43 / 106
新しい世界
40 後見人
しおりを挟むふわふわする。
ぽかぽかする。
おでこに柔らかいものが触れる。
気持ちいい。安心できる。
誰かに横抱きにされてる。毛布に包まれて、抱っこされてる。
ふわって楽になるのきっと浄化してくれてるからだ。こういう風に優しく抱きかかえてくれるのは一人しか知らない。
ああ、嬉しいなあ。
遠くで話してる声が聞こえる。
じゅーどのこえだ。
まだぼんやりした頭で話しているのを聞いてるけど、なかなか理解出来ない。
しばらく話してるのを音としてだけ聞き流していく。
浄化でフワってなって、おでこに静かに唇を寄せられてるのが分かると、ものすごく幸せな気分になって、段々と意識がはっきりしてきた。
目は開かないけど、だんだんジュードたちの話が分かる。
またジュードにおれのことを説明させてるんだなあって申し訳なく思う。
「あとは称号に愛し子の愛し子がある。これは神殿に神託が降りていて、神官長のアーノルドとギルマスと副ギルマスだけが知っていることだ。」
ジュードが愛し子のことまで言うなら、きっとそれだけ信用したんだろうね。メラーニさんたちと話してるのかな?
「…それはさすがに驚いたね。色んな人が放っとかない存在になる。下手したら戦争ものかな?」
やっぱりジェレミアさんの声だ。
なにそれ?…おれのせいで戦争になるの?まさか、そんな。ねえ。
でも確かにおれって普通の存在じゃ無い?
え?おれのせいで本当に戦争起きちゃったりする?
「そうねー。珍しいスキルもあるし、内緒の方がいいでしょうねー。」
あっ、ベリタさん…。
「珍しいスキル?」
ジェレミアさんが興味を示す。そりゃそうだよね。
ジュードには内緒って言われてたのに…。ベリタさんも内緒って言ってるし。
自分の不注意さに嫌気が差した。
「アイテムボックスはすごいのよー。パッと出せちゃうのねー。うちの子供達にリボンや組紐をプレゼントしてくれたのよ。」
あああ。勝手にスキルばらしちゃってジュード怒る?怒ったとこ見た事ないけど、ちゃんと約束守れなかったし。
身体も動かないから心の中で反省する。
「うちの子どもたち?エリザベスだけじゃ?子どもたちは勝手に会いに来たのかい?リオンも?あんまり褒められた行動では無いね。」
ジェレミアさんの怒ってるっぽい声がする。
え?おれのせいでリオンさんやエリザベスたちも怒られたりするの?
おれのせいで戦争になったり、争ったり、ジュードが仕事できなくて、みんなが困ったり、責められたりって思ったら、血の気が引いた。
おれがここにいるから迷惑がかかるんじゃないか。
どうしよう。どうしたら迷惑にならない?
あっ、ここから早く出て行けば良いんだ。
ジュードも来てくれたから、早く出て行かなきゃ。ジュードにはまた迷惑かけちゃうけど、おれが頼れるのジュードしか知らない。
みんなが怒られたり迷惑かかるのやだよ。
色んな思いがグルグルしたら、どんどんと血の気が引いて、勝手に声が出てた。
「ごめんなさい。迎えも来たので帰ります。」
パチッと目を開けた。やっぱりジュードが抱きしめてくれてた。横抱きにされた身体を少し起こす。さり気なく背中を支えてくれるジュード優しい。
ちょっとだけ勇気が欲しくて裾をきゅって握る。
早く出て行かなきゃと思って、そのまま話を続ける。ジュードが何か言おうとしてたけど、それどころじゃない。
「マコ「えっと、もう帰ります。二度とここには来ません。街にも行きません。えっと、あの、もう誰にも会いません。っだから、みんなを叱らないで下さい。」」
みんな固まってる。
おれ、間違ってないよね?緊張でドクンドクンと心拍が頭に響く。
突然、大きな声が聞こえた。
「てんしさま。帰っちゃいやよー。」
ドスッとおれのお腹にピンクがしがみついている。
「……え、エリザベス?」
みんなで部屋から出たはずなのに、エリザベスはベッドの下に隠れてたみたい。俺のお腹にしがみついて、いやいやと頭を振る。
「てんしさま。行っちゃうの?行っちゃいやよ。」
赤が強いピンクの瞳に涙をいっぱいにして、エリザベスがおれを止める。
「エリザベス。マコちゃんが困ってるから、こちらに来なさい。」
ベリタさんが優しく呼びかけると、エリザベスは渋々おれから離れた。
「なんでそんな考えになったのかな?誰も君に出て行ってほしいなんて思ってないよ。」
そう言われて呆然とジェレミアさんを見る。
そうなの?本当に?
正面のソファにはジェレミアさんとベリタさん。エリザベスがベリタさんの膝にシクシクと泣きながら座っている。
突然ジュードの胸に抱きしめられる。浄化の魔法がキラキラする。浄化のおかげか、少し落ち着いた。
ゆっくり見回すと、みんな優しい目をしてた。誰からも霧は出てない。
「目が覚めてたのか?どこから聞いてた?」
ジュードがおれの両頬をふんわりと持って、真っ直ぐ目を見て優しく聞いてきた。
大丈夫だよって、目が言ってる。
おれの目からまたぽろりと涙が落ちた。ジュードがそれを親指で拭ってくれる。
「お、おれのせいで戦争おきるの嫌だ。みんなが怒られるの嫌だ。迷惑になるの…いやだか、あっ…。」
話してる途中でまた、ギューギューと抱きしめられた。胸に顔を埋める。
「そんなもんは起きない。」
「でも、おれ普通じゃないんでしょ?」
見上げて聞いた。
「普通がどんなのかは分からないが、俺にとってマコトは普通だ。」
再びほっぺ持たれ、目を見て言われる。
「めいわく…」
「じゃない。」
「怒って…」
「ない。」
市場で会った三人組の冒険者の言葉を思い出す。
「あの人たちは、おれがジュードの邪魔してるって…」
「してない。」
おれが言い切る前にかぶせてきて、一つずつおれの不安を消していってくれる。
そっと頬の手が離れる。
「みんなは怒られない?」
おれはジェレミアさんに聞いてみる。
「怒らないよ。だってみんな君のこと好きみたいだしね。こっちが怒られちゃうよ。」
笑いながら扉を見る。
扉の影には五人が顔を覗かせている。
カミルとカレル、シーラとロリ、その後ろにリオンが困った顔して立っていた。
それぞれあげた組紐やリボンを身につけている。
「しょうがないね。ほら、みんなおいで。」
ジェレミアさんが仕方なさそうに言うと、四人はタタタッと中に入ってきて、ベリタさんの周りに集まる。最後にリオンさんが入ってきた。
「申し訳ありません。お父様、お母様。この子達は私の言う事はあまり聞いてくれなくて。
お父様に報告に行こうとしたのですが、入れ違いになってしまいました。」
「構わないよ。だいたいの事は聞いたからね。」
そっか。怒られないのか、と思ったら、ふっと肩から力が抜けた。その肩を優しくジュードが撫でてくれる。
「あっ、そうそう。マコちゃんはジュードさんのせいで意地悪されたのよねー。」
突然ベリタさんが脈絡なく話し出す。
「?」
ジュードの手が止まり、おれも固まる。
「ジュードさん。あなた自分がこの街で、どれだけ有名なのか知らないでしょう。強くて顔も良くて、優しくてって人気なのよ。」
ビシッと言われてジュードがパチパチと瞬いている。
「たぶん今まで適当にあしらってきたんでしょう。だけど、きっとこれからは勘違いした人が出てきて、マコちゃんに要らない事を言うでしょうね。」
ジュードにきゅって抱き寄せられる。
「だからマコちゃんはうちの子にならない?」
「はい?」
なんで突然?とさらにびっくりする。
「あーでも養子よりは後見人のほうが良いかしら。」
「そうだね。後見人がいいね。」
なぜかジェレミアさんもうんうんとうなずいている。
ぽかんとしてたらジュードが教えてくれた。
「後ろ盾になってくれるってことだ。この人達はこの街、いやこの国で一番の権力者だから。」
「え?そうなの?」
おれは驚くことばかりだ。
詳しい話を聞かないと、理解できないよ。
40
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる