愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
83 / 106
新しい世界

80 それからのふたり 【完】

しおりを挟む

 ぴちゃん。

 あったかい。気持ちいい。意識がフワリと浮上する。

「んっ。ん?あれ?」

 目を開くとお風呂の中だ。湯船でチャプチャプしている。

 床に掘り込んだ形の湯船は深く、ゆったりしてる。

 脇からお腹にかけて、おれを支える腕が見えた。

「起きたのか。大丈夫か?」

 耳元にイケボが響く。

「はうっ。」

 さっきまでのアレやコレのせいで、ゾクゾクしてしまって、ドキドキした。

「な、なんで?お風呂?」

 ジュードに後ろから抱きしめられながら、お風呂に入ってる。

「ん。綺麗にしてやりたかったからな。クリーンでも出来るけど、余韻に浸りたかったんだ。」

 そう言いながら、頬をすりすりしてきたり、項にチュッとキスされたりして、身悶える。
 目も冴えてきたから、残念がるジュードの膝から降りて、隣に座る。
 
 するとジュードが肩を震わせ笑い出した。

「ふっ、本当に大きくなってて。まさか、こんな姿になるとは思わないだろう?」

 くっくっ、と笑う。

「えー?いい方法だと思ったんだけど。」

 大きくなった手にもちゃんと指輪が光ってる。その手を握られると、チュッと指先にキスされた。

「うん。初めてをくれてありがとう。嬉しかった。」

 珍しく前髪をかき上げ、だけど一ふさ黒い艶髪を垂らした、裸のイケメンが、上目使いでおれの手にキスしてる。
 恐ろしいほどの色気だ。
 しかも蕩けるような笑顔だし。

 おれの胸はキューンって音が出るくらい、苦しくなった。ドクンドクンと心臓が跳ねる。

「お、おれも初めてあげれて良かっ」

 と、言っているところで、ぐううううう、と盛大に腹の虫が鳴いた。

 二人で顔を見合わせて、笑う。
 もう一回触れるだけのキスをして、また笑って、ものすごく幸せだと思った。

 お風呂を出て、服を着る。
 創造で自分サイズの服を出して着ていたら、

「服あったんじゃないか。」

 ジュードがなんとも言えない、顔で言うから、

「あー、だって変わりすぎて、嫌われたらって思ったら、怖くってさ。誘惑しようかなって。」

 そうなんだよね。
 白い部屋で時間の流れを変えて、成長促進してる間に、それとなくジュードが帰れないように妨害してもらったんだよね。

 で、なんとか、プレゼントとか置いて、白い部屋に行っちゃうと困るから、二階って分かるように、矢印を書いた紙を貼ってたら、ジュードが転移で帰って来ちゃってさー。
 焦って二階に上がって、寝室に入って、洗濯終わりのジュードのシャツを着て、掛ふとんは剝いで、シーツを被ってたわけ。

 思ってた以上に自分が大きくなってて、シャツでギリギリ太ももだったの、どうしようって思ったけど、心琴の持ってきた教本にも、彼シャツってあったから、これでその気に出来たら良いなって。

 ちょっとした打算的な考えもありながら、まあ結果は大成功ってことかな。

 つらつらと説明すると、眉間に深いシワを刻みながら、なんとも言えない難しい顔をする。

 途端におれは不安になって、

「ごめんなさい。嫌だった?前のまんまが良かった?」

 ふわっと正面から抱きしめられる。

 いつもはみぞおち辺りに顔があるんだけど、今日は肩におでこが乗せられる。
 
「いや、嫌じゃない。俺のためにありがとう。最高の誕生日になった。」

「あ、そういえば今何時?もう誕生日終わっちゃった?」

 多分今は真夜中かな?月も沈んだのか、外も真っ暗だ。

「だが、お腹空いたろ?俺も夜、食べてないから、何か食べよう。」

 こうしてリビングダイニングに行くと、すでに暖炉に火が入っていて、テーブルの上には、茶色いケーキが置いてある。

 そして、机に突っ伏した心琴と、その肩を叩きながら笑っている燈翔がいた。

「お誕生日おめでとう。ジュードさん。もう昨日だけどね。」

 燈翔が笑いながら言う。

「どしたの?心琴。」

 おれが聞くと、

「見たかったのにー。めちゃくちゃ楽しみにしてたのに。これで次の本書くって約束してたのに。せめてちょっとくらい見せてくれても良かったのに~。」

 いつものすました様子は無い。

「そう言っても、途中までは見てただろう?」

 ジュードが聞くと、

「あんな不思議道具で、あそこに入るようになるなんて!どんなものか後学のために知りたかったのにー。」

「いやいや、ダメって言ったよね?おれで勉強しないで?」

 そのやり取りをけたけたと笑いながら、ケーキを人数分に切り分けて、配っている燈翔。

 おれも保管してあったバサンの唐揚げをどーんと出した。
 ジュードも酒とジュースと果実水を手際よく出す。

「今日のケーキはチョコケーキ。歌はジュードさんの希望により、割愛。というわけで、カンパーイ。」

 燈翔の強引な音頭で今度はジュードの誕生会を楽しんだ。

「ありがとう。生きてきて、こんなに幸せを感じることが出来ると思わなかった。」

 ジュードもいつもより饒舌で、笑いながら酒をどんどん飲んだ。おれは年齢が行ったり来たりしてるから、飲まないけど、燈翔も心琴も大学生で成人してるからか、ガブガブ飲んでた。

 こうして楽しい誕生会は終わった。そして、燈翔と心琴に白い部屋に連れて行かれて、十五歳に戻してもらった。
 急にこんなに変わったら、街、歩けないし。ギルドの仕事も困るもんね。ジュードはちょっとがっかりしてたけど。

 そして、その週末にはメラー二家で盛大にお祝いされた。

 あの家で一番きらびやかで絢爛豪華な大広間に、折り紙で作った庶民的な飾りがたくさん付けられてて、紙の花もたくさん飾ってあった。
 メラー二家の人たちにはこの飾りが大好評で、それからの定番になるんだけど、それはまた別の話。
 ジェレミア父さん、ベリタ母さんを始め、子どもたちにトーマスさん達年長組に、ギルドでお世話になった人たち、そしてサキさんにガロさんも来てくれて、順番にプレゼントを渡される。おれは驚いたり、喜んだり、大興奮でパーティーを楽しんだ。
 本当に、本当に楽しかった。




 薄々気づいていた事がある。

 月日が流れて、ウルススさんとディネルースさんは、ギルドの役職を辞すると、二人で生活をはじめた。
 エルフのディネさんは、かなりの長寿だけど、ウルススさんはそこまでじゃなかった。


 ウルススさんはお爺さんになって、やがて死んでしまった。ウルススさんの葬儀は、ディネルースが喪主を務め、おれたちは離れたところからお別れをした。おれはジュードの胸にしがみついて、涙を零さないように、ぐっと奥歯をかんだ。
 ディネルースさんはそのあと、エルフの里に帰って行った。
 そしてその数百年後にディネルースさんもひっそりと息をひきとった。


 おれたちはほとんど見た目が変わってない。
 ジュードは出会った頃のままだし、おれも二十歳過ぎで見た目が変わらなくなった。

 もしかして、という予感はあった。だから、誰かから何か言われる前に、街を離れた。

 丘の家は綺麗に繰り抜いて、丸ごとあの島に移した。もちろんくり抜いた穴は塞いだよ。

 本当に魔王城に魔王様が住んでることになるなーなんて、二人で笑った。本当はお城なんか無くて、ログハウスなんだけどね。

 メラー二家は代替わりをしてしまったけど、秘密の暗号を伝えていて、何か困ったことがあれば、必ず駆けつけると約束している。
 母さんの魂は定期的にメラー二家の人間に転生しているから、その代の時だけ顔を出すようにしている。
 メラー二家は神の家系なのだ。


 今日も森の外れの家から、海を眺める。

 ジュードと長い年月をかけて、世界中、旅をした。帰りたくなったら、この島に跳んで。出かけたくなったら出かけて。

 時々白い部屋から元の世界に遊びに行ったり。

 本当に魔王を倒そうと、勇者一行が島の近くまで来たり。

 色んな事があったけど、それはまた別のお話。

 こうして二人は、ずーっとずっと一緒に、仲良く暮らしました。


 章 新しい世界   完


 






 

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

きみが隣に

すずかけあおい
BL
いつもひとりでいる矢崎は、ある日、人気者の瀬尾から告白される。 瀬尾とほとんど話したことがないので断ろうとすると、「友だちからでいいから」と言われ、友だちからなら、と頷く。 矢崎は徐々に瀬尾に惹かれていくけれど――。 〔攻め〕瀬尾(せお) 〔受け〕矢崎(やざき)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...