愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
89 / 106
隣の国はどんな国?

6 安否確認

しおりを挟む

 クスノキの根元に倒れた人の脚が見えた。一人じゃない、何人かの脚だ。

 近づくと薄い結界の光が見える。

 一番下に魔法使いのシルル。シルルを抱き込むロビン。その上に覆いかぶさるように弓使いのヤナがいた。三人共、顔色は真っ白で、意識がない。
 もしかしてって、最悪の想像がおれたちの背中に冷たい汗を流す。

「ロビン…。」

 ダンが鼻をすすりながら、小さな声で呼ぶ。

『じかん。うごく。いそいで。』

 精霊たちのぽそぽそとしゃべる声が聞こえた。
 えっ?と驚いている間に目の前の結界が解かれ、たくさんの精霊がブワーッと飛び出てきた。

 精霊の光で前が見えないくらいだ。数秒で前が開けて急いで三人に近づく。

 シルルはお腹から出血してて、ロビンは背中を斜めに切られてる。

 そして一気にそれぞれの傷口から、ドクドクと血が流れだした。
 特にシルルの背中に大きな血だまりが出来る。

『じかん。うごく。』

 その意味が理解できた。きっと精霊たちが結界内の時間を止めてくれてたのだろう。

「ダン。これを。」

 エリクサーを渡そうとすると、止められて、苦しそうな顔をして、ダンは回復薬を出した。

「二人には悪いけど、治しちまうと怪我の状況が分からない、誰かに見てもらわないと。」

 そう言いながら、初級の回復薬をかけていく。

「……ひどい。」

 シルルはお腹からだけではなくて、よく見れば背中から刺されて貫通してた。初級では間に合わないからと中級の回復薬を使った。
 これでとりあえず出血は止まったけど、まだ傷は残ったままだ。顔色も悪いし、意識も戻らない。

 特に切られたんじゃなく、刺されたシルルの状態が心配だ。

 誰かに来てもらおう。って思った時には体が動いてた。

「ダン。ちょっと待ってて。」

 そう言って、転移でギルマスの部屋に飛んだ。

「!!!」

 部屋には副ギルマスのディネルースさんだけがいた。突然に現れたおれに、一瞬固まるが、すぐに警戒を解く。

「ディネさん。ギルマスは?」

「ウルスなら下で解体手伝ってるわ。前線からかなりの人数が帰ってきたから。一気に買取が上がってきて、間に合わないのよ。」

「じゃあディネさんでいいや。お願い、ちょっと一緒に来て。」

「え?ちょっと、あっ。」

 返事を聞く前に、ディネさんの手を取り、すぐに飛ぶ。

 パッと森の中に戻ってきた。

 少し離れたところにクスノキが見える。流石にディネさんも驚いてるみたい。

「!!!っマコト。ここは…まさか、国境?はっ。」

 そう言いながら、三人を見つけたディネさんは、すぐ近くまで駆け寄ると、いつものポーカーフェイスが少しだけきゅっと苦しそうな顔になって、ほんの少しだけ微笑んだ。

「…よく、生きて…。」

 きっと心配してたんだと思う。ギルマスも副ギルマスも優しいの知ってる。

 ディネさんは素早く三人の様子を確認しながら、次々と指示を出す。

「ダン。魔力回復薬はある?ヤナは魔力枯渇だわ。
マコト、とりあえずギルマスとジュードも連れてきて。
あと、ダンたちを案内した部屋に空間魔法でもう一部屋広げられる?ベッドを三床、お願い。」

 ディネさんは創造に空間魔法も使えるのは知ってるから、どんどんと指示をくれる。おれは頷くと、イヤーカフに触れてジュードを呼ぶ。

『ジュード、ちょっとおれのところ、来れる?』

「呼んだか?」

 次の瞬間には隣に居た。

 うわっ。めっちゃ早い。

 つい抱きつきたくなっちゃうけど、今はそれどころじゃないから、我慢する。

「うわっ。早すぎ。」

 ダンも呟く。余りの展開の速さについて行けてないみたい。目を白黒させながら、なんとかいるって感じだ。

「ジュード。詳しいことはダンに聞いて。」

「は?」

 そういうと返事も聞かずにギルドに戻る。

 自分の借りた部屋に飛んだおれは、その部屋から、隣の部屋に行ってトントントンとノックする。

「すいません。急いでるので開けます。」

 返事も聞かずに扉を開ける。鍵が掛かってるけど、精霊がチョチョイと開けてくれた。

「え?え?ナカセ?」

 部屋にいたダンのパーティメンバーが驚いている。

「すいません。急ぎなので、詳しいことはまた後で。ちょっと部屋の隅に避けててもらってもいいですか。」

 みんなが部屋の隅に集まるのを横目に、自分の部屋側の壁に、なんかブローチみたいなのを当てた。

 えいっ。っと気合を入れるジェスチャーと同時に、隣に部屋ができる。隣にはトイレももちろん完備だ。

 ダンの仲間たちはぽかーんと口を開けてこっちを見てる。

「この魔道具便利ですね。」

 そう言いながら、部屋に入りベッドを準備する。部屋の中にシンクも作って、水回りを充実させる。
 マジックバックから出すふりしながら、創造で包帯とか消毒液とかガーゼとか次々と出していく。
 こんなの無詠唱でポンポン使ってるのが周りに知られると良くないので、魔道具でやったことにしとく。

「あっ、今から怪我人が転移してくるんで、ベッドの上にいてもらえます?ここに来るから。」

 おれの作った部屋は異空間になるから、転移で直接は行けない。ダンたちに与えられた部屋から扉で入るのだ。
 手でこれくらいと円を描いた。
 転移してきた時に人がいると、ぶつかったり、最悪の場合混ざるらしいので立入禁止の範囲を明確にしとく。
 混ざったらどうなるのか知らないけど。あんまり想像したくない。
 ダンの仲間に了承をもらって、部屋を出たら、急いで地下に向かう。

 急いで向かったのはギルマスのところだ、地下にある解体室に入って、ギルマスを呼ぶ。

「すいませーん。ギルマスいますかー?」

「なんだ?マコト。どうかしたか?」

 エプロンをつけた大男が出てきた。おれはその手を掴んでグイグイと引っ張って物陰に連れて行く。

「おい、おい。どうしたんだよ。」

「はい。いきます。」

 ウルススの声を無視して飛んだ。




 森に戻ると、応急処置の終わったうつ伏せのロビンと横向きのシルルが寝かされている。隣にヤナが座っていた。意識が戻ったんだ。よく見たら、ヤナのお腹にも血の跡がある。

「大丈夫?」

 心配したけど、ヤナのはもう治ってるって。

 ウルススはちょっと怒った声で聞く。

「一体どういうことだ?」

「まあまあ、とりあえず状況を確認して、戻ってから話を聞きましょう。
ヤナ、いいかしら。戻ったらすぐに二人の治療をするから。今の怪我の状態を記録させて。よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。」

 ディネさんがウルススにサラッと言うと、ゆっくりとヤナの腕を擦りながら、声音は優しく声をかける。
 するとヤナの目からボロボロと涙が流れだす。フルフルと震えている。流れる涙を隠すように両手で顔を覆いながら、何度もヤナは頷いた。
 よっぽど大変だったんだと思う。

 その間に、ダンがさっき見た空からの景色と、兵士の投げた魔道具から召喚された魔物の話をウルススにしていた。

 おれはウルススとディネさんにこの状況を見てもらわないといけないと思ったから連れてきた。ジュードにも。

 ジュードの風魔法で宙に浮いたウルススとディネさんは、それぞれの国の様子を空から確認して降りてきた。

 今は両国共戦闘状態だ。マクリク国側にはダンがオオトカゲを投げたから。

「詳しいことは、戻ってから。誰かに見られるのもまずいし、とりあえずギルドに戻りましょう。」

 おれはギルドのあの部屋に場所指定した転移魔石を、ジュード、ウルスス、ディネさんに渡した。

 ウルススがロビンを、ジュードがシルルを、ディネさんがヤナを連れて、順番に転移した。

 最後におれがダンと戻る。

 本当は全員一回で転移できるけど、魔道具とか魔石でしてるようにした。

 ジュードと相談して、あんまり派手に魔法を使わないようにしようって。
 まあ今日は結構使っちゃったけど。

 それに転移場所が部屋の真ん中だから、そんなに広くないしね。

 二人だけになったら、ダンがボソリと言う。

「ナカセがいてくれて、本当に助かった。ロビンたちを助けてくれて、本当にありがとう。」

 きっとダンの本心だろう。ダンの目から涙がこぼれてきて、ダンは慌てて腕で目を擦った。
 おれも思ったままに答える。

「うん。おれも見つけられて良かった。」

 本当に良かった。

「このことは絶対に言わない。それに何かあったら助けるから。」

 そう力強く言いながら、おれの両手を強く握って、ブンブンと振った。

「うん。その時はよろしく。とりあえず帰ろうか。」

 こうして、ロビンたちを助けることができた。



 

 




 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...