愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

77 予想外の出来事 ジュード

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 今日は思い通りにならない日だと思った。

 昨日、ヒノトとミコトの招待で行った白い部屋は、いつもとは全く違った、俺からすれば異世界だった。

 見たこともない道具や食事、様々なゲームに、……楽しい会話。
 あんなふうに大笑いしながら遊んだことなんて無い。

 本当に楽しかったのは確かだ。

 しかし、今はメラー二家でベリタ夫人と子どもたちと一緒に、何故か部屋飾りを作っている。
 確かに昨日、ミコトに作り方と色紙をもらった。
 この週末に泊まりに来る予定なので、その時のパーティーの飾り付けにどうだろうか?と、提案だけ、しに来たハズだった。

 実物を少しと、材料を持って行ったら、家に帰るつもりだったのに、ベリタ夫人とエリザベスの「一緒に作ろ。」の一言で、俺の居残りが決定した。

 昨日は慎翔の誕生日で、今日はヒノトとミコトが言うには、俺の誕生日らしい。

 なのに俺は今日、慎翔に会っていない。

 昨日は、俺がオセロというゲームに夢中になって、ヒノトと対戦している間に、ソファで慎翔は眠ってしまっていた。

 連れ帰ろうとすると、ミコトに止められた。

「今日はこのままここで休ませるね。明日起きたら家に帰すから。心配しないで。」

 確かに朝からバタバタと過ごして疲れたのだろう。

 しかし、想いを通じ合わせて最初の夜に別々とは…。
 微妙な感情が顔に出ていたのか、ヒノトに聞かれる。

「連れて帰って我慢できるの?初夜だよ。初夜。」

 その明け透けな言葉に驚いて、カッと目を見開く。

 初夜?
 初夜と言っても、慎翔は見た目は少年で、いつも明るくて、色事の気配も感じさせない雰囲気だ。

 それに年齢は十五だった。

 あの島で初めての濃い口付けの後に二人で確認して、俺もがっかりしたのだ。
 それ以上に慎翔は申し訳無さそうに、「ごめんね。」と謝っていた。
 気にしなくて良いのにな。

 俺はちゃんと慎翔が大人になるまで待てるハズ…、あと何年だ?

 少年の慎翔だが、時折見せる大人びた瞳。いつもどちらともなくキスをするが、その時に魅せる瞳の色は、間違いなく大人のものだと思う。
 俺はあの瞳を見せられて、我慢できるのだろうか?

 スースーとよく眠る慎翔の横で、悶々と悩んでいたら

「うん。危ないからダメー。」

 二人が腕を交差させてバツ印を作られた。こうして神に止められた俺は、がっくりと一人寂しく家に帰った。

 そして翌日の朝。慎翔からの「おめでとう」も聞けないまま、メラー二家にやってきたのだ。

 色薄紙を蛇腹に折って真ん中を紐で結ぶ。紐の部分で2つに折り、そのまま一枚づつ薄紙を広げていくと牡丹のような花飾りが出来る。
 子どもたちは手分けして輪っかの飾りと花飾りを作っている。

 するとそこへジェレミアがやってきた。

「ジュード。いいところに居てくれた。今から首都の店に行かないといけないんだけど、護衛が腹を壊したらしく、人が足りないんだ。代わりに護衛を頼めないかな?」

 銀色の髪をサラリと流しながら首を傾げて頼んできた。

「…………はい。」

 メラー二家には世話になってる。転移で行く位ならそんなに時間もかからないだろうと。思ったのが、間違いだった。
 
 首都では思った以上に時間が掛かった。
 やっと戻った時には日は傾いていた。

「ギルド依頼にしたから、ギルドで報酬を受け取って帰ってね。」

 ジェレミアにそう言われて、ギルドに寄ると、人だかりが出来ていた。
 聞けば、出入り口で冒険者同士で喧嘩があり、魔法でめちゃくちゃになってしまって、今修理中だと言われた。

 早く帰りたいのに、と、一つ舌打ちが出る。

 俺が腕を振ると瓦礫が風で隅に集められる。受付までの道が開けた。ちょっと何人か巻き込んだかもしれないが、気が付かなかったことにしよう。
 慎翔が売り出した防御の魔石が発動してたのが見えたからな。怪我はないだろう。

 っていうか、知るか。

「もう入っていいだろう?」

 俺は唖然として固まった奴らの横を通り抜ける。

 中に入ると、受付は無人だった。
 俺の精算は誰がしてくれるんだ。
 もう帰ってもいいんじゃないか?

 今度は地下が騒がしい。ひょこっとギルド職員のアスターが出てきた。

「あー、ジュード!ちょうどいい所に来た!さっきの爆発で地下に居た魔物が何匹か逃げちゃって。ギルド内には居ると思うんだけど、探してくれない?」

 魔物の研究のために、捕獲されることもある。それを収容している地下の一部が崩れたらしい。

 俺はもう一度舌打ちが出た。

 少し位怒気が漏れてもしょうがないだろう?

「うわっ。怖っわ。ジュードなんで怒ってんのさー。」

 アスターに軽く言われながら、地下に進み、壊れた檻となる部屋を結界魔法で補強しておく。

 小型のものは職員でも捕まえられるので、そちらは任せた。
 向こうでは、居合わせた冒険者が中型の魔物と対峙していた。

 ウルフが二匹唸り声をあげているのを、風魔法で吹き飛ばした勢いのまま、檻の中にたたき込んだ。

 そんなこんなで、あらかた魔物を捕獲しなおして、ある程度落ち着いたところで聞き慣れた声が聞こえた。

「おいおい。何の騒ぎだぁ?」

 そう言いながら、ギルマスのウルススと副ギルマスのディネが帰ってきたのだ。

 この二人は今日は不在だったらしい。確かに、どちらかがギルドに居れば、こんな大騒ぎにはなっていない。

 どうしても恨みがましい視線になるのはこらえてほしい。

 俺の視線でウルススは一つため息を吐くと、

「おう。おつかれさん。後のことは、こっちでやるから、精算も明日でいい。いや、来れる時でいいわ。」
 
 早く慎翔に会いたい。
 その思いとはうらはらに、ジェレミアに声を掛けられ、首都に転移で行く護衛にさせられたり、ギルドで足止めをされたり、何か作為的なものを感じずにはいられない一日だ。

 しかし、ギルマスが構わないと言っているのだ。もう付き合ってやる必要も無いだろう。

「じゃあ。帰る。」

 そう一言だけ告げて、ギルドを出た。
 すっかり外は真っ暗だった。満月が夜の闇を少し明るくする。

 いつもなら歩いて帰るのだが、今日は無理だな。
 パッと転移で家の前に立った。

 家の窓からは明かりが漏れていて、慎翔が帰ってきていることを教えてくれる。

「ただいま。慎翔?」

 玄関の扉を開いて、靴を脱いで中にはいる。

 てっきり「おかえりっ。」とお出迎えがあると思ったけど、家の中はとても静かだった。

 リビングダイニングに行くまでに、右手の台所の扉を開き、中を伺う。

 一階に人の気配はない。

 灯りのついた一階の、リビングのローテーブルの上には、綺麗に畳んだ濃紺のバンダナが置いてある。
 そこには【誕生日おめでとう。ジュード】とカードが置いてある。
 慎翔が置いたのだろうが、その本人の姿が見えない。

「慎翔?」

 白い部屋への扉を見ると小さな紙が貼ってあって、上向きに矢印が書いてある。

 上?二階か?

 俺は二階に上がる。

 元は俺の寝室だったが、二人で眠るようになって、ベッドをキングサイズに新調した。

 慎翔がいるとしたら、寝室だろう。

 俺は寝室の扉を静かに開けた。





 

 

 
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