愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

51 留守番3 ジュード

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 ヒノトに指をあてられると、違う景色が見えてきた。
 
 暖炉の前にマコトが座っているのが見える。俺が出掛けてからのマコトらしい。黙々と創造のスキルで何かを作ってはしまっている。
 南向きの大きな窓からの光で大体の時間が分かる。早送りの様に太陽が流れてる。

 いやいや、ちょっと集中し過ぎじゃないか?と心配になった。

 次にマコトが動いたのは、もう陽が傾いて夕焼けが差し込む頃だった。

 ハッと慌てた様子で立ち上がり、台所に向かっていく。
 パッと目の前に台所の景色が広がる。
 マコトは俺が買ってきたお弁当を立ったままモソモソと食べて、コップの果実水を二杯飲むとリビングに戻っていく。
 一人だからさっと済ませたらしい。
 マコトの好きなバサンのお弁当は半分以上残っていた。

 リビングに戻ったマコトは明かりを点けてお風呂の準備をしていた。イヤーカフに触れながら、何か話している。
 たぶん俺が連絡を入れた時だろう。
 あの時は別段変わった様子は感じられなかったが、すでに様子がおかしかったのが分かる。
 さっと入浴して、マコトは自分の部屋のベッドに横になった。右に寝返りをうち、左へ、何度も何度もゴロゴロして、眠れないらしく最後には上半身を起こして座ってしまった。
 またぎゅるるっと早送りされて、時間が進み、外が明るくなった。
 マコトは一睡もしていない。

 よろよろと一階に降りて、暖炉に火を入れている。
 自分でちゃんとパンとホットチョコレートを準備して暖炉の前で美味しそうに飲んでいる。

 そしてそのまま止まった。文字通り止まった。目に光もない。

 過去を見ているのは理解しているが、マコトの心配で顔色が悪くなるし、手を伸ばしてしまう。

 途中、何度かイヤーカフで俺とやり取りしている。その時だけ目に光が宿る。いつもの明るいマコトになる。しかししばらくすると止まってしまう。
 もう部屋の中は真っ暗だ。マコトは朝に座った暖炉の前から一歩も動いていない。

 確か二日目の夜にも連絡を入れた。マコトは嬉しそうに話をしている。確か「お土産は買ったから楽しみにしていろ。」と言ったはずだ。
 ニコニコと話しているが、少しすると通信が終わったらしい。
 
 マコトはしばらくぼんやりとして、フラフラと立ち上がると二階の俺の寝室に入って行く 。
 ベッドに上がるとあぐらをかいて座り、掛布の毛布を頭からすっぽり被った。そして俺の枕を抱きしめると大きく深呼吸している。しばらくすると座ったまま、止まってしまった。
 外が明るくなった頃ミコトがどこからともなく現れて、マコトに声をかける。そしてそのままマコトを連れて行ってしまった。

 俺のベッドに入るなんて。寂しかったのか。マコトの可愛い行動に嬉しいと思う。しかし逆に、こんな不自然な状況になっている事に気付けなかった、自分に怒りを感じる。グッと握った拳に力が入った。
 視界が元に戻った。


「で、連れてきたのが、ここってわけ。」

 ヒノトがため息をつくように、
ジュードを見ながら言う。

「すまなかった。こんな風になるとは思っていなかった。」

 ヒノトに謝ると、肩を竦めていつもの明るい調子で言う。

「いや、怒ってる訳じゃないんだよ。結構、馴染んでると思ってたんだけどね。まさか無自覚の孤独感で、ここまで急に悪化すると思ってなかったし。
これからはこの部屋と家を繋ぐから、遠出の時はここで留守番させてくれる?ここだったら大丈夫だから。」

 なんでも時間の流れが違ったり、ヒノトやミコトがすぐに来やすいっていうのもあるらしい。
 やはり最初から頼ればよかったのか。後悔が胸を突く。

「だが、俺は入り口からになったぞ。」
 そう。転移陣でボス部屋まで行ってここに来た。

「あー、それは兄ちゃんの許可がいるからね。とりあえずはすんなり来れるようにしといたでしょ?兄ちゃんが一言良いよって言えば次からはジュードもそのまま来れるよ。」

 とにこやかにヒノトは言った。なるほどと納得した。


 クッションに埋もれるように眠るマコトに近づく。見たことも無いような本が何冊か積み上がってる。マコトのすぐ横には黒い板が転がっている。

「起こしても?」

 ヒノトに尋ねると、手のひらを上に向けて、どうぞっと合図される。

「マコト。迎えに来たぞ。帰ろう。」

 そう言いながら、肩をゆさゆさと軽く揺らす。

「ん、うーん。」

 眩しそうに顔をしかめながらゴロンと寝返る。仰向けになって薄く目を開かれると金に近い薄茶色の瞳が見える。
 片手の甲をおでこにのせてしばらくぼんやりとしていたが、だんだんと焦点があってきて、目が合っている実感が湧く。

「おはよう。マコト。」

 なるべく優しく声をかける。マコトはへにょりと笑うと両手を広げて

「ジュードだあ。おかえりなさいー。」

 と、起き上がり抱きついて来た。
 俺もしっかりと抱きとめる。

「帰るか?」

 もう一度顔を見ながら言うと、きょとんと固まった。少し考えてから周りを見回す。

「あ、そっか。白い部屋に来ちゃってたんだ。」

 と、思い出したらしい。俺はマコトの肩におでこを乗せる。

「ああ。捜したぞ。マコトは俺を焦らせる天才だな。」

「ごめんね。勝手に外に出て。」

 ジュードに向かってしゅんとなったマコトの頭をなでなでぽんぽんする。

「ここが外と呼ぶのかは分からないがな。間違いなくここなら安心だから構わない。」

 マコトは自分が止まっていた事は分かってないみたいだ。だから無自覚か。

「そっか。ここだったらね、向こうの世界の本とか見れて参考になるし、あとWi-Fiが繋がるから、ネット使えて便利なんだ。」

 ワイファイ?ネット?理解できないことを言っている。

「そうか。俺にはよく分からないから、また教えてくれ。家からこの部屋に直接来ても問題ないか?」

 俺がそう言うとマコトがヒノトの方を見る。

「問題ないよ。他の人には扉自体見えないから。」とヒノト。

「そっか。じゃあまた来ようね。ジュードも一緒に。」

 俺は一応確認の念押ししておく。

「それは俺もこの部屋に家からそのまま入ってもいいって事か?」

 マコトは不思議そうに首を傾げて

「うん。もちろんそうでしょ?え?この部屋入るのって何か制約あったの?」

 ハッと気がついたようにマコトが聞いた。

「そうだね。この部屋はボスを倒したあとのボーナス部屋で、なおかつ隠し部屋なんだよね。普通の人には絶対来れないようにしてるけど。
 兄ちゃんはダンジョンの一部だから問題ないけど、ジュードは兄ちゃんの許可がないとこの部屋に入れない。今日はボス部屋から入ってもらったけどね。」

 びっくりした顔で俺を見て、すぐに

「え?ボス倒したの?大丈夫?許可するよ!許可。いつでも入って。」

 とぎゅうぎゅう抱きついてきた。その必死な様子に自然と笑顔になる。

「ありがとう。けど今日はボスは留守だったからな。別に大丈夫だ。」

 マコトの優しさにナデナデぽんぽんしてやる。

「また来れるなら、もう帰るか?帰って飯にしよう。暖炉もつけっ放しだ。だいぶ暖まったんじゃないか。」

「あっ、そうか。ジュード仕事で疲れてるのにごめんね。」

 バッと身体を離すと、

「燈翔。もう帰るね。ありがと。またね。」

「うん。いつでも来てくれて良いから。」

 ヒノトはニコニコと笑いながら手を振って見送っている。

 来た時の扉がパッと目の前に現れる。二人で小さな扉を潜って家に戻った。

「なんでこんな小さな扉にしたんだ?」

 家に帰り、食事をしながらマコトに聞く。

「えー?秘密基地って感じがしない?あ、でもジュードにはちょっと小さ過ぎた?」

「そうだな。これ以上小さくしないでくれよ。」

「えー。どうしよっかなー。」

 はははっと笑い声が響く。

 その後に一緒に風呂に入り、部屋の前で「おやすみなさい。」とマコトは自分の寝室に入ろうとする。
 俺はマコトを背中から抱きしめる。

「え?え?どうしたの?」

 驚くマコトに後ろから耳元で声をかける。

「俺の布団で一緒に寝ないか?」

 わあわあと慌てていたマコトがピタリと止まる。

「布団が乱れてる。俺のベッドで寝たのか?マコト。」

 後ろから抱きしめる俺の腕に、そっと自分の手を添える。首まで真っ赤にしている。俺のベッドに入ったことは覚えているらしい。

「寂しかったな。一人にしてすまなかった。」

ぎゅっと抱きしめると

「さ、寂しかったのかな?よく分かんないよ。」

 そう言いながらも俺の腕をぎゅうっと掴んで離さない。

「一緒に寝よ。」

 もう一度囁くように聞くと、マコトはうんと頷いた。

 この日からジュードと同じベッドで眠るようになった。
 マコトのベッドはお客様用に役目が戻ったのだった。 
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