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新しい世界
29 市場
しおりを挟むギルドを出たところで、ジュードに降ろしてもらう。
ずっと抱っこは恥ずかしいからね。
「別に抱えたままで良かったんだぞ?」
「いやいや。かえって目立つし。流石に恥ずかしい事だって分かるよ。」
「そうか。それは残念だ。」
本当に残念そうな顔してるから、何とも言えない気分になった。
だからジュードの手をぎゅっと握って、下から見上げる。
「でも、はぐれるのも嫌だから、手繋いでてくれる?」
ジュードは空いた手で口元を覆う。
「っああ。そうだな。はぐれたら危ない。しっかり繋いでいこう。[いかのおすし]だしな。」
「それ本当に子供扱いで恥ずかしいんだけど。」
思わずほっぺをふくらましてジト目で見てしまう。
ふくれているのが布越しでも分かるのか、それを見てジュードは笑う。
おれは悔しいけど、不安もあるから、結局手を握ったまま。
おれはこの時全然気が付いてなかったんだけど、ローブで全身隠して、フードを目深に被り、口元も隠している。しかしローブに付与された魔法で俺の姿はほとんど見えず、男か女かもわからなかったらしい。そんな怪しい人物を若い男が嬉々として連れている。
街の人からしたらかえって目立っていたらしく、後に一人で出かけた時にジュードが幽霊にでも取り憑かれたのかと思ったと笑われた。おれ、幽霊扱いだったのかとショックを受けたのだ。
そんな事とはつゆ知らず、嬉々としてジュードと手をつなぎ、ギルドから少し歩いて市場にやってきた。
大きな円形の広場だ。
中央に噴水がある。大きく羽を広げた鳥のオブジェが噴水の中に建てられている。
あれバサンじゃね?
「あの鳥って、バサン?」
指差してジュードに聞く。
「そうだ。バサンはこの国にしか生息してないらしい。この国の国鳥とも言えるな。」
「そうなの?国鳥食べてるんだ。他所の国の人は、あの味知らないの?もったいないねー。おれ、バサン好きだよ。羽も綺麗だし、大きいし。そのくせ目がクリクリでさー。」
バサンの好きなところを上げていくと、ジュードが頭撫でてくれる。
「そうだな。じゃあ肉も買って帰るか。」
色んなの買おうって言ってたから、楽しみだ。バサンは鳥だけど、牛や豚に魔物も食用の肉があるんだって。
円形の広場の真ん中に噴水。その円の外周に沿って色んなお店が並んでいる。
色とりどりの野菜や果物。色んな肉や魚。なんか訳分からない物(ジュードに聞いたら、あれが魔物の肉や素材だって言ってた)。
飲み物や料理を出す屋台もあって、横に簡易のテーブル席が作られているところもあった。
食材を扱う店が多いみたい。
知らず知らずのうちにキョロキョロと周りを見回していたおれに、ジュードが聞いてきた。
「ここならある程度の食材に、調味料がそろう。
マコトの好きな味はある?」
「好きな味?」
「甘い、酸っぱい、しょっぱい。他にも苦い、辛いとかかな?」
この世界に来るまで、ろくに食事をした事が無いから、味って言われてもわからない。
ジュードの家で生活してる時は、味付けはメインが塩だったので、たぶんしょっぱいは分かると思う。
果物は甘かったと思うけど、レモンは酸っぱいって教えてくれた。
「色んな物を食べて味を感じてみようか?」
そう言いながら、ある一軒の露店の前で立ち止まった。
おれもお店に並んだ商品を見る。キラキラした紙に包まれた小さく丸いものが色分けされて、箱の中にこんもりと入れられている。
たくさんの箱が並んでいるけど、その中身は全部違っていた。
「これが飴で、こっちはキャラメル。どちらも甘いお菓子だな。」
なるほど。と見ていたら、ジュードが全種類10個づつと、頼んでいた。飴は色んな色があるし、全種って20種類以上ありそう。
「え?そんなに買うの?」
びっくりして言うと、
「自分で食べてみないと、分からないだろ?気に入るのもあるだろうし。」
かもしれない、じゃなくてあるだろうって確信してるところが、嬉しいような恥ずかしいような。
沢山買って、喜んでくれたお店のお姉さんが「おまけね。」ってジュードとおれに飴をくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言って、包み紙を開くと赤い飴が出てきた。
口に入れると…、!!これが甘い?
美味しい。
「これはイチゴだな。美味しいか?」
長い黒髪をさらりと垂らしながら、おれを覗きこんだジュードに聞かれる。
「うん。うん。美味しい!確かにまた食べたいから沢山いる。」
興奮してジタバタしながらジュードに伝える。ジュードもすごい嬉しそうな顔してた。
お金を支払って商品を受け取ったジュードは腰のマジックバックにすっとしまう。
おれはその間、固くてコロコロして甘い飴を夢中になって舐めていた。
舐めながら街ゆく人たちを眺める。
大きな荷車に木箱を積んで、牛が引いてる。馬車も初めて見た。
道行く人は大きな荷物を抱えたり、背負ったりしている。
子どもたちはリアカーを数人がかりで押しながら、どこかへ向かっている。
もしかしてって疑問が湧いてくる。
おれの後ろで立ってるジュードの袖のすそをクイクイと引っ張ると、その高い頭をすぐそばまで寄せてくれる。
ってか、近すぎ!
呼んだのはおれだけど、整った横顔、近すぎ。顔が赤くなってしまう。
それでもジュードの耳元にそっと聞いてみる。
「もしかしてだけど、マジックバックとかアイテムボックスって、普通の人は持ってないの?」
目を合わせて、フッと笑うと小さな声で耳元に囁いた。
「そうだな。金持ちか冒険者くらいかな?ダンジョンでたまに見付かる。売ればかなりの高値がつく。」
ひそひそと耳元に囁かれるのなんか恥ずかしい。イケメンとは声までイケメンなのか。
「えっと…、ちなみにどれくらい?」
「物にもよるが、俺が使ってたポーチ型のマジックバックは査定額金貨50枚だったな。使うから売らなかったけど、店に並べば金貨70枚くらいで売られるんじゃないか?
今使ってるのは値段も付けられないくらいの物だ。」
「え。そんなに?」
恥ずかしいのが吹き飛ぶくらい驚いた。
えっと今使ってるのはおれがあげたやつだよね。何付けたっけ?容量無限と時間停止と質量無視は付けたな。なるほど、容量や付いてる効果によって価値が変わるのか。
「だから絶対におおっぴらにしない方がいい。」
と、ジュードは人差し指を口元につけた。
もうこの話は終わりって事だ。
おれも静かに頷く。外で話す事じゃないもんな。
その後は食材を沢山買ったし、調味料も色々見た。
買った荷物はすべてジュードが自分のポーチに仕舞った。
ジュードはこの街では顔が知られているし、マジックバックを持っているのも知られているから、襲うような人はいないけど、おれみたいなのが持ってるのが分かったら、襲って奪われたりしちゃうんだって。
まあ自分以外取り出したり出来ないし、落としても戻ってくるようにしてるんだけどね。おれのもジュードのも。
パン一つが銅貨一枚とか二枚で買える。元の世界では銅貨1枚が100円くらいの計算なんだって。
小銅貨→10円
小銅貨10枚で銅貨1枚(100円)
銅貨 10枚で銀貨1枚(1000円)
銀貨 10枚で金貨1枚(1万円)
金貨 10枚で白金貨1枚(10万円)
って燈翔がすごい丁寧に教えてくれたけど、元の世界でお金使ったことないって言ったら、そうだったね。って苦笑いされた。
まあこれからの人生、お金は必要だからいくらあっても困らないわよって、心琴も言ってた。
折角の機会なので、おれも初めて貰った報酬で何か買いたい。
本当に見える建て物も、食べ物も何もかも全部新鮮だった。
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