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新しい世界
25 愛し子狂騒曲
しおりを挟むマサの街の近くにダンジョン{真実の迷宮}が出来た。
ダンジョンはこの世界の至る所にある。
ダンジョンに常識は通用しない。ダンジョンに入れば、そこで起きることが常識になる。
下手をすれば命を落とすようなことでも、そこでは常識なので、仕方ないで終わってしまう。
まあ、いくら自己責任とはいえ死んでしまっては困るわけで、そうならないためにギルドがダンジョン情報を精査、管理、監視している。
どの階層にどんな敵がいるとか、ドロップするアイテム、ボス情報まで様々で、ダンジョン自体がどんな属性なのか、クリアまでの階層数、ボスの強さなど精査してダンジョン自体にランク付けしてギルド内で共有している。
冒険者ギルドはこの国だけじゃなく、世界各国のギルドと繋がっており、それぞれの街の依頼を受けたり、自警団的な活動もある。
魔物が襲ってきた時の緊急依頼など特殊な任務もあるが、多くの冒険者はダンジョンに入りドロップした魔石やアイテムをギルドに売ることで生活してる。それらのアイテムから装備や魔道具などが作られる。
冒険者の依頼には様々あるが、その中に迷宮案内人の仕事がある。
マサの街の近辺には{真実の迷宮}の他に2箇所の迷宮がある。
迷宮の作りは変わらない。これが今までの常識だった。
迷宮案内人はその名の通り、迷宮の作りを暗記して案内をし、ボスを倒すか、希望のアイテムをドロップする、レベル上げの手伝いなど様々である。
護衛として迷宮に入ることもある。所謂ガイドである。
しかし{真実の迷宮}がその常識をぶち破ってしまった。
新ダンジョンは変わる。
迷宮の作りが同じだったことは無い。宝箱もランダムだ。
レベルで敵も変わる。
しかも中で死んでしまっても、次の瞬間外に放り出され、取ったアイテムや経験値がダンジョンに入った時にリセットされるのだ。
なので新迷宮の案内人の役目は主にレベル調整になる。
もう少し強い敵と戦いたい、血気盛んな奴らの子守りのような仕事もある。
死なないダンジョンとして有名になった新ダンジョンは諦めない限り何度でもアタック出来るので、期間が決められている。
1日、3日、5日、10日。
期間内であれば、ダンジョンから追い出されても(死んでも)何度でもやり直せる。
ただ、あんまり酷い追い出され方(死に方)をすると、痛みや恐怖は残るため精神的ダメージが大きすぎて、途中で諦める者も少なくない。
その案内人の中でも、ジュードはレベルに対して強すぎるので人気がすごく、引く手あまただった。それこそ帰ってくるたびに、希望者でくじが引かれるほど。
だがあいつはそのダンジョン内で、他の人間には見えない存在が居ると言い出し、あげくその人間に触れた。
それによってあいつはダンジョンに嫌われたらしく、あいつだけ難易度がバカ上がりしてしまい、案内人は出来なくなった。
しかし本人の希望でソロでのアタックを許可した。
最初のうちはギルドにも顔を出していたが、途中から全く顔を出さなくなった。
それでもダンジョン入り口に配置した職員から安否について連絡があったのだが、一ヶ月ほど前にダンジョンに入ってから、連絡が無くなった。
ジュードは、俺がまだギルマスなんてめんどくさい役職につく前、冒険者をしていた時に出会ったガキだ。
冒険者ギルドに登録出来るのは、12歳から。あいつはその歳になってすぐに育った孤児院を出て、冒険者になりたいとやってきた。
背だけはヒョロリと高いガリガリの子供だった。
たぶん俺の勘だが、普通の人間じゃ無いようだ。
あまり感情の起伏が無いのか、静かなガキだったが、俺の言う事は素直に聞いていた。
副ギルマスのディネから頼まれて、1年位ギルドで一緒に生活しながら、冒険者としての心得や戦い方を教えてやった。
それからはギルドの部屋を間借りして生活していた。
16歳で成人すると、迷宮案内人になれる。
ジュードも成人と同時に案内人になった。
実力は十分ですぐに冒険者としての頭角を表した。さらに新ダンジョンの出現で更に人気が出て、本人の実力も相まって、有名人になった。そして街の外に家を買ったのだ。
出て行っちまったのは寂しかったが、息子を育てたみたいで、悪くない気分だった。
そのジュードが帰ってこない。
もともと寡黙なやつだが、せめて一言魔法を飛ばすとか出来ないもんかと思う。
まあ俺は上のモンだから、待ちの姿勢なんだが。
…そろそろ心配になってきた。すると副ギルマスのディネが一言。
「ジュードは家ね。」
「はっ?」
「魔法の揺らぎがある。かなりしっかりした隠蔽魔法が使われてるんじゃないのかしら?」
信じられんが、エルフである彼女の魔法探知はかなりのものだ。翌日、彼女と二人でジュードの家まで行ってみた。
ホントにいた。ものすごくバツの悪そうな顔をしてやがる。
しかも中に入れば、誰かと暮らしている形跡もある。
で、出てきたのがキラキラしたやたら可愛いガキだった。
マコトと名乗った子供は顔色は悪く、すぐに倒れた。なんでも負の感情に負けてしまうんだとか。
ジュードがお茶を入れに行く時に、近づかないで欲しいと頼まれた。
ソファで眠るマコトの様子を伺いながら、ディネに確認する。
「ありゃなんだ?」
「わかりません。ただ、普通の人間ではなさそうですね。人の感情で体調を崩すなど、精霊の様です。」
「そうだな。人っぽいが、どこか異質だな。」
それからしばらくの沈黙の後、
「やっぱり俺のせいか?怒気に当てられたってことだろう?」
俺やディネのジュードに対する怒りや、この子に対する疑念が良くなかったのは一目瞭然だ。
「責任の話でしたら、私も同罪ですね。悪い事をしてしまいました。彼が目を覚ましたら、素直に謝れば良いんじゃないですか?」
そうこうしているうちにジュードが戻ってきた。
詳しく話を聞けば、マコトは神の愛し子だそうだ。ダンジョンで作られて、育てられたとか、さっぱり意味がわからん。
だが、身分証が必要だ。
ギルドに連れてくるように言って、これまでの話を聞いた。
結局マコトは目覚めないまま、俺達はギルドに戻った。
ギルドに戻ったところ、神殿の神官長が訪ねて来た。
「急ぎ内密の話がある。」
そう言われ、部屋に案内してしっかりと防音魔法をかけた。
神官長は60を過ぎた壮年の紳士だ。見た目は40代と恐ろしく若々しい。
俺は熊獣人の血が入っているので、寿命が人間とそもそも違う。なのでこの神官長は昔からの腐れ縁だ。
「神託がおりた。」
「神託?神のお告げってやつか?」
「そうだ。だが、大々的に民衆に伝えるようなものではないんだ。」
なんか嫌な予感がするな。と思った。
『神の愛し子を落としたよ。
誰かが私利私欲のために囲ったり、監禁したり、辛い目にあわせたりしないでね。そんなことしたら世界に何が起こるかわからないからね。
あとは愛し子の意思を尊重してね。私はあの子に幸せになってほしいんだ。』
おっさんの口から柔らかい物言いの神託が伝えられる。
「……神様っていうのはお前のツレかなんかか?」
知り合いに子供預けるみたいに神託で頼むなよ。
これあれだろ。
ジュードの連れてたマコトっていうガキだろ。
「そいつに心当たりがある。ジュードが保護したガキだ。
明日くらい冒険者になって身分証作るためにギルドに来ることになってる。」
神官長は目を見張った
「なんと!ならば私も同席したい。」
面倒くさいが神殿の後ろ盾もあった方がいいだろう。マコトが来たら神殿に連絡が行くように段取りした。
本人とは二言三言話しただけだが、まあ庇護欲をそそられる姿だったな。
にしても、神託までって過保護すぎるだろう。
神様ってのはどこまでみえてるんだ?
本当に面倒くさい。
これからのことを考えると頭が痛くなったウルスだった。
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