愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

36 捜索 ジュード

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 ジュードは街の中を歩いていた。
 まだマコトは見つからない。

 夜が明けても音沙汰も無い。

 ヒノトやミコトに呼びかけるが返事がない。向こうの世界とつながりが切れているのか?

 焦りばかりが募る。

 同じ感じでマコトにも呼びかける。しかしそういう手段は、まだ決めてなかった。もちろん返事はない。
「こういうの魔道具で作れると思う。」って言っていたので、見つかって、落ち着いたら必ず作ろうと心に誓う。

 もしかしたら転移で現れるかもしれない。
 淡い期待を抱きながら、いつでも受け止められるように、気を張っている。

 ジュードは不機嫌さを隠す様子もなく、苦虫を噛み潰したような顔で街の中を歩いている。

 なぜ、どうしてと後悔ばかりが募る。

 昨日ギルドで登録をして市場で買い物をしたら、すぐに帰ろうと思っていた。
 マコトは初めての街に驚きながら人の多さにも、だんだんと慣れてきて、楽しそうにしていたのに。

 あんな邪魔さえ入らなければ。

 思い出すだけで眉間に皺が寄る。

 買い物した物はお菓子を始め、すべて俺が持っている。
 
 もしかしてどこかで腹を空かせてるんじゃないかと、じっとしていられずに、ずっと捜しているのだ。
 本当はマコトのスキルがあれば、飢えることも、寝る場所に困ることも無いのは分かっている。

 けど初めての一人は辛くないのか、寂しいと泣いてないのか、心配ばかりが募るのだ。

 あの時あの女からは、黒い霧の様な物が吹き出していた。あれが負の感情ならば、そんなものに当てられたマコトだってタダでは済まないだろう。
 ヒノトやミコトが加護を与えていたが、もしかしたらそれが切れてしまったりするのだろうか?

 路地裏の奥や、木箱の中まで覗いて捜す。
 もちろんそんなところに居る訳ないのは解っているが、もしかしたらと、この行動を止めることが出来なかった。


 なんの手がかりも見つからず、なにか情報がないかと昼に一度ギルドに寄る事にした。

「お、坊主は見つかったか?」

 ウルスの問いに無言で首を横に振った。

「そうか…。ひでぇ面だな。まあこれでも食え。」

 ギルマスの部屋には、サンドイッチが置いてある。二人の昼食だろう。

「いや。かまわない。」

 実際食欲が湧くはずも無く、ウルスの好意を断る。

「ったく。お前のそんなに落ち込んでる所なんざ初めて見たぞ。あいつだってそんなに小せえガキじゃあるまいし、どっかで遊んでんじゃねえか?」

「しかし彼はジュードの家にお邪魔した時も倒れてましたし、心配ではありますね。ウルスは薄情なんですね。」

 ジュードとディネの二人からジト目で見られ、慌てて否定する。

「いやいやいやいや、そんなツモリはないぞ。心配はしてるって。」

「…マコトは生まれて初めて街に来たんだ。心配しかない。」

 肩を落とし、あまりにもジュードの落ち込んだ様子に、ギルマスと副ギルマスは顔を見合わせる。

 ウルスは大きくため息を吐いて

「わかった。ギルドから簡単な尋ね人の依頼を出しとく。髪色と眼の色くらいか。もしかしたら誰かに保護されてて、連絡あるかもしれねえからな。」

 藁をもつかむ思いとはこの事か。
 俺は黙って頷いた。

「すまないが、よろしく頼む。」

 それからまた街に捜しに出たが、やはり手がかりはなかった。


 ーーーーーーーーーーー

 その日もギルドに泊まり、眠れぬ夜を過ごし、次の日も朝から市場でマコトを捜した。

 昼にギルドに戻る。

「あ、ジュード。おかえりー。」

「………。」

 アスターの気の抜けたあいさつを、受け流す。

「大丈夫?せめて何か口に入れたほうが良いよ。ナカセが帰ってきた時にそんなナリじゃ、かえって心配かけるんじゃないの?」

 そう言われて仕方なく食堂に行き、軽く昼食を食べることにした。

 さっと食事を終えてギルマスのところに顔を出す。

「おっ、ちょうどいい所に来た。呼びに行こうと思ってたんだ。」

「尋ね人に心当たりありって連絡が来たのよ。」

「!」

 ウルスとディネが部屋に入るなり教えてくれた。

「どこだ?迎えに行く。」

 そう言うのが分かってたのか、ウルスはため息をひとつはいた。

「メラーニ商会だ。」

 メラーニ商会はこの国では一番大きな商会で、取り扱えない物はないという。運送業にも強い。
 国内中に支店を持ち、僻地などの小さな村にまでも移動販売車で回っている。
 この国だけではなく、世界でも有数の大企業だ。

 このメラーニ商会の本店は、首都シントではなく、このマサの街にある。
 店舗の規模は首都が一番だが、本店は格式が違うらしい。

 街の北西部の広大な敷地に庶民向けのショッピングモールがあり、別棟の洋館は貴族向けの本店になる。

 その奥に商会の創業者であり、今は顧問として経営を息子たちに任せたと噂のジェレミアが家族と共に暮らす、広大な自宅がある。
 防御魔法と結界魔法を幾重にも重ねてあり、それこそ虫一匹、髪の毛一本通さないと言われ、他国の王城の結界が霞むくらい厳重に守られている。と有名である。

「尋ね人を見つけたというか、心当たりがあるって。本店に来てほしいそうよ。どうする?」

 ディネに言われて迷わず答える。

「行ってくる。」



 ギルドを出てメラーニ商会に向かう。

 ギルドは街の中心にあり、市場はそこから南だ。市場のさらに南側は港になっている。水揚げされた物が市場にすぐ並ぶように、こういう配置になっている。
 ギルドや役所のある中央から北西部、かなり大きな敷地がメラーニ家の敷地だ。


 気が急いて早歩きになるが、仕方ない。メラーニ商会本店が見えてきた。

 重厚感たっぷりの歴史を感じさせる大きな洋館が目の前に建っている。
 大きな扉の前には護衛が左右に別れて4人立っている。
 静かに扉が開き執事と思われる男性が出てきた。俺が来るのが分かっていたかのようだ。

「いらっしゃいませ。メラーニ商会に、何か御用でしょうか?」

「ギルドからの遣いで来たジュードだ。尋ね人について心当たりがあるのでここに来るようにと聞いたのだが。」

 執事は軽く頭をさげ

「かしこまりました。ギルドの身分証をお見せいただいてもよろしいですか?」

 素直にカードを渡す。すぐに確認されてカードが返される。

「ジュード様。中にご案内いたします。どうぞ。」

 大きな扉をくぐって中へと案内される。中の調度品はどれも派手ではないが、高級感漂い庶民では縁のなさそうな豪華な物だ。

 照明に絨毯、壁に至るまで、一級品ばかり。

 廊下を進み大きな扉の前に立つ。
 執事がコンコンとノックした。

「ギルドからお客様です。」

「ああ。どうぞ。」
 と、中から返事があった。
 室内へと案内された。

 一つ息を吐き、中へと入った。

 

 
 



 



 









 
  




 

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