愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

28 ギルド 2

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 蒼い髪の爽やかお兄さんはアスターさんって名前だった。
 目も髪も青い。長めの髪を一つに結んでおろしている。年齢もジュードと同じくらい。
 よろしくね。と挨拶されれば、こちらもしない訳にはいかない。

「あ、中瀬 慎翔です。よろしくお願いします。」

「ジュードが世話する人間なんて初めてだよ。よろしくねー。」

 人当たりの良い笑顔で手を差し出す。おれはそれを握って握手した。

「ちっさ。かわいいね。目しか見えないけど。認識阻害解除したら、どんな顔なのか気になるね。
なんでジュードと一緒にいるの?」

 にこやかに聞かれて、ジュードを見る。勝手に全部喋っちゃダメな気がする。
 ジュードはいつもの笑顔じゃなくて、ちょっとムスッとしてるみたい?
 あ、無表情っていうのかな。そんな感じ。
 ギルマス達と話してた時はもっと柔らかい感じだったのに。

「俺がダンジョンで助けた。」

 横に立ったジュードがそれだけを言う。

「そっかー。ジュード世話好きだもんね。困ってる人は放っとけ無いし。だけど表立ってはやらないんだよねー。こっそりと助けてるの。
だからこんな大っぴらに子どもと連れてるのなんて初めて見たよ。
彼とは結構長い付き合いなんだけどね。
本当に珍しい。面白いもの見せてもらったお礼に、なんか困ったことあったら言ってね。」

 一気に話されると、圧倒されてしまう。すると横からジュードが言う。

「いらん事ばかり言うな。黙ってろ。
 …まあ、こいつは見ての通り、軽い男だが、良いヤツだ。ギルドで何か頼む時は頼ると良い。」

 なんと。アスターさんはかなり良い人らしい。ジュードがそう言うんだったら、きっとそうなんだろう。

 ムスッとしたジュードにニコニコのアスターさんの対比が面白い。

「はい。なんかあったらお願いします。」

 ペコリと頭を下げた。

 優しそうな人で良かった。

「また詳しく話し聞かせてくれる?ジュード。」

「ああ。また今度な。」

 そう言うと防音の魔道具を切った。
 周りの喧騒が一気に戻ってきた。

「ジュードのは少し時間かかりますのでお待ちいただけますか?」

 口調が丁寧に戻ってる。
 おれが不思議そうに見てたからか

「いつもあんなに軽いわけではないんですよ。仕事中ですしね。」

「じゃあ、仕事じゃなかったら仲良くしてもらえますか?」

「そうですね。仲良くしましょう。」

 ニッコリと笑ってくれた。

 鑑定待ちの間どうしようかと思って、口を開こうとしたとき、後ろから不意に

「おい。ジュード。久しぶりだな。」

 と、その時冒険者のおじさんがジュードに声をかけてきた。それを皮切りにたくさんの人が集まってくる。
 やっぱり有名人らしいから、みんな気になってたんだ。チラチラ見てたもんね。

 後ろから声をかけたからか、おれのことは見えてないみたい。
おれは認識阻害のローブを被ってるから、さらに気配を消せば人に気付かれずに、すすすーっと、その人混みから出ることができた。

 しばらくかかりそうかな。

 周りを見回して、向こうにある食堂の空いているテーブル席に座った。
 もちろんジュードはおれの事を見失ってない。チラチラとこちらを見てる。

 心配ないよーっとひらひら片手を振る。

 ふーっとちょっとため息が出る。

 やっぱり緊張するよね。

 黙ってたけど、こんなに沢山の人を見るのは生まれて初めてだ。
 街並みを歩いている時も、今このギルドにいる時も、あっちにもこっちにも人がいて、ワイワイ言っている。おれもキョロキョロしてしまって、ジュードにクスッと笑われたのだ。
 楽しそうな人、なんか怒ってるみたいな人、コソコソしてる人。色んな人がいる。

 確かにこんなにたくさんの人の感情が渦巻いているなんて、これは祝福してもらってなかったらすでに寝込んでいたかも。

 どの建物を見ても、驚くばかりだ。
 燈翔と心琴曰く、某ゲームの中世的な町並みになっているそうで、いわゆる異世界なんだって。

 おれからしたら、前世の記憶は病院だけなので外とか見た事ないから、異世界って言われてもよく分からない。
 
 全部新鮮で、キラキラ輝いて見える。人々の暮らしも町並みも。あとから市場に行こうって言ってたから、それもたのしみだ。
 
 遠目に見えるジュードの周りには沢山の人達が大丈夫だったのか?とか何してたんだ?とか、色々と聞いている。
 何だったっけ?迷宮案内人だっけ。人気の仕事なんだよね。

 だけどさっきギルマスに言われたんだけど、迷宮案内人は16歳の成人してからだって。
 だからもしジュードがその仕事に行く時は、おれは留守番らしい。
 しばらくはおれと一緒にクエスト受けてくれるって。
 早く慣れて、迷惑かけないようにしないとね。


 別に戦うだけが冒険者じゃないけど、なるべくならおれも強くなって、ジュードと一緒に戦いたいって思う。

 おれの認識阻害と気配断絶はなかなかのものらしく、誰もおれのそばに来ることはなかった。おれもそこでじっとしてる。

 別にビビってるわけじゃないよ。知らないことばっかりでちょっと怖いとか思ってないから。うん。

 色んな人に囲まれている黒髪長髪イケメンは身長も高いので、頭一つ抜け出ている。
 いつものような優しい笑顔は無い。真面目そうにしてる。
 あれがいつもの外行きの顔なんだ。それはそれでかっこいいなあ。

 ジュードの周りの人たちが面白かったのか、わははって笑ってる。ジュードも薄く笑顔のような顔を見せる。いつもおれに見せるより、全然真顔なんだけど。

 少し離れたとこから見てたら、なんか胸がチクリとして、キューってなった。

 なんでかはわかんない。

 そのうちにアスターさんに呼ばれて、会計処理をしている。もう終わるのかな?
 カウンターから振り向いたジュードとパチっと目が合った。

 おれは目深にフードをかぶり、口元にベールをつけているので、見えているのは本当に目だけだ。
 その目が合った瞬間、ジュードは周りの声を掛けてくる人達には目もくれず、真っ直ぐおれのところに来る。

 フワリと身体が浮き上がった。

 びっくりして目が点になる。

 視界が高くなって固まってしまったが、さっきのギルマスの部屋の時みたいにタテ抱っこされてる。

「うわああ。」

 ジュードの腕の高さで顔の位置を調節されて、ちょうど真正面にジュードの整った顔がきた。

「大丈夫か?マコト。顔色が良くない。」

 顔色って目しかみえてないじゃん。って思ったけど、見つめてくる緑の瞳は真剣だ。 

「うん。大丈夫。もう終わった?」

「ああ。市場に行って食材を見て回ろう。いろんなのがあるぞ。」

 そう言って、いつもの優しい笑顔になる。それを見たら、さっきの胸の痛みは無くなった。

「初めての市場、楽しみ。」

 と、おれも満面の笑みで返した。
 小さい子じゃないけど、ジュードに抱っこされて本当に安心したんだ。

 ホッとした。

 ジュードはそのまま外に出て行く。肩越しに見る人達はポカーンと口を開けて、棒立ちになっていた。
 おれはその人たちに手を小さく振る。あ、振り返してくれた。
 
 さっきの退場と同じじゃん。
 デジャヴ。




ーーーーーーーーーー

「あれ誰だ?」

「ジュードに兄弟いたか?」
「顔見えたか?」

 ジュードの見たことない姿に、子連れの姿。
 しばらくギルド内はざわついていた。

 








 

 
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