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新しい世界
60 変わる生活
しおりを挟む「ふんふんふーん。」
ギルドの一室、副ギルドマスターのディネは鼻歌交じりに書類仕事に精を出す。
エルフの彼女の美しい長い金髪がさらりと頬に落ちてくると、それをすっと耳にかける。そこにはキラリと光るプラチナのピアスがあった。
しずく型の小さな透かし細工の台座から、細いプラチナのチェーンが五本下がり、その先端に綺麗に加工された石が付いている。
この石はそれぞれに魔法が込められた、慎翔手作りの物だ。
「いつも色々と教えてもらってるお礼です。防御魔法とか付与したんですけど、このピンクの石にはお肌と髪がツヤツヤになる魔法かけときました。」
その言葉通り、最近すこぶる肌の調子が良いのだ。
「ごきげんだなあ。」
そう声をかけたギルマスのウルススも慎翔からもらった腕輪がお気に入りだ。
身体強化に回復の魔法も付けられている。大きさがその時の腕の太さに合わせて変化するので、獣化しても壊れないのが助かる。
ちなみにそれぞれアイテムボックス付きだ。
「そんなこと無いですよ。まあ調子は良いので、仕事が捗りますけどね。」
と、ご機嫌な様子で答えた。
ちまたにはマジックバッグが格安で売られるようになった。メラーニ商会が、他の商会にも格安で卸し、色々なところで売られるようになったのだ。
メラーニ商会では、そのカバンに魔石を付与するオプションが人気で、それをプレゼントするのが流行り出し、それぞれ飾り付け方にオリジナリティを競っている。
ダンジョン{真実の迷宮}の宝箱からもマジックバッグがざくざく出るので、最初は高値で売れると喜んでいた冒険者達も、どんどんと値崩れる様にがっかりしていた。
ただ、街で売り出されるカバンよりも時間停止など、ちょっと機能が良かったりするので、冒険者もこれでいいかと諦めて、自分たちで使っている。
しかし、これで誰しもマジックバッグ持ちになったわけだ。
このバッグは魔力を流さないと使えない物で、流した本人と許可された者しか使えない。しかも、二個も三個も持つことも出来ない様になっていた。
更に中の大きさも使う者によって違うらしい。
あまり物の入らないのもあれば、家ごと入れた強者もいるらしい。
これは慎翔がこっそりとウルススとディネに教えてくれたのだが、
「容量?あれはイメージの問題。カバンには全部一部屋のスペースを作ってあるよ。その一部屋のイメージがみんな違うから、あんまり入る人と入らない人に別れるわけ。」
「なら大きい部屋だと思えばいくらでも入るのか?」
とウルスが聞けば、慎翔はうーんと腕を組みながら
「一応の理論的にはそうなんだけど、深層心理のイメージだから、思い込みですぐに変えられるものでもないんじゃないかな?よっぽど思い込みの強い人とか、暗示かけてもらうとか?」
「確かに小さい部屋に住んでる人はそのイメージになりそうね。」
ディネも興味深そうに聞いている。
「そうそう。逆に子供なんかは自分が小さい分、みんな大きく見えるから、イメージも大きい。正に無限大なんだよ。
大人は固定観念に凝り固まってる人ほど小さい容量になる。カバンの口以上の大きさの物は入らないって思ってると、本当に入らない。マジックバッグなのにもったいないけどね。それでも一部屋分って言ったらまあまあの物は入るんじゃないかなって思って。」
「それでも普通、格安で手に入る代物じゃねえだろう。」
ウルススが呆れたように言うと、えへへへと慎翔は照れた。
褒めてんじゃねえ。と、ウルススは苦笑いした。
~~~~~~~~~~
私はメラーニ家のメイドをしております。
そんな私の職場の制服が新しくなりました。
以前は紺色ブラウスに白色のメイドエプロンでしたが、エプロンドレスになって、そのデザインがすごいオシャレで、胸元にブローチを付けるのが規則となりました。
このブローチは、マコト様がお作りになったもので、以前からあった、緊急連絡珠を改良したものをブローチの形にして配ったものです。
以前の効果に加えて声も届けられます。また、私達のようになんの力を持たなくても、これがあれば、軽く魔力を流すだけで防壁が作れるので、主人を守ることが出来る優れ物です。
男性の執事と従者ですが、スーツを元にしたデザインで、タイ留めにこの石が組み込まれていまして、全員装着が義務付けられおります。
私は今、メラーニ家のお子様のお世話に付いております。
メラーニ家の本宅のメイドブラウスの色は紺色。マサ本店の店員の色は臙脂と決まっております。
エプロンのデザインもフリルを多用したものと、シンプルなものの二種類用意されていて、好きな方を着用しております。
また本店以外の店舗の制服も同じ物にまとめられました。色は薄紫色をベースにしたグラデーションのブラウスとなっており、店員の間ではとても好評です。
メラーニ家やメラーニ商会で働きたいと思う方は多くいらっしゃいますが、狭き門となっております。
しかし家柄でなく、人柄を審査されるので、コネや口利きなどではメラーニ商会には入れません。
認められて初めて働けるのです。なので皆、誇りを持って働いております。
なんと申しましても、メラーニ家の方々はどなたも優しくて、聡明です。驕り、人を見下したりなさいません。
お子様は全員孤児院から養子になされましたが、粗暴な方などいらっしゃらないのです。皆様、素直で愛らしく、勉強などの努力は惜しまれないし、何より実力がお有りになる方ばかりです。
さらに最近ではマコト様という、冒険者の後見人になられました。
このマコト様がまた……。
「こんにちはー。メグさん。」
噂をすれば早速お越しになられたようです。マコト様はお屋敷にあるご自分の部屋に転移で来られます。
「こんにちは。マコト様。
カミル様、カレル様とお勉強ですか?」
「うん。なんか特別授業?って言ってたけど。あっ、これお土産。みんなで食べてもらおうと思って。」
「あ、おみかんですね。シェフが喜びます。」
オレンジの楕円形のボールを最初に見た時は、何かと思いましたが、マコト様に食べ方を教えていただき、ほんのり酸っぱいのにものすごく甘く、このような果実を初めて食べた我々は、すっかりみかんの虜になってしまったのです。
なんでもマコト様の故郷では、寒い日に暖かい部屋でみかんを剥いて食べるのが、当たり前なのだそうです。
スイーツ担当の料理人がこれを使って美味しいスイーツを作ると意気込んでいたので、沢山持ってきてくださいました。
どんどんと新しい物を持ってこられるマコト様。マジックバッグはメラーニ家で勤める者は、全員支給されました。
制服のデザインも案を出されたそうですし、布地も優秀な職人を見つけ出し、この肌触りの良いブラウスを創りだしたのです。
エプロンも上品なフリルで頭はヘッドキャップとヘッドドレスを選ぶことが出来ます。
デザインも素晴らしく、メラーニ商会の制服を真似するところもあるそうです。
また、あのエリクサーと呼ばれる秘薬を持ち込まれた時は、トーマス様の目がここまで開かれるのかと驚きました。
これがあれば欠損まで回復出来るとあれば、売り方も慎重になります。
市場の花屋が栽培しているなんて、誰も気が付かないと思います。
どんどんと新しい街に進化しているようです。
マコト様の次の持ち込みは何なのか、私共も楽しみです。
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