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新しい世界
46 プレゼン
しおりを挟むおれは勧められたソファに座った。隣にはジュードが座ってくれる。
「あ、あの、美味しい夕食ありがとうございました。すごく楽しかったです。」
思ったことをそのまま伝える。
本当にこんなに沢山の人達と一緒に食べたこと無かったから、ドキドキしたけど、美味しかったし、おれのこと受け入れてくれてる感じが嬉しい。
おれの世界はこれからどんどん広がるっていうか、広げていきたい。
そのために出来ること、やりたい事を考えてた。あんまり賢いわけじゃないから、正しいのかどうかも分からないけど。色んな事に挑戦したい。その為にはきちんと話をしないといけない。
意を決して、声に出す。
「あ、あの、皆さんに見てもらいたい物があるんですが、良いですか?」
みんながこっちを見る。今は大人しかいないから、こっちも大人の話をしようと思う。
「あの、転移装置って魔石で動かすんですよね?」
「うん。そうだね。」
「魔石は使い捨てですか?」
「いや、また魔力を充填して使えるよ。」
なら、おれも役に立てる。
「ジュード。空の魔石持ってる?なるべく大きいの。」
横に座っていたイケメンが「ん?あるぞ。」っと、マジックバックから大きな石を普通に取り出す。
机の上にゴトッと置かれた石は、人が一抱えで持つような、かなりの大きさの物だった。重くないのかな?
流石A級冒険者だけのことはあるね。さらっと出しちゃうの、めっちゃかっこいい。
トーマスさんとダニエルさんは目を見開いて、腰が浮いちゃってた。ナタリーさんも口が開いてる。大人だからリオンさんも一緒にいるんだけど、驚いて固まってる。
「ははは。すごいね。国宝級の大きさだよ。」
ジェレミアさんはそこまで驚いた風でもなく、淡々と言ったけど、国宝とか言ってるし、周りの人たちの驚きぶりから、かなりすごいものをジュードが出したんだろうっていうのは分かる。
「え?そんなに貴重なの、いいの?」
一応聞いてみる。
「ん?別に構わないぞ。好きに使って。」
思った通りの返事なので、ありがたく使わせて貰う事にする。
その空の魔石に手を乗せる。
魔力をグッと込めた。
あっという間に魔石が魔力で満たされる。
「あの、これで今回の首都からの転移分くらいありますか?」
そう。わざわざこの夕食の為だけに転移陣を使ったって聞いて、申し訳ないから、その負担分を少しでも返せたらと思ったのだ。
「いや、多すぎる位だよ。」
ダニエルさんがワタワタとしている。
「そうだね。こんなに大きな魔石、一ヶ月は楽に転移陣が使えるね。」
ジェレミアさんは苦笑してる。そっか。ちょっとやりすぎたみたい。だけど、これはおれの売りでもある。
「この魔力買ってもらえませんか?空の魔石に魔力を充填する仕事ってどうでしょう?」
「うん。みんなで決めて。どうする?」
ジェレミアさんは養子にしている人たちに言う。ダニエルとトーマスとナタリーに見習いのリオンが、膝付きあわせて、どうするか相談している。
「魔石を用意してもらったら、それに希望の魔力を入れます。それに報酬をつけてください。」
「なるほど。詳しい内容はこちらで詰めても良いか?」
トーマスさんに聞かれる。
「はい。全部お任せします。あと、スキルのこととか知っておいて貰いたいので、これ見てもらえますか?」
と、ギルドタグを出す。いつもの板にステータスが表示される。
「…愛し子の愛し子?」
名前 ナカセ マコト
年齢 15
レベル 40
種族 人間
称号 大神の愛し子の愛し子
「あと、魔力はかなりあると思います。属性も全部あります。 」
四人は紙とペンを取り出して、何やらガリガリと計算をしている。
おれはさらにリボンを取り出した。ひらひらしたリボンの先に小さな赤い石が何個か付いている。ラインストーンみたいなのだ。
「これは試作品に作ったものなんですが、この赤い石に防御魔法と結界魔法を付与しています。何かの時に魔力を通しとくと、最初の攻撃は防御魔法で防いで、しばらく結界が守ってくれます。もうひとつが通信魔法で声を届ける事ができます。で、もうひとつが自分の場所を教える魔法を付与しています。ダニエルさん。試しに持ってみて下さい。」
ダニエルさんは言われたとおりにリボンを手首に巻いた。石に魔力を流しておく。
突然、隣に座っていたジュードが、マジックバッグから剣を取り出して、一足飛びで斬りかかった。
キンッ
「おお。」
周りの人達が息を詰め、固まる。
副店長兼護衛であるダニエルさんは騎士っぽい服に元から帯剣してたけど、A級冒険者のジュードの動きに間に合わなくて、剣の柄に手をかけた状態で固まってる。
ジュードは真っ直ぐにダニエルさんの首を狙ったけど、おれの魔法が発動して攻撃が弾かれていた。
打ち合わせしたわけでもないのに、ジュードがおれの思ったとおりに動いてくれるので、本当に助かる。
おれもすごいびっくりしたとかは内緒だ。
もう一度剣を振り下ろす。
キンッ
しばらくの間結界が張られて、攻撃は当たらない。
初めは驚いて顔色の悪かったダニエルさんも落ち着いて、自分の手をグーパーしながら結界を確認している。ジュードは何も言わず剣をしまって、ソファに座った。
ジュードのデモンストレーション、最高。チラリと見ると、ニヤッと笑われる。クッソ、イケメン。思わず赤くなる。
トーマスさんが聞いてきた。
「これは魔法は?」
「弾くのかな?たぶん。」
魔法が良く分かんない。当たるなとは祈ってる。
「効果時間は?」
「解除しなかったら、一日くらいは持つんじゃないかな?ただ、解除したら、魔力入れないと使えない。」
「逆に言うと、魔力を込めれば、また使えると。」
「はい。」
そしておれは箱いっぱいのクズ石をドンと出す。
「これ全部おんなじ魔法付与してます。これを買い取って欲しいです。」
「これは…。」
ついに四人は一斉に立ち上がる。
「お父様。しばし時間を下さい。別室にて相談してまいります。」
トーマスさんがうやうやしく言う。
「うん。良くしてあげてね。よろしくね。」
と、銀色の長い髪を揺らしながらニッコリと微笑んだ。
年長組の四人はどこかへ行ってしまった。
あとこれだけは言っておかないといけない事。燈翔と心琴から聞いてから、ずっとそわそわしてた事。
「あと、えっと、ジェレミアさんとベリタさんにお願いがあるんですが…。」
「なになに?マコちゃんのお願いなら何でも聞いちゃうわよ。」
二人共ニコニコしながら聞いてくれる。
「あの、後見人になっていただき、養子を断っておきながら、こんな事お願いするのは間違っているとは思うんですが。」
「うん。きけることなら大丈夫だよ。」
こんなこと言って恥ずかしいけど、きっと許してもらえると思う。
「あの、おれ今は身内が近くにいなくて、ジュードのお世話になっているんですけど、暮らすのはジュードと一緒じゃないと嫌なんだけど。」
なんだか頭が上手くまとまらなくて、何言ってんのかよく分からなくなってきた。
「えっと、だから、あの、養子じゃないのに、こんなこと言うのダメだと思うんですけど。」
同じこと言っちゃってるし。でも、言わなきゃって、ぎゅって目をつぶって一息に大きな声で
「お父さん、お母さんって呼んでもいいですか!」
い、言えた。
どんな風に思われたかわからない。目を閉じてしまったので、今二人の顔が分からない。
嫌な顔とか困った顔とかしてたらどうしよう。
二人からなんの反応も無いのが怖くて、ぎゅっと閉じていた目をゆっくりと開いた。
あ、笑ってる。ジェレミアさんは優しい顔で笑ってて、ベリタさんは笑顔なんだけど、涙を流していた。
「ふふふ。嫌だから泣いてるんじゃ無いのよ。何故か勝手に涙が出てきたの。どうしてかしらね。」
ニコニコしながらベリタさんがおれの手を握る。
「マコちゃんのお母さんになれるの嬉しいわ。家族と思ってくれていいからね。気にせずにお母さんって呼んで。」
「そうそう。お父さんで良いよ。」
二人はニコニコしながらおれのお願いを許してくれた。
「ありがとうございます。お父さん。お母さん。」
この世界で家族が増えた。
ジュードも隣で優しい笑顔で「良かったな。」って言ってくれた。
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