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新しい世界
34 メラーニ家 1
しおりを挟む「なるほどね。ここに来たのは事故だったってことだね。」
「迷惑かけてすいません。」
おれは市場で連れとはぐれた事、おれの事を良く思わない人に責められて逃げた事を、正直に話した。
「それでもうちには結界で入れない筈なんだけどね。まあそれは、また調べるよ。」
ベッドサイドに椅子を持ってきて、ジェレミアとベリタは座って話を聞いている。おれはベッドで背中にクッションをたくさん入れられて上体を起こしている。
「…それで、君は何者なのかな?」
そう聞かれて、ビクッと肩が跳ねる。
お世話になってるし、これ以上迷惑もかけちゃいけないと思って、首元のネックレスに触れる。
魔法で隠していたギルドタグがふわっと現れた。
「すいません。隠してて。」
チャリッとネックレスを外そうとすると
「外さなくて大丈夫。」
と後ろの執事さんから、あの板を受け取っている。
「確認しても?」
「はい。お願いします。」
タグを見えやすいようにかざす。
「ふむ。ナカセ マコト。レベル40、15歳。ギルドに登録された冒険者だったんだね。犯罪者じゃなくて安心したよ。」
「15歳?! うそでしょ?小さすぎるわ。まさか、虐待とかじゃ…。」
ベリタさんは顔を青ざめさせ、心配してくれる。おれは慌てて否定した。
「いや、病気だったので、そのせいで成長が遅れてるだけかと。これから大きくなる予定です。虐待なんてされたことないです。」
そうそう。ジュードみたいな綺麗な筋肉が付いてるのが理想的だよね。今は全然ヒョロガリのガリだけど。
「それならいいんだけど。可愛らしい男の子だから、マコちゃんね。」
両手をパンと合わせてベリタさんが楽しそうに言う。ベリタさんのペースに乱されっぱなしだ。
「ま、マコちゃんですか…。」
天真爛漫っていうのかな?ベリタさんて少女だなあ。って思ってたら、隣りに座るジェレミアさんが組んだ長い脚を組み替えて話しだした。
「実はね、冒険者ギルドから尋ね人のお知らせがきてね。茶色の髪に茶色の瞳の少年。とだけね。
これはたぶん君のことだと思うんだけど、ギルドに知らせても良いかな?」
この人のスルーするスキルもすごいなあ。ベリタさんの事いつも綺麗に流してて。慣れてるんだろうな。
ジェレミアさんも独特の雰囲気を持っている。なんかふわっとしてると見せかけて、時々怖い感じ。
え?ギルドで捜してくれてるの?
おれのこと捜してるなんて、この世界で知り合いなんてジュード以外いないって思ったから。
嬉しくてむず痒い。
そう思うと、そういえばとウルスさんやディネさん。アスターさんの顔が思い浮かんだ。
あの人たちも知り合いって思って良いんだ。
そして一気にジュードの顔を匂いを思い出した。
長くて真っ直ぐな黒髪に切れ長の目、緑色の綺麗な眼の色。
笑うと目がなくなって、背が高くて、手が大きくて、おれをいつも包み込んでくれて…。
会いたい。
会いたいからすぐにお願いする。
「知らせてください。お願いします。」
ジェレミアさんはニッコリと微笑んで、後ろに控える人に指示を出してた。
あのニッコリは人によっては、胡散臭そうだけど、ジェレミアさんは本当に優しそうに笑う。
ジュードも優しく笑うし、絶対に目を見て微笑む。
ジュードの事を思うとなんか寂しくて辛い。この世界に来てから、こんなに長い間離れたのは初めてだからかな。
おれが黙りこんだから、調子が悪いと思ったらしい。
「知らせたから、迎えが来るまで少し横になって休むといいよ。」
「あー。ありがとうございます。でも、今は大丈夫です。」
そう言ったけど本当はまだぐらぐらしてる。
ここに人がたくさんいるから分かった事がある。
人の負の感情が、何となく見える。これは街に来る前は見えなかった。倒れた影響かもしれないけど、おれには分からない。
市場で黒い霧みたいなのが見えたのは、負の感情が吹き出したものだったのか。気のせいや見間違いじゃ無かった。
今この部屋には、ジェレミアさんにベリタさん。メイドのメアリーさんに執事さん。そして護衛っぽい騎士さんがいる。
ジェレミアさんにベリタさん、メアリーさんは何も見えない。だけど、執事さんと騎士さんは違った。
執事さんは薄っすらと灰色っぽい。そして騎士さんはかなり黒に近い霧みたいなのが見える。
得体の知れない人間が、結界で閉ざしているはずの庭に現れたら、おれでも絶対警戒する。
護衛なんだから疑って当たり前だ。
だけどギルドタグで身元が分かったからか、執事さんからはほとんど見えなくなった。
騎士さんは…悩んでるね。おれへの疑いが晴れたわけじゃ無いから、黒が濃くなったり薄くなったりしてる。
そう思うとジェレミアさんとベリタさんとメイドさんは、おれの事を疑ったり、嫌な感情を持ってないって事になる。
心が広い人たちなのかな?それどころか、心配そうに聞いてくる。
「本当に大丈夫?マコちゃん。」
ベリタさんは本当にマコちゃん呼びらしい。
「はい。大丈夫です。」
「大丈夫なら私は仕事があるので一旦失礼するよ。自分の家だと思ってゆっくりしてくれたらいい。ベリタがきっと世話を焼くだろうから、安心すると良いよ。」
ジェレミアさんからも優しく声をかけられる。
この声だけでもぽかぽかするの不思議だなあ。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと、執事さんと騎士さんを連れて部屋から出て行った。
ふーっと大きく息を吐いた。負の感情に直接触れたわけでは無いけど、やっぱりちょっと辛かった。言えないけど。
その様子をベリタとメアリーが心配そうにじっと見ていたのに、慎翔は気づかなかった。
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