愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

30 市場 2

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 市場での買い物は大体終わったので、バサンの串焼きを買って食べる事にした。
 家で焼いたのとは違って、串に一口大のバサンの肉がいくつか刺さってて、甘しょっぱいタレが周りをコーテイングしてて、いい匂いがする。
 すごく美味しくてまあまあ大きかったのに、2本も食べた。
 あとは果実水も買って、広場にあるベンチに座って飲む。

 もうお腹いっぱいと、ホッと一息ついた。

 広場には多くの人が行き交っていて、人波が途切れる事がない。こんなに人がたくさんいるなんてと、本当に圧倒されてしまう。

 ふと視界にリアカーを押した子供達の姿が見えた。さっきのリヤカーは同年代で組んで、荷物を運んでいたけど、この子達は大きい子が小さい子の面倒を見ながら数人で運んでる。

「あの子どもたちは?」

「荷物を運ぶ仕事だな。いつまでに何処から何処までと運送屋のような仕事だ。もちろん街の中だけだが。生活を助けるために、何人かで集まってこの仕事をしている子供は多い。」

「そっか。大変なんだね。」

「そうだな。俺も小さい時はやったな。」

「え?そうなんだ。ジュードって子供の頃から仕事してたの?」

 昔からカッコ良かったのかな?今のスラっと背の高いイケメンっぷりからは子供の頃のジュードなんて想像できない。

「俺は孤児だったからな。孤児院の仲間と荷運びをしてたんだ。たくさん運べばその分報酬が良いから頑張ったもんだ。
ある程度大きくなったところで冒険者になったんだけどな。こうやって見るとなんだか懐かしいな。」

 子どもたちを眩しそうに目を細めながら見ているジュードを隣で見上げる。
 そっかジュードは孤児なんだ。

 その時リアカーを横から押していた男の子がこちらを見て、ぱあっと明るい表情になった。そして、大きな声で

「ジュードさん!」

と、名を呼んだ。
 周りの子どもたちも、目をキラキラさせてこちらを見ている。
 ジュードは軽く微笑んで片手をあげて挨拶している。

「あの子達は俺の居た孤児院の子供たちだ。世話になった恩もあるからな、時々寄付をしたり、遊んでやったりしているんだ。」

 向こうで子ども達がジュードを呼んでる。

「ちょっと手伝ってやっても良いか?」

 こちらを伺うように聞かれる。

「もちろんいいよ。いこっか。」

 反対する理由も無いので、にっこり笑ってオッケーする。

 ジュードが立ち上がり、子ども達の方に一歩踏み出す。おれも座っていたベンチから立ち上がろうとした。
 少し高めのベンチに腰掛けていたので、足元に気をつけてっと、下を見て前を向いたら大きな馬車が前を横切っていた。
 歩いている人も多いので、馬車はゆっくり目に通る。その後ろには多くの通行人がいて。その人たちによって流れが悪くなった道に逆方向からも、たくさんの人がやってくる。

「うわっ。あっ。いてっ。あっ、ジュ、ジュード…。」

 おれはその人波に呑まれてしまう。慌てて体勢を立てなおして、次に前を向いた時には、大した身長もないおれには、ジュードの姿をどこにも見つけられなかった。

 サーッと顔色が悪くなる。
やばい。どうしよう。はぐれちゃった。

「あっ。ちょっ。押さないで。」
 
 呆然としている間にもまた人波に押されて流されてしまう。それでも少しでも人波から逃れようと考えた。円形の広場だから少しずつ外側に向かって進むようにする。

 やっと外側に並ぶ露店と露店の間のスペースに抜け出ることができた。

 自分を落ち着かせる為に、ふーっと大きく一息吐いた。

 まさか本当に一人になるとは思ってなかった。落ち着こう。落ち着こう。

 本当にいかのおすしを意識しないといけない状況になるとは思ってもなかったけど、すーはーと深呼吸して思い出す。

1 しらないひとについてない
2 さそいやくるまにらない
3 つれていかれそうになったらおごえでさけぶ
4 あぶないときはぐにげる
5 すぐにらせる

 うん。5番ができたら良いんだけど、そういうのまだ作ってなかったんだよね。通信機器。だから今はジュードに連絡できない。
 あとで絶対に作ろう。うん。


 
「おい。」

 と、突然後ろから肩を掴まれた。
 ジュードとは違う声にビクッと飛び上がってから、振り返る。

 露店の後ろは細い路地になっていたらしく、そこから出てきたらしい三人の冒険者っぽい人たちが立っていた。
おれの肩を掴んでいるのは、フルプレートアーマーを着たお兄さん。あとは魔法使いっぽいヒョロっとしたメガネのお兄さんと、弓使いと思われる獣人のお姉さんだ。

「お前ジュードさんと一緒にいた奴じゃないか?」

「……。」

 知らない人だし、向けられる視線は冷たい。警戒して黙る。

「そんな顔すんなよ。俺達はBランクの冒険者だ。こいつらはパーティメンバー。」

 そうプレートアーマーのお兄さんは親指立てて指差した。

「で?ジュードさんといた奴だよな?そのローブ珍しい色使いだからな。間違いねえだろ。」

 そうか、染物の技術が進んでないから、白から緑のグラデーションなんて無いらしい。目立たないようにしてたのに、かえって目立ったのか。反省点だ。

 もう一度同じことを聞かれた。仕方なく小さく頷く。

 でも、助けてくれるって感じじゃなく、なんだか嫌な感じ、責められてる気がする。

「なあお前、なんでジュードさんと一緒にいんの?」

 そんな質問されても答える義理はないので、黙っていると

「おい。聞いてんのかよ。」

 苛立ったのかギリッと肩を掴む手に力が入れられる。

「なんでかって聞いてんだよ。」

「痛っ。なんでって何?」

 軽い痛みに顔をしかめながら、逆に聞く。

「お前、親戚とかなんかかよ。」

 そう言われると、答えに困る。親戚ではないし、息子でもない。かと言って恋人ですって言うのも、どうなんだろう。まだ成人してないし。

「だいたいお前のせいで迷宮案内人してないんだろ。どれだけの人がジュードさんの案内待ってると思ってんだよ。」

「え…。」

 確かにずっと仕事休んでたけど、まさかそんなに沢山の人から待ってたの?
なんて返していいか分からずに黙ってたら、どんどん責められる。

「久しぶりにギルドに来たって言うから、迷宮案内申し込みに行ったら、まだしばらく休むって言うじゃねえか。それ、お前のせいだろ?」

「行かないで、とか言ってるんでしょ?」

 三角耳の猫獣人と思われるお姉さんが、キーキーと怒り出した。

「ジュード様は私達のパーティをとても大事にしてくれていて、何度も案内人してくれたのよ。
危ない時は庇ってくれるし、私にまた行こう。と、優しく微笑みかけてくれたの。
私、その言葉を信じてずっと待ってるのに。
なんであんたみたいな得体の知れないガキにジュード様を奪われないといけないのよ。
あんたなんか、何も出来ない足手まといじゃない。
ジュード様の何が分かるのよ。迷惑かけないでよ。」

 激しい怒りと嫉妬の感情をぶつけられる。どうも思い込みの激しい人らしいのは理解できる。

 それでも初めて怒鳴りつけられる経験に、おれはめちゃくちゃ混乱していた。

 一緒に生活してたのに、ジュードの事あんまり知らない。

 甲斐甲斐しくお世話してもらうばっかりで、気がついたら倒れてるし。自分のことばっかりだったのはわかってる。ジュードも自分のことを多くは語らない。
 そりゃジュードにはジュードの生きてきた時間があるよね。当たり前だけど。

 じゃあ、おれの生きてきた時間ってなんだろう。

 おれはずっと病院で寝たきりで、喋れなかったから、意志の疎通とか家族でしかしたことない。
 それも燈翔と心琴がなんか特別にしてくれたって言ってた。
 この世界に来てからもダンジョンで居ただけだから、本当に何も知らないんだなって。
 確かに誰かの役に立ったこともない、右も左もわからない。
 知り合いもいない。

 おれ、本当にジュードが居なかったらヤバイんじゃないの?

 どんどんとネガティブな考えにいってしまって、目の前が暗くなる気がする。

 そこに追い打ちをかけるようにお姉さんが叫んだ。

「あんたなんか居なくなればいいのよ!」

 激しい嫉妬心のあまり、黒い霧のようなものがお姉さんから噴き出しているように見えた。

 燈翔と心琴の加護も、人の激しい感情で無くなってしまったらしい。

 一気に嫌な感情が広がる。身体がカタカタと小刻みに震えた。

 怖い。嫌だ。気持ち悪い。
 ここに居たくない。
 どこかに逃げたい。

 肩を掴む手を振り払う。
 急に動き出したおれに驚いたような冒険者たちの顔はとても怖い。
  
「っ、こいつ。」

 再び捕まえようと思ったのか、手が伸びて来る。

 嫌だ。

 頭を庇うように、押さえてうずくまる。

 どこか。この人たちのいないところに。

 そう思ったらふわっと魔法の力を感じた。

「マコト!」

 一番安心できる声が聞こえたような気がして、顔を上げた。

 ジュードが見えたような気がしたけど、おれの身体は魔法の力で引っ張られて、転移した。

 

 
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