死体は魔物に運ばせて、さもタメリア国内で亡くなったように見せかけた。
 冒険者共はエリクサーや上級の回復薬、挙句に付与魔石の付いた武具やアクセサリーを当たり前のように持っていた。

 これは我らにこそ相応しい物だ。下民どもが持つなどおこがましい。

 全て我々の物だ。太陽神の思し召しだ。




 にこやかに挨拶を受けていたところで、にわかに会場内が騒ついた。

 見ればメラーニ商会の奴らの周りに王宮にふさわしくない、汚らしく草臥れた服装の者がぞろぞろと現れた。

 着ているものや、装備品を見ると冒険者か。

 我が国の貴族達は何事かと遠巻きに離れる。国外の来賓共は何故か、メラーニ商会の連れて来た奴らの後ろに集まっている。

 どういうことだ?

「そなた達は何者だ。見たところ平民か? 誰が招待もされておらぬ平民を引き入れたのだ。今すぐつまみ出せ。」

 王太子が叫ぶと、王宮付きの騎士たちがゾロゾロと出てきてメラーニ商会の者達と冒険者を取り囲んだ。

「我々はマクリク国に奪われた物を戻してもらいに来た。」

 茶色の大男が堂々とした態度で言う。大男の隣に金髪の女エルフが立ち、更に言う。

「こちらがマクリク国に奪われた物品の品目です。」

 一段上で人々を見下ろしながら

「なんのことか分からぬ。太陽神祭のめでたき日に、このような狼藉は許されぬ。」
 
 父である陛下が言う。

 そうだバレるはずはない。
 全ての冒険者はしっかりと始末してきたはずだ。
 王太子の隣で控える私の視線の先に、茶髪の剣士、金髪の魔術師、兎の獣人と、少し前に会った冒険者の姿が見えた。

 後ろに控える騎士が小さな声で私に耳打ちしてきた。

「マサのギルドマスターと副ギルドマスターです。」

 背中に冷や汗がどっと流れた。

 ギリギリのところで逃げていったあいつら。必ず殺せと命じたはずだ。まさか逃がしたのか?

 視線を自分の護衛騎士に送ると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。どうも都合が悪く黙っていたらしい。

 それでも証拠があるわけでもない。しらをきればいいのだ。
 あいつらを一網打尽に捕えれば良い。

「お前達から奪ったものなどない。それどころか、お前たちに我々の秘宝が奪われたのだ。あいつらは罪人だ。捕らえろ。」

 ザザッと騎士が動く。
 冒険者達もそれぞれの装備に手をかける。

 ざわざわと、騒ついて、先程まで優雅に流れていた音楽も止まってしまった。
 
 我らの太陽神祭に泥を塗る行為に怒りが治まらない。
 なんとしても全員捕らえてやらねば。







 

 

 



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