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新しい世界
65 雪の日 メラーニ商会 2
しおりを挟むニッコリと笑うおれと、嫌そうな顔をして靴を渡すオーレンさん。
おれはそれを受け取るとズボッと靴の中に手を突っ込んだ。
「うわあ。お前何やってんだよ。」
オーレンさんがギョッとして、慌てて止めようとする。それをトーマスさんがやんわり止める。
「まあまあ、オーレン。ちょっと待っててよ。」
ガバッとトーマスの方に振り向いたオーレンさんは、さっきまでの余裕ありげなイケメンではなくなっていた。
「待ってって、こんな可愛い子に、おまっ、なんで、お、俺の汚え靴に手ぇ突っ込ませてんの。」
さっきまでの爽やかイケメン、ちょいワイルド風味は、今ではチンピラ風になってしまった。
口調がすっかり変わってしまっている。
それを見ながら、トーマスさんは「ははははっ。」と笑っている。
うわあ。と取り乱すオーレンさんを見ながら、おれは靴の底の部分にさっきの浄化の粉を、手のひらに創造で作りながら付与する。オーレンさんは、身長が高いだけに、全部大きい。
靴も二十八センチはありそう。おれの手が楽に入れられるし、靴底に手のひらがぴったりつけれる。いや、まだまだ余裕もある。
ゴソゴソと靴底を撫でる様を、顔色悪く見ているオーレンさん。
浄化の魔法で臭いも無くなったので、トーマスさんに靴を渡した。
「人の靴の匂いは好き好んで嗅ぎたいものじゃないね。」
そう言いながらも靴に顔を近づけて、匂いの確認をした。
「おい。トーマス!やめろって。」
とうとう、雇い主の名前を呼び捨てだ。
「うん。本当に匂いも何も無いね。はい。オーレン。返すよ。」
にっこりと機嫌よさ気なトーマスさんとは打って変わって、ちょっと半泣きみたいになってるオーレンさん。
「訳分かんねえよ。」
そのまま行儀悪く床に座りこんで、靴を履きだした。
どうもこっちのが素みたいだ。
「マコト。オーレンは私の幼馴染なんだよ。学生時代からの友人、いや、孤児院時代からね。」
そっかだからこんなに気安いんだ。友達なんだね。トーマスさんも信用してるから、護衛騎士になってるんだね。
更には友達だから、おれの実験台にしてくれたんだ。
なんでも一応貴族らしい。三男か何かで、あんまり気にする必要は無いって言われた。
オーレンさんがワイワイ言ってるのを見ながら、謎が解けてニコニコしちゃう。
だってトーマスさんめっちゃ面白がってるし。
片方履いて、もう片方を匂って、目を見開いて固まった。
「え?なんで?臭くねえ。」
逆さにして下から覗き込んで、匂いを嗅いで、下ろして靴の中に手を突っ込んで、触ってまた驚いている。
「どう?これ売れそう?」
トーマスさんが聞くと、
「いやヤバイだろ。これって何が入ってんの?」
「浄化の魔石を粉状にして塗りこんだ。で、それを付与した。」
オーレンさんはもう一度、今度は顔が靴の中に埋もれるくらい突っ込んだ。
いくら何でも靴に顔突っ込むのは、イケメンが台無しじゃない?
「じゃあ魔力流せば、ずっと効果あんのか?」
顔を出したオーレンさんが聞いてきた。
「オーレン。言葉遣いが乱れているよ。」
トーマスさんの言葉に、オーレンさんは一瞬ハッとしたけど、すぐに機嫌悪そうな顔になった。
「ふー。いやいや、大体こんな非常識な事されれば、仕事忘れますからね。」
ふーっと息を吐いて落ち着きを取り戻そうとしているオーレンさんに声をかける。
「あの、魔力流したら、また効果出ると思います。」
おれが言うと、
「これは…、めちゃくちゃ売れるでしょうね。とりあえず、私のこの靴は大事に使わせていただきます。ありがとうございます。」
きちんと靴を履き直したオーレンさんが、丁寧にお辞儀してきた。
すっかり優しげイケメンに戻っている。オンとオフの切り替えすごいなって思った。
トーマスさんは肩を震わせて俯いている。笑ってる?
オーレンさんの顔だけが嫌そうな顔になった。
「ギーグもよろしいですか?」
オーレンさんが聞いて、トーマスさんが頷くと、もう一人の護衛騎士に立っていたガチムチ系なのに顔は可愛い目なお兄さんも呼ばれた。
ギーグと呼ばれた騎士さんと、オーレンさんとトーマスさん。
さっきと同じやり取りで、目を白黒させるさせながら靴を受け取り、再び加工した。
ギーグさんも飛び上がるくらいびっくりしていた。
ちなみにギーグさんは、トーマスさんとオーレンさんの二つ下の後輩でダニエルさんの同級生兼、親友だそうだ。
かなり無口らしく、ほとんどオーレンさんがしゃべっていた。
「これはすごい嬉しいよ。素晴らしい。靴の中が本当に快適だ。ね、ギーグ。」
オーレンさんの言葉にギーグさんは、うんうんと頷いた。
わざわざオーレンさんは、自分より背の低いギーグさんの顔を覗き込むように、笑いかけている。
ギーグさんは少し赤い顔をして、うんうん頷いている。
その時に、ああ、この二人はとてもいい仲なんだなあって気づいてしまった。
信頼の置ける人を護衛騎士にして、トーマスさんの心と身体の安全を守ってるんだなあ、て。
おれはそんな二人の様子を見て、ニッコリしてるトーマスさんを見て更に嬉しくなった。
そしてみんなの役に立てそうなのが、嬉しくてニコニコしてた。
ちなみに、この靴底の加工は騎士のブーツや、甲冑から始まって、貴族や一般人。どんどんと世界的に広まって、蒸れと匂いから開放される事になった。
そしてその特許料でメラー二商会に更に多大な利益をもたらすのはまた別の話。
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