愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

33 拾われました

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 前回のお話

 慎翔は転移で誰かのお家のお庭に飛んじゃって、しかも体調不良で倒れちゃった。
 でも優しい夫婦に助けられたよ。

  要約しちゃうと短っ。

ーーーーーーーーーーー




 
 ……眩しい。

 明るい光が閉じた瞼を突き刺してくる。

   ゆっくりと目を開いた。


   ここはどこだろう。
 白い天井を見上げたまま、ボンヤリと今までのことを思い出す。

 えっと確かジュードとギルドに行って、冒険者登録して、市場で買い物して、そこでジュードと逸れたんだ。

 人混みに流されて、一人になったところに、B級の冒険者の人たちに絡まれて、転移で逃げて。
 で、森みたいなところに出て……。で、どしたんだっけ?
 
 ここは家じゃないし、病院って感じでもなさそう。っても、この世界の病院ってどんなのか知らないけど。
 ただ、寝ている寝具の肌触りを思うに、こんなに金持ちっぽいことはないと思う。

 なんでこんな立派なお屋敷っぽいとこにいるんだろう。

 今までの事をゆっくりと思い出していたら、なんだか視線を感じた。

 視線を感じた右側に顔を向ける。

 かなり近いところで、おれの顔をじーっと見つめる、大きな紫色の瞳と目が合う。

 おれは驚いてビクッと目を見開いた。

「 !! おきた?だいじょうぶ?いたいとこない?」

 ピンクブラウンのくるくる巻き毛の小さな女の子が、おれのすぐ横で頬杖ついて見ていた。

 驚いて目を見開いて固まっていたら、女の子はガバッと起き上がって、ピンクのスカートをヒラヒラさせながら扉に向かって走って行って、部屋から飛び出していった。
 廊下で大きな声が聞こえる。

「おとうさまー。おかあさまー。おきゃくさまおきたよー。」

 元気に消えていった女の子に驚いて固まる。

 ぽつんとひとり残された。
 ハッとして上半身を起こす、ゆっくりと周りを見渡した。
 まだ頭が痛くて、気分も悪い。口元を手で覆う。

 そういえば吐いたんだった。

 そう思いだして、汚してしまったかと慌てて掛けられていた布団を剥いで、自分の身体を見た。

 着てきた服じゃない。
 全然汚れてないし、服は前ボタンの丈の長い膝くらいまである、生成りのシャツを着ていた。
 肌触り良く、良い物っぽい。
誰かが着替えさせてくれたみたいだ。

 はーっとため息をはく。
 
 ここはどこだろう。ジュードのところに飛んでも良いけど、助けてもらったお礼は言わないと。

 良い人だったらいいけど、変なおじさんとかだったらどうしよう。
 あっ、でもあんな可愛い女の子が変な人の子供なわけないか。
 
 そのまま座っていたら、コンコンッとノックの音がした。

 ビクッと固まって、じっと扉に注目する。

 カチャッと扉は開かれて、メイドさんが入ってきた。
 メイドさんと目が合うと、驚いたように目を大きく見開いた。でも次の瞬間にはすっと元に戻った。軽く頭を下げて

「失礼いたしました。起き上がっても大丈夫なのですか?」

 と丁寧に聞かれて

「え、あ、はい。だ、大丈夫だと思います。多分。」

 緊張でしどろもどろに答える。
 メイドさんは気にした様子もなく、コップに飲み物を入れて

「では良ければ水分をお取りください。」

 と、にこりと笑顔で差し出してくれた。

 おれは素直に受け取って、こっそり鑑定魔法をかける。何の変哲もない果実水だった。しかも括弧付きで美味しいって書いてある。

 素直に口をつける。柑橘系のさっぱりした味がする。

 美味しい。

 だけど、まだごくごくとは飲めなくて、少しづつ半分くらい飲んでいるところに、再びノックの音がする。

 カチャリと扉が開くと、上品な薄水色のロングワンピースの女性が入ってきた。

 目が合うと、メイドさんと同じように目を見開く。
 
 ん?おれどっか変かな?

「まあ!なんて綺麗な瞳なんでしょう。」

 そう言いながら、ベッドのそばまで駆け寄って来た。
 ベッドの上で身を起こし、びっくりしているおれの両手を取り、ぎゅっと握る。

 ああ、ぽかぽかあったかい。

「体調はどう?あ、手は温かくなってるのね。倒れてたの覚えてる?私が見つけたのだけれど。ああ、動けるようになって良かった。本当にキラキラして綺麗で可愛いのね。」

 おれの顔をまじまじ見ながら、次々と矢継ぎ早に、質問と感想を述べる。
 おれはその勢いに押されて目をぱちぱちさせている。

「奥様。お客様がお困りです。少し落ち着いてください。」

 横に控えているメイドさんが止めてくれる。

「でも、ほら見てメアリー。この目。初めて見たわ。」

「確かに、奥様に良く似ていらっしゃいますね。ご親戚かお身内の方ですか?」

 そんな会話の間も、おれの手は握られたままだ。
 目の前にいる女性がおれを助けてくれたらしい。
 
 ブラウンゴールドの髪に金に近い茶色の瞳。年齢は20代後半くらいか?大人の女性だ。

 ジュードに触れられている時も、ぽかぽか落ち着くんだけど、この人に握ってもらうだけで全然辛さが違う。
 さっきまでの吐き気も治まってきた。

「残念ながら私の親類縁者ではなさそうね。」

 そりゃこの世界、何処を探しても、おれの血縁者がいるわけ無い。なんせダンジョン産だ。

 だけど、確かに奥様と呼ばれたこの人に、顔も似てる気がする。

「まあいいわ。元気になったのなら。」

 そう笑いかけられると、勢いに押されたおれは、黙ってニコリと笑うしか出来なかった。

 コンコン

 またノックの音がして、扉が開かれる。
 背の高い男性が、二人の男性を引き連れて入ってきた。
 服装から侍従さんか執事、もう一人は護衛騎士かな?

 身なりや連れてる人を見れば、きっとこの人がこの家の主人なんだと思う。

 奥様に握られたままの手を離してもらって、布団を剥いで、布団の上ながらその場に正座する。

「あ、あの、助けてもらったみたいで?えっと、ありがとうございます。」

 いや助けてもらったんだろうと思うんだけど。
 ともかくがばりと頭を下げた。
 いわゆる土下座だ。

 燈翔と心琴に、教えてもらった。感謝やお詫びを表す最上級の行動。

 それが土下座。

 心琴は「ホントにムカついたらその下げた頭を踏みつけるのよ。」と、笑いながら言っていた。土下座した人の頭を踏んだらダメだよ心琴。

 助けてもらった。だからおれもお礼に土下座したわけだけど…。

 なんか静かだな?って、ゆっくり顔を上げる。

 全員漏れ無く、目を見開いて固まっていた。

 あれ?間違えた?っと首を傾げると、みんな顔を赤くして逸らしてしまった。

「か、可愛いわ。」

ベリタさんもぷるぷると震えてる。

 この家の主らしい男性は、片手で口元を隠して笑いをこらえてる感じだ。

「ふふふ。気を使わないで。まだ顔色が良くない。
ほら。楽にして。」

 と、おれに楽に座る様に促す。

 笑われてしまった…。
 おれは言われた通りに正座を崩した。

 男性は満足そうにうんうんと頷く。そして、ベッドの横に置かれた椅子に静かに座った。

 優しく話す男性は、銀の髪に水色の入った銀の瞳が綺麗だ。
 スラっとした長身を上品なスーツで包み、座る動きや喋り方もとても優雅な人。

「さて、まずは私はジェレミア・メラーニ。
この家の主になるかな。そしてこちらが私の妻のベリタだ。」

 ベリタと紹介された女性はにこにこしながら「よろしくね。」と再び手を握ってくれた。

「それで我が家の庭に、なんの用があって入ったのかな?」

 そう聞かれて、市場から転移してきたことを正直に話すことにした。



 

 
 



 
 
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