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新しい世界
43 やりたいこと
しおりを挟む燈翔と心琴の話はびっくりだけど、おれの母さんの魂がベリタさんか。
あの優しい眼差しは、母の愛だったんだ。
そう思うと、じんわりと心の中が暖かくなる。
「まさか弾き出されて、連絡すら取れなくなるなんて思ってなかったんだって。」
ジュードはおれが居ない間、ずっと捜し続けてくれてたらしい。
らしいっていうのは、ジュードが多くを語らないから。
でも、目の下に隈を作ってるのなんて、初めてだから。
おれにでもなんとなく分かる。
おれも逆の立場ならずっと捜すと思うし。
だからジュードの目の下の隈をそっとなでて、ごめんねって言った。
「そうだな。だが、あんなに泣いて会いたかったと言われてしまうと、心配もどっかに行ったな。」
いつものように頭をなでなでポンポンしながら、優しく言われた。
そういえば、おれめっちゃ泣いたわ。
うわっ。恥っず。
思わず真っ赤になって俯いたら、燈翔が言った。
「まあこれも成長のひとつだから、気にしないで。」
「成長?」
「そう。お兄ちゃん、大きい声で泣いたことある?っていうか前は声を出して泣いたことも無いじゃない?」
心琴に聞かれて、うーんっと大して無い記憶を思い出す。
病院、白い天井、無機質に一定のリズムを刻む機械音…。涙が勝手に流れることはあったけど、声も出せないし、動けないから…。
確かに無いわ。
「初めて泣いたの、どうだった?」
さっきの事を思い出す。
「ジュードが見えて、ホッとした。そしたら、なんか勝手に涙が出て、胸が苦しくなって、ジュードに謝らないとって思って。」
ソファに座って話をしていると、隣に座ったジュードがおれの頭をぎゅっと抱き寄せてつむじに唇を寄せた。
「謝ることなんか、何もない。」
正面に並んで座った、燈翔と心琴はにこにこしながら
「その気持ちが悲しいだよ。心の成長のために、ウラノス様が少しだけ悲しい状況を作ったんだよ。」
そっか。おれの成長のためでもあったのか。
おれもジュードの背中に手を回す。ジュードの胸にぐりぐりとおでこを擦り付ける。
やっぱり一番落ち着く。暖かい。
完全に二人の世界になってた。
「さっ。顔も見れたし、帰るね。本当はここにいるべき存在じゃないし。」
そう言って燈翔が立ち上がった。
はっと我に返って、慌てて言う。
「え?もう帰っちゃうの?」
心琴もニコニコしながら、立ち上がる。
「またいつでも連絡してね。」
「あ、そうだ。ウラノス様からの伝言。メラーニ家は本当に大きいし、何があっても悪いようにはならないから、兄ちゃんの好きなようにしたらいいって。」
「好きなように?」
「そっ、スキルもばらしちゃって大丈夫。創造のスキルで好きなもの作って、売ってもらえばいいんだよ。」
燈翔に言われて、なるほどって思う。
そっか。好きにしていいんだ。
ジェレミアさんなら全部なんとかしてくれそうだ。
「じゃあまたね。」
扉を開く。向こう側は真っ白だ。空間が違うんだろう。
「うん。またね。」
二人が帰っておれたちは今ベッドにいる。
別にやましいことをしようとしてる訳じゃなくて、おれが少しでもジュードを横にしたかっただけ。
最初は渋っていたけど、下から上目遣いで見上げながら
「ジュードのそんな隈作って調子悪いの、おれのせいでしょ。夕食まで少し横になってよ。」
と、ここで俯いて鼻を啜る。
「マ、マコト!泣くな。わかったから。」
と、言質取ったところで
「ほんと?」
と、にっこり顔を上げた。
「まさかマコトに嘘泣きされるとはね。」
と苦笑いして、ジュードは諦めて素直にベッドに上がった。
おれはずっと寝てたからか、元気なので、ジュードを引っ張って横になってもらった。
いわゆる膝枕だ。
ジュードはびっくりした顔してる。
正座を崩して座り、その膝にジュードの頭が乗せられている。
そっといつも巻かれているバンダナを外す。長い黒髪が膝の上に広がって綺麗だなって思う。
見下ろすと、綺麗な翠色が見上げていた。この瞳もすごく綺麗。
ジュードに抱っこされたりはよくあるけど、甘えてもらうのなんて初めてで、ドキドキする。
ジュードも慣れてないみたいで、困ったような、笑っているような顔をしている。
「こんな事は初めてなせいか、なんだか照れるな。」
ジュードがちょっと恥ずかしそうに言う。
おれはクスクス笑う。
「いっつもお世話されるばっかりだから、こういうの嬉しい。」
素直にそう言うと、
「そうか。確かにこの二日疲れたし、少しだけお世話になろうか。」
そう言いながら、優しく笑った。
おれはそっと身体を曲げて顔を近づける。
「目つぶって。」
小さい声で言うと、ジュードは素直に目を閉じた。
おれはジュードのおでこに軽く触れるだけのキスをする。
おでこ、鼻先、そして閉じられたまぶた。順番にくちづけていく。ジュードは最初ピクッてしたけど、あとはじっとされるがままだ。
そしてまぶたに軽く唇をつけたら願う。
(三十分で良いから、深く眠って、起きたらスッキリしてますように)
魔法なんか使えるか知らない。
おれに出来るのは願うことだけど、薄っすら光って、何かが抜けた感じがした。
「あっ、……。」
すると小さな声の後に、ジュードの力が抜けて、ズシッと重くなる。さっきまでは気を使ってあんまり体重かけてなかったみたい。
え?って事は本当に効いたの?
そっと口元に耳を寄せるけど、深い寝息が聞こえる。
まあ寝てなかったっぽいし、良いか。って曲げてた足を伸ばして、膝の上のジュードがゆっくり眠れる様に、自分も楽な姿勢にする。
眠るジュードをしばらく眺めてうっとりする。
寝てるとこなんて見たことない。こんなに無防備なのも、なんだかドキドキする。
かっこいいなあ。綺麗だなあ。好きだなあ。無意識にゆっくりと眠るジュードの唇に唇を落とした。
あっ、勝手にキスしちゃった。
ふと我に返って、急に恥ずかしくなって、真っ赤になった。
手でパタパタと顔を仰ぎながら意識を別のことに逸らすことにした。
創造のスキルで縦横高さ三十センチの木箱を作る。その箱の中には色とりどりの天然石や水晶や魔石がぎっしり入っている。大きさは大きなものでも五ミリ程の大きさだ。さらに小さな物もたくさんある。いわゆるクズ石と呼ばれるものだ。
慎翔はそれに«魔法攻撃も物理攻撃も通さない、絶対防御一回分»を付与した。
箱ごとまとめてやった。何百個の付与も一瞬だ。マジックで効果を書いて、アイテムボックスにしまう。
おれに魔力切れとかないみたいで、馬鹿みたいに付与使っても、全然平気だ。
なので、さらに同じクズ石をもう一箱用意して«転移魔法一回分»の箱。
«声を届ける魔法一回分»の箱と、次々作っていった。
これはリボンと組紐を作った時に思った物を形にしたものだ。
小さな石をリボンや組紐に付ける。イメージはラインストーン。その中に魔法が付与されたものがあってもいいんじゃないかと思って。
さっきエリザベスやみんなにあげたリボンの色を思い出して、それに瞳の色と髪の色のラインストーンをつけた物を準備した。さっきはただのリボンと組紐だったからきちんとしたのを渡したいと思ったんだ。
これを夕食の時にジェレミアさんに提案しよう。
燈翔も心琴も好きすればいいって言ってたから、便利なものたくさん作って、みんなの役に立てるようになりたい。
思いつくままにスキルで作ってはアイテムボックスにしまっていった。
ジュードはすごい良く寝てる。起きたら、色んな事相談したいなって思った。
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