愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

63 雪の日

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 朝、外を見て、海と空以外真っ白になった世界に言葉をなくす。

 昨日一日降り続いた雪は、朝には止んだが、曇りの空は続いていた。

 今日はメラー二商会で勉強会があるから、出かけないといけないんだけど、その前に雪かきするか?ってジュードに聞かれた。

「する!」

 二つ返事で答えた。すぐに朝ごはんを食べる。

 昨日とは違う、フードにふわふわのファーがついた厚めのカーキ色のコートに火のブローチをつけて、茶色のネックウォーマーに同色の手袋もはいて、いつものブーツでも、昨日のモコモコブーツでもなくて、ツルリとした茶色の長靴を履かされた。
 何かの魔獣の革と植物の繊維を加工したもので、撥水性に優れているから、カッパにも使われたりするんだって。
 今は茶色とか黒しかないけど、多分サキさんにかかれば、別の色の生地も作れるんじゃないかな。
 今度相談してみよう。

 なんか喜んで服を頼んでいた、ベリタ母さんとジュードを思い出す。
 出来た服はジュードのマジックバックに仕舞われているから、どんだけあるか分かんないんだよね。気付けばスマートにその日着る服を準備されてる。

 ぐうう。イケメンめ。

 ジュードもいつもの服の上に革のトレンチコートを着ている。またこれが、おれの長靴と同じ生地とは思えないくらい、かっこ良くて似合ってる。黒の革手袋もめっちゃかっこいい。羨ましい。

 思わず見惚れていたけど、

「外は滑りやすいから気をつけろよ。」

 と、ジュードが玄関扉を開く。思わず声が出た。

「ふあああ。」

 目の前に見える門までの庭も、その向こうにある森も、真っ白になってる。
 真っ赤に紅葉したあとに葉っぱを全部落としてしまった木々も、緑の葉っぱをつけたままの木々にも、白い雪がのっている。
 それに吐く息も昨日以上に真っ白だ。

 玄関前のウッドデッキは屋根がせり出しているので、足元に雪は積もっていない。

 ウッドデッキ分高くなっている玄関から三段だけある階段を降りる。
 一番下の段は雪に埋もれている。

 一歩、二歩、三段目の雪の上に足を乗せたら、ツルッと滑った。

「うわっ。」

「やっぱりな。」

 一人なら後ろに倒れて、階段に後頭部をぶつけていただろうけど、ほとんど倒れることなく、ジュードにサッと支えられていた。

 滑るとは言われたけど、まさかこんなに滑るなんて思わないじゃん。景色に見とれていたのもあって、足元なんてちゃんと見てなかったし。
と、つらつらと心の中で言い訳を連ねながらも、ドキドキして恥ずかしい。

 顔を赤くしながら、

「ありがと。」

と、小さくお礼を言う。

「雪や氷は滑るからな。気をつけろよ。」

「うん。」

 ジュードに手を繋いでもらいながら、もう一度三段目に立つ。
 いつもなら小路と芝生が見えるのが、真っ白だ。
 意を決して、一歩雪の中に足を踏み出す。

 ズボッ。

「うわっ。」

 本日二度目のうわっ。驚いてばっかりだ。

 踏み出した足は、一気におれの膝まで雪に埋もれた。

「思ったより積もったな。これだと街は混乱してるかもな。」

「混乱?」

 雪が積もると、移動するにも時間がかかるし、馬車とかもいつもみたいに走れないんだって。
 雪かきしないと通れないし、人もさっきのおれみたいに滑って転んだりするから、移動に時間がかかって、物流が滞ったり、市場もお客さんが来れなかったり、大変みたい。

 何より寒すぎて動きが鈍くなるんだって。確かに、今までで一番寒い。

 ま、おれは服は暖かいし、転移て飛んじゃうから困らないんだけど。

「だけど、この冬は楽なんじゃないか?今までよりな。」

「え?なんで?」

「慎翔が便利なカバンを普及させたからな。運搬がものすごく楽になっただろ?」

 マジックバッグが売り出された、最初の頃の混乱は落ち着いた。
 孤児院には、孤児院用にカバンを届けた。仕事に使う用だ。

 子供達はあの重い荷車を引くことなく、斜めがけのカバンを下げて、数人で荷運びをしている。
 今日みたいな雪が積もる日はお休みだろうと教えてくれた。
 前は生活のために、雨でも雪でも荷車で運んでいたと聞けば、役に立てて良かったな、と思う。

「それに付与の技術が発展したからな、そのブローチみたいに火の魔石を使った防寒グッズが売り出されているらしいぞ。」

 そういえばこの間、火属性でクズ魔石の箱納入したなあ。
 冬の寒さをしのぐ商品を作るためだったんだ。

 おれは雪の中をかき分けながらザクザク歩く。

「うわっ。」

 本日三回目のうわっ。
つまづいて、顔からボスッと倒れた。

 驚いたけど雪が柔らかいので、そんなに痛くない。それに怪我しそうならジュードが助けてくれるはずだし、魔法も発動しなかった。

「ははは。大丈夫か?慎翔。」

 笑いながら後ろから両脇に手を入れて、うつ伏せで倒れたおれを起こしてくれる。
 服や頭についた雪を優しく落としてくれた。

「冷たい。ビシャビシャだよ。」

「それはそうだろ。氷は水からだろ?」

 お互い笑いながら、雪を払い落とした。

 雪かき用のスコップで小道の雪を左右にかき分けていくのを眺めていたら、ジュードが雪を握って、おれにぶつけてきた。

「うわっ。」

「慎翔。雪合戦って知ってるか?こうやって、雪玉をぶつけ合って遊ぶんだ。」

 そう言いながら、もうひとつぶつけてくる。

「なにそれ!面白そう。おれもやる。」

 と、近くの雪をかき集めて雪玉を作る。
 ジュードに向かってえい!と投げる。

 ぽすっと胸の辺りに軽く当たった。

「うわああ。やられたー。」

 ジュードはスコップで盛り上げた雪山にドサリと倒れる。

「えええ。ジュード!大丈夫?」

 おれは慌ててジュードのそばに近づくと、手を取られて引っ張られた。
 ボスッと、顔から雪に再び倒れてしまう。

 ガバッと起き上がり

「もー。ジュードの意地悪。」

 するとジュードも笑いながら、立ち上がる。おれを引っ張り立たせてくれた。

「でも、面白かっただろう?今日商会に顔を出すなら、きっとみんなで雪遊びになるぞ。ちょっとくらい体験しとかないとな。」

 確かに、慣れてないとわからないよね。

「それになるべく初めては俺とが良いからな。」

 と、いい顔でウインクされる。確かにおれも、なるべくならジュードとが良いなって思って

「うん。おれも…。」

 て、照れながら小さく返事をすると、

「本当マジ天使か。」

そう言いながら、おれのことぎゅって抱きしめた。
 おれも恥ずかしいけど、ぎゅって抱きついた。胸のブローチがぽかぼかして暖かかった。



 ジュードは再び雪かきを始める。

 ふっと思いついた。

「ねえジュード。そのスコップに火の魔石つけたら雪かきしやすいんじゃない?」

「ん?これにか?」

 そう言ってスコップを差し出すので、先端付近に小さい火の魔石を五個くらいくっつけた。

 雪の上にスコップをおいただけで雪が溶ける。

「これは良いな。今日商会に行った時に提案してみると良い。きっと飛びつかれるぞ。」

 ジュードは面白がりながらどんどんと道をかいていった。

 ある程度雪かきが出来たら、そのまま街に行くことにした。
 見本で見せるためにスコップをアイテムボックスにしまって、転移でメラー二商会のおれの部屋に飛んだ。

 ジュードは他に用があるとかで、別行動になる。
 おれもトーマスさんに会いに行く。

 ちょっと寂しいかな。

 転移するために繋いでいた手を、なかなか離せないでいると、スッと顔が近づいてきて、チュッと頬にキスされた。

 間近で翠の瞳と見つめ合う。

「また後で迎えに来るよ。終わったら呼んでくれ。」

 そうにっこりと言われると、言葉もなく真っ赤になってうなずくばかりだった。

 本当にイケメンでスパダリでなんかズルいと思った。



 


 

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