愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

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 ふわふわする。
 ぽかぽかする。
 
 おでこに柔らかいものが触れる。

 気持ちいい。安心できる。

 誰かに横抱きにされてる。毛布に包まれて、抱っこされてる。

 ふわって楽になるのきっと浄化してくれてるからだ。こういう風に優しく抱きかかえてくれるのは一人しか知らない。

 ああ、嬉しいなあ。


 遠くで話してる声が聞こえる。

 じゅーどのこえだ。

 まだぼんやりした頭で話しているのを聞いてるけど、なかなか理解出来ない。

 しばらく話してるのを音としてだけ聞き流していく。

 浄化でフワってなって、おでこに静かに唇を寄せられてるのが分かると、ものすごく幸せな気分になって、段々と意識がはっきりしてきた。

 目は開かないけど、だんだんジュードたちの話が分かる。

 またジュードにおれのことを説明させてるんだなあって申し訳なく思う。

「あとは称号に愛し子の愛し子がある。これは神殿に神託が降りていて、神官長のアーノルドとギルマスと副ギルマスだけが知っていることだ。」

 ジュードが愛し子のことまで言うなら、きっとそれだけ信用したんだろうね。メラーニさんたちと話してるのかな?

「…それはさすがに驚いたね。色んな人が放っとかない存在になる。下手したら戦争ものかな?」

 やっぱりジェレミアさんの声だ。
 なにそれ?…おれのせいで戦争になるの?まさか、そんな。ねえ。

 でも確かにおれって普通の存在じゃ無い?

 え?おれのせいで本当に戦争起きちゃったりする?

「そうねー。珍しいスキルもあるし、内緒の方がいいでしょうねー。」

 あっ、ベリタさん…。

「珍しいスキル?」

 ジェレミアさんが興味を示す。そりゃそうだよね。
 ジュードには内緒って言われてたのに…。ベリタさんも内緒って言ってるし。

 自分の不注意さに嫌気が差した。

「アイテムボックスはすごいのよー。パッと出せちゃうのねー。うちの子供達にリボンや組紐をプレゼントしてくれたのよ。」

 あああ。勝手にスキルばらしちゃってジュード怒る?怒ったとこ見た事ないけど、ちゃんと約束守れなかったし。

 身体も動かないから心の中で反省する。

「うちの子どもたち?エリザベスだけじゃ?子どもたちは勝手に会いに来たのかい?リオンも?あんまり褒められた行動では無いね。」

 ジェレミアさんの怒ってるっぽい声がする。

 え?おれのせいでリオンさんやエリザベスたちも怒られたりするの?
 おれのせいで戦争になったり、争ったり、ジュードが仕事できなくて、みんなが困ったり、責められたりって思ったら、血の気が引いた。

 おれがここにいるから迷惑がかかるんじゃないか。

 どうしよう。どうしたら迷惑にならない?

 あっ、ここから早く出て行けば良いんだ。

 ジュードも来てくれたから、早く出て行かなきゃ。ジュードにはまた迷惑かけちゃうけど、おれが頼れるのジュードしか知らない。

 みんなが怒られたり迷惑かかるのやだよ。

 色んな思いがグルグルしたら、どんどんと血の気が引いて、勝手に声が出てた。

「ごめんなさい。迎えも来たので帰ります。」

 パチッと目を開けた。やっぱりジュードが抱きしめてくれてた。横抱きにされた身体を少し起こす。さり気なく背中を支えてくれるジュード優しい。

 ちょっとだけ勇気が欲しくて裾をきゅって握る。

 早く出て行かなきゃと思って、そのまま話を続ける。ジュードが何か言おうとしてたけど、それどころじゃない。

「マコ「えっと、もう帰ります。二度とここには来ません。街にも行きません。えっと、あの、もう誰にも会いません。っだから、みんなを叱らないで下さい。」」

 みんな固まってる。

 おれ、間違ってないよね?緊張でドクンドクンと心拍が頭に響く。

 突然、大きな声が聞こえた。

 「てんしさま。帰っちゃいやよー。」

 ドスッとおれのお腹にピンクがしがみついている。

「……え、エリザベス?」

 みんなで部屋から出たはずなのに、エリザベスはベッドの下に隠れてたみたい。俺のお腹にしがみついて、いやいやと頭を振る。

「てんしさま。行っちゃうの?行っちゃいやよ。」

 赤が強いピンクの瞳に涙をいっぱいにして、エリザベスがおれを止める。

「エリザベス。マコちゃんが困ってるから、こちらに来なさい。」

 ベリタさんが優しく呼びかけると、エリザベスは渋々おれから離れた。

「なんでそんな考えになったのかな?誰も君に出て行ってほしいなんて思ってないよ。」

 そう言われて呆然とジェレミアさんを見る。

 そうなの?本当に?

 正面のソファにはジェレミアさんとベリタさん。エリザベスがベリタさんの膝にシクシクと泣きながら座っている。

 突然ジュードの胸に抱きしめられる。浄化の魔法がキラキラする。浄化のおかげか、少し落ち着いた。

 ゆっくり見回すと、みんな優しい目をしてた。誰からも霧は出てない。

「目が覚めてたのか?どこから聞いてた?」

 ジュードがおれの両頬をふんわりと持って、真っ直ぐ目を見て優しく聞いてきた。

 大丈夫だよって、目が言ってる。

 おれの目からまたぽろりと涙が落ちた。ジュードがそれを親指で拭ってくれる。

「お、おれのせいで戦争おきるの嫌だ。みんなが怒られるの嫌だ。迷惑になるの…いやだか、あっ…。」

 話してる途中でまた、ギューギューと抱きしめられた。胸に顔を埋める。

「そんなもんは起きない。」

「でも、おれ普通じゃないんでしょ?」

 見上げて聞いた。

「普通がどんなのかは分からないが、俺にとってマコトは普通だ。」

 再びほっぺ持たれ、目を見て言われる。

「めいわく…」
「じゃない。」

「怒って…」
「ない。」

 市場で会った三人組の冒険者の言葉を思い出す。

「あの人たちは、おれがジュードの邪魔してるって…」
「してない。」

 おれが言い切る前にかぶせてきて、一つずつおれの不安を消していってくれる。
 そっと頬の手が離れる。

「みんなは怒られない?」

 おれはジェレミアさんに聞いてみる。

「怒らないよ。だってみんな君のこと好きみたいだしね。こっちが怒られちゃうよ。」

 笑いながら扉を見る。
 扉の影には五人が顔を覗かせている。
 
 カミルとカレル、シーラとロリ、その後ろにリオンが困った顔して立っていた。
 それぞれあげた組紐やリボンを身につけている。

「しょうがないね。ほら、みんなおいで。」

 ジェレミアさんが仕方なさそうに言うと、四人はタタタッと中に入ってきて、ベリタさんの周りに集まる。最後にリオンさんが入ってきた。

「申し訳ありません。お父様、お母様。この子達は私の言う事はあまり聞いてくれなくて。
お父様に報告に行こうとしたのですが、入れ違いになってしまいました。」

「構わないよ。だいたいの事は聞いたからね。」

 そっか。怒られないのか、と思ったら、ふっと肩から力が抜けた。その肩を優しくジュードが撫でてくれる。

「あっ、そうそう。マコちゃんはジュードさんのせいで意地悪されたのよねー。」

 突然ベリタさんが脈絡なく話し出す。

「?」

 ジュードの手が止まり、おれも固まる。

「ジュードさん。あなた自分がこの街で、どれだけ有名なのか知らないでしょう。強くて顔も良くて、優しくてって人気なのよ。」

 ビシッと言われてジュードがパチパチと瞬いている。

「たぶん今まで適当にあしらってきたんでしょう。だけど、きっとこれからは勘違いした人が出てきて、マコちゃんに要らない事を言うでしょうね。」

 ジュードにきゅって抱き寄せられる。

「だからマコちゃんはうちの子にならない?」

「はい?」

 なんで突然?とさらにびっくりする。

「あーでも養子よりは後見人のほうが良いかしら。」

「そうだね。後見人がいいね。」

 なぜかジェレミアさんもうんうんとうなずいている。
 ぽかんとしてたらジュードが教えてくれた。

「後ろ盾になってくれるってことだ。この人達はこの街、いやこの国で一番の権力者だから。」

「え?そうなの?」

 おれは驚くことばかりだ。
 詳しい話を聞かないと、理解できないよ。

 

 

 



 


 








 
 





 


 
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