愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

48 プレゼン2

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 みんなでゼリー食べた。
 オレンジのゼリー。美味しかった。

 しばらくしてからトーマスさんを先頭に、ダニエルさん、ナタリーさん、リオンさんが戻ってきた。なんかぐったりして顔色が悪い。大丈夫かな?

 リオンさんは奥側のソファにバタリと倒れこんでしまう。ベリタ母さんの周りにいた子供達はみんなリオンの元に行ってしまう。ロリは特に心配そうだ。

 これから大人の話だから、空気を読んだのもあるんだろう。

 トーマスさんが口火を切る。

「お待たせしました。我々が鑑定魔法で木箱の石を鑑定させていただきました。」

 なるほど、あれだけあったの全部見たの?そりゃ顔色も悪くなるのか。わかんないけど。

「ナカセ様はギルドに口座をお持ちですよね?」

 早速と言わんばかりにバサバサと書類を広げる。

「はい。あります。」

「では、我が商会でも口座を開設していただきます。」

と、口座開設の書類を出される。サインして、魔力を流せば完了だ。迷うことなくサインする。

「はい。ありがとうございます。後見人ということで、月々の生活費が支給されます。それはギルドの口座に振り込みます。基本は白金貨一枚と金貨五枚です。」

 ふむふむ。だいたい十五万円くらいね。生活にどれくらいかかるのか分かんないけど、メラーニの人々がケチるとかありえないので、妥当なんだろう。
 それに冒険者として活動してたら、お金も貯められるだろうし。

「はい。」

「それとは別にこちらの口座には売上を入金させていただきます。支店でもどこでも、こちらに来ていただければ、指の紋章で引き出すことも出来ます。で、とりあえず三億入金します。」

「はい。って、はっ?はい?」

 突然の大金に目が点になる。

「内訳としては、石には値段をつけずに付与した魔法を一律一万、金貨一枚としました。箱には大小様々におよそ一万個の石が入っており、全てに魔法が付与されていました。それで一億。それが三箱ありますので、三億です。白金貨三千枚になります。」

 トーマスさんの説明の後ろでみんなが座れるように用意されたソファにナタリーさんとダニエルさんがぐったりと座っていた。リオンさんはもうひとつのソファに寝かされている。子どもたちが心配そうに周りで面倒を見ていて、飲み物を渡したりしている。メイドさんはみんなをパタパタと仰いでいた。子どもたちも真似している。四人で鑑定をしながら数えたのか。すごいな。

「細かい金額はまた詰めていきます。とりあえずこれは最低金額。これから石の値段と付与魔法の種類による差額も計算して加算します。」

 トーマスさんたちは、おれにきちんと報酬を払わないといけないと思ってる。ジェレミア父さんが「良くしてあげてね。」なんて言うから。
 商人さんの良くするはお金のことだと思うけど、おれは金持ちになりたいわけじゃない。
 そりゃ、あるに越したことは無いけど。

「あの、そんなにもらえません…。もっと安くしてください。その一割で良いです。」

 おれの発言に驚いた様子のトーマスさん達。

「え?」

「だって、これをお店で商品化して売るときには、今言った金額より高くなるって事ですよね?
そんなのお金持ってる人しか買えない。おれは金持ちのためにこれを作ったわけじゃない。一般庶民が買える金額にしてほしいんです。
お金持ってたり、地位のある人は別にこんなの無くても、どうにかする事出来ると思うんです。でも、庶民だったりそういう身を守れない人達は高すぎて買えない。そんなことが無いように、安く広めてほしいんです。」

 しかしトーマスさんの表情は険しい。

「…しかしこれほどの付与魔法、付加価値を考えれば、この金額でも安いくらいだ。」

 なるほど。まだまだ希少なんだね。おれは静かにジュードを見る。

『好きにしたら良いぞ。』

ジュードの声が頭に聞こえる。そしてフッと笑ってくれた。

 そっか。好きにして良いのか。キッとトーマスさんを見つめる。

「付与魔法の付加価値とかは分かんないです。おれはみんなの役に立ちたい。」

 そう言うと、テーブルの上の書類を腕でぐいっと横に追いやって、木の箱を創造で作って置いた。

 手をかざせばクズ石が箱いっぱいに湧き上がる。

 トーマスさんが息を呑んだ。

 さらに魔力を流して結界魔法を付与した。
 その箱を腕でずらして横にもう一箱、クズ石を作って今度は転移魔法を付与する。

「おれのスキルは創造です。これくらいいくらでも作れる。数が少ないから希少価値があるっていうなら、めちゃくちゃ作って溢れるくらいにします。」

 おれははっきりと言い切った。スキルもバラしちゃって良いって言った燈翔と心琴の言葉を信じてる。

 トーマスさんにダニエルさん、ナタリーさんはその様子を声もなく目を見開いたまま凝視している。

 まだ分かんないかよって、もう一箱出そうとしたら、ジュードがくいっとおれの肩を引いて、おれはソファにぽすんと座らされた。

「マコト、もう十分だ。これ以上無理すると倒れるぞ。」

 確かに勢い良くこんなにたくさんの物を作ったのは初めてかもしれない。

 名前を呼ばれて一気に力が抜けた。

 魔力切れを起こすことも無いし、スキルの使用上限もないみたいだけど、精神的に疲れていたみたい。急に力が入らなくなって背もたれにくてっと身体を預けると天井が見えた。

 隣に座るジュードが腕を軽く引っ張ると、俺の身体はズルズルどジュードの方に倒れる。
 ぽすんっと頭がたどり着いたのはジュードの膝の上。


 え!今度はジュードが膝枕してくれるの!?

 バッと視線を上に向ける。ジュードは薄っすらと笑顔で見下ろしていて、おれの頭をヨシヨシしてくれた。

 ちょっとムキになってたみたい。気持ちが落ち着いてきて、へにょっと笑いかけた。

「しかし安くすると買い占める者も現れるだろう。」

 ダニエルさんが呟いた。

「あ、言い忘れてましたが、結界魔法のは、たくさん持ってても意味無いです。」

「え?」

 トーマスさんが聞き返すより早く、ジュードがさっき作ったばっかりのクズ石の箱に剣を振り下ろした。

 キンッ

「あっ…。なるほど、そういうことですか。」

 全員鑑定持ちならすぐわかるはず。

 箱の中の石は全てただの空石に戻っていた。

 攻撃を一回防ぐのは何個あっても、一回だ。初手で全部の石が反応してしまう。
 きっと偉い人は沢山持ってようとか考える人がいると思うから、この条件は絶対だ。

 おれはジュードに膝枕してもらったまま、横を向いて手をかざす。再び全部の石に結界防御の魔法が付与された。トーマスさんたちは再び言葉を失った。

「マコちゃんは本当にすごいのねー。これはどうやって他の物に付けるの?」

 ベリタさんがのほほんと聞いてくれる。

「見てもらったほうが早いので、子どもたち呼んでいいですか?」

 おれの声掛けでカミルとカレルの双子にシーラ、ロリ、エリザベスの五人が再びおれのそばまでやって来る。

「みんな、おれのあげた組紐もリボンも使ってくれてるんだ。ありがとね。」

 流石に膝枕は恥ずかしいので、起き上がる。

「みんなこの箱の中の好きな石をそれぞれひとつづつ取ってくれる?」

 箱は結界防御、転移、声を飛ばし位置を知らせる三種類だ。五人は好きな色の石をそれぞれ選んだ。

 「いい?くっつけたい物の上に並べて、手をかざして、くっつけって思いながら魔力を流す。これだけ。やってみて。」

 カミルは濃紺の組紐の端に金に光る石を並べた。カレルは濃紺に金糸のラインの入った組紐に濃紺の石を並べる。
 シーラもロリも眼の色や髪色にちなんだ石を並べた。
 エリザベスは淡い桃色サンゴを並べてピンクピンクしてた。

「うわあ。見て見て。ベスにも出来たよ!」

 子供でも十分間に合うくらいの少しの魔力で付ける事が出来る。

「お店でギルドタグに付けるサービスとかどうですか?あとはアクセサリーやボタンにつけて売るとか。」

 そう言って自分のギルドタグを見せる。おれのタグにも透明な石をつけてある。本当はイヤーカフで守られてるからいらないんだけど。まあ、見本みたいなもんだ。

「すごいわね。まさかこんなに簡単に付けられるなんて、誰も思わないでしょうね。
魔力もほんの少しだけしか使わないし、元の物があれば、何人か雇えば大量に生産できるわね。」

 ナタリーさんはいつの間にか復活していて、ブツブツと何か考え込みながら、トーマスさんの隣に座っている。

 くいくいって服を軽く引っ張られる。おれのそばで石を付けてたカミルとカレルだった。カミルが おれの耳元でぽそぽそと小さい声で聞いてくる。
 それを聞いて、笑顔でいいよって答えた。

 カミルはダニエルさんのところに、カレルはトーマスさんの前に立って、今作った組紐を差し出した。

「これ、お守りに貰って頂けますか?」

 肌が褐色の二人だけど、それでも真っ赤になってるのが分かる。
 するとシーラが慌ててナタリーさんのところに来た。

「二人だけ卑怯です!
お姉様。これ貰っていただけますか?」

 シーラも自分のリボンをそっと差し出す。

 カミルから「私達にせっかくくれたのに勝手なのですが、プレゼントとして渡してもいいですか?」と耳打ちされたのだ。

 みんなの淡い恋心に気付いちゃったからねー。嫌とは言えないよ。
 自分の色を贈る意味が解っているのかは知らないけど。
 トーマスさんは髪が長いから、そのまま髪に結んでる。
 ダニエルさんは髪が短いから手首に巻いていた。

「ありがとう。大事にするよ。」

 トーマスさんとダニエルさんもすごく嬉しそう。それぞれの頭を撫でてあげてる。

「あーん。シーラ可愛すぎ。おいで。よしよししてあげる。」

 クールビューティなナタリーさんがめっちゃデレた。
 なんだかんだ三人共メロメロだ。

 おれは色んな色のリボンや組紐を出して、机に並べた。

「お礼作ります?」

 父さんや母さんにメイドさんたちまで集まってリボンや組紐、タグにみんなで石を付けた。
 今日だけはタダって事にして、トーマスさんに納得してもらった。

 ロリはリオンの為にと組紐を新たに作って渡していた。小さくてもしっかりしてる。

 こうして気がつけば、家族和気あいあいとプレゼント交換会になっていた。

おれのプレゼンは大成功だったはず。



 
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