愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

9 会議 ジュード視点

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 ギルマスの部屋には、ウルススにディネルース、ダンと慎翔、それに俺。さらにはペスカ商会のガローファノとメラーニ商会のジェレミアとトーマスも来ている。
 部屋が狭く感じるくらいだ。

 ギルドに転移したヤナたちから聞いた話は衝撃的で、皆ショックを隠し切れない。

「これはどうも国ぐるみでやってることらしい。あの国は太陽神とやらを崇めてる。それも盲信的に。信託が王家にくだるとか言うから、なおのこと王族に権力が集まってるらしい。」

 ウルススが言うと、

「マクリク国のギルドは、完全に王家の言いなりのようです。マスターも丸め込まれてました。」

 ディネルースの報告にため息が出そうになる。

「俺達も調べたが、ギルドに納入した、エリクサーをはじめとした回復薬は、あの国の冒険者には全く回ってなかった。国に取り上げられたらしい。」

 ガロの報告だ。

「他にも色々と王家に流れているみたいだね。エリクサーを始め、希少なアイテムや素材がうち以外の商会に売りに出されている。」

 メラーニ側でも色々と調べてくれたようだ。

「今回の討伐隊はマクリク国では組まれておらず、元々の国境警備隊が配備されているだけ。ギルドから冒険者も派遣されていない。」

「その魔物自体、マクリク国の召喚したもので間違いないようだ。」

 つまり向こうの国の良いように踊らされていたというわけか。タメリア国は。
 国境の森に湧き出る魔物はオオトカゲばかりだった。誰がスタンピードだと言ったんだ?誰も不思議に思わなかった。信じ込んでいた。その不自然さに誰も気が付かなかった。

 そんなおかしい事があるか?

 魔物を召喚する魔道具を、人の魔力を奪いとって使用していたと、ヤナが言っていた。

 今までのもそうだったのだろう。

 何とか三人の冒険者の命は助かった。
 これはひとえに精霊と慎翔の行動力のおかげだ。
 慎翔にはこの状況の不自然さが分かったのかもしれない。

 ロビンたちは戻ってきて、エリクサーで治癒されたが、急激な回復に体力が追いついてない。それに、まだ精神的ショックが残っていた。ダンのパーティメンバーの看病の元、三人共、今はぐっすり寝ている。


 これからどうするかという話になった。

「とりあえず行って話を聞きませんか?」

「乗り込んでいくのか?」

 ジェレミアの提案にウルススが質問で返す。

「いや、ちょうどこれが届いてまして。」

 一通の封筒を出す。かなり装飾がきらびやかなものだ。

「なんだそれ?」

 ウルススが怪訝そうにジェレミアに聞く。

「マクリク国から太陽神祭への招待状ですよ。ちょうど各国にも送られているんでしょう。ちょうどいいと思いませんか?」

 太陽神はマクリク国が独自に崇める唯一神だ。
 その神を称える祭りが年に一度盛大に執り行われるらしい。行ったことがないので、どんなものかは知らないが。

「たぶん王宮で大きな式典が開かれるだろうから、そこにギルドの面々も来たらいい。」

 なんてことも無いように、ジェレミアが言う。

「いやいや、ジェレミアさん達は招待されてるだろうが、ギルドの連中なんかはおいそれと、王宮内に入れねえ。」

 ウルススが言うと、ジェレミアが事も無げに言った。

「出来るよ。これで。」

 ジェレミアの後ろに控える騎士が、大きな絨毯の様な物を丸めて持っていた。

 それを部屋の真ん中に広げると魔法陣が描いてある。

「これは?転移陣ですか?」

「そう。転移したい場所にもこれを敷けば、簡易転移陣になる。これなら五人くらいは乗れるから、まとめて移動できる。
しかも使ったあとは、持ち主の元に自動で戻る。置き忘れの心配もなし。」

 ニコニコと笑って頷きながらジェレミアが言うが、たぶんそういう事では無い。

 みな驚いて、目を見開いている。

 いつの間にこんな物を作ったのか。
 転移石などの付与された魔石は、基本的に効果が自分だけだが、陣なら乗った人や物全てに作用できる。しかもこれなら持ち運べて、マジックバッグに入れとけば、どこでも使える。

 こんなものを作れるのは、俺は一人しか知らない。


 作った張本人であろう慎翔に視線を向けると、ダンと黙って事の成り行きを見守っている。
 ただその顔はいつもの明るい顔では無い。真面目な話をしているからか?

 言い知れぬ不安が広がる。

『慎翔。大丈夫か?』

 俺がそう念話で呼びかけると、視線がこちらに向いた。

 その少し冷めた視線にドキリとする。

『大丈夫って?どこも悪くないよ。』

 ニコリともせず、そう念話を飛ばすと、また前を向いてしまった。

 いつもの慎翔らしくない。素っ気ない態度に驚いて言葉が続かない。

 だいたいいつもなら、絶対に俺の隣にいるはずなのに、今は向こう側でダンと一緒にいる。

 何か慎翔の機嫌を損ねたのだろうか。

 俺はウルススとディネ、ジェレミアとトーマスの話し合いの中にいるが、何故か慎翔は少し離れてダンといる。

 怒っているとは思うが、この場で騒ぐ訳にはいかないので、見ているだけになる。

「また、すげえもん出してきたな。」

「ええ。新商品です。なので、向こうが理解する前に使用すればいいでしょう。」

 ジェレミアのニコニコとした提案に、ウルススは溜息をつくと、

「そうだな。これなら、俺達でも難なく王宮に入れるわけだな。」

 結局使うらしい。

「じゃあ、とりあえず両方の首都のギルマスと、他の都市のギルマスも何人か。証人的な意味合いだな。これは俺達で知らせを入れて選定する。」

 ウルススがそう言うと、

「ではマクリク国に来ている、各国の要人にも証人になっていただきましょう。これは、私が首相からの手紙を持って養父と回ります。」

 トーマスが言う。

「俺もダンと行くぞ。うちの商品を勝手に奪いやがって。文句の一つでも言ってやらねえといけねえ。」

 ガローファノもマクリク国行きを希望する。

「あとはいつ、そっちに行くかだな。」

「それは私がお知らせします。」

 今まで無かったもう一人の声にウルススやダンが驚いている。

 それもそのはず、いつの間にかジェレミアの一歩後ろに、赤い髪の青年が立っていた。
 
「私が各国のギルドとの伝令役を引き受けましょう。日時を合わせて、マクリク国に転移できるように段取りします。」

「そうだね。リオン。頼めるかい?」

 にこやかにジェレミアが頼む。確かメラーニ家の三男だったか、実のところ、諜報部員としての活動もしているとか。
 しかもかなり優秀と聞いている。
    
「そうだな。イキナリ行っても、意味ないだろうからな。何かわかったらギルドにも情報上げてくれ。」

「はい。詳しい日時も決まりましたら、すぐにお知らせします。」

 ウルススにそう答えながら、トーマスから追加で転移の魔石を受け取っている。

「気をつけてな。頼んだぞ。リオン。」

「はい。父上様、兄上様。いってきます。」



 リオンは軽く頭を下げると、フッと部屋から消えてしまった。
 転移で飛んだのかと思ったが、隠蔽スキルで姿が隠れたらしい。俺にも読み取れないのだから、かなり高度だと思う。

「じゃあ、段取りつくまで待機だ。一旦解散しよう。」

 ギルマスにそう言われて皆各々、目的の場所に向かっていった。

 国境ではまだオオトカゲが出現している。そのために俺は前線に戻らないといけないのだが、慎翔のいつもと違う様子に落ち着かず、慎翔に近づく。
 慎翔はそれに気がついて、向こうから声をかけられた。

「ジュード、ギルドに借りてるおれの部屋で、ちょっと休む?」

 そう言われてギルドの慎翔の部屋に入る。

 先に入った慎翔の後ろ姿はいつもの明るい雰囲気では無い。

 この感じは…と、扉を閉めて、慎翔に近づく。

 肩に手を置くとくるりと振り向いて、俺の胸にぽふりとおさまる。

「…慎翔。怒ってるのか?」

 胸に顔を埋めているので、明るめの茶髪のつむじが見えるだけで、顔を見せてくれない。背中を優しく撫でながら聞く。

「…ううん。怒ってないよ。」

 そう言いながら、慎翔も俺の腰に手を回してギュッと抱きついてくる。

「じゃあ、何か辛いことでもあったか?」

「ううん。」

 下を向いたまま、首を振る。

「…慎翔も一緒に行くか?」

 危険だと分かっていても、俺はつい、そう聞いてしまう。
 慎翔も来たいと言うだろうと思ってのことだ。
 ピクッと小さく反応したが、顔を上げることなく首を振った。

「おれ待ってるよ。みんなに迷惑かけたくないし。ロビンたちは助けられたし、あとは偉い人に任せといたらいいでしょ?」

 顔を上げずに、俺の胸に向かってポソポソと言う。

 俺としては慎翔がここで待つと言うなら、その方が安心できるし、ありがたい。

「そうか。じゃあササッと済ませてくるから、いい子で待っていてくれるか?」

「…うん。」

 しばらくの間があって、顔を上げた慎翔は、薄く微笑んだ。

「ギルマスたちも出かけるなら、ここじゃなくて、家か、白い部屋で待ってるね。」

「そうか。わかった。」

 そう言いながら、柔らかい髪の毛を撫でて、上を向いた慎翔の額に唇を落とす。
 少し頬を赤くしながら、目を閉じた慎翔の鼻先、そして唇に。

 チュッ、チュッと軽く唇を合わせて、目を開くと、慎翔も目を開く。
 いつもよりも揺れて、潤んで見える瞳に、先程よりも深い口づけを落とす。

 こういう時の慎翔は何も言わない。後ででも気持ちを教えてほしいと思う。

 危ないことだけはしないで欲しい。

「ん、んはっ。」

 何度キスをしても恥ずかしそうにする。その唇と口内をひとしきり堪能して、ゆっくりと唇を離した。

 先ほどの潤みとは、少し違った赤い顔と瞳ではふはふと息をしている。

「…いってくる。」

「うん。気をつけてね。」

俺はこれだけは伝えねばと口を開く。

「慎翔。無茶だけは絶対するなよ。」

「うん。大丈夫。」

 一抹の不安を抱えながら、俺は国境へと戻った。


 

 

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