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新しい世界
61 冬の日
しおりを挟むそんなこんながあって、ギルドで依頼をこなしたり、商会に顔を出したりしているうちに、あっという間に数カ月が過ぎた。
すっかり季節が移り、冬が始まり、寒さが深まっていく。
朝だけじゃなく、ずっと一日中暖炉に火が入るようになった。
それでも夜には消えてしまうので、朝は先に起きた方が、暖炉に火を入れる。
「うー、さむっ。」
最近は朝ごはんを作るために、たいていおれが先に起きる。
暖炉に火を入れて、リビングの大きな窓から外を見る。
今日はどんよりと薄暗く、灰色から黒に近い雲が、空全体を覆っていた。
「そろそろ雪が降るぞ。」
昨日のジュードの言葉を思い出す。
もちろん雪を見るのも触れるのも初めてだ。
「あっ。」
窓の外にチラチラと白い物が見える。
雪だ。
リビングの大きな大きな窓のおかげで舞い落ちてくる雪がよく見える。
窓際まで行くと、膝をついて窓に両手の平を当てる。
冷たい。
そのままの姿勢で外をじっと眺める。
しっかりした大きさの白い塊が、次から次へと空から舞い降りる。
「慎翔。」
どれくらいそうしていたのか、フワリと後ろから毛布をかけられた。
そして、その毛布ごと優しく抱きしめられる。
「窓のそばは空気が冷える。風邪引くぞ。」
「ジュード?あれ?」
暖炉に火を入れていたので、部屋はそんなに寒くない。
ただ、いつからおれはここで外を見てたんだろう。
振り返ってジュードを見れば、もう普段着に着替えていて、ダイニングテーブルには朝ごはんが並んでいた。
「ほら。こんなに手も足も冷えてる。」
そう言いながら、マグカップに入ったスープを両手に握らせてくれる。
あったかい。
思った以上に冷えていたらしい。そう思うと足先も冷たくてじんじんしてきた。
「ごめんね。ありがと。足も冷えちゃった。じんじんしてる。」
「それはだめだな。俺が温めてやろう。」
そう言いながら向かい合わせにし座らせた、おれの両足先をきゅっと両手で握ってくれる。
暖かい。
ジュードは火属性が得意なので、手足が冷えるなんて事はないらしい。
少しの間足先を温めてもらって、スープを飲んで、手も温める。
「雪は初めてか?」
「うん。」
ジュードに聞かれて、頷く。
再び外の景色を見る。
雪のせいで視界が悪く、いつも見える水平線が、今日はぼんやりとしか見えない。
この間も雪は降り続いている。
風は無いので、空からゆっくりふわふわと雪がひと粒ひと粒降りてくる感じ。積もる雪ではなさそうだ。
「少し外に出てみるか?」
ジュードに言われて、朝食を食べてから、服を着替える。
シャツとスボンにフワフワのフードがついたローブを着る。胸元に赤いブローチを付けて、魔力を流すとほんのり暖かくなる。防寒仕様のローブだ。
外が寒くても、自分は暖かい。
モコモコのブーツを履いて、外に出た。
手に雪が触れる。
「うわ。つめた。本当に雨が凍ってるんだ。」
庭を歩きながら、手を広げて、雪を受け止める。
自分の熱で溶ける雪を見ながら、ついでにと薪を割りだしたジュードを見る。
普段と変わらない、シャツにトラウザーズのようなズボン。上着は一枚脱いで、玄関横のウッドテラスのとこに置いてある。
薪割りして、汗もかいてるのか、ジュードから湯気が出てた。寒そうには見えない。
「すごっ。ジュードの周りだけ、空気違うね。」
「そうだな。体温も高いからか?気にしたこと無かったな。」
額の汗を手で拭うと、ぱっと飛ばす。
舞った汗がすぐに冷えてキラキラするのがきれいで、じっと見てた。普段はバンダナを巻いているから汗が流れることも無いんだよね。
シャツの胸元をくつろげている。色気たっぷりの姿に見惚れちゃったよ。
割った薪をある程度の束にしてまとめる。薪置き場の小屋まで二人で運んだ。
その頃には気温が更に下がって、雪も地面に落ちても溶けにくくなってきた。
さすがにジュードも少し肌寒いみたいだ。置いてあった上着を羽織る。二人共吐く息が白い。
面白くって、はーはーしてたら、ジュードに頭ぽんぽんされた。地面で溶けずに残っている雪を見ながら
「これは積もるな。今日は出かけるのはやめて家の中で過ごそう。」
そう言われて、家に戻る。
暖炉の前に座って、毛足の長いラグとクッションに包まれて、ぬくぬくと過ごしていたら、ジュードもやってきた。
おれの後ろにすっと座ると、腕を伸ばして、おれの腰を捕まえた。
ぐいっと引っ張られて、ジュードの胸にもたれるような形になる。
そのまま静かに暖炉でパチパチと小さく爆ぜる火を見てた。
ふと聞いてみる。
「ジュードって誕生日いつなの?」
「ん?俺か?俺は冬生まれだな。詳しい日はわからん。」
振り向いて見上げる。いつもと変わらないジュードと目が合う。
ジュードが孤児だったと聞いてたのに、何も考えずに言ってしまった事を、後悔する。自分の無神経さに眉が下がる。
「…ごめん。無神経なこときいた。」
おれがそう言うと、ジュードはフッと笑顔を見せて
「慎翔が辛がる事はないだろ?別に気にしなくていい。春の花が咲く頃に生後数カ月の俺が置いて行かれただけだ。詳しい日付はわからないな。」
そんな簡単そうに言われると、逆に悲しくなって、おれは身体ごと振り向いて、ジュードの胸にぐりぐりとおでこを当てた。
「……慎翔の誕生日はいつだ?」
後頭部を優しく撫でながら、それ以上に優しい声で聞かれる。
じっと撫でられながら答える。
「おれは2月1日。おれも冬生まれなんだ。」
そこで、ハッと思いついた。
「同じ冬生まれだったら、ジュードも一緒にお祝いしようよ。」
「お祝い?」
「しないの?誕生日会みたいなの。」
病院にいた時は、おれは全く動けなかったけど、父さんに母さん、燈翔に心琴がやってきて、ハッピーバースデーを歌ってくれた。
プレゼントは置けないから、音楽をかけてくれた。みんなが順番に手を握ってくれた。
それだけで心がぽかぽかになる、すごくいい日だった記憶がある。
ジュードは?お祝いしたことないの?
「そうか。俺はそういうのとは無縁だったな。慎翔はしたことあるのか?」
「普通の人たちがするお誕生会はしたことないよ。寝てただけだから、家族が来て、歌うたってくれた。」
やっと笑ってジュードを見れた。
「何をするのがいいのか分かんないね。でも、一緒に誕生日会しよ!」
ジュードもすごい笑顔で見てくれる。
「そうだな。楽しい会にしよう。」
おれは嬉しくて、ジュードに抱きついた。優しく背中ポンポンしてくれた。
どうするかみんなに聞いてみないと、楽しみが増えたのが、嬉しかった。
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