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新しい世界
39 再会
しおりを挟むみんなが部屋から出て行くと、ベリタさんとメアリーさんとおれ、三人になった。
「………。」
ああ。メアリーさんから薄く霧が見える。本当に薄っすらだけど、疑惑って出やすいんだな。
おれは二人を見ていられなくて、下を向く。
大きな溜息が聞こえてくる。
治まっていた頭痛がズキンとした。すると
「メアリー。あなた、慎翔を疑うの?」
と、今までと全く違う雰囲気のベリタさんの声がして、思わず顔を上げる。
だけどそこにはいつもの明るくて優しい笑顔のベリタさんがいて、おれの左手を握ってくれる。
あったかい。
重くなっていた心が落ち着く気がする。
どう言って良いのか分からないおれは、黙ってベリタさんを見ると、本当に慈しむように優しい笑顔で頷かれる。
「マコちゃんはマコちゃん。ねっ。」
そう言われてなんだか泣きそうになる。
メアリーさんを見ると霧も無くなってて、申し訳無さそうな顔している。
「申し訳ありません。マコト様」
おれは慌てて握られていない方の手をブンブン振る。
「えっと、あの、おれメアリーさん優しいの知ってます。助けてくれたし。あの、ありがとうございます。」
メアリーさんは目を見開いてから、今度はきゅっと泣きそうな顔になった。そしてガバッと頭を下げる。
「ふふふ。やっぱりマコちゃん優しいわー。」
ベリタさんが凄く嬉しそうにしている。それだけでおれもぽかぽかする感じだった。
「…こ……。」
?
扉の向こうに人が来てる?なんか声が聞こえた気が…。
こんこんと控えめなノックの音にベリタさんが返事をする。
おれは黙って固まっている。怖いんじゃない。
だって、この空気、香り、雰囲気はもしかして。って、ドキドキしてる。
ゆっくり扉が開くと長い黒髪に赤いバンダナが見えた。俯きがちに入ってきて、すぐに顔を上げた。
雷に打たれたみたいにピシッっと固まる。綺麗な翡翠の瞳とバチッと目があった。
ああ、ジュードだ。
思わず泣きそうになる。
いつもの冒険者の装備だけど、剣は下げてない。
ベッドに起き上がって座っていたおれは、自分の足に掛かる布団をガバッと剥ぎ取って、ジュードのところに走っていこうとする。
メラーニさん家はお金持ちなのか、この部屋もめちゃくちゃ広い。ジュードの家でも大きいと思ってたけど、十歩歩いたくらいじゃ部屋から出れない。
目の前にジュードがいるのに!
と思ったら、あとは勝手に身体が動いてた。
おれのいるベッドに駆け寄ろうとしたジュードの真上に出た。
一瞬目を見開いたあと、きゅっと目を眇めて泣きそうな笑顔になる。
ジュードはちゃんと分かってたみたいに、両手を広げて、おれを抱きとめてくれる。目の前で転移したのに、ホント格好良い。おれも絶対に離すもんかと、首にしがみついて、腰にもがっしりと足を回した。
ああ、ジュードだ。
肩口に顔を埋めて、おでこをぐりぐりと擦りつける。目一杯息を吸い込む。その耳元に低くて優しくて安心できるイケボが聞こえた。
「マコト。すまない、マコト。嫌な辛い思いをさせて。怖かったな。」
ほんのちょっとしか離れてなかったのに、ずっと聞きたかったジュードの声に、肩にぐりぐりしていた顔を上げる。しっかりと目が合ったジュードの顔色はあまり良くないし、目の下には隈がうっすら出来てた。
そんな顔初めて見たよ。
「無事でよかった。よく頑張ったな。えらいぞ。」
目を見ながらそんなこと言われたら、もう何か分かんないけど、泣くつもりなんか無いのに、勝手に涙があふれた。
「うっ、うっ、うぇ、ジュ、ジュードぉー。…会いたかった。あいたかったんだよ…。」
ポロポロと次から次へと涙は溢れて止まらない。
ギュッと抱きしめる腕に力が入る。
ジュード!ジュード!会いたかった。おれジュードがいないとダメだ。無理だ。
ジュードの優しい声といつもの香りに包まれるともう無理だった。涙が止まらない。
うええぇん。と小さい子供のように声を上げて初めて泣いた。ジュードが優しく背中を撫でてポンポンとしてくれる。
周りに人の気配がするけど、ジュードしか見えない。
ジュードが「ごめん」とか「えらかったな」とか「よく頑張ったな」とか背中を撫でながら、耳元に囁いてくれる。
おれは天井の幾何学模様を見ながら、これだけは謝らないと思って、泣きすぎてえづきながら声を絞りだす。
「ヒック、じゅ、じゅーど。ジュードぉ。飛んでいぎだがっだのに、いげなぐでごめんなさい。ズズッ、ジュード。ジュード。」
おれたぶん今ぐちゃぐちゃだ。
涙と鼻水で。ジュードが時々浄化をかけてくれる。
それがまた安心できるし、気持ちいい。
「ジュード。ジュード。」
呼ぶたびに、「うん。マコト。ここにいる。マコト。大丈夫だ。」と優しく返事をしてくれる。
迷惑を心配をかけてしまうことがものすごく嫌だった。
自分一人じゃどうしたら良いのか分からないのも嫌だった。
おれの後悔と謝罪は続く。
「練習してたのに。うう。ジュードのとこに行けなかった。ヒック。うええぇ、ごめんなさい。」
ジュードがデロデロに甘やかしてくれるのに、これでもかとのっかった。
「マコト大丈夫。謝らなくていいんだ。マコトが無事ならそれで良いんだよ。マコト。」
顔を上げてぐしゃぐしゃに大泣きしてたけど、ホッとしたのか、なんだかぐらぐらしてきた。
上を向いていられなくて、ジュードの肩にもたれる。
全然涙が止まらなくて、体中の水分が全部顔から出てるみたいだ。ジュードの上着が濡れていく。
でもジュードは怒ったり嫌がったりしないで、背中をよしよし、ぽんぽんしてくれた。
「ジュード…。ジュぅ……ど……。」
すっかり安心してしまったおれは、いつしか赤ちゃんみたいにタテ抱っこでゆらゆらしてもらっているうちに、瞼が重くなって、だんだんと目が開けてられなくなる。
「大丈夫だよ。マコト。」
耳元に優しく響く声に身を任せて、意識を手放した。
それでも服の裾はなるべく離すもんかと握っているつもり。
心底安心した。
ジュード。大好きって起きたら言うね。
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