愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

44 琥珀と翡翠

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 人間の頭部は重い。おれはそれを初めて知ることができた。
 ジュードを膝枕したことによって、おれの右足に感覚が無くなった頃、黒髪長髪サラサラストレートの美丈夫のまぶたがふるっと震えた。あっ、と思った次の瞬間、パチって開いた。

 翡翠みたいに綺麗な緑色の目を見開いている。あ、よく見たら緑の瞳の中、虹彩にエメラルドグリーンだったり濃い緑だったりが小さくキラキラしてる。

 綺麗だなあ。見とれてしまう。

 呆然とした瞳とばっちり見つめ合う。

「おはよう。よく眠れた?」

 おれが軽く聞くと、ムクリと身体を起こす。
 目の下の隈も無くなって、なんか元気になってる気がする。

「いや。うん。そうだな…。良く眠れたとは思うが、眠るつもりは無かったんだがな…。なぜか急にものすごい眠気に襲われたな。」

 やっぱり少し呆然としてる。怒られちゃうかもだけど、素直に言う。

「それはおれがお願いしたんだよ。少しの時間でいいからぐっすり眠らせてくださいって。」

 おれは立ち上がりベッドから降りる。右足の感覚が無いけど、なんとかサイドテーブルの水をコップに入れてジュードに渡す事が出来た。

 ジュードもベッドから降りると、水を素直に受け取り、ソファに腰掛ける。

「マコトがお願いしてくれたのか。」

「ごめんね。でもジュード疲れてたみたいだから。おれのわがままで。あっ。」

 驚くおれの腕を引いて抱き上げられて、座るジュードの上に向かい合わせに座らされた。

「うわっ。ちょっ、ジュード?」

 おれの右太ももを優しく撫でながら、ニヤリとして

「だからって痺れるまで膝枕しなくてもいいんだぞ。」

 なんで分かったかなー。

 今度はジュードの膝の上におれが跨がっている。
 撫でられる手の感触が、なんかぞくぞくする。気持ち悪いとか、嫌じゃなくて、気持ち良くてドキドキのぞわぞわだ。

「べ、べ、別に平気だし。」

 真っ赤になってる自覚はある。
 ジュードはちょっと意地悪な笑顔で、右太ももを撫でていた手を背中に回す。両手で背中や腰、脇腹を撫でて、そのままぎゅーっと抱きしめられる。
 膝の上に乗って膝立ちになってるから、いつもなら見上げなきゃいけないけど、今は同じくらいの高さだ。真正面にイケメンがいる。
 じっと見つめられて、吸い寄せられる様に近づいて行ったら

「お願いはもうダメだからな。」

 と言われて、触れ合う寸前だった顔を上げた。

「怒ってる?」

「まさか。楽になった。助かったよ。」

 と笑いかけられると、ホッとした。
 なんだかおかしくなってきて、ふふふっと笑った。

「良かった。ジュードに効果があって。」

 ジュードもははっと笑う。

「まさかマコトにやられるとは思わなかった。最強だな、マコトのお願いは。」

 そんな事を強くてカッコイイのてっぺんに居る、ジュードに言われたら困ってしまう。

「最強とかありえないし。」

 真っ赤になって否定した。

 話を変えようと、アイテムボックスからさっき作ったくず石箱を出す。

「これは?」

 石に魔法を付与したこと、それを色んな物に付けて、商品として売ってもらおうと思っていることを話した。

「どうかな?」

「なるほどな。すごくいいと思うぞ。」

 褒められて悪い気はしない。えへへと照れ隠しに笑う。

「あとはこれなんだけど…。」

 ちょうど向かい合わせにし座っているから、丁度良いと思って、さっきジュードが眠ってる間に作った物を取り出す。

 琥珀で作った筒状のイヤーカフだ。耳たぶじゃなく耳輪の辺りにつける物。創造のスキルはどんな形も作れるので、本当に優秀だと思う。もちろん壊れないように強化と保持の魔法もつけてる。

「付けるからじっとしててね。」

 おれはそれをジュードの左耳に付けてあげる。最初驚いた顔をしていたけど、
そっと魔力を流すとジュードの耳にピッタリ収まった。

「これ、ジュードが付けて。」

 もうひとつ翡翠で作った同じ形のイヤーカフをジュードに手渡す。
 すごく大事なものに触れるように、そっとおれの右耳の耳輪に付けると、魔力を流した。
 耳があったかくなって、ジュードの手が離れる。

『ジュード聞こえる?』

 すぐ目の前にいるのに、じっと見つめながら心の中で呼びかけた。

『!すごいな。聞こえるよ。』

 はぐれた時の反省をふまえ、作った物だ。声を届ける事が出来る。他にも絶対防御とかいろいろと付けた。

 ジュードがもう一度おれの耳に触れる。

「?」

 ふわっとあったかいのが流れた。

「結界だ。マコトを魔力で包んだ。」

 そう言われて自分の手のひらを見る。薄っすらと膜が張ってるみたい。

「馬鹿な奴らに向けられるどうでもいい感情で、マコトが辛い目に合うのは許せないんだ。」

 ジュードはジッと見つめながら、真剣な顔で言う。人の感情を通さないようにしてるらしい。瘴気に当てられるのは、確かに苦しかった。

「これは毎日魔力を流せば継続される結界だ。俺にその役目をさせてくれないか?」

 そう言いながら、優しくイヤーカフに触れ、そのまま耳たぶまですりすりと撫でられる。
 気持ち良くて、その手に頬をすり寄せる。
 
「ジュードがいない時はどうしたら良いの?」

 目を閉じながら聞く。

「自分で流せば大丈夫だ。誰かにやってもらうのは、俺が耐えられないからやめてほしい。」

 そう言われてぱちっと目を開く。思ったより真正面にジュードの顔があった。

「耐えられない?嫌なの?」

「そうだな。俺以外に触れられるのは嫌だ。」

 にやりとしながらはっきり言われると、なんだか照れてしまう。

「うん。おれはジュードのだから、毎日ちゃんと魔力流してね。」

 真正面のジュードをまっすぐ見つめて言うと、後頭部にそっと手を添えた。

 どちらともなく近づいて、唇が触れ合う。

 チュッ、と離れたと思ったら、またキスされて、と何度も何度もお互いに近づきあった。

「ジュード。大好き。」

 おれの想いをそのまま言葉にのせる。

「俺もだ。」

 ぎゅっとお互いに抱きしめあった。

 本当にジュードの暖かさが一番やばい。好きって気持ちがそのまま体温になるのかも、熱すぎる。

 おれたちはそのまましばらく抱きしめあったり、キスしたり、二人っきりの甘い時間を過ごした。


 



 


 

 

 
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