愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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隣の国はどんな国?

2 行方不明

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 ロビンとダンはそれぞれパーティで参加していた。

 タメリア国の東端、隣国マクリクとの境の広大な森で魔獣は発生していた。

 大型の魔獣は倒したかと思うと、新たな魔物がどこからともなくやってくる。
 ともすれば、ドラゴンと言っても過言ないサイズのオオトカゲがのそのそと這い出てくるのだ。
 このオオトカゲの好物は魔力で、そのため魔石を好んで食べる。
 魔力を含めば何でも食べるので、人間も例外では無く、捕食対象だった。
 雑食で、あたり構わず食いまわるので、放置すれば街まで襲われかねず、タメリア国と隣国のマクリク王国から、それぞれ討伐隊が派遣されたのだ。 

 タメリア国のギルドから派遣された冒険者たちは、広大な森の、それぞれの場所で闘っていたのだが、ロビンのパーティメンバーが負傷したと聞いた。
 ロビンとシルルは上級者だが、ヤナはランクが低く、これ以上は難しいと言う事で、戻る旨の連絡が来たと、人づてに聞いた。

 ダンの聞いた話はここまでだ。

 その後何があったかは分からない。

 
 ロビン達とは別行動をしていたダン達のパーティは、戦闘を終え、駐屯している一角にテントを立てて、休んでいた。

 そのダンたちのもとにマクリク王国の第五王子の護衛騎士とかいういかつい男が、この髪の毛だけ持ってきたのだ。

 ダンよりもかなり大きな身体で、表情がほとんど変わることはない。正に能面のような顔をしていた。

「これを。」

「どういうことだ?ロビンは死んだのか?」

「ああ。我が王子を庇われた。その後にも魔物が多数出てきて、残念ながら遺体を持ち帰ることは出来なかった。」

 ダンは怒りで頭が真っ白になるのを止められなかった。

 昨今、多くの冒険者がマジックバックを持つようになった。
 マジックバッグには生物は入れられない。しかし、死体は入る。
 それに解体する時間が無い時など、魔獣の死がいを入れたりすることがある。
 冒険者の常識では、仲間の遺体は連れ帰る。置いて帰るなどありえない。
 なので、なんで冒険者の遺体を持って帰れないのか、怒りのままに声が出る。

「てめえふざけんなよ。ロビンがなんで王子様とやらと一緒にいるんだよ。あいつらと一緒に家に戻ったはずだろう。」

 護衛騎士は襟首に掴みかかるダンを見下ろしながら、

「ロビン殿が護衛を買って出てくださったのだ。しかし、太陽神の加護がもたらされず、我々と連携がうまく取れなかった。その結果だ。」

 淡々と語る騎士に掴みかかるダンを、他の仲間が止める。ゆっくりとダンは手を離した。
 マクリク国の連中はすぐに太陽神の加護とか、お導きとか言ってやがる。

 騎士は黙って軽く乱れた首元を整える。

「…ロビンはどこに?」

「森の最奥マクリク側だ。」

「はあ?なんで国境越えてんだよ。」

「先程も言ったが、ロビン殿が護衛を願い出たのだ。」

「で、第五王子とやらはどこ行ったんだ?」

 ダンは落ち着きを取り戻し、静かに聞いた。

「太陽神のお導きとロビン殿の献身のおかげで、王都まで戻られた。」

「本当にロビンたちがついてきたのか?ロビンを見捨てたんじゃないのか?」

 ダンの言葉に、能面のような無表情だった眉が少しだけピクリと動いた。
 ロビンは明るいからか、軽く見られがちだが、根は真面目だ。
 困っている人を見捨てたり出来ないのも分かるが、だからって王子の護衛を買ってでるような、殊勝な性格ではない。どちらかといえば、ヤナとシルルのことを考えて面倒事は避けて通るはずだ。
 ダンはロビンとの長年の付き合いから、王室の人間の護衛になるなどありえないと思った。

 それに今、僅かながら反応があった。本当に見捨てて逃げたのだろう。そうダンは判断した。

「ロビンはパーティだったはずだ。他のメンバーはどうなったんだ?」

「……ロビン殿の亡くなる前に、行方不明になった。」

 剣士のロビンに、魔法使いのシルル、弓使いでシーフでもあるヤナ。
 三人は仲の良い幼馴染だった。
 シルルとヤナは将来を誓い合った仲で、ロビンは二人を見守るナイトだと周りからは言われていた。
 ロビンが妹のように可愛がっていた、あの二人を見捨てる訳がないんだ。

 話がどうもきな臭い。この護衛騎士とやらも、全く信用できなかった。

 ダンは拳を握りしめて、ぐっとこらえると

「この事は、マサのギルドに持ち帰らせてもらう。」

 とだけ言った。その途端

「 なっ! 貴殿らはマサのギルドの所属だったのか?ロビン殿も?」

 明らかな狼狽の表情を浮かべて、聞いてくる。

「そうだ。俺がどうこうできる話じゃないからな。ギルマスたちに知らせる。もし死んでるとしてもロビンの身体を迎えに行ってやらないと。」

と、護衛騎士に背を向けてパーティメンバーと共にテントを片付けた。

 じっとその様子を見ながら、立っているだけの男に目も向けず、ダンは聞く。

「ちなみにそれって何日前?」

「……三日前だ。」

 三日も魔獣が湧く森に放置されていたら、骨も残らないかもしれない。
 それでも、ロビンの元に行こうとダンは思った。そのためには一度マサに戻らないといけない。

 普通に移動すれば一週間はかかる。
 駐屯地のリーダーを務めていたS級の冒険者にパーティごと離脱する旨、声をかけると、敷地の外に出た。

 護衛騎士が後を付いて来ようとしていたのはわかっていたので、仲間がすかさず、認識阻害の魔法で隠してくれた。

 突然ダンたちを見失った護衛騎士は、他の騎士たちと共にダン達を探している。その捜索を避けて集落から少し離れたところに行く。

 ダンは仲間と共に、ナカセから特別に貰っていた、転移石でパーティメンバーと共にマサに飛んだ。

 そしたら先に帰っていった冒険者とちょうど鉢合わせたのだ。


 *******


 ギルマスの部屋ではギルマスに副ギルマス、ダンと慎翔がいた。

「話は分かった。こっちからもマクリクの王都のギルドに連絡する。」

「…ですけど、相手が悪いかもしれませんね。」

 ディネがぽそりと言う。

「隣の国ヤバイの?」

 慎翔が聞く。

「ギルドにも横槍を入れてくる。王家の力が強すぎるんだ。あと太陽神信仰が熱心だな、あの国は。そこの王族が冒険者が勝手にやったといえば、そういうことになっちまう。」


 ダンはうつむいて下ろしたままの拳をギュッと握った。しかし、すぐに顔を上げる。

「しかしそのまま森に放置するなんて、酷すぎる。」

 怒れるダンにギルマスは静かに言う。

「まあそのほうが都合がいいんだろう?」

「いくつか報告が上がってます。マクリク国とのトラブルは。原因もおおよそ分かってますが、王族が絡むとは思ってませんでした。しかし、よくよく考えればあり得る話ですね。」

 慎翔にはどういう事か分からず、聞こうとしたら、扉がノックされた。

 開いた扉の向こうには、ジュードの姿があった。


 

 

 
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