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新しい世界
21 いかのおすし
しおりを挟む「何いちゃついてんのさ。」
突然聞こえた声に、慎翔はバッと振り向いた。ジュードは気がついていたのか、然程驚いていない。
「燈翔!心琴!」
リビングの入り口に二人が立っていた。
今日は学校がないのか、私服だ。
しかもかなり気合が入ったおしゃれ着っぽいので、休日でイベントでもあったのかもしれない。
燈翔は白い七分袖のTシャツの上に紺色のベストを着ている。どちらもゆったりしたサイズ感とデザインになっている。
肩から斜めにミリタリー系バッグをかけている。濃い茶系でオシャレだと思う。
心琴もイベントに行ったのだろう。一見するとメイドのようなフリフリがついた所謂ゴスロリ服である。
そして心琴はさっきから黙って四角い板をこちらに向けている。
「気にしないで続けて。」
って気にするわ!っていうかそれって《すまほ》っていうやつだよね?前に見せてくれたの、写真とか動画とかも撮れるとか言ってた。もしかして、今も撮ってる?
どっから?デコチュー見られた?
「いや。気にするだろ!」
おれは真っ赤になりながらバッとジュードから離れる。
ジュードは苦笑いしながら、出しっ放しになっていたアイテム類をカバンにしまうと立ち上がる。
「二人共よく来てくれた。
さっきはすまなかったな。おかげで助かった。お茶でも入れようか。」
「じゃあコーヒーで。」
「私もー。」
それを聞いたジュードは片手を上げて、了解のポーズをして台所に向かっていった。今日はお茶をたくさん入れる日だね。
燈翔と心琴とも、なにかあったらしいけど、おれは知らない。ソファに座るおれの両サイドに二人が来た。右側に燈翔、左側に心琴が座る。
「兄ちゃん。調子はどう?倒れたって聞いたけど?」
倒れたおれを心配して来てくれたらしい。神力のお裾分けしてくれる。
「ありがと。もう良くなったから大丈夫。」
本当に大丈夫。ジュードもいっぱい浄化してくれたから。
そう考えたらおれって愛されてるなー。
なんて、にまにま考えてる姿を心琴が難しい顔して見てるのに、おれは全然気が付いてなかった。
それよりも燈翔の持ってるミリタリー系バッグがものすごくデザインが良い。
これジュードの腰ベルトにウエストポーチみたいな感じに付けれるよね。めっちゃ似合いそう。
「燈翔、カバンかっこいい。ちょっと見せて。」
「ん?良いよ~。」
カバンを借りるとマジマジと観察する。ベルトの縫い目とかものすごいしっかりしてる。冒険の時にもすぐ壊れなさそう。ぐるぐると回して、どういう作りか確認していく。
一通り確認してから、鑑定かける。
満足して燈翔にカバンを返した。
「ありがとう。」
そして創造のスキルを使う。
次の瞬間、手の中にミリタリーバッグが出来てた。外側のポッケはそのままにして、ファイアアゲートっていう茶色っぽい宝石をポッケの外側に何個か付けた。中はマジックボックスの効果をつけるから、間仕切りはなくした。色は緑に近いカーキにして、そこにさらに付与魔法で色々と付けていった。
マジックバックは無制限、時間停止、自動仕分けに検索もつけた。
何か入れ物にさえ入っていれば、収納可能。入り口の大きさは関係ない優れものだ。
もちろんジュード以外出し入れできない。自動で持ち主の所に戻る機能もつけといた。最後に強化と保存の魔法をかけて壊れにくく劣化しない、ジュードのためのバッグが出来た。
「コーヒーでも飲むか?」
台所からダイニングにジュードがコーヒーを持ってきた。
「ジュード見て、見て。」
出来上がったばかりのバッグを両手で広げて見せる。
「おっ。かっこいいじゃないか。」
「これ。ジュードの腰に付けてよ。」
ジュードを見上げながらそのままぐいぐいと渡す。ジュードは驚いた顔をしながら
「だが俺もマジックバックは持っているぞ。」と言う。
マジックバック機能がついてる前提で話すジュードは察しがいい。
「おれがあげたいの。ジュードのために作ったから。ダメ?」
上目遣いで首をコテンと傾けて聞いたら
「ぐっ。」
ジュードが口を押さえて横を向く。そのまま赤い顔で言った。
「わかった。ありがたく使わせてもらうよ。マコト。ありがとう。」
受け取ってもらったおれは、満面の笑みになる。役に立てば嬉しいな。
「小悪魔だね。」
「小悪魔よね。」
燈翔と心琴が呆れたみたいに言う。
誰が小悪魔だっての。失礼な
。
ダイニングテーブルに移動してお茶にする。
午前中はギルマスと副ギルマスが座った席に、二人が座る。
その前にジュードと座った。
「なるべく早くギルドに連れて来いと言われた。」
「えええ。いつ行くの?」
ジュードは少し考えて、
「明日でも良いかと思うんだが。まだ無理そうか?」
燈翔も心琴もあんまりいい顔しない。
「本当はね。行って欲しくないよね。街は人が多いから。」
「そうね。心配ねー。」
「というわけで、これ兄ちゃんに。」
いつの間にかおれの参考書である『タメリア国の歩き方』が燈翔の手元にあった。
受け取って、表紙を開くと
おぼえよう《いかのおすし》
1 しらないひとについていかない
2 さそいやくるまにのらない
3 つれていかれそうになったらおおごえでさけぶ
4 あぶないときはすぐにげる
5 すぐにしらせる
見開きいっぱいに、大きな文字で書かれている。
「……なにこれ?」
「何っていかのおすしだよ。学校によくあるやつ。」
おれは学校に行ったことが無いから分からないけど、これって
「これってかなり小さい子に教える言い方じゃね?だいたいおれ、そんなに危なっかしくないぞ。」
横からジュードも覗き込んでくる。
「なるほど。あながち間違ってはいないな。」
「そのくらい気をつけて欲しいって事ね。」
三人にクスクス笑われる。
そんなにおれ危なっかしいかなー?バカにするなよ。
プクーっと膨れていたら
「これは小学生向けだね。って、そんなに怒んないでよ。分かりやすくて良いかと思って。用心するに越したことはないからね。」
ズイッとこちらに身を乗り出して人差し指を立ててさらに続ける。
「前も言ったと思うけど、この世界って種族も性別も関係なく結ばれる事が出来るの。子供だって男同士でも出来るようになっちゃってるし。
さらに良くないのが、子どもに目をつける奴がいるって事。
青田買いってヤツで、結婚相手に将来有望そうな好みの子を捕まえて監禁してっていう事が案外ある。」
「えええええ。」
「だからジュードにお願いしたんだけどね。あと、兄ちゃん自身にも身を守れるだけの魔法とスキルはつけたはずだからうまく使って。」
と燈翔が笑う。
「ところで、いかのおすしって何だ?」
ジュードさんが至極当然の質問をした。
「食べ物だよ。お寿司って食べ物。その中にイカもあるんだ。だからイカのお寿司。色々と種類があって美味しいよ。今度持ってくるね。」
おれもお寿司食べたことないから、楽しみだ。って、勝手に向こうの世界の食事持ってきていいの?あ、お粥もそうか。じゃ、まあいいか。
さっきからあんまり喋ってない心琴が難しい顔をしておもむろに口を開いた。
「でも今のままじゃ、街なんて行かせられないわ。」
え?なんで?
「さっきから見てたけど、思ってたより馴染んでないの。このまま行ってもすぐ倒れちゃうわ。」
あんなにぐーすか寝てたのにまだ馴染みきってないの?
心琴の発言におれとジュードは固まってしまった。
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