愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

5 強制ばいばい

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 クスノキの周りのオオトカゲを見ていたおれ達の周りを、ピカピカと光る玉が飛び回った。

 七色の湖から生まれた精霊たちは、おれの事を気に入ってくれたみたいで、いつも何人かついてくれてる。
 囁くみたいな声も聞こえて、意思の疎通もわずかながらできる。

 これはどうもおれだけらしい。

 ジュードは光る精霊の姿は見えるけど、声は聞こえないって。「これだけの玉が喋ってたらうるさくないか?」と、心配してた。うるさくないよ。小さい声だしね。

 といっても、基本的に精霊たちは自由なんだよ。
 おれについてくるのも自由。助けるのも、放っとくのも。
 優しいけどね。


 で、今おれの周りを飛びまわって何かを知らせてくれてる。

『はやく。いそいで。はやく。』

 光る精霊たちは、その光を点滅させながら、一目散にクスノキの根元に飛んでいく。

 精霊たちの飛んでいく先を見れば、通常の倍以上の大きさのオオトカゲたちが、ガンガンと何かを殴る。というより、前足で叩いてる。
 だけど何かに弾かれるのか、苛立った様子で攻撃してる。
 何か箱型に結界が張られているのか、見えない壁に弾かれている。そこに…誰かが倒れていた。

「…あっ。あっ!ダン!いたよ!」

おれの叫びでダンも気づいた。

「!ロビンたちだ!」

 おれが急いで向かおうとしたのを、ダンが止める。

「ナカセ!あんな大型の魔物に突っ込むなんて危険だ!」

 ダンは装備の大剣を軽々と片手に持って、もう片方の手でおれの腕を掴んでいた。

 今は精霊が手を貸してくれて、結界が辛うじて保たれているのかもしれない。気が焦る。

「でも、もうたぶん結界が消えちゃう!」

 おれはそう叫ぶと、腕を掴んだダンごと転移で飛ぶ。

 トカゲ共の少し離れたところに降り立つと、

「ちょっとだけでいいから、あいつらの気を引いて。攻撃はしなくていいから。っていうか剣で攻撃はしちゃダメ。もしするなら遠距離攻撃で。魔法とかね。じゃ、頼んだよ。」

「え?え?おい!ナカセ!」

 返事も聞かずにすぐに転移でダンの反対側に飛んで隠れる。

 ダンは諦めたのか、大きく息を吐くと、呪文を唱える。
 火の玉がドンッとトカゲに当たる。小さな衝撃に少しだけ首をもたげる。横を向いたトカゲに向かって

「おい、おら。こっちこい!トカゲ共!」

 ダンが叫ぶと残りのトカゲたちも、のそのそとそちらを向いた。
と、次の瞬間、さっきまでのノロノロが嘘のように、ダンに向かって突進してきた。

「うおっ。まじかよ。」

 飛ぶように後ろに下がるダンを追って、ドスドスと突進するオオトカゲの後ろに転移で飛んで、身体に触れる。

 パッとどこかにいなくなる。

「はっ?」

 驚きながらも逃げるダンを横目に、フッとオオトカゲのそばに飛んではどこかに消していった。

 一頭、二頭、三頭と次々消して、最後の一頭になった。

 その一頭の背中に飛び乗って、色々と魔法をかける。
 
「よし。無理しないで頑張ってね。」

 訳もわからず暴れるオオトカゲから、今度はダンのすぐ隣に飛んでダンの腕を掴む。

 身体強化を目一杯かけた。

「あと一頭どうすんだ?」

 パッと手を離すと

「ダンが言ったんでしょ。投げてやりてえって。身体強化したから、よく狙ってね。しっぽに飛ぶよ。」

 と、もう一度腕に触れて、二人でトカゲの尻尾に飛ぶ。

 ダンはおれの意図を理解してくれたみたいで、

「はははっ。マジか。じゃあ遠慮無く、やってやろうか。」

と、いつもの明るさで言うと、自分の何十倍もある巨体の尻尾を両手でしっかり抱きしめて、グルングルンと回しだした。

 こ、これはプロレスのジャイアントスイングじゃないか!
 白い部屋で色々と勉強したんだよ。動画とか見て。
 戦い方の参考になるかと、プロレスとか総合格闘技とかも見たんだよね。
 自分で技を出すのは、難しいからやんないけど。参考までにね。

 で、今、目の前で三十メートルはあろうかという、オオトカゲをグルングルンしてるんだもん。

 興奮しないわけないよね!

「うわあああ!ダン、すげーーー。」

「っ、ナカセ、マクリクの方向!」

 ぐるぐる回るから、わかんなくなっちゃったのね。
 おれはしっかり腕を伸ばして、

「あっち、駐屯地の真横狙って。あいつら優雅にお茶飲んでた。」

「っそりゃ、働きが、たり、ない、な!」

 ブオンッ

ものすごい風切音がして、オオトカゲが飛んでいく、おれの風魔法で微調整して最終目的地に誘導だ。

 森の遥か向こうで、ドスーンッという大きな音と、かすかな揺れを感じた。

 投擲完了したダンは、自分の両手を見ながら、ブツブツと言いながら震えてる。

「身体強化?凄すぎない?何今の。俺の力?軽々ポーンって…。すげえな…。」


 ちなみにいきなりオオトカゲが飛んできたマクリクの兵士たちは、逃げ惑ったり、なんだか大変そうだけど、今までゆっくりしてたんだから、しっかり困ればいいんだ。

「ナカセ。オオトカゲどこにやったの?」

「安全なとこ。」

 そう、他のオオトカゲはもれなく、おれたちの島の七色の湖に飛ばした。
 湖に落ちて、精霊たちに助けられて、普通のオオトカゲに戻って、平和に暮らしてるはず。

 これも精霊の声があったから、『おうち。おとす。あれ。おとす。おうち。わたしの。』
 なんて言うから、多分間違ってないと思うんだけど。もし溺れてたらどうしよう。
 だけど、殺せないよね。
 だって勝手に召喚されたんだよ?
 そういう魔道具があるのは知ってたけど、それを悪用してたのは許せない。
 タメリアの冒険者は一ヶ月以上、出てくる魔物と戦って、負傷したり、命を落とした人もいる。

 おれも少しでも役に立つようにと、ポーションやエリクサーを準備した、ギルマスは役に立ったって言ってくれたけど、それでも犠牲者はゼロに出来てない。

 最後の一頭には、結界と回復、あと数時間後に発動する転移の魔石を体に埋め込んだ。

 今頃、駐屯地で大暴れしてくれてるはず。向こうの攻撃は効かないし、犠牲が出るかもしれないけど、少々は仕方ないんじゃないかな?
 今回のスタンピードで、ペスカ商会の卸す薬はマクリク国にも配給できるくらい送ったはずだから、心配いらないだろう。
 時間が来たら七色の島に転移するようにしてある。

 こうしてオオトカゲ達のいなくなった、クスノキの根元におれとダンは急いで近づいた。


 



 





 

 
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