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新しい世界
68 特別授業 2
しおりを挟む手のひらに乗せられた小さな青い棒。おれは呆然とそれを眺める。
このひと粒にそんな効果が…。
「男は濡れないからね。傷になったら辛いし、浄化も必須。」
リオンさんがさっきしたハンドサインを思い出す。
棒をイン。お尻にだと思うと、きゅっとお腹の中が縮みあがる気がした。
「あと、この白いのを追加で入れると、避妊になる。」
「避妊?」
そっか、男女も種族も関係ないって言ってたもんね。
「そうだよ。やっぱり望まない妊娠ってあってね。そうならないようにこの二種類のスキンがあるんだよ。この白いのを入れると、最後にスライム状になって、出されたものを包み込んで、ずるっとまとめて出して捨てる事が出来るんだ。」
「ずるっと…。」
リオンさんにスキンを返すように促され、手のひらにあった青い棒を返す。
「これは女性とする時もそう。避妊は大人の絶対的なマナーだから、成人したら各自で持っとくといい。」
リオンさんは再び椅子に座ると、ニッコリしながら聞いてきた。
「で、みんなは入れるか、入れられるか、なんとなくイメージ湧く?」
入れるか、入れられるか…。
おれはジュードの大きな身体にすっぽりと抱き込まれた温もりを思い出す。
「マコト様は…まあ悩む必要も無いかな。」
まあね。分かってるよ。おれがジュードになんて、絶対無理。
「僕は…わかりません。」
「僕も…。」
カミルとカレルは俯きながらボソボソ答える。
そんなに濃くない褐色の肌が、おれが見ても分かるくらい赤い。
俯いた首元が二人共真っ赤だ。
「じゃあ、好きな人はいる?」
二人共バッと顔を上げる。お互いに顔を見合わせると真っ赤になって俯いた。その様子はお互いの思いに気付いた恋人同士の感じにも見える。
あれ?そうだったっけ?
おれの疑問をよそに、それを見たリオンさんは
「んー。近親者の恋愛はちょっと難があるんだけどねー。兄弟は特にね。」
って渋い顔をする。
二人は今までにない勢いで立ち上がって、リオンさんに否定する。
「ち、ち、違います!カレルじゃありません。僕にはちゃんと他に好きな人がいます。」
「そ、そうです。カミルは兄です。ありえません。」
「今のはお互いがお互いの感情に引っ張られたせいです。」
二人は必死になって、おれたちに身を乗り出して言ってきた。
「お互いの感情?」
っておれが聞くと、
「僕達双子なせいか、精神的にシンクロすることがあって、今のもお互いに好きな人の事を思い浮かべたので、す、す、好きの感情が溢れ出したんです。僕達お互いのことは家族としての親愛です。」
なるほど。お互い好きな人のこと思い浮かべたんだ。
トーマスさんとダニエルさんの顔を思い浮かべる。
確かカミルとカレルは、義兄である二人に対して、親愛以上の物を持っているんだろうな。って。
「まあね。僕も知ってて、からかっただけなんだけどね。」
リオンさんはニッコリ笑いながらケロッと言う。ぐっと二人が黙る。ちょっと唇が尖っているから、悔しいの我慢してるみたい。
「ごめん。ごめん。馬鹿にしたわけじゃないよ。お父様からも想い合うなら反対はしないって言われてるから。」
ん?て言うことは、みんなこの二人が誰を好きか分かってるってことか。
二人はリオンさんの言葉に目を丸くして固まっている。
「うちはほら、養子ばかりだからね。元は他人でしょ?血のつながりの心配はあんまり無いと思うんだ。トーマス兄さんとダニエル兄さんは実の兄弟で、カミルとカレルも兄弟だけどね。それ以外の恋愛は自由だって、お父様とお母様は考えてるよ。」
それは二人がトーマスさんとダニエルさんと一緒になりたいと思っても反対しないってことか。
二人は顔を見合わせて、ぱあっと晴れやかな表情になる。
「はい。分かりました。」
カミル達はまだ十二歳だ。大人になるまで学校に通ったりするから、それまでに新しい恋愛もあるかもしれない。
今の二人の感情が愛情なのか、憧れなのか、まだ時間はあるよね。と、リオンは思った。
「そういえばリオン兄様ってなんで学院行ってないの?」
ふとカレルが聞いた。
何でも上の三人は首都にある五年全寮制の学院に十五から通っていたのだそうだ。
でも、リオンさんは十九歳って言ってた。本当なら、学院に通っているはずだ。
「僕はねー。みんなの先生役だからね。マサの三年制の学校を卒業したよ。で、卒業してからは本家の手伝いをしてるんだ。主に子守だけどね。」
とても楽しそうに話すリオンさんに、ふと思ったことを聞く。
「何か理由があるの?ここから離れないの。」
おれを見て、びっくりした顔をしてる。
「マコト様は鋭いねえ。さっきも言ったけど、僕は獣人の血が濃く出たみたいでね、分かっちゃったんだよね。」
するとカミルとカレルも興味深そうに聞いてきた。
「何が分かったんですか?」
「僕の運命の人。」
何でも獣人は運命の人が匂いで分かるんだって。人族には、それは分からないから、僕だけが知ってることなんだけどね。と笑いながら話すリオンさん。
「絶対に秘密にしてくれる?」
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「ふふっ。誰にも言ったことないんだけどね。
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やっぱ運命って分かるんだ。
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