愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

55 事の顛末

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 熊の獣人の先祖返りと言われる大男なギルドマスターと、年齢について触れたら寿命が縮むと言われるエルフの副ギルドマスターが揃って出てくる事は珍しい。

 何かしらの揉め事の大抵はギルマスのウルススが「うるせえ!」と叫べば治まるのだ。
 その声は四階にあるギルマスの部屋から風魔法で飛んできて、さもそこにいるように聞こえるのだから、その場に居合わせるとこちらも寿命が縮むと評判だ。

 それがわざわざ姿を見せるのだ。
 食堂に居た冒険者や宿屋になっている部屋で休んでいた者まで、わらわらと入り口のロビーに集まってきた。

 え~。そんなに大騒ぎにするつもりじゃ無かったのになあ。と、慎翔は思う。

 後ろの三人組を見やる。
 大体なんで、この人はこんなに突っかかってくるんだろう。

 「マコト。」

 ギルマスの後ろから声がする。
 ギルマスの身体が大きすぎて見えなかったけど、後ろにもう一人いることに気がついた人たちは、さらに驚く。
 マコトと呼ばれた少年の頬に赤みがさして、パッと明るくなる。

「あっ!ジュード!ジュードも来てたの?」

 嘘だ。

 慎翔はすっかり転移魔法を使いこなせる様になった。何人かまとめて一緒に転移できるようになったのだ。だから今日もジュードと一緒にギルドに転移で来た。
 慎翔だけ隠蔽で隠れて、外に出て、姿を表してから、さも入り口から来たように入り直したのだ。

 ジュードはこれまでのやり取りをギルマス達と共に吹き抜けになった上の階からこっそり見ていてくれた。

 もう一人の防御魔法というのはもちろんジュードだ。

 慎翔が一人で行くというので、ギルマスたちと様子を見ていた。
 時々手が出そうになったり、出て行ってしまいそうになるのを、ウルスの巨体に止められて、それを見てディネに笑われていたのだ。

 そんな様子は全く見せず、颯爽と現れた。慎翔の前なので格好つけているのだ。
 これにはギルマスも苦笑する。

「ああ。そうだちょうどいい。アスター、パーティ登録を頼めるか?」

 ジュードは、さも今気がついた様に慎翔に近付いてきて、受付の前に並んで立ちながら、そう言った。
 そっと腰に手を回すのも忘れない。慎翔もそっと身体を寄せる。

 あの三人は完全無視だ。

 これだけギルドに人がいるのだから、今回の騒ぎも大体正しく伝わると思う。

 ジュードとパーティメンバーになる少年に、文句を言う者など、あのB級パーティ以外に居ないようだ。

 見るからにジュードは少年を大事にしている。

「りょうかーい。カードとタグを出して見せて。」

 アスターも気にせずに、どんどんと話を進めてくれる。


 置いてきぼりにされて、横で固まる三人に、ギルマスが溜息をつきながら告げる。

「この間、これ以上トラブル起こしたらこのギルドからは追放になるぞって言ったよな?」

 リーダーのお兄さんと魔法使いのヒョロガリメガネはうつむいてしまった。
 猫姉さんだけ、ずっと文句を言っている。

「なんであいつだけ…。ありえない。許せない…。」

 目は血走ったままだし、ブツブツとずっと何か言ってる。

 その様子を見て、慎翔は彼女に鑑定をかけた。

「あれ?このお姉さん呪われてる?あと、混乱と魅了?」

 慎翔が呟くと、周りの人々がバッと驚いたように慎翔に振り向いた。
 彼女の近くにいたリーダーと魔法使いは慌てて彼女から離れる。

 彼女はいきなり周りから遠巻きにされて、再び興奮している。

「はあ?なにそれ。いい加減なこと言わないでよ。あたしのどこが呪われてるって?
 もしそうならあんたのせいじゃないの?」

 慎翔に手を伸ばして来ようとする。さっと二人の間に身体を入れたジュードは、慎翔に聞いた。

「呪いは何か装備品から出てるのか?見たら分かるか?」

 そう聞かれた慎翔は、ジュードに隠れながらちょっとだけ顔を出して、猫獣人のスラリとした身体を見る。
 細身の身体にピッタリとした黒い服を着ている。確か弓使いだって聞いたけど。

 よく見てみると、足首に細い金のアンクレットが二重に巻いてある。
 
「足首の金のアンクレットから、なんか黒いの出てる。」

 それを聞いたウルスが「アーノルド呼べ。」と神殿の神官長を呼ぶよう指示している。

 たぶん慎翔も解呪出来るような気がするけど、やっぱりその道のプロにやってもらうのがいいよね。

 ジュードに守られるように、少し後ろに下がる。その間にディネさんが拘束魔法で猫獣人さんを動けないようにした。何か大きな声を出しながら、暴れてる。さらにキツく拘束されて、唸っている。

 リーダーさんとヒョロガリさんは呆然としてた。

「いつからおかしくなったのか、分かんねえのか?仲間だろ?」

 ウルスさんが聞くけど、二人は首を横に振るばかりだ。

 冒険者に呪いの装備は付き物だけど、それのせいで精神を侵され、攻撃的になっていたみたい。
 
 原因が分かっただけ、なんかホッとした。

「はーい。パーティ登録できました。あと、報酬もここに入れてます。」

 アスターさんは全く動じる事なく仕事を進めていた。

「ありがとうございます。」

 慎翔はお礼を言うとフードを被り直して、ジュードの後ろにそっと隠れるように立った。
 それだけで気配が一気に無くなる。

『ジュード。このままそっと帰ろう?神官長さんに会うと、面倒臭そうだし。』

 そう念話で伝える。

 今は彼女が騒いでいて、そっちに注目が集まっているから、ジュードもそっと受付奥の階段へと向かう。
 誰にも気づかれないうちに、ギルドで借りてる部屋に行く。いや、ディネとはちらりと目が合ったので、彼女は気付いただろう。

 パタン。カチッ。

 部屋に入って、鍵を閉める。

 と、慎翔の身体がグラリと傾く。ジュードが素早く支える。

「マコト。大丈夫か?」

 そう言って、ジュードは顔色をうかがう。

「うん。あの呪いの装備って近くにいると嫌な感じするよね。」

 と、ジュードの胸に顔を埋めて大きく息を吐いて「はあ。落ち着く。」と、目を閉じている。

 ジュードも優しく抱きしめる。頭を優しく撫でていると、落ち着いて来たのか、顔を上げた。

「おれ、結構頑張ってた?」

 見上げながら聞いてくる。

「ああ。すごかったぞ。」

 そう言われて、慎翔は目をキラキラさせて「本当?」と言っている。

 今日のこの騒ぎで、慎翔がジュードのパーティメンバーである事は、広く知れ渡っただろう。
 これからはきっと慎翔も過ごしやすくなるはずだ。
 
 少し肉付きの良くなった慎翔を抱き上げる。抱き上げたことで近づいてくる慎翔の頬にチュッとキスを落とす。

 慎翔は少し恥ずかしそうにしながらも、クスクスと笑う。そして慎翔からもジュードの頬にチュッとキスする。

 目が合うと、ぱあっとキラキラが溢れた。

「あっ。」

「どうした?興奮したか?」

 慎翔は興奮するとキラキラが溢れてしまう。

 最近は大分うまく魅了を使いこなして、キラキラが溢れて周りの人々に襲われることが無いように頑張っていたのだが、ジュードからの触れ合いに、ドキドキしてしまったのだ。

「んー。もう。意地悪いよ。」

 クスクス笑うジュードに、頬を膨らましていじける慎翔もクスクスと笑い出す。そして

「頑張ったご褒美ちょうだい。」

と言いながら、今度は唇にキスをする。
 慎翔からのキスに少し驚きながらも、キラキラが溢れる様子に、やはり緊張から興奮してるんだろうと、ジュードも慎翔の唇にキスを落とした。


 その後、猫獣人のお姉さんは神官長のアーノルドさんに解呪してもらったら、人が変わったみたいに大人しくなったらしい。泣きながら詫びていた。とはギルマス談だ。
 まあ、弱い者いじめみたいな事をしただけで、傷害とか何もなかったんだけど、なぜか周りの冒険者たちの不評をかったらしく、村八分みたいになってたって。迷宮案内人は、ジュード以外にも何人か居るけど、全員から断られたって。
 あの三人はなんだかんだ仲が良かったみたいで、パーティは解散せずに、BからDにランクダウンするペナルティを受け入れた。
 ギルドで三人で土下座して謝って、マサのギルドからは追い出されずに済んだ。今は街の人の使いっ走りみたいな依頼を受けて、人々の為にって頑張ってるらしい。

 いや、でもまだおれに謝ってないから、ジュードは許してないんだけどね。
 おれは、別に敵を作りたい訳じゃないから、また今度ギルドで会った時の態度によっては許してあげようかなって思ってる。

 こうしておれは冒険者としての生活を堂々と送ることが出来る様になったのだった。
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