愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

7 あの日の話 ヤナ視点

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 私はヤナ。垂れ耳ウサギの獣人。
 人と接するのは得意じゃなくて、ミラコ村の山で過ごすのが好き、いわゆる引っ込み思案で臆病な性格。
 人見知りだし、心許した人としか、まともに話せないのが悩み。

 そんな私がパーティを組んで冒険者として活動するようになったのは、幼馴染であるロビンとシルルの誘いだった。

 ロビンは剣士で、シルルはハーフエルフで豊潤な魔力を活かした魔法使い。私は、弓が得意なシーフ。

 生まれ育ったのどかなミラコ村に、これといった産業はなく、みんな大きくなったら農家になるか、街に行くのが目標だった。
 シルルも街に行ってメイドとしての勉強をしていたけど、魔力が高いのと、勝気な性格から、いつからか冒険者の手伝いをするようになっていた。

 私は村に残って、小さくて身軽な身体を活かして、狩猟を手伝っていた。

 そこにマサのギルドで冒険者になった二人が私に「一緒に冒険者にならない?」と声をかけてくれたのだ。
 人見知りで村から出るのは苦手だけど、二人と一緒だったらと行くことにした。

 三人共、回復魔法が使えないのだけが、欠点だろうけど、私達は子供の頃からの付き合いだ。誰か別の回復役を入れるつもりはなかった。アイテムで何とかなるし。

 ロビンは私とシルルの事をいつも大事にしてくれる。
 剣士だけど、補助魔法や攻撃魔法も使える。
 シルルは攻撃特化の魔法使い、極端に攻撃魔法しか使えない。「こればっかりは性格だからしょうがないよね?大体シルルに繊細な魔法が使えると思う?」とロビンは笑う。そうするとシルルにいつもビリッとやられるのだ。このビリビリ魔法だけは加減できるの面白い。痛がるロビンを見て、私とシルルが笑うと、ロビンもとても楽しそうに笑うのだ。

 私は鑑定魔法と少しの補助魔法が使える。だけど魔力量が少ない。ロビンも多くは無いけど、私の方がかなり少ない。
 周りからは脳筋パーティはバランスが悪いから、もう一人回復役の仲間を増やしたらどうか?と、よく言われていた。

 しかし、それは私達が嫌だった。
 勝ち気なシルル。それをフォローしながら、優しく見守ってくれるロビン。いつも二人が引っ込み思案な私の手を引いて、世界を広げてくれる。

 三人でやっていきたい。

 なので、他所のパーティに比べて、たくさんの回復薬を持ち歩いていた。

 とは言ってもパーティにも、個人の実力も必要なわけで。二人は順調にランクを上げていくけど、私はいつも一歩遅れてた。

 それでも二人はいつも私の手を離さないのだから、笑うしかない。私も離したくないと思った。

 最近になって村にはペスカ商会がたくさんの施設を作ったことで、マサの街に合併されることに。
 農場もどんどんと拡張されて、人がたくさんやってきた。いい人も悪い人も。

 自分たちの親も忙しそうにしている。

「今回の依頼が終わったら、ミラコ村に戻ろうと思うんだ。」

 集団討伐依頼を受けた夜、ギルドの部屋でロビンが言った。

「もう村じゃないけどさ、俺達の故郷だろ?親の手伝いとかしようと思って。」

 私が驚いて固まっていると、右手をロビン、左手をシルルがきゅっと握る。

「それにヤナは村に帰りたがってたでしょ。」

 シルルが言う。確かに少し疲れていたかもしれない。でも、一度も言ったことは無いのに、いつも二人は気づいてくれる。

「だからさ、帰ったら三人で一緒に暮らさないか?」

 周りからはシルルとヤナが恋人で、ロビンはナイトと言われていたが、本当はそうじゃない。

 ロビンもシルルもヤナのことを愛しているのだ。そして、ヤナはどちらかを選べなかった。
 なら、三人でずっと一緒にいようとなったのだ。
 私はうなずいて、二人の手をギュッと握り、それぞれの手の甲にキスをした。
 二人もとても嬉しそうに微笑んで、抱き合った。みんなで笑い合って、これからの生活に思いを馳せた。


 そうして参加した最後の討伐は、想像以上に大変だった。
 倒しても倒してもどこからともなく現れるオオトカゲ達にみんな疲れ果てていた。

 倒して拠点に戻り、また出たと聞いて、チームを分けて森に入る。そんな生活を一ヶ月程していたところで、事件に巻き込まれた。


 原因は私だった。


 森の中、木の上からオオトカゲを狙って弓で撃つ。ヒットアンドアウェイで適度な距離をとっていた、ハズだった。

 突然現れたもう一体のオオトカゲ。その振り回された前足に避ける間もなく、吹き飛ばされた。
 ゴキリという骨の折れる感覚と血の匂い、激痛、意識が遠くなった。

「ヤナーー!」

 シルルの声が響く。同じくオオトカゲに襲いかかられていても、防御の結界が付与された装備からきちんと発動しているのが、歪む視界から見えた。

 メラーニ商会が開発した魔法の入った魔石。私達ももちろん持ってる。
それぞれに贈った魔石はそれぞれの装備に、これの利点は魔力を込めれば、再び使えること。

 ただ私の魔力は少なくて、昨日は魔力を入れられなかった。シルルに言えば、すぐに入れてくれるだろうけど、みんなとても疲れてて、泥のように眠るロビンとシルルを見たら、とてもじゃないけど、頼めなかった。

 瀕死の私に二人はギルドから支給されたシルルのエリクサーを惜しみなく使った。

 残りは私とロビンの持ってるエリクサー。回復薬もほとんど無くなった。戻って買い足さないといけない。


「なんで魔力入ってないの黙ってたのよ。ヤナが死んじゃったら、私耐えられない。絶対に許さないんだから。」

 意識が戻った私の胸元をぎゅううっと握りしめながら、ぼろぼろと涙をこぼしてシルルが怒る。ロビンも小刻みに震えながら泣いていた。それくらい瀕死だったのだろう。

 エリクサーに助けられた。助かって良かった。そう思えた。

「ごめん。シルルもロビンも、本当にごめんなさい。っご、ごめん。…ふぇっ、ごめっえええん。」

 シルルに怒られて、私も涙が止まらなくて、三人で抱き合ってわんわん泣いた。
 その間、シルルは泣きながらロビンと私の装備の魔石に一つ一つ丁寧に魔力を込めていく。私達はされるがままだ。
 みんなでお揃いのブレスレットに指輪、ロビンの剣の柄、他にも色んなところに付けた魔石を一つ一つ撫でていく。
 最後に私の垂れ耳の毛の中に隠れるようにしてつけたピアスに優しく触れた。

「シルル。ありがと。ごめんね。」

「次黙ってたら、絶対に許さないんだからね。」

 やっとみんなの感情が落ち着いたところで

「これ以上は無理だ。もう帰ろう。」

 真剣な顔のロビンが言う。私もシルルも小さく頷いた。
 もうマサの街に帰還する旨の魔手紙を飛ばす。

 こうしてオオトカゲに追われて、森の奥深くに逃げ込んだ私たちは、拠点に戻ろうと引き返す。

 今思えば、この時すでにおかしかったのだ。
 ロビンは空間認識能力が高く、マッピングのスキルもあって、今まで道に迷うことなどはまずなかった。
 なのにどこか自信なさげに森を進んだ。
 
「お急ぎのところすいません。」

 そんな時に、そう言って現れたのが、マクリク国の第五王子の一行だった。

 
 

 
 
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