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新しい世界
32 転移の行き先
しおりを挟む今回めっちゃ嘔吐表現あります。
苦手な人は飛ばして下さい。
次回、あらすじいれます。
ーーーーーーーーーーーーーー
パッと視界が変わったと思ったら、空中に浮いてて、うつ伏せにベシャっと落ちた。
「ううっ。」
両手を前についてムクリと起き上がり、ぐらぐらと揺れる視界を一度ギュッと閉じて、目を開く。
ごみごみした市場の喧騒は聞こえない。
木々の緑に囲まれているので、一瞬森かと思ったけど、レンガの道や左右の花壇には色とりどりの花が咲いていた。
どこかの公園か、お庭か。
人の気配が無いのが、今はホッとする。
……転移しちゃったんだ。
あの人たちの雰囲気が嫌すぎて、気がついたら逃げてた。
何度もジュードのところに飛んでたのに、何故かさっきは全然思い浮かばなかった。
とりあえず逃げたかった。
ジュードのところに行かなきゃ。
そう思ってたら、急にドクンと心臓が脈打って、耳鳴りがした。
視界がグラグラして気持ち悪い。全身から脂汗がドッと吹き出す。激しい頭痛に脈打つ音がずくんずくんと頭に響く。
変な汗が止まらない。ぼたぼたと汗が滴るのに、身体は寒気に襲われていて、ひとつもままならない。
あ、ダメだ。吐く。
花壇の向こう、木々の間に飛び込む。
「ううっ。オエッ。」
我慢できずに吐き出してしまった。フェイスベールも外せなかったし、服も木も汚してしまった。
誰かに片付けさせるなんて申し訳ない。慌てて浄化をかける。
自分の周りが綺麗に元通りになったのを見て、隣の大きな木に寄りかかる。
気分が悪い。まだ吐きそう。
汚れが残らないように、自分の周りに浄化の魔法を付与した。
やっぱり加護が無くなったのか、気が遠くなってきた。
「ジュード…。」
ジュードごめんね。
心配してるよね。
もう一回ジュードの所に跳べたら良いのに。
今は無理かなあ。もう目が開かないだもん。
ぐるぐるぐるぐる目が回って気持ち悪い。横向きに寄りかかっていた木からずり落ちる。木の根を枕にするような形で動けない。
もし誰かに見つかった時に、ジュードに迷惑かけたくない。
足手まといって言われたくない。
ずくんずくんとした拍動の頭痛を感じながら、震える手で首のギルドタグを引っ張りだす。それを握りしめて、存在を隠す魔法をかけた。
銀のネックレスだけになった。上手くいったみたい。
これ以上はもう無理だった。
寒い。意識が遠のく。
ジュード…。…会いたい。
…帰りたいよ…。…ジュード…。
…………。
ポロリと涙がこぼれて
そのまま意識が無くなった。
***************
明るい陽の光が木々の間から差し込む。穏やかな昼下がり。
「お待ちください。奥様。」
黒いメイド服を着た、女性が小走りで前を行く女性に声をかける。
「あら。置いて行ったつもりはないのよ。お天気があまりに良くて、散歩が楽しくなってしまっただけ。」
紺色のシンプルな膝下までのAラインのワンピースに白のカーディガンを羽織った女性がメイドを連れて散策していた。
ここは奥様と呼ばれた彼女、ベリタの家の庭園だ。
自分の好きな植物を集めているだけなのに、森のようになるし、まとまりが無いのはなんでかな?
けどあの花は好きだし。この花からはいい薬が出来る。その木はわざわざ他国から取り寄せて育てたものだ。ちょっとごちゃごちゃしてるかもしれないけれども、ま、良いか。
と、彼女の性格が正に表れた庭である。
今日はとても天気が良くて、外の散策は気持ち良いだろうと、メイドを連れて庭に出たのだ。
ふと、何か音が聞こえた。
「?メアリー、何か言った?」
メイドに聞いてみる。メアリーと呼ばれたメイドも耳を澄ませる。
「いいえ。…ですが何か聞こえますね。ここは結界魔法で外からの侵入は不可能なはずです。ご注意下さい。」
メイドの顔に緊張が走る。
「そうなのよねー?何か動物?」
注意を促された女性は警戒する様子もなく耳を澄まして、周りをキョロキョロと伺う。
「…うう。ゲホッ。」
散策路から花壇の花に隠れる形で足先が見えた。
子供?大人の大きさではない。
急いで花壇の奥、木立の方に分け入る。
一本の木にもたれかかるように人が倒れている。
「!こんなところに子供が!」
後をついてきたメアリーが大きな声をあげる。
見ればローブのフードを目深に被り、フェイスベールもしている。ローブの裾から覗くのは細身のズボンに膝下までの編み上げブーツだ。
「ぐっ。ゴホッ。」
横向きに倒れた子供のフェイスベールがめくれて、口元が見えた。
苦しげに嘔吐している。
しかし地面に落ちた吐瀉物はキラキラと浄化されていく。
この子の周りだけ浄化の魔法が付与されているようだ。
「!奥様!お待ちください!」
メアリーが止めるのも聞かず、ベリタは何の迷いもなく近づいて、汚れるのも構わずフードとフェイスベールを外した。
「…少年のようね。」
顔色は青を通り越して真っ白だ。手も冷たい。
周りは浄化の効果があるのに、自分にはかけられなかったのか、口元も鼻も吐瀉物まみれになっている。
呼吸は浅く苦しそうだ。
頭を抱え上げて、ベリタは自分の膝の上に少年の頭を吐いたものが詰まらないように、横向きに乗せる。
汗に濡れた髪はぺたんと張り付いている。首元に手を当てるとローブの中のシャツもシャワーを浴びたようにビシャ濡れだった。身体も小刻みに震えている。
苦しげに閉じた、ふるふる震えるまぶたの縁から涙が流れている。
生理的なものか、それとも別か。
優しくまぶたの上に手のひらをのせる。
「メアリー、誰か急いで呼んで。」
「はい。奥様。」
メアリーは小さな珠を手に握ると魔力を流す。自分の周りが黄色に光った。
緊急信号だ。
青は位置を知らせるだけ、安全。
赤は危険。応援望む。
黄色は危険ではないけど、来てほしい。
この珠をメイドや侍従、護衛騎士など全員が持たされている。
この家が栄えているから可能であり、一般的には出来ない事だ。
「奥様。お知らせしました。」
奥様からの信号など初めての事なので、護衛騎士はすぐに来るだろうし、旦那様も飛んでくるかもしれない。メアリーはそう思った。
「ぐっ。ううっ。」
少年が苦しそうに身をよじる。
「いけない。吐いたものが詰まってるのよ。苦しそうだもの。」
「奥様。浄化いたします。」
メアリーが浄化をかける。
ベリタが回復魔法を使う。
吐瀉物や汗、汚物にまみれていた、顔や身体はベリタごと浄化で綺麗になる。
ベリタはそっとまぶたの上に乗せた手を外した。
顔色が戻り、赤みが差している。
呼吸も落ち着いて、見るからに良くなっているようだ。
ここで初めてまじまじと顔を見た。
「まあ。なんて可愛い。キラキラしてるわ。」
思わず口に出してしまうくらいの美少年である。
「ベリタ!」
見惚れていると、身なりの良い男性が、騎士と共に駆けてきた。
「あなた。」
「旦那様。」
ベリタはそのままの体勢でニッコリ微笑み、メアリーは一歩下がってお辞儀をする。
「!この子は誰だい?」
ベリタの膝の上で意識の無い少年の姿を見て、旦那様と呼ばれた、男性が聞いた。
「わかりません。ここに倒れてました。」
ベリタは素直を答える。
「倒れていただって?何か目的があって侵入してきたのかな。」
結界魔法で閉ざされているはずの我が家に、どうやって侵入したのか、裏稼業の人間なのか?
「いかがいたしますか?警邏の騎士に引き渡しますか?」
護衛の騎士が聞く。それを聞いたベリタが
「ダメよ。さっきまでたくさん吐いて死にそうだったの。きっと悪い子じゃ無いわ。あなた、お願い、助けてあげて。」
と、少年を膝枕したまま見上げて言う。
夫であろう男性は、腕組をして、少し考えてからベリタのそばに行き、少年を横抱きに抱き上げる。
軽い。
首には銀のネックレスが見えるが、身分証は無い様だ。
しかしベリタが危険がないと言うのなら、きっとこの子は悪い子では無いのだろう。
「この子供を屋敷へ。介抱してやってくれ。」
ついて来た騎士に少年を預ける。
意識の無い少年はお屋敷へと運ばれて行った。
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