92 / 106
隣の国はどんな国?
9 会議 ジュード視点
しおりを挟むギルマスの部屋には、ウルススにディネルース、ダンと慎翔、それに俺。さらにはペスカ商会のガローファノとメラーニ商会のジェレミアとトーマスも来ている。
部屋が狭く感じるくらいだ。
ギルドに転移したヤナたちから聞いた話は衝撃的で、皆ショックを隠し切れない。
「これはどうも国ぐるみでやってることらしい。あの国は太陽神とやらを崇めてる。それも盲信的に。信託が王家にくだるとか言うから、なおのこと王族に権力が集まってるらしい。」
ウルススが言うと、
「マクリク国のギルドは、完全に王家の言いなりのようです。マスターも丸め込まれてました。」
ディネルースの報告にため息が出そうになる。
「俺達も調べたが、ギルドに納入した、エリクサーをはじめとした回復薬は、あの国の冒険者には全く回ってなかった。国に取り上げられたらしい。」
ガロの報告だ。
「他にも色々と王家に流れているみたいだね。エリクサーを始め、希少なアイテムや素材がうち以外の商会に売りに出されている。」
メラーニ側でも色々と調べてくれたようだ。
「今回の討伐隊はマクリク国では組まれておらず、元々の国境警備隊が配備されているだけ。ギルドから冒険者も派遣されていない。」
「その魔物自体、マクリク国の召喚したもので間違いないようだ。」
つまり向こうの国の良いように踊らされていたというわけか。タメリア国は。
国境の森に湧き出る魔物はオオトカゲばかりだった。誰がスタンピードだと言ったんだ?誰も不思議に思わなかった。信じ込んでいた。その不自然さに誰も気が付かなかった。
そんなおかしい事があるか?
魔物を召喚する魔道具を、人の魔力を奪いとって使用していたと、ヤナが言っていた。
今までのもそうだったのだろう。
何とか三人の冒険者の命は助かった。
これはひとえに精霊と慎翔の行動力のおかげだ。
慎翔にはこの状況の不自然さが分かったのかもしれない。
ロビンたちは戻ってきて、エリクサーで治癒されたが、急激な回復に体力が追いついてない。それに、まだ精神的ショックが残っていた。ダンのパーティメンバーの看病の元、三人共、今はぐっすり寝ている。
これからどうするかという話になった。
「とりあえず行って話を聞きませんか?」
「乗り込んでいくのか?」
ジェレミアの提案にウルススが質問で返す。
「いや、ちょうどこれが届いてまして。」
一通の封筒を出す。かなり装飾がきらびやかなものだ。
「なんだそれ?」
ウルススが怪訝そうにジェレミアに聞く。
「マクリク国から太陽神祭への招待状ですよ。ちょうど各国にも送られているんでしょう。ちょうどいいと思いませんか?」
太陽神はマクリク国が独自に崇める唯一神だ。
その神を称える祭りが年に一度盛大に執り行われるらしい。行ったことがないので、どんなものかは知らないが。
「たぶん王宮で大きな式典が開かれるだろうから、そこにギルドの面々も来たらいい。」
なんてことも無いように、ジェレミアが言う。
「いやいや、ジェレミアさん達は招待されてるだろうが、ギルドの連中なんかはおいそれと、王宮内に入れねえ。」
ウルススが言うと、ジェレミアが事も無げに言った。
「出来るよ。これで。」
ジェレミアの後ろに控える騎士が、大きな絨毯の様な物を丸めて持っていた。
それを部屋の真ん中に広げると魔法陣が描いてある。
「これは?転移陣ですか?」
「そう。転移したい場所にもこれを敷けば、簡易転移陣になる。これなら五人くらいは乗れるから、まとめて移動できる。
しかも使ったあとは、持ち主の元に自動で戻る。置き忘れの心配もなし。」
ニコニコと笑って頷きながらジェレミアが言うが、たぶんそういう事では無い。
みな驚いて、目を見開いている。
いつの間にこんな物を作ったのか。
転移石などの付与された魔石は、基本的に効果が自分だけだが、陣なら乗った人や物全てに作用できる。しかもこれなら持ち運べて、マジックバッグに入れとけば、どこでも使える。
こんなものを作れるのは、俺は一人しか知らない。
作った張本人であろう慎翔に視線を向けると、ダンと黙って事の成り行きを見守っている。
ただその顔はいつもの明るい顔では無い。真面目な話をしているからか?
言い知れぬ不安が広がる。
『慎翔。大丈夫か?』
俺がそう念話で呼びかけると、視線がこちらに向いた。
その少し冷めた視線にドキリとする。
『大丈夫って?どこも悪くないよ。』
ニコリともせず、そう念話を飛ばすと、また前を向いてしまった。
いつもの慎翔らしくない。素っ気ない態度に驚いて言葉が続かない。
だいたいいつもなら、絶対に俺の隣にいるはずなのに、今は向こう側でダンと一緒にいる。
何か慎翔の機嫌を損ねたのだろうか。
俺はウルススとディネ、ジェレミアとトーマスの話し合いの中にいるが、何故か慎翔は少し離れてダンといる。
怒っているとは思うが、この場で騒ぐ訳にはいかないので、見ているだけになる。
「また、すげえもん出してきたな。」
「ええ。新商品です。なので、向こうが理解する前に使用すればいいでしょう。」
ジェレミアのニコニコとした提案に、ウルススは溜息をつくと、
「そうだな。これなら、俺達でも難なく王宮に入れるわけだな。」
結局使うらしい。
「じゃあ、とりあえず両方の首都のギルマスと、他の都市のギルマスも何人か。証人的な意味合いだな。これは俺達で知らせを入れて選定する。」
ウルススがそう言うと、
「ではマクリク国に来ている、各国の要人にも証人になっていただきましょう。これは、私が首相からの手紙を持って養父と回ります。」
トーマスが言う。
「俺もダンと行くぞ。うちの商品を勝手に奪いやがって。文句の一つでも言ってやらねえといけねえ。」
ガローファノもマクリク国行きを希望する。
「あとはいつ、そっちに行くかだな。」
「それは私がお知らせします。」
今まで無かったもう一人の声にウルススやダンが驚いている。
それもそのはず、いつの間にかジェレミアの一歩後ろに、赤い髪の青年が立っていた。
「私が各国のギルドとの伝令役を引き受けましょう。日時を合わせて、マクリク国に転移できるように段取りします。」
「そうだね。リオン。頼めるかい?」
にこやかにジェレミアが頼む。確かメラーニ家の三男だったか、実のところ、諜報部員としての活動もしているとか。
しかもかなり優秀と聞いている。
「そうだな。イキナリ行っても、意味ないだろうからな。何かわかったらギルドにも情報上げてくれ。」
「はい。詳しい日時も決まりましたら、すぐにお知らせします。」
ウルススにそう答えながら、トーマスから追加で転移の魔石を受け取っている。
「気をつけてな。頼んだぞ。リオン。」
「はい。父上様、兄上様。いってきます。」
リオンは軽く頭を下げると、フッと部屋から消えてしまった。
転移で飛んだのかと思ったが、隠蔽スキルで姿が隠れたらしい。俺にも読み取れないのだから、かなり高度だと思う。
「じゃあ、段取りつくまで待機だ。一旦解散しよう。」
ギルマスにそう言われて皆各々、目的の場所に向かっていった。
国境ではまだオオトカゲが出現している。そのために俺は前線に戻らないといけないのだが、慎翔のいつもと違う様子に落ち着かず、慎翔に近づく。
慎翔はそれに気がついて、向こうから声をかけられた。
「ジュード、ギルドに借りてるおれの部屋で、ちょっと休む?」
そう言われてギルドの慎翔の部屋に入る。
先に入った慎翔の後ろ姿はいつもの明るい雰囲気では無い。
この感じは…と、扉を閉めて、慎翔に近づく。
肩に手を置くとくるりと振り向いて、俺の胸にぽふりとおさまる。
「…慎翔。怒ってるのか?」
胸に顔を埋めているので、明るめの茶髪のつむじが見えるだけで、顔を見せてくれない。背中を優しく撫でながら聞く。
「…ううん。怒ってないよ。」
そう言いながら、慎翔も俺の腰に手を回してギュッと抱きついてくる。
「じゃあ、何か辛いことでもあったか?」
「ううん。」
下を向いたまま、首を振る。
「…慎翔も一緒に行くか?」
危険だと分かっていても、俺はつい、そう聞いてしまう。
慎翔も来たいと言うだろうと思ってのことだ。
ピクッと小さく反応したが、顔を上げることなく首を振った。
「おれ待ってるよ。みんなに迷惑かけたくないし。ロビンたちは助けられたし、あとは偉い人に任せといたらいいでしょ?」
顔を上げずに、俺の胸に向かってポソポソと言う。
俺としては慎翔がここで待つと言うなら、その方が安心できるし、ありがたい。
「そうか。じゃあササッと済ませてくるから、いい子で待っていてくれるか?」
「…うん。」
しばらくの間があって、顔を上げた慎翔は、薄く微笑んだ。
「ギルマスたちも出かけるなら、ここじゃなくて、家か、白い部屋で待ってるね。」
「そうか。わかった。」
そう言いながら、柔らかい髪の毛を撫でて、上を向いた慎翔の額に唇を落とす。
少し頬を赤くしながら、目を閉じた慎翔の鼻先、そして唇に。
チュッ、チュッと軽く唇を合わせて、目を開くと、慎翔も目を開く。
いつもよりも揺れて、潤んで見える瞳に、先程よりも深い口づけを落とす。
こういう時の慎翔は何も言わない。後ででも気持ちを教えてほしいと思う。
危ないことだけはしないで欲しい。
「ん、んはっ。」
何度キスをしても恥ずかしそうにする。その唇と口内をひとしきり堪能して、ゆっくりと唇を離した。
先ほどの潤みとは、少し違った赤い顔と瞳ではふはふと息をしている。
「…いってくる。」
「うん。気をつけてね。」
俺はこれだけは伝えねばと口を開く。
「慎翔。無茶だけは絶対するなよ。」
「うん。大丈夫。」
一抹の不安を抱えながら、俺は国境へと戻った。
83
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる