愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
24 / 106
新しい世界

21 いかのおすし

しおりを挟む

「何いちゃついてんのさ。」

 突然聞こえた声に、慎翔はバッと振り向いた。ジュードは気がついていたのか、然程驚いていない。

「燈翔!心琴!」

 リビングの入り口に二人が立っていた。
 今日は学校がないのか、私服だ。
 しかもかなり気合が入ったおしゃれ着っぽいので、休日でイベントでもあったのかもしれない。

 燈翔は白い七分袖のTシャツの上に紺色のベストを着ている。どちらもゆったりしたサイズ感とデザインになっている。
肩から斜めにミリタリー系バッグをかけている。濃い茶系でオシャレだと思う。
 心琴もイベントに行ったのだろう。一見するとメイドのようなフリフリがついた所謂ゴスロリ服である。
 そして心琴はさっきから黙って四角い板をこちらに向けている。

「気にしないで続けて。」

 って気にするわ!っていうかそれって《すまほ》っていうやつだよね?前に見せてくれたの、写真とか動画とかも撮れるとか言ってた。もしかして、今も撮ってる?
 どっから?デコチュー見られた?

「いや。気にするだろ!」

 おれは真っ赤になりながらバッとジュードから離れる。
 ジュードは苦笑いしながら、出しっ放しになっていたアイテム類をカバンにしまうと立ち上がる。

「二人共よく来てくれた。
さっきはすまなかったな。おかげで助かった。お茶でも入れようか。」

「じゃあコーヒーで。」
「私もー。」

 それを聞いたジュードは片手を上げて、了解のポーズをして台所に向かっていった。今日はお茶をたくさん入れる日だね。

 燈翔と心琴とも、なにかあったらしいけど、おれは知らない。ソファに座るおれの両サイドに二人が来た。右側に燈翔、左側に心琴が座る。

「兄ちゃん。調子はどう?倒れたって聞いたけど?」

 倒れたおれを心配して来てくれたらしい。神力のお裾分けしてくれる。

「ありがと。もう良くなったから大丈夫。」

 本当に大丈夫。ジュードもいっぱい浄化してくれたから。

 そう考えたらおれって愛されてるなー。

 なんて、にまにま考えてる姿を心琴が難しい顔して見てるのに、おれは全然気が付いてなかった。

 それよりも燈翔の持ってるミリタリー系バッグがものすごくデザインが良い。

 これジュードの腰ベルトにウエストポーチみたいな感じに付けれるよね。めっちゃ似合いそう。

「燈翔、カバンかっこいい。ちょっと見せて。」

「ん?良いよ~。」

 カバンを借りるとマジマジと観察する。ベルトの縫い目とかものすごいしっかりしてる。冒険の時にもすぐ壊れなさそう。ぐるぐると回して、どういう作りか確認していく。

 一通り確認してから、鑑定かける。

 満足して燈翔にカバンを返した。

「ありがとう。」

 そして創造のスキルを使う。

 次の瞬間、手の中にミリタリーバッグが出来てた。外側のポッケはそのままにして、ファイアアゲートっていう茶色っぽい宝石をポッケの外側に何個か付けた。中はマジックボックスの効果をつけるから、間仕切りはなくした。色は緑に近いカーキにして、そこにさらに付与魔法で色々と付けていった。
 マジックバックは無制限、時間停止、自動仕分けに検索もつけた。
 何か入れ物にさえ入っていれば、収納可能。入り口の大きさは関係ない優れものだ。

 もちろんジュード以外出し入れできない。自動で持ち主の所に戻る機能もつけといた。最後に強化と保存の魔法をかけて壊れにくく劣化しない、ジュードのためのバッグが出来た。

「コーヒーでも飲むか?」

 台所からダイニングにジュードがコーヒーを持ってきた。

「ジュード見て、見て。」

 出来上がったばかりのバッグを両手で広げて見せる。

「おっ。かっこいいじゃないか。」

「これ。ジュードの腰に付けてよ。」

 ジュードを見上げながらそのままぐいぐいと渡す。ジュードは驚いた顔をしながら

「だが俺もマジックバックは持っているぞ。」と言う。

 マジックバック機能がついてる前提で話すジュードは察しがいい。

「おれがあげたいの。ジュードのために作ったから。ダメ?」

 上目遣いで首をコテンと傾けて聞いたら

「ぐっ。」

 ジュードが口を押さえて横を向く。そのまま赤い顔で言った。

「わかった。ありがたく使わせてもらうよ。マコト。ありがとう。」

 受け取ってもらったおれは、満面の笑みになる。役に立てば嬉しいな。

「小悪魔だね。」
「小悪魔よね。」

 燈翔と心琴が呆れたみたいに言う。

 誰が小悪魔だっての。失礼な


 ダイニングテーブルに移動してお茶にする。
 午前中はギルマスと副ギルマスが座った席に、二人が座る。

 その前にジュードと座った。

「なるべく早くギルドに連れて来いと言われた。」

「えええ。いつ行くの?」

 ジュードは少し考えて、

「明日でも良いかと思うんだが。まだ無理そうか?」

 燈翔も心琴もあんまりいい顔しない。

「本当はね。行って欲しくないよね。街は人が多いから。」
「そうね。心配ねー。」

「というわけで、これ兄ちゃんに。」

 いつの間にかおれの参考書である『タメリア国の歩き方』が燈翔の手元にあった。
 受け取って、表紙を開くと


 おぼえよう《いかのおすし》

1 しらないひとについてない

2 さそいやくるまにらない

3 つれていかれそうになったらおごえでさけぶ

4 あぶないときはぐにげる

5 すぐにらせる

 見開きいっぱいに、大きな文字で書かれている。

「……なにこれ?」

「何っていかのおすしだよ。学校によくあるやつ。」

 おれは学校に行ったことが無いから分からないけど、これって

「これってかなり小さい子に教える言い方じゃね?だいたいおれ、そんなに危なっかしくないぞ。」

 横からジュードも覗き込んでくる。

「なるほど。あながち間違ってはいないな。」

「そのくらい気をつけて欲しいって事ね。」

 三人にクスクス笑われる。

 そんなにおれ危なっかしいかなー?バカにするなよ。
 プクーっと膨れていたら

「これは小学生向けだね。って、そんなに怒んないでよ。分かりやすくて良いかと思って。用心するに越したことはないからね。」

 ズイッとこちらに身を乗り出して人差し指を立ててさらに続ける。

「前も言ったと思うけど、この世界って種族も性別も関係なく結ばれる事が出来るの。子供だって男同士でも出来るようになっちゃってるし。
さらに良くないのが、子どもに目をつける奴がいるって事。
青田買いってヤツで、結婚相手に将来有望そうな好みの子を捕まえて監禁してっていう事が案外ある。」

「えええええ。」

「だからジュードにお願いしたんだけどね。あと、兄ちゃん自身にも身を守れるだけの魔法とスキルはつけたはずだからうまく使って。」

 と燈翔が笑う。

「ところで、いかのおすしって何だ?」

 ジュードさんが至極当然の質問をした。

「食べ物だよ。お寿司って食べ物。その中にイカもあるんだ。だからイカのお寿司。色々と種類があって美味しいよ。今度持ってくるね。」

 おれもお寿司食べたことないから、楽しみだ。って、勝手に向こうの世界の食事持ってきていいの?あ、お粥もそうか。じゃ、まあいいか。

 さっきからあんまり喋ってない心琴が難しい顔をしておもむろに口を開いた。

「でも今のままじゃ、街なんて行かせられないわ。」

 え?なんで?

「さっきから見てたけど、思ってたより馴染んでないの。このまま行ってもすぐ倒れちゃうわ。」

 あんなにぐーすか寝てたのにまだ馴染みきってないの?

 心琴の発言におれとジュードは固まってしまった。






 



 








しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...